兄との再会③
無事にペナルティを終えたシオンとルフィーナは隣国である“フィグム王国へ向けて出発した。
ドルゴーク帝国からフィグム王国まで徒歩で約二週間の道のりである。ドルゴーク帝国とフィグム王国は友好国なのでお互いの入国はかなりスムーズに行えるのは有り難い。
シオンとルフィーナはのんびりと徒歩でフィグム王国に向かってる。スキルを使用すればもっと早く到着する事も出来るのだが、ここは通常の徒歩の旅を二人は選んだのである。
シオンがスキルを使用しない理由は一つはルフィーナという同行者がいること。一人であれば多少の無理をするのだが同行者がいる以上それは避けるべきであると考えたのだ。
そしてもう一つはあまり不自然なほど早くフィグム王国に入ったりすると、さすがに不審がられるというのがその理由だ。兄アルムはシオンにとって敵で無いと断言できるが、周囲の者達はそうとは限らない。そのためシオンの能力の事は出来るだけ伝えない方が無難であると考えたのである。
「そうだ。今更だけど……」
歩きながらシオンはルフィーナに声をかけるとルフィーナは“ん?”という表情を浮かべてシオンに視線を向ける。
「どうしたの?」
ルフィーナは首を傾げながら返答する。
「ああ、今回の兄に会いに行く件なんだけど俺一人で勝手に決めちゃって悪いな」
シオンはルフィーナに謝罪する。シオンは兄からの使者がやって来た事に舞い上がってしまいルフィーナに何も断りもせずにフィグム王国に向かう事を決定したのに気づいたのだ。
「なんだ、そんな事別に良いわよ。私だってペナルティに付き合ってもらったしね」
「そうか、そう言ってもらえるとこっちも気が楽だよ」
「そういう事、細かい事言いっこなしよ♪」
ルフィーナの言葉にシオンは顔を綻ばせた。
シオンとルフィーナはそれから何事も無くフィグム王国への道を歩いたのである。
* * *
二人がフィグム王国に入国して二日、帝都を出発して八日の計十日が経ったが二人の旅は平穏そのものである。
シオンとルフィーナが十日目の宿に選んだのは、フィグム王国のボーグスという地方都市である。人口三万人という地方都市にしてはかなりの規模の都市である。
ボーグスは王都側から見て、三つの街道の分岐点であるため交通の要所であるのだ。この交通の要所は王族の直轄地となっている。
「へぇ~栄えてるわね」
ルフィーナがボーグスに入ってから周囲を見渡して言う。ボーグスの賑わいは帝都や王都には及ばないのは確実であるがそれでも相当な賑わいを見せていたのである。
「このボーグスは王国東部における中心都市だからな」
シオンの説明にルフィーナは納得の表情を浮かべた。
「それで今日の宿なんだけど昔俺が泊まった所に行こうと思うんだがどうだ?」
「うん、私はこの街ははじめてだからシオンに任せるわ」
「よし、じゃあ決まりだ」
二人はそのままシオンがかつて泊まったという宿屋に行き部屋をとった。ちなみに二人はいつも同じ部屋二人部屋で寝ている。ルフィーナが一人で泊まると良からぬ事を企む者が一定数いるためにその予防のために同じ部屋に泊まっている。また、一部屋の方が安いというのが裏の理由である。
食事をとり、風呂に入りゆったりとした所でシオンとルフィーナはそのままベッドに入った。ちなみに別々のベッドである。
「ねぇシオン」
「ん?」
ベッドに入ってからしばらくしてルフィーナが声をかけてきた。
「あのさ……シオンのお兄さんってどんな人?」
「そうだな……ある意味、みんなが考える勇者を体現したような人だな」
「勇敢で強くて品行方正って事?」
「まぁ、そう考えてもらっても構わないな」
シオンの声には少し誇らしげな響きが含まれている。それだけでルフィーナはシオンがアルムのことを尊敬している事を感じた。
「そんな人ならそれはモテるでしょうね」
「ああ、兄さんは女の子にものすごく人気があったな」
「……シオンは?」
ルフィーナの問いかけはどことなく不安の要素が含まれているようである。その問いかけにシオンは苦笑を浮かべつつ返答する。
「俺はまったくモテなかったよ」
「そうなの!?」
そこにビックリしたようなルフィーナの声が響く。そしてその声にはどことなく安堵と喜びの声が含まれているようでもあった。
「おい、どうしてそんなに嬉しそうな声で驚く?」
「え? いや~別にそんなに喜んでないわよ♪」
「ふん、俺は絶対にのし上がって美人な嫁さん捕まえて悠々自適な人生を掴んでやる」
「そんなに拗ねないの」
「うっさい」
シオンはそう言うと布団を被る。その様子にルフィーナは少しばかり苦笑する。
(聞いた限りじゃライバルはいなさそうね……でも私に言ってないだけかも知れないわね)
ルフィーナはそう心の中で呟くと顔が自然と緩んだ。それからすぐに睡魔に襲われる。
シオンもルフィーナも寝息を立て一時間ほど経ったとき、宿屋の外で悲鳴が響いた。
「きゃああああああああああ!!」




