兄との再会⑭
四人の男達の治癒を終えたルフィーナとエルリアがシオンの元にやって来て声をかける。
「シオン君、代わるわ」
エルリアの言葉にシオンは頷きルベックから離れるとそこにエルリアが腰を下ろし、左手をかざし治癒魔術を施し始める。シオンがやっていた時よりも数段速くルベックの傷が塞がっていく。
(流石に本職はすごいな)
シオンとルフィーナは周囲に気を配りながらエルリアの治癒を見守っている。ルベックがエルリアを人質に取る危険性を考えれば絶対にやらないのだが、今は絶対にエルリアに危害を加えることはできないために治癒を代わったのである。
その時、シオンは放たれる僅かな殺気を感じる。
「ルフィーナ、敵だ!!」
「え?」
シオンはすぐさま防御陣を展開する。これは偽造したスキルによるものではなく純粋にシオンが修練によって身につけたものである。
ガシャァァァァァァン!!
そして次の瞬間にシオンの張り巡らせた防御陣に何らかの魔術が直撃するとシオンの武防御陣は粉々に砕け散った。
「ほう……様子見とはいえ俺の『風刃』を防ぐとはな。さすがにルベックを倒すだけのことはあるな」
シオン達の前に現れたのは赤い髪を後ろで束ねた優男風の人物だ。悪食の頭領であるイーブスである。
イーブスの他には八人の男達がいる。
「お前は?」
シオンはイーブスに問いかける。イーブスがルベックの仲間である事は当然わかっている。しかし、シオンは相手の反応を見るために敢えて会話を試みたのである。
「俺は悪食の頭領であるイーブス。君達のおかげで我々は大きな損害を被ってね。その落とし前にきたわけだよ」
イーブスの声には嘲りの成分が多分に含まれている。その事についてシオンは別に不快になったりはしない。
「はぁ」
イーブスの言葉にシオンは間の抜けた声で応答する。このシオンの反応に気分を害したのはイーブスではなく周囲の男達である。
「さっさとやっちゃいましょうぜ。見た感じ女二人は別嬪だ。このガキをばらしてこいつらで楽しむとしましょうや」
「そうだ。若い方も年を取った方も良い女だ。あっちの具合を確かめるとしましょう」
男達の下品な言葉にシオン達はゲンナリとする。ここまで下品な提案を声高に話されるとガッカリすると言うものである。
男達がこのような提案を行った意図は十分に理解している。言わば威嚇であり恐怖でシオン達を縛ろうという意図があるのだ。
「あ~そういうのいいから」
男達の威嚇に対してシオンの声に呆れの感情が含まれている。その事は余程のアホでも気づくレベルである。
「なにぃ!!」
シオンの発言を受けてイーブスの周囲の男達がいきり立った。ルベック同様に沸点が低すぎるようで、このアホ共を率いるのは骨が折れるだろうな。シオンはイーブスにやや同情の視線をおくった。
「いやな。お前らの頭の悪い威嚇を怖がるほど俺達は臆病じゃないぞ。単に不愉快なだけだ。お前達の品性、知性の感じられない威嚇を聞いてお前達の語彙力のなさに同情しているぐらいだ。とりあえず金を貯めて辞書を買うことをすすめるぞ。あ、字は読めるか?」
シオンは息継ぎ無しで男達に言い放った。
「くくく、随分と余裕だな。ルベックを倒した力量から相当自分の力量に自信があるのだろうな」
イーブスは含み笑いをこぼしつつシオンに言う。
「だが、今度は一対一と思わない方がいいぞ」
イーブスがそう言った瞬間にシオンはエルリアの方を掴むとそのまま後ろに引っ張った。一瞬前にエルリアがいた場所にルベックの手があった。ルベックはちぃという表情を浮かべながら立ち上がるとシオン達に向けてニヤリと嗤った。
ルベックが立ち上がると他の四人も立ち上がりそれぞれの表情を浮かべる。その全てがシオン達への嘲りの表情であった。
「バカなガキだな。こうなると予想つかなかったのか?」
ルベックの言葉にシオンは肩をすくめる。シオンのこの仕草にルベック達は明らかに気分を害したようであった。
「いや、普通に考えればお前らの様な頭の悪い奴等の行動を読めないわけないだろ」
(おかしい……このガキはハッタリで言っているわけではない)
シオンの言葉にイーブスの頭に突如直感が走った。
「いやな。俺達は悪食に喧嘩を売ったじゃないか」
シオンの言葉に悪食達は返答しない。ここまで余裕を見せる根拠が悪食の面々には分からなかったのだ。すでに種が仕込まれている本人達でさえそうなのだから新しくやって来た者達にはわかるはずはない。
「勘違いしているようだから教えておいてやる。俺はお前達から逃げようとなんて思ってもない。そこの筋肉ダルマを伸して治療したのもお前達を始末するためだよ」
「何だと?」
「わからないか? お前全部見てたんだろ。それでも俺の狙いがわからないなんて少しばかり鈍いんじゃないのか?」
「それにさっきからこっちを窺っている二人もさっさと姿を見せたらどうだ?」
シオンの言葉にルベックが驚きの表情を浮かべる。この段階においても残り二人潜ませていることに対してバレていないと思っていたのだ。
「そっちの頭領の気配は正直つかんでなかったんだけどな。自分から出てきてくれるアホだし、バレてる奴がまだ出てこない。お前達は一体何がしたいんだ?」
シオンは首を傾げながら言う。その様子は本気で意味が分からないという思っているようで悪食の面々の不快感は天井知らずに上がっていく。
「シオン、そんなに悪く言ったら可哀想よ。この人達だってバカなりに考えて行動してるんだから」
そこにルフィーナも乗っかってきた。別の表現をすれば悪ノリとも言えるだろう。ルフィーナの表情には気を使っている様子が浮かんでいる。もちろん本気で気を使っているわけではない。
それがわかるため悪食の面々の苛立ちは募るばかりだ。
「えっと、シオン君もルフィーナさんもどうしてそんなに余裕なの? 相手は一六人いるのよ?」
エルリアの言葉にシオンはニヤリと笑っていった。
「大丈夫ですよ。エルリアさん。エルリアさんに治癒してもらった恩を忘れない連中もいますよ」
シオンがそう言うとルベックとその部下達が驚きの表情をうかべるとイーブス達に襲いかかった。




