兄との再会⑬
シオンは動かなくなったルベックから注意を逸らすことなく周囲を見渡した。
「残りの二人は来ないか……」
「そうみたいね」
シオンとルフィーナはそう言葉を交わす。あと二つの気配はシオン達の背後の茂みの中にあるのだが襲ってくる気配はない。ルベックがシオンに手も足も出ずに敗北したことで出るタイミングを失ったのかも知れない。
残りの二人の気配がルベックよりも強いと言う事はなさそうであったのだ。
「とりあえず、こいつらを治療するとしよう。エルリアさん、すみませんがそいつ等に治癒魔術を施してやって良いですか? こいつは俺がやりますんで」
「わかりました」
シオンはエルリアにそう声かけするとエルリアは快諾する。それを見てシオンは続けてルフィーナに言う。
「ルフィーナはエルリアさんから離れないでくれ。治癒してから治った瞬間にエルリアさんを人質に取るかも知れないからな」
「うん。まかせて♪ エルリアさんを人質にしようとしたら容赦なく始末するわ」
ルフィーナは明るい声でとんでもなく過激な事を言う。ルフィーナの言葉は気絶したふりをしていた場合に対する牽制である。この辺りシオンもルフィーナも油断という状況から程遠い振る舞いをするのだ。
シオンはマントの中でいつものように木札を割り新たなスキルを発動させた。新たなスキルを発動させたことで切ったスキルは「火炎魔術」である。
シオンは転がっている男達四人を一つの場所に集める。シオンの運び方はどう考えても人間を運ぶと言うよりも荷物を運ぶというものであったが、シオンにしてみれば手足の腱を切らないだけ有り難く思って欲しいというものである。
「それじゃあ、よろしく」
シオンはそう言うと倒れているルベックの元へと向かう。それとは入れ違いにルフィーナとエルリアが倒れている四人の元へと向かう。
(さて、良いかな)
シオンはルベックの元に座ると左手をルベックの頭部に触れる。シオンの左手から光が発せられた。シオンは偽造したスキルを使わなくても治癒魔術を施すことが出来るのだ。もちろん本職の治癒術士のものに比べれば拙いものではあるが、それでも骨折程度であれば三十分ほどで治すことも可能なのだ。
だが実の所、シオンがルベックの治癒を行っているのは主目的ではなく、本当の目的は別にあるのだ。
(襲ってこないな。これで打ち止めか?)
シオンはルベックの治癒を行いながら周囲に注意を向ける。相変わらず二つの気配は動く気配はない。
「ぐ……」
治癒を行って十分ほどしたときにルベックから苦痛の声が漏れる.意識が戻りかけているのだろう。シオンはエルリアの方に視線を向けるとエルリアは二人同時に治癒魔術を施しているのが見えた。
(すごいな。複数同時に治癒魔術を施せるなんてよほどの熟練者でもああはいかないぞ)
シオンはエルリアの技量の高さに密かに驚いた。高位の治癒術士であっても一度に治癒を行えるのは一人なのだが、エルリアはそれをあっさりと覆していたのである。
(なんでゴールドなんだろうな?)
シオンはエルリアの技量の高さならもっと上のランクになってもおかしくないのだが、彼女がゴールドというのは疑問であった。
そんなことを考えているとエルリアは次の二人の治癒に移った。
「う……てめぇ……」
そしてそれから五分ほどしたときにルベックが目を覚ました。目を覚ましたルベックはシオンが自分に治癒魔術を施しているのに気づいて驚いた表情を浮かべる。
「な、なんのつもりだ?」
ルベックはシオンに尋ねるとシオンはあっさりと返答する。
「決まっているだろう。聞きたい事があるから治癒魔術を施しているんだ」
シオンの言葉を聞いた時のルベックは驚いた表情を浮かべた。
(くくく、バカが……助ければそれで俺が恩に着るとでも思っているのだろう……とんだ甘ちゃんだぜ)
ルベックは表面上は驚いた表情を浮かべているのだが心の中にはシオンの対応を甘ちゃんの行動であるとせせら笑っていた。ある程度治癒が済んだところで不意を衝きシオンを殺そうとしているのだ。そして、ちらりと部下の四人に視線を向けると四人も治癒魔術を施されているのを確認してシオン達のあまりの甘さにほくそ笑んでいた。
ところがそれが勘違いである事にこの後ルベック達は思い知らされる事になるのである。
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