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魔を継ぐ者③

 シオンに鋒を向けたジェルクが動く。放たれた攻撃は当然の如く“突き”である。対象まで最短の距離で到達する突きはもっとも効果的な技と言えるだろう。

 それに加えてジェルクは鋒をシオンに向ける事でシオンからは点にしか見えない。それ故にいつ放たれたかを探るのは非常に困難と言える。


 しかし、シオンは放たれた突きを最小限度の動きで躱すとそのまま回転し斬撃を繰り出した。狙った箇所はジェルクの剣を持つ手首である。


「おっと……」


 ジェルクはそう言うと剣を咄嗟に手放してシオンの手首への斬撃を躱した。離した剣をジェルクは反対の手で掴むとシオンから距離をとった。


「惜しい」


 シオンのニヤリとした嗤いと共に放たれた不敵な言葉にジェルクもまた嗤った。といっても全覆兜(フルフェイスヘルム)の中からくぐもった嗤い声が聞こえて来たのである。


「少しは楽しませてくれそうだな」


 ジェルクの言葉にシオンは呆れたような口調でジェルクの挑発に返答する。


「おいおい、手加減された事に気づいてないのか? お目出度い性格をしてるな」

「なんだと?」


 シオンの言葉にジェルクの声に険がこもる。


「今の手首への斬撃はわざと外したんだよ」

「……」

「理解できないか? まぁ仕方ないか」

「何をした?」


 シオンの言葉に罠の可能性を察したジェルクはシオンに問いかける。それを見てシオンは嘲笑する。


「俺が一人だと何を根拠に思っているんだ?」

「な……」

「今だ!!」


 シオンが視線をジェルクの背後に向けるとジェルクは咄嗟に右に跳んだ。右に跳んだジェルクはシオンの視線の先を見るがそこには誰もいない(・・・・・)


「え?」


 その瞬間にジェルクの胸部に凄まじい衝撃が走った。シオンが一瞬で間合いを詰めるとそのまま左拳に魔力を込めて殴りつけたのだ。シオンは『魔拳』のスキルを使用はしていない。だが、『瞬神』と『身体能力倍増』の二つのスキルを組み合わせる事で爆発的な拳打を放ったのだ。

 またシオンはスキルを使用しなくても魔力により拳を強化する事は出来る。「魔拳」のスキルを使用した時に比べて威力は落ちるがそれでも二つのスキルを組み合わせた拳打ならば問題無くジェルクにダメージを与える事も可能であった。


 ギキィィィィ!!


 シオンの左拳によりジェルクの全身鎧(フルプレート)の胸甲部分には大きなヒビが入った。しかし、ジェルクの全身鎧(フルプレート)の防御力は相当なものであったためにジェルクは倒れ込むことなく何とか踏みとどまることに成功した。


「ぐ……」


 ジェルクの発した言葉にシオンは目を細める。追撃を行おうと思ったのだが、ジェルクの声に何か違和感(・・・)を感じたのだ。シオンはこのような違和感を感じたときには動くのを控えるようにしているのだ。

 ジェルクはシオンが追撃を行わなかった事で一旦間合いをとった。


(これはしくじったか……?)


 シオンは自分の行動が失敗であったという思いがよぎる。


「やってくれたな……」


 その一方でジェルクの声には怒りの感情が渦巻いている。シオンの掌で転がされた事に屈辱を感じているのだろう。


「演技が上手いじゃないか」

「演技?」

「ああ、俺の一撃を効いたと思わせて追撃に来た所を反撃というのがお前の狙いだろう?」


 シオンのこの問いかけはもちろんジェルクの本心を聞き出すためではない。シオンの狙いは時間を稼ぐことで次の一手を打ちやすい状況を作るためである。

 シオンは先程同様にジェルクの背後に視線を向けた。それを行ってからシオンは動く。


 シオンの「瞬神」によるスキルにより一瞬でジェルクの懐に飛び込むと横薙ぎの斬撃を放った。凄まじいばかりの速度からの斬撃であったがジェルクは余裕でシオンの斬撃を受け止めた。


(……まぁそうだよな)


 シオンは斬撃を受け止められることは当然の如く想定していた。ジェルクは受け止めたシオンの剣を弾くとそのまま斬撃をシオンに放つ。


 キィィィィン!!


 ジェルクの斬撃をシオンは受け止めるとそこから両者の斬撃の応酬が始まった。並のいや一流の剣士であっても両者と斬り合えば数合先には斬り捨てられるのは間違いない。


 シオンとジェルクの剣戟は数十合にも及んだ所で少しずつシオンがジェルクを押し始めた。


(こんなものか?)


 シオンは剣戟でジェルクを押し始めた事に対して訝しがり始めた。シオンはジェルクが何か企んでいるようにしか思えなかったのだ。


(早めにケリをつけた方が良さそうだな)


 シオンはそう判断すると剣戟を中断し間合いをとった。シオンは右手に剣を持ち剣を振り上げた。そして左手を折り曲げた肘の部分に添えるという奇妙な構えをとった。


(なんだ? この構えは?上段斬りを放ちますと言わんばかりじゃないか)


 ジェルクはシオンの構えに警戒心を高めていく。明らかに構えから次に放たれる斬撃を読まれやすいのにあえてここでその手段を執ることに警戒したのだ。

 ジェルクは今までの戦いからシオンの戦闘力、戦闘の方法を決して軽視していなかった。それ故にシオンの構えを警戒したのだ。


 シオンはまたもジェルクの背後に視線を送る。


(またか……しつこいな……いやまて、今度は本当か?)


 ジェルクは背後の気配を探知するがジェルクは何者の気配を察する事は出来なかった。


(背後に意識を向けさせて上段斬りで俺を斬るつもりか?)


 ジェルクはシオンの構えの意図を図りかねていた。実はこのような二択の方が戦いにおいて判断が付きづらいものなのだ。


「じゃあ、とりあえず締めと行くか」


 シオンが言葉を発した瞬間に動いた。


(何もない……か)


 ジェルクはそう判断しシオンの上段斬りを躱しそのまま返し技でシオンの胴体を両断するつもりであった。


 ドゴォォ!!


 しかし、その瞬間にジェルクの背後から衝撃が走った。


「な……」


 背後に突如起こった衝撃にジェルクはたたらを踏んだ。何とか転倒は堪えたのだがジェルクの意識は背後に向かい、かつ体勢は大きく崩れた。ジェルクの背後にはルフィーナの片足を上げた姿が目に入る。

 ジェルクの背後に生じた衝撃波はルフィーナが蹴りつけたものである事をジェルクは察した。


「く……がぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ジェルクの口から苦痛の叫びが発せられた。背後のルフィーナに気を取られた所にシオンの上段斬りがジェルクの左肩から心臓まで一気に斬り裂いたのだ。

 ジェルクが視線をシオンに向けた瞬間にシオンの左掌がジェルクの眼前に添えられている。そして次の瞬間にシオンの左掌から魔力の一撃が放たれた。


 当然、ジェルクは躱す事は出来ずにまともに直撃し、全覆兜(フルフェイスヘルム)を打ち砕いた。

 ジェルクの素顔が晒され、そのままジェルクは倒れ込んだ。


 “雷槌(らいつい)”。


 シオンがジェルクを斬った技の名であり、シオンの切り札の一つであった。


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