冒険者シオン③
シオンが転移した先は帝都から一㎞ほど離れた場所にある森の中である。転移魔術は転移先を予め設定する必要がある。帝都の中に許可なく転移するのは犯罪行為であるため帝都の外に拠点を設定しているのだ。
「スキルを解除しても拠点が消えないというのはラッキーだよな」
転移を終えたシオンは周囲に誰もいない事を確認してからほっと息を吐き出して言う。
「さ、帰るとするか」
シオンは呟くと帝都へ向かって出発した。シオンは何事も無く帝都に到着するとその足で冒険者ギルドに向かう。もちろん依頼の完遂を伝えるためである。
冒険者ギルドに入ってきたシオンを見てグレイスが驚きの表情を浮かべた。片道一週間かかるはずのギルケ山地に向かったはずなのに五日目に戻ってきたのでグレイスが驚いたのは当然だろう。
「シオン君、まさかもう終わったんですか!?」
グレイスの言葉にシオンは笑いながら片手を上げる。
「はい、スキルのおかげです」
シオンは先に告げる。するとグレイスは目を輝かせる。この流れからいけばシオンのスキルを教えてもらえると思ったのだ。
「一体何のスキルなんですか?」
グレイスの言葉に周囲の職員達もさりげなさを装っているが聞き耳を立てているのがわかった。
(とりあえず伝えておくか)
シオンはそう判断するとグレイスに向かって口を開く。
「俺の祝福は【剣士】なんですが、剣士の修行をしていたときに師匠が『縮地』の修行をしてくれたんですよ」
「縮地ですか?」
「はい、簡単に言えば高速移動です。それに私は『持久力向上』のスキルがありますから縮地で昼夜走り続けたわけです」
「え? そんな事なんですか?」
「ははは、とんでもないスキルじゃ無くてすみません」
シオンは笑いながらグレイスに言うと拍子抜けした表情を浮かべた。とんでもないスキルによるものと思っていたのに二つのスキルを合わせた事による結果である事はある意味ガッカリとした答えだったのだ。
(とりあえず、納得はしてくれたようだな)
シオンは心の中でグレイスの反応からとりあえず納得してくれたように思われる。実際は『健脚』と『持久力向上』なのだが、それだとわずか五日で戻ってくることの説明がつかないために話をでっち上げたのだ。
嘘をつくときには虚実を混ぜ合わせた方が信憑性が増すものなのだ。
「それで任務の件なんですが集落を焼き討ちにしました。見つけたゴブリン達は全員斃しました。生き残りは一応探したのですがいませんでした。確認をお願いします」
シオンはそこで話を変えるために報告を行う。
「あ、はい。それでは確認チームをおくります。二週間ほどを見ておいて下さい。確認でき次第報酬が支払われます」
グレイスの言葉にシオンは頷いた。任務達成の確認に現物を持ってくる事は多々あるのだが、今回の集落の殲滅などのように確認チームを送り込んで確認する事があるのだ。
「それじゃあ。よろしくお願いします」
シオンは頭を下げるとギルドを後にした。
二週間後に報酬が支払われる事に対してはシオンは何の心配もしていない。集落を焼いたのは確実だし、ゴブリンの焼死体が転がってるのも事実だからただ働きというのはあり得ない。
もし、ギルドがその辺りを誤魔化すようならば冒険者達の信頼を一気に失ってしまう。そうなれば帝都の冒険者ギルドから移動してしまうことになるため、ギルドの方はその辺りは公平に行うのだ。
(さて、それじゃあ今回使ったスキルを補充しとくとするか)
シオンは帝都への道を考えながら歩く。
今回、シオンが使ったスキルは『健脚』『持久力向上』『気配探知』『剣技向上』『火炎魔術』『転移魔術』の六つである。
今回シオンが使用した六つのスキルは本来のシオンのスキルでは無い。シオンの祝福である【偽造者】によって『偽造』したものであった。
シオンは偽造したスキルを自分のものとして使用する事が出来るのだ。ただし、本来の自分のスキルでは無いために同時に使うのは三つまでである。
しかも、『偽造』されたものなのでそれが本来のものでないと言う事が外部にバレてしまったら使えなくなってしまうのだ。
また、偽造するスキルはシオンが実際に存在しているものだけでなく、自分でつくるオリジナルのものもあるのだが、発揮できるパフォーマンスは実際に存在するものの方がオリジナルのものに比べて圧倒的に出来が良かった。
【偽造者】という祝福はやはり元となる真実のものが存在しないと“偽造”に当てはまらない事になるかららしい。
シオンが偽造したスキルを使う場合は、作った木札を割ることで使えるようになるのだ。そのためにシオンは任務が終わると木札を作って使用した分を補充するのだ。
宿屋に戻ったシオンは宿屋の従業員に帰ってきた事を告げると部屋に入っていく。シオンがこの三ヶ月逗留している宿であり、仕事中には荷物を預かるというサービスが気に入っているのだ。
部屋に入ったシオンは木の札を材木の方から切り出すと、今回使用したスキルを書き込んでいく。作業としては非常にシンプルなものであるが、意外と時間はかかるものなのだ。
「よし、おしまいっと」
シオンはスキルの木札を作成し終えるとそのままベッドに横になりいつの間にか睡魔により夢の世界に旅だった。
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