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冒険者シオン②

 シオンはギルケ山地に到着したのは五日後の事であった。常人よりも早いのは【スキル】を使用したからだ。

 スキルとは祝福(ギフト)に応じて習得できる技術であり、それを使用する事でスキルに応じたパフォーマンスを発揮することが出来るのだ。

 もちろんスキルが無くとも剣は振れるし、努力次第で一流になることも可能だ。しかし、スキルがあれば一流の壁を越えることも可能なのだ。


 そのために祝福(ギフト)が人生に大きな影響を与え、稀少な祝福(ギフト)を授かれば人生が開ける事になるのである。


 シオンが今回使用したスキルは『健脚』『持久力向上』の二つである。この二つのスキルを使用しシオンはほぼ走りっぱなしで帝都からギルケ山地までやって来たのである。


「さて、ゴブリン共の集落を探すか」


 シオンは懐から木札を取り出すとボキリと折る。木札を折ったシオンは静かに目を閉じ、しばらくしてから目を開けた。


「見つけた……」


 シオンは小さくそう呟くと歩き出した。ある程度進んだところで音を立てないように注意深く進んでいく。


「三体か……」


 シオンは気配を察知すると懐から再び木札を取りだした。何枚かの木札を見て目的の木札を選ぶとそれを躊躇うこと無く折る。


三つ(・・)というのは不便だよな……さらに出来るようになれば増えるのかな?」


 シオンは小さくぼやきながら察知した気配の相手に意識を向ける。あちらの方はシオンに気づいている様子はない。戦いにおいて不意討ちというのは効果が高いのは周知の通りである。

 だからこそ軍隊などでは斥候を出すのだし、それ専門の部隊すら存在するものだ。


 シオンはこちらに警戒無く向かってくる相手の進行方向から避け待ち構えることにする。

 シオンは茂みに隠れ気配を消して相手を待つと十分ほどで三体のゴブリンが現れた。ゴブリンの身長は一六〇㎝ほどで緑色の皮膚に頭髪の無い頭部、ぎょろりとした目は血走り、鼻は長く、頬まで裂けた口から不揃いに並んだ歯が見えていた。

 体には粗末な毛皮を纏い、手には弓、棍棒、槍を持っている。どうやら“狩り”を行っているチームのようである。


(気づいていない……いける)


 シオンは自分の腰に差した剣を静かに抜くとゴブリン達が自分を通り過ぎた瞬間に動いた。音も無く飛びだしたシオンはゴブリンの右後ろから斬撃を放った。

 シオンの剣は自分に一番近いゴブリンの延髄を斬り裂いた。延髄を斬り裂かれたゴブリンは糸の切れた人形のようにその場に倒れ込んだ。

 仲間が突然倒れた事に驚きの表情を浮かべ、倒れ込んだ仲間に対して視線を向けた。


(よし!!)


 シオンは次に回転しながら斬撃を放ち、またもゴブリンの延髄に刃を入れる。シオンの剣はゴブリンの骨に当たって止まるともう一本の剣を抜き放ち最後のゴブリンの脇腹を斬り裂いた。

 

「グ……ァ……」


 腹を斬り裂かれたゴブリンは苦痛の声を上げてその場に倒れ込む。シオンは即座に倒れ込んだゴブリンの延髄に剣を突き立てた。

 時間としてわずか三十秒。不意を衝いたとは言え三十秒でゴブリン三体を斃すというのはやはり並大抵の技量では不可能である。


「幸先良いな」


 シオンはそう言うとゴブリンの血に汚れた剣を一振りして振り落とすと剣を鞘に納める。


「ま、本番はこれからだけどな」


 シオンは集落に向かって歩き出す。シオンは二十分ほど進むとゴブリン達の集落が目に入った。集落は粗末な竪穴住居的な家が五軒にこれまた粗末な柵が設けられている。

 規模から見て新しい集落なのだろう。ゴブリンの習性に一定数の数になると別れて新しい集落を形成する。それは各集落によって異なるが、大体五百を越えた辺りで新しい集落が形成されることが多いのである。


 ゴブリンの繁殖力は凄まじいものであり、放っておくとあっという間に数を増やし数の暴力で人間達を蹂躙する事が多々あったのだ。

 ゴブリンの繁殖力が強いのは、ゴブリン同士で子どもを産むと言う事もあるのだが、他種族の女の子宮を使っても繁殖するのだ。それはもちろん人間の女も例外では無い。

 ゴブリンによって孕まされ産まれた子は人間とゴブリンの混血児では無く完全にゴブリンであった。これはゴブリンが雌雄同体であり、両性の器官を持っているため、人間の女の子宮に受精卵を生み付けるためである。人間の女はゴブリンにとって文字通り苗床であり、子を産むための道具でしか無いのだ。


 そのため、ゴブリンはあっという間に数を増やす事が出来るのだ。実際に大繁殖したゴブリンの大群により小国が呑み込まれ文字通り消滅してしまった事例もあった。


「次はこれでいくか」


 シオンは木札を先程同様に取り出すと選んだ木札を折った。


 シオンは集落に視線を移すとシオンの周囲に火球が浮かび上がった。その数は百を超えているだろう。


「う~ん……やはりここは威力重視だよな」


 シオンの周囲に浮かんでいた火球がいくつか合わさり、十数個にまで数を減らした。但しその大きさは合わさったことで遥かに増している。


 シオンは周囲に浮かんでいた火球を一斉に放った。放たれた火球は真っ直ぐに集落に向かって飛んでいき、着弾すると爆発を起こした。


 集落に落ちた火球は家々を焼き、ゴブリン達も同様に炎に包まれると熱さから逃れるためにのたうち回ったが、火は消えることはなかった。炎に包まれたゴブリンは苦痛のために激しく動いていたが、やがて動かなくなっていく。


「よし行くか」


 シオンはもう一つの木札を折り集落に向かって走り出した。シオンが集落に向かったのは生き残りを始末するためである。生き残りがいた場合はその繁殖力のために一年もすれば再び今以上の規模になるのは間違いない。


 シオンが集落に入るとあちこちから肉の焦げた嫌な臭いが鼻をつく。数体のゴブリンの子どもの死体が転がっているがシオンにとっては憐憫の情も罪悪感も生じることはない。

 ここで見逃してしまえばゴブリンは人間を襲い、今度は人間の集落が消滅することになるのだ。


 シオンは注意深く周囲を探知しながら腰の剣を抜き放ち生き残りを探した。しかし、集落のゴブリン達は全て焼死して生き残りを発見することが出来なかった。


 シオンは再び目を閉じて周辺の気配を探るが近くにゴブリンの気配を一切感じることはなかった。


「いないと……これで任務は達成だな」


 シオンはそう言うと再び木札を取りだして折るとシオンの足元に魔法陣が描き出された。描き出された魔法陣の術式が転移魔術である事は見る者が見れば分かるだろう。


「さ、帰るとするか」


 シオンはそう言うと転移魔術を起動してゴブリンの集落から姿を消した。

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