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兄との再会②

「え?俺ですか?」


 声をかけてきたのは大体二十代後半といったところの男性で、茶色の髪を短く刈り込み、体もかなり鍛えられているようだ。


「はい、あなたの名前はシオンさんで合ってますか?」

「あ、はい」

「お兄さんの名はアルム、間違いありませんか?」


 兄の名が告げられた事でシオンは心の中で身構えた。兄アルムを脅すためにシオンを人質に取ろうという危険性をシオンは咄嗟に考えたのだ。


「はい……兄さんの名は間違いなくアルムと言います」


 シオンは戸惑ったように男に答えた。もちろんシオンは戸惑った様に見せかけているだけで実際は冷静そのものだ。戸惑ったように見せかけておけば相手がシオンを侮り、襲いかかってきたときに雑な行動になる可能性を高めておこうと思ったのである。


「良かった。実は私はアルムさ……んの伝言を伝えに来たんです」

「伝言ですか?」


 シオンはやや警戒を解いた。男がアルムの名を呼ぶときに“アルムさ……ん”と敬称にやや間があった事から実際は“様”と呼びたかったのではないかと思ったのである。

 意識せずに“様”と呼びかけると言う事はこの男性はアルムの使者である事の信憑性を高めることになったのである。


「はい。あなたに会いたいとおっしゃってます。それで今の仕事が終わったら会いに来るというのが伝言です」


 男は真っ直ぐにシオンを見つめて言う。シオンを見る目には誠意というものが多分に含まれており信頼できるとシオンは考えたのである。


(兄さんが俺に会いたい……兄さんは俺の事を気にかけてくれてたんだ)


 シオンの心の中に喜びの感情が湧き起こってくる。両親とは絶縁状態であるが兄が自分の事を気にかけてくれていたというのは自分にも家族がいたのだと思わずにはいられなかったのだ。


「あの……兄さんはどれぐらいで帝都に来れるのですか?」


 シオンは男に尋ねる。シオンの質問に男は少し首を傾げ思案顔を浮かべる。数秒の思案を経て男はシオンに返答する。


「そうですね。恐らくあと二ヶ月ほどかかると思います」

「そうですか……」


 男の言葉に今度はシオンが思案顔を浮かべた。シオンの思案顔を見て男は少し不安そうな表情を浮かべた。


「待つのは性に合いませんのでこちらから尋ねていきたいと思います。兄さんにはそう伝えてもらって構わないでしょうか?」

「え?」

「兄さんは忙しいと思います。にもかかわらず俺の事を気にかけてくれました。なら今度はこちらの番です」

「よろしいのですか?」

「はい。しかし、こちらにも準備がありますので出発はそれからという事になりますが」


 シオンの言葉に男は微笑むと口を開いた。


「承知しました。アルムさ……んにはそう伝えます」

「よろしくお願いします」


 シオンはそう言うと頭を下げた。


「良い報告が出来そうです。それでは早速!! 失礼!!」

「え?」


 男は嬉しそうにシオンに言うとそのまま冒険者ギルドを走って出て行った。その足取りが本当に軽かった事から相当テンションが上がっているようである。

 後に残されたシオンは呆然としたまま男を見送る事になったのである。


「なんか……あの人凄く嬉しそうだったわね」

「ああ、正直ちょっと引いた」


 シオンとルフィーナはそう言葉を交わした。


「シオン君のお兄さんってよほど人望があるみたいね」


 グレイスの言葉にシオンは頷く。男のあの態度からアルムが喜んでくれると言う事でテンションをあそこまで上げたのだから単なる義務感、命令遂行のためというのは考えづらい。


「そうみたいです。それじゃあグレイスさん。明日までにペナルティの内容を決めておいてください」

「そうね。 出来るだけ簡単なものになるように意見を上げておくわね」

「ありがとうございます!!」


 グレイスの言葉にシオンは頭を下げる。その光景を見ていたルフィーナは申し訳なさそうにシオンに声をかける。


「シオン、ごめんなさい。私のせいで……」

「ん? なにが?」


 ルフィーナの謝罪にシオンは首を傾げる。


「私がペナルティを受けちゃったから出発が……」


 ルフィーナの言葉にシオンは納得した様な表情を浮かべるとルフィーナに言う。


「いや、実はペナルティというのはそんなに悪いことばかりじゃないんだよ」

「え?」

「今回のルフィーナは変装をして登録しただけで内容に虚偽はないだろ?」

「う、うん」


 実際はそうではないのだがその辺りの事をここで正直に話す必要はない。その辺の事は祝福(ギフト)の虚偽記載について特に罰則を設けていないことから犯罪行為ではないという意識なのだ。


「つまり、大したペナルティじゃないから一応賃金は出るぞ」

「え? そうなの? でもそれってペナルティと言えるの?」


 ルフィーナの疑問の言葉にシオンは苦笑を浮かべる。


「仕事の報酬とすれば結局一食分になるかならないかぐらいだからな。ある意味ペナルティとなってるさ」

「うん」


 ルフィーナはシオンの言葉に頷く。ルフィーナはどうしてシオンの言葉の意図を察していた。シオンの言葉はルフィーナが気に病まないように言ってくれていると考えたのだ。ルフィーナとすればシオンの優しさに心揺さぶられる思いである。


(色々な人のスキルを確認する事が出来るからな。ひょっとしたら新しいスキルを手に入れる事が出来るかも知れないんだよな)


 ところがシオンは賃金よりも場合によっては新たなスキルを手に入れる事が出来るかも知れないと思っていたのだ。シオンがルフィーナに“そんなに悪いことばかりじゃない”というのは本心からきたものであったのだ。



 シオンとルフィーナは次の日にペナルティとして書類整理を行うことになった。シオンとすれば残念な事に新たなスキルを手に入れる事は出来なかったが、ルフィーナと二人で楽しく書類整理を行えたのでそれはそれで良かったと言える。


 こうして、シオンとルフィーナはペナルティを無事終えて兄アルムに会うために出発するのであった。

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