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兄との再会⑪

「これぐらいで良いか」


 シオンは服に引火して地面を転がるルジック達に呆れた様に呟くと右手に水の珠を浮かべると地面を転がるルベック達に水の珠を放った。シオンの放った水によりルベック達を焼いていた炎は鎮火した。


「えっと大丈夫ですか? いきなり転げ回るからビックリしましたよ」


 シオンの言葉は慇懃無礼というものの見本ともいうべきものであった。ルべック達は屈辱のために目も眩む思いである。


「てめぇ……」


 立ち上がったルべックの頭部や両腕の辺りは赤くはれ上がっており、ケガを負っているのが一目で分かる痛々しい姿であったが、それでもシオンを睨む目には戦闘の意思が確実に含まれていた。


「あれ、なんだか怒ってますね? どうかしたんですか? 私は貴方方の命の恩人ですよ。私が火を消さなければ貴方方は焼け死んでいたかも知れないのですよ。貴方方は私の寛大な心に感激して私を崇めるところでしょうが」


 シオンはニヤニヤと嗤いながらルべック達に言い放つ。小憎たらしいと称するのがもっとも相応しいシオンの表情と口調、言い分にルべック達の怒りは倍増する。


「せっかく消してあげたのにまだ頭の中は燃えているようですね」


 シオンは再び右手に水の珠を発生させるとそのままルジック達に放った。


「舐めんなぁぁぁ!!クソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ルべックは雄叫びを開けて放たれた水の珠に拳を叩きつける。その際にルべックに彫られた幾何学的な入れ墨が何やら光を放つと水の珠を打ち砕いた。


(なるほど……あの入れ墨は何かの術式か……俺の魔術を打ち砕いた所を見ると魔力を増幅して叩きつけるというところか? いや、自分の肉体に魔法を付与して魔力を帯びた武器と同じようにするというわけか?)


 シオンはルべックの攻撃を見てルべックの技量を少々見直した。少なくとも雑魚ではないという結論に至ったのである。

 もし、シオンがルジックをこういう評していることを知ったら怒り狂う事だろうがシオンは幸い口にしなかった。


「まぁ良いか」


 シオンはルジックではなく周囲の雑魚からかたづける事を選択すると早速動いた。駆けながらボキリと木札を折り、流水魔術のスキルから「瞬神」へと切り替える。瞬神のスキルを宿らせたシオンは驚異的な速力を持ってルべックの周囲の男達の間合いを詰めると火傷を負って苦しむ男達に容赦なく襲いかかった。


 バギィィィィィィ!!


 シオンの拳が火傷に苦しむ男の顔面に叩き込まれ、男は五メートルほどの距離を飛んで地面に口付けする。

 あまりの常識外れの速度に男達は狼狽えたがそれを表現する前にシオンの前蹴りが鳩尾に叩き込まれるともう一人の男が吹き飛んだ。


「よっ!!」


 シオンは止まることなくもう一人の腕を掴み手前に引くと同時に肘を胸に叩き込む。ゴキリという骨の砕ける感触をシオンは感じる。胸骨を砕かれた男はそのまま崩れ落ちた。


「せい!!」


 シオンは何とか立ち上がったばかりの男の膝を蹴りつけた。男が苦痛に歪んだ表情を浮かべた所にシオンが容赦なく上段回し蹴りを放つとまともに蹴りが入り男は意識を飛ばして崩れ落ちた。


「さ……雑魚は終わったと言う事でルベックさんを片付けるとしよう」


 四人の男を文字通り一蹴したシオンはルジックに向き合うとニヤリと嗤って言い放った。もちろん、ルジックの名前を間違えたのはわざとである。


「俺の名はルジックだ!!」


 ルジックは不快気にシオンを睨みつけながら言う。簡単に挑発に乗るあたり、ルジックは単純な性格をしているようである。


「あ、そうなの? まぁ大した事じゃないから良いじゃないか」


 シオンはまったく取り合うことなくルジックに返答する。そのシオンの態度にギリッと奥歯を噛んだ。


「じゃあ、ロベックさんやりましょうか」


 シオンはそう言うと腰に差した剣を引き抜いた。そしてやはり名前を間違えるという挑発を忘れる事をシオンはしない。


「調子にのるなよ……小僧!!」


 ルジックの文様が再び光り始める。


(不便な能力だな。戦闘態勢に入ったのが丸わかりだ)


 シオンはルジックの文様が光ることに対して内心でため息をついた。ルジックの文様は魔力を付与するなどの効果があるのだろうが、それにしてもこれでは不意を衝くことは限りなく困難であると言えるだろう。


(そして……そろそろだろうな)


 シオンは察知した七つの気配のうち姿をしめしていない二つの気配が行動を移すのはそろそろだと思ったのだ。そしてその事はルフィーナも当然のように察しており警戒を解いていない。


 四人があっさりとやられ、ルジックもまた手傷を負っている以上、逆転させるにはルフィーナとエルリアを人質にするのがもっとも手っ取り早いのだ。シオンははっきりいって悪食(イベルジスト)の人間性を全く評価していない、コイツらが目的のために手段など選ぶわけない。


 ルジックが動いた。「瞬神」のスキルを使用している今のシオンには及ばないがそれでも十分な速度であるのは間違いない。


(ただの筋肉ダルマじゃないわけか)


 シオンはそう判断すると気持ちを引き締める。もともと油断などしていないのだがこれだけの速度で動けるというのならば警戒を一段階上げる必要があるというものだ。


 シオンへの間合いを一瞬で詰めたルジックは拳を振るう。シオンはその一撃を躱すと同時にルジックの右太股へと斬撃を放つ。ルジックはその斬撃をすっと横に跳んで躱すとそのまま左拳を放つ。

 シオンはその左拳を躱すと再び斬撃を放った。今度放った場所はルベックの左腕だ。


 キィィィィン!!


「おりょ?」


 しかし、シオンの剣はルジックの左腕を斬り飛ばすことは出来なかった。魔力により強化されたルジックの左腕は金属のような音を立てるが斬り飛ばすことは出来なかったのだ。

 それを見てニヤリとルべックは嗤うとそのまま横蹴りを放った。シオンはそれを横に跳んで躱すと体勢を立て直した。


「魔力による強化……か。やっかいだな」


 シオンの言葉にルジックはさらにニヤリと嗤う。自分の安全性が確保されたかのように思っているのかも知れない。


(いや、別に対処が出来なくて困ってるというわけでもないんだがな……)


 シオンはその様子に少しばかりゲンナリする。今の戦闘の流れからシオンに勝てると思うのは少々早計というべきだろう。


「お前は速いみたいだが俺の体に手めぇの剣は通じねぇよ」


 ルジックの自身たっぷりの言葉にシオンは鞘に剣を納めた。


「なんのつもりだ?」


 ルジックの訝しむ声にシオンはニヤリと嗤うとルジックに言い放った。


「お前如きに剣は必要ないからな。拳でやってやろう」

「何だと?」

「いくらお前がアホでも自分の戦いにあわせてもらってなおかつボコられれば格の違いというやつを理解できるだろ」

「な」

「さっきも言ったろう。お前は舐められる程度の実力しかないんだよ」

「てめぇ……ぶっ殺してやる」


 ルジックの文様が光を放った。

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