兄との再会⑲
シオン達一行はフィグム王国の王都である“ザルドダイル”に無事到着した。ザルドダイルは人口四十万を有する巨大都市である。
ザルドダイルは王城を中心に高さ二十メートルを超える壁がぐるりと取り囲む構造になっている。
王都には入るには東西南北にある正門を通る必要がある。正門をくぐって中に入ると幅二十メートル程の幅の道路が目に入る。その道路には石畳で舗装されており道の中央には街路樹が植えられている。
最初に王都に来た面々はまずその壮大さに驚くことになり家に戻った時には王都の様子を話す際にこの光景が外されることはまずないぐらいである。
「これが有名なザルドダイルの大通りか。確かにこれはすごいな」
「うん。何というかお洒落な街ね。帝都のハウンゼルトとは違った趣ね」
「ああ」
シオンとルフィーナは王都の感想をやや興奮して話していた。シオンもルフィーナも帝都ハウンゼルトを拠点に冒険者として活動しているが、ザルドダイルとは随分と趣が違っているのだ。
ドルゴート帝国の帝都ハウンゼルトは質実剛健という印象でどちらかというと機能美を求めた都市設計をしているのに対し、このザルドダイルは壮大さと華美をバランス良く表現しているような感じがするのだ。
「とりあえず、宿を取ることにしよう」
「え? お兄さんのところにいかないの?」
シオンの意見にルフィーナは驚いた様な表情を浮かべる。それを見てシオンは首を横に振った。
「いや、いきなり兄さんの所に行って留守だった時にそれから宿を探したら間に合わないかも知れないぞ」
「あ~そっか」
ルフィーナは太陽の位置を確認するとシオンの意見に納得した様である。すでに太陽が傾き始めている。なにしろ王都の土地勘のまったくない彼らである以上兄の住居を探すだけで数時間かかる可能性があるのだ。
「それじゃあ宿屋を探すとしよう」
「うん」
シオンとルフィーナの会話にエルリアも頷く。エルリアとしても息子のヴィアスにすぐにでも会いたいだろうがここで焦るのは得策ではないことは分かっているためここはぐっと堪える事にしているのだ。
悪食の面々もそれに黙って付き従う。彼らはシオン達の仲間では無いという意識なので意思決定の場に参加などしないのである。まぁ出来ないというのが本当の所と言える。
それからすぐにシオン達は安い宿屋を見つけるとそれぞれの部屋に確保すると悪食の面々に兄アルムの住居の場所を確認させることを命じるとシオン達は定食屋で食事を摂る事になった。
「うん、自分で動かなくて済むというのは正直な話楽で良いな」
「そうね。食事を終えて部屋に戻れば情報が手に入るというのはおいしいわね」
「そう考えるとオインツ伯のおかげとも言えますね」
エルリアの言葉にシオンとルフィーナは頷いた。オインツ伯が悪食を雇わなければシオン達は悪食という駒を手に入れる事は出来なかったのである。シオン達にしてみれば死んだところで心が痛まないという駒は非常に有り難いと言える。
「その点はオインツ伯に感謝だな。クズも時には役に立つわけだからその辺の事も考慮に入れて優しくしてやるかな」
「ウソばっかり、すでにオインツ伯はこの国で肩身がせまい思いをするのは確定してるじゃない」
「それは可哀想だな」
シオンのまったく同情していない声にルフィーナとエルリアは苦笑を浮かべた。
「さてととりあえず話はこれぐらいにして食事を楽しむ事にしようぜ」
「そうね」
「賛成ですね」
シオン達の前に注文した料理が並べられ食欲をそそる香りを放っている。
シオン達が楽しい食事を摂っているとイーブスが部下三人を連れてシオン達の元にやってきた。
「お食事中失礼します。シオン様のお兄様の家がわかりました」
イーブスが代表してシオンに告げる。
「そうか、ご苦労」
シオンは素っ気なく返答すると手でイーブス達を追い払った。酷い対応であるがシオン達とすれば自分達を殺そうとした連中に礼儀を守ってやる気にはどうしてもならないのだ。
「どうやら、明日すぐにいけるようですね」
「そのようね。ヴィアスは元気でいるかしら」
エルリアが少し心配そうに言う。息子のヴィアスを利用しようというものが存在するのは確実なのだから心安らかにいられるはずはないのだ。しかも、エルリアを誘拐するという犯罪行為を行う者もいるのだ。
「まぁ兄さんも一緒ですからそんなに心配はしなくて良いと思いますよ」
「そうね。シオンの兄さんがどんな人かわからないけど頼りになりそうな人なのは確実ね」「ふふ、そうですね」
エルリアは微笑みを浮かべた。シオン達の心遣いが嬉しかったのである。
「さ、今日は早く寝て明日は兄さんに会いに行くとしよう」
「うん♪」
「はい♪」
シオン達は楽しい食事を再開するのであった。




