兄との再会⑥
「一仕事?」
シオンの言葉を聞いた男の一人は訝しがりながらシオンに尋ねた。それを聞いたシオンはにやりと嗤って言う。
「ああ、とても簡単な仕事だ。俺の伝言をお前たちの雇い主に伝えてほしい」
シオンの言葉に男たちは露骨に蔑んだ視線を向けた。ルフィーナとエルリアは男たちの次の言葉は簡単に予測がついた。
「はい。わかりました」
「おまかせください」
「なんなりと申し付けてください」
「承知いたしました」
しかし、男たちの口から出た言葉は二人の考えていた言葉とはかけ離れていたのである。まさか簡単に承諾の言葉が発せられるとは思ってもいなかったのだ。
そして意外だったのは男たちもそうだったらしく、自分たちの発した言葉に逆に驚いた様子であった。
(シオンは何か「スキル」を使ったのね)
ルフィーナはシオンの能力を知っているためにシオンが偽造したスキルを使ったことをすぐさま察したが事情を知らないエルリアは驚きを隠せないようであった。
「そうか、そうか。お前たちは闇ギルドとやらに所属する人間のクズであるが一欠けらの良心が残っていたというわけだな」
シオンの言葉に男たちは黙って立ち上がるとシオンに向かって一礼する。そして代表としてエルリアを担ぎ上げていた男がシオンに向かって言う。
「まことに仰せのとおりです。それでわれわれは何をすればよろしいのでしょう?」
男の驚愕の顔と言葉の内容がまったく真逆であり、男が本人の意思で発言していないのは明らかである。
「簡単なことだ。これから官憲がお前たちを捕らえに来るから、依頼内容を全部ありのままに官憲の方々に話すだけだ。正直に知っていることを話すだけだ簡単だろう?」
シオンの言葉に男たちは恐怖の表情を浮かべた。任務失敗だけで命が危ないというのに闇ギルドの情報を漏らせば確実に命がなくなる。いや、それどころかただ殺されるだけでなくありとあらゆる苦痛を与えられて殺されるのは確実だ。
「はい。正直にすべての情報を官憲に伝えようと思います」
「そうか。それではお前たちにエルリアさんを攫うように依頼したのは誰だ?」
シオンの言葉に男たちはもはや泣きそうな表情を浮かべつつ口を開く。男たちの意思は話さないようにしているのだが体は意思に反して勝手に話始めているのだ。
「オインツ伯レオンハルトが俺達、『悪食』に依頼しました」
「ほう……貴族がなぜエルリアさんを狙う?」
「その方の息子は【大賢者】の祝福を発動しています。やがて【勇者】とともに歴史に名を残す事になると考えた貴族が前もって取り込もうとしているのですが、【勇者】のガードが堅いのです。そこでその方を押さえることで息子の大賢者様を操ろうとしているとの事でした」
「そうか、それじゃあその事をこれから引き渡す事になる官憲のかた方に正直に話してくれるな?」
シオンの言葉に男達の絶望の表情をより色濃くした。すでに取り返しのつかない状況であるのに官憲に正直に話すなど油を被って火事場に飛び込むようなものだ。
「もちろんです!!」
しかし、男は即座にそう言うとシオン達に頭を下げた。
「そうか。それじゃあもう少しで官憲の方々がやってくるから頼むぞ」
この時の男達にはシオンは悪魔よりも悪辣な存在に見えた事だろう。
「お~い!!」
そこに先程シオンが官憲を呼んでくるように頼んだ男性二人が戻ってきた。その後ろには十人ほどの衛兵達が続いている。
「あ、ここです!!」
シオンが手を振り返すと髭を生やした三十代半ばの衛兵が進み出た。
「君達が犯罪者を捕まえたという子だね」
衛兵の態度は柔和で不快感など微塵も感じさせないものだ。
「はい。こちらのエルリアさんを攫おうとした所を僕たちが助けたというわけです」
「そうか。協力感謝する」
「いえ、お気になさらないでください。当然の事をしたまでですから」
シオンの言葉に衛兵も顔を綻ばせる。シオンの礼儀正しい対応に衛兵達も気分を害した者がいないのは確実であった。
「それでこいつ等なんですが、どうも『悪食』という闇ギルドに所属しているみたいなんです。ひょっとしたら口封じに暗殺者が送り込まれる可能性があるので気を付けておいてください」
シオンの言葉に衛兵達の中から緊張の気配が発せられた。どうやらこの衛兵達は『悪食』という闇ギルドをしっているみたいであった。
「そうか。『悪食』のメンバーか。君達は大手柄だったな。『悪食』は最近になって現れた闇ギルドなんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、中々尻尾を掴ませない連中だったけど少しは捜査が進みそうだ」
「それこそ、何よりです。でもこいつ等がウソを付いている可能性も否定できませんのでもう一度きちんと尋問する方が良いと思います」
シオンの言葉に衛兵は頷く。
「確かにな。ここから先は我々に任せてもらうよ」
「はい。それでエルリアさんなんですがどうやら王都に息子さんがいるらしくそちらの方に身を寄せるみたいです。僕たちも王都に向かいますので王都までは護衛として雇われました」
「護衛? と言う事は君達は冒険者かね?」
「はい。僕たちはドルゴーク帝国の帝都の冒険者ギルドに所属しているシオンといいます。こっちはパートナーのルフィーナです」
「ルフィーナと言います。よろしくお願いします」
シオンの自己紹介にルフィーナは異を唱えることなく即座に対応する。エルリアと同行して王都に行く事は決まっていたが、「護衛として雇われた」わけではない。そのため完全に真実ではないのだがその辺の事は許容範囲内の事であろう。
ルフィーナの可憐な容姿に集まった衛兵達の中から感歎の雰囲気が発せられたのはある意味男の悲しい性と言うべきかも知れない。
「そうか。それならそのご婦人の護衛に君達が就くと言うことだな?」
「「はい」」
「それならそのご婦人の事は君達に任せる事にしよう。もし、不安があるというのなら我々が保護するという事も出来るが?」
衛兵の申し出であったがシオンとルフィーナは静かに首を横に振った。
「いえ、もう護衛の任務を受けていますのでそれをしてしまうと我々の仕事がなくなってしまいます」
「そうだな。君達冒険者にとっては死活問題だったな。だがもし何かあったときには遠慮無く頼ってくれ」
「はい。すでに頼らせてもらってますよ。そいつらを頼みます」
「そうだな。こいつらは任せてくれ。あ、そうそう被害者のご婦人の話も聞きたいから明日屯所の方に来てもらっていいかな?」
「はい。わかりました」
シオンの言葉に衛兵は笑いながら答えると縛り上げられていた男達を連れて行った。呼びに行ってくれていた男達にシオンとルフィーナは礼を言い二人は家に戻っていった。
「ふぅ……とりあえずこれで終了だな」
「そうね。とりあえずは一段落という訳ね」
「あの……二人に聞きたい事があるんですが……」
シオンとルフィーナにエルリアが尋ねてきた。




