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兄との再会⑱

「さてとそれじゃあ王都に向かうとしようか」


 シオンの言葉にルフィーナとエルリアは頷いた。シオン達のやり取りに悪食(イベルジスト)の面々は困惑したような表情を浮かべていた。どのような行動をとるのが正解なのか判断に迷うのは当然であると言える。


「お前達の活動資金については自力で何とかしろよ。俺達はお前達の生活費を捻出するつもりは一切無い。かといって犯罪行為をすることは絶対に許さないからな」


 シオンの言葉に悪食(イベルジスト)達は頷いた。シオンの命令に逆らおうなど現在の彼らには思いもつかないことである。


「それじゃあ行くとしよう」


 シオンはそう言うと奇妙な一行は王都へと向かって出発することになったのであった。


(ねぇシオン、あいつらに施した蟲裁き(エミルド)って相当残酷な術ね)


 出発してしばらくするとルフィーナがシオンに囁く。ルフィーナとすればその必要性は理解しているがあまりにも残酷という思いが消えなかったのだ。


(ああ、あれは「幻術」だ)

(え? 幻術と言う事はあれって幻なの?)


 シオンの返答にルフィーナは驚く。驚いているのだがそれを表面上に出すような事は決してしない。ある意味、ルフィーナもシオンの相棒として相応しくなってきたのかも知れない。別の言い方をすれば染まったと言うべきだろう。


(ああ、闇の傀儡(グラムドルス)はスキルを解除すると効力も解除される。だが幻術で蟲裁き(エミルド)という術をでっち上げれば俺達に逆らうような事はしないと思ってな)

(なるほどね。心を縛ったという訳ね。確かにそれなら私達の危険性も減る(・・)わね)


 ルフィーナの囁きにシオンは顔を綻ばせる。ルフィーナは危険性が無くなる(・・・・)ではなく減る(・・)といったからだ。いかなる術であっても完璧でないことをシオンは知っている。

 【偽造】という能力は確かに有用であるが完璧でないのは確実である。シオンは偽造したスキルは決して万全でないという認識である以上、過信することは決して無い。そしてその考えをパートナーであるルフィーナの減るという言葉から同じ認識してである事は嬉しい事なのだ。


「あ、そうだ。シオン君一つ聞いても言いかしら?」


 シオンとルフィーナが小さく言葉を交わしている所にエルリアが声をかけてきた。


「なんでしょう?」

「不思議に思ったんだけどどうしてあの人達のスキルを聞いたりしたの?」


 エルリアの言葉にシオンは即座に返答する。


「単純に後学のためですよ。どんな相手とぶつかるか今後分かりませんからね。スキルを知っておけばそれだけで対処できるかもしれませんからね」

「……なるほどね。シオン君もルフィーナさんも凄いわね。私なんてそんな事まったく考えなかったわ」


 エルリアは一応納得した様な表情を浮かべて答える。シオンの返答はイーブスとルベックのスキルを偽造するのがその主目的であるが後学というのはウソではない。


「いえいえ、エルリアさんは治癒が本職なのだからそのように考えないのは自然な事ですよ」

「そうそう。シオンのような性悪で無い証拠だからむしろ良い事だと思いますよ♪」


 シオンが返答した所でルフィーナが合いの手を入れる。絶妙のタイミングで入った言葉にシオンはやや憮然とした表情を浮かべた。


「おい、性悪ってどういうことだ? お前だって五十歩百歩だろうが」

「どういう意味よ。私は心優しい美少女としてみんなに認識されてるわ」

「その優しい美少女が容赦なく人間の腕を斬り飛ばすか?」

「だってエルリアさんがいるからどうせくっつくでしょ?」


 ルフィーナの言葉にエルリアが苦笑を浮かべた。確かにエルリアの治癒術の腕前ならば十分に可能なのだがそれでも躊躇いもなく人の腕を斬り飛ばすにはそれなりの覚悟が必要だ。そのことからもルフィーナが単なる見てくれだけの少女で無い事は確実だ。


「まぁそう言われればそうなんだけどな。そんなにあからさまに言うといっそ清々しいな」

「そうそう、単純に割り切らないとね。時として単純明快は複雑なものよりも強いのよ」

「その考えには同意するが、結局それって困ったら力業という事じゃないか?」

「そう言う表現もあるわね」


 シオンとルフィーナの会話にエルリアは苦笑していたが、悪食(イベルジスト)はそうではない。実際に相対した彼らにして見れば二人の考え方は明らかに一般常識からかけ離れていたのだ。


「あ、そうそう今思い出したけどオインツ伯はどうするつもり?」


 そこでルフィーナはシオンに尋ねる。実行犯の悪食(イベルジスト)は配下にしたが、その黒幕であるオインツ伯はいまだ野放しという状況なのだ。


「そうだな……取りあえずはハーテンビスさん達に期待しよう。それからエルリアさんの息子さん、兄さんに頼もうと思ってる」

「相手は伯爵家だし、現状ではそれでいくしかないわけね」

「なぁに、いざとなったらこいつ等に一肌脱いでもらう事にしようじゃないか」

「こいつらに?」

「ああ、王都のど真ん中でエルリアさんを攫おうとしてもらって俺達がそれを阻止する。その際にオインツ伯の名前を大々的に叫んでもらおう」


 シオンの言葉にルフィーナは呆れた様な表情を浮かべた。こころなしかシオンを見る目が残念な子を見るものになっている。


「おいおい、一応言っておくが俺は本気だぞ」

「私はそんな穴だらけの計画を本気で言うシオンが正気か疑ってるのよ」

「上手いこと言うな」

「でしょ。でも正気なの?」

「当たり前だろ。大事なのはオインツ伯の名前が騒動の中で出ることなんだよ」

「そんなもんかしら」

「そんなもんだよ。民衆の噂というものはなかなかバカには出来ないさ。それにハーテンビスさん達が国に報告としてあげるのは間違いないさ」


 シオンの言葉にルフィーナは少しばかり考えたがすぐに納得の表情を浮かべた。少なくともこれでオインツ伯について黒いイメージかつくのは間違いない。

 それに兄は勇者であり、加えてエルリアの息子のヴィアスは大賢者である。当然ながら国とすればそれを利用しようという者に対して良い感情は持たないことだろう。

 実の所オインツ伯はすでに追い詰められる流れに突入しているためシオン達が必要以上に手を出す必要性が感じられないのだ。


「当然ながらこいつらがエルリアさんをどう扱おうとしたかを脚色して息子さんに伝えるとしよう。当然兄さんにもな」


 シオンはそう言うとものすごく人の悪い笑顔を浮かべる。ルフィーナもそれを見て人の悪い笑顔浮かべた。この二人は嫌いな相手を追い落とすのにまったく容赦はないのだ。


「私とすればオインツ伯がもう手出しをしなければ大丈夫なんですけどね」


 エルリアは困った様に言う。


「貴族って執念深いところがあるでしょうから油断しない方が良いかもしれませんね。まぁ考えを改めない場合には俺達で対処します」

「あんまり無茶はしないでね」


 シオンの言葉にエルリアがそう言うとシオンとルフィーナはニッコリと笑って頷いた。


 シオン達一行はその後は特段トラブルに巻き込まれることなく王都への旅を続けた。一行が王都に到着するのはこれより二日後であった。

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