魔を継ぐ者②
「シオンどうしたの?」
ルフィーナがシオンに不思議そうに声をかけてきた。シオンとルフィーナがコンビを組み、帝都への帰還中での道中での事である。
「ルフィーナ、とてつもなく強い奴がいるぞ」
「え?」
シオンは木札をルフィーナに渡すとルフィーナは木札を割り偽造された「スキル」を発動させた。今回シオンが渡した木札には「気配探知」のスキルが込められており、ルフィーナも「気配探知」のスキルを使ってシオンが探知した気配を探った。
「……本当……とんでもない強さだわ」
ルフィーナもシオンの言うようにとてつもない実力者の気配を察知したようで緊張の度合いを高めた。
「シオン、どうする?」
「そうだな。個人的にはこれだけの強者なんだから、どんなスキルを持っているか確認しておきたいところだな」
「行きましょう……」
シオンの言葉を聞いたルフィーナが即座に言う。
「良いのか?」
「うん。シオンがスキルを知ればそれだけ使える能力が増えるわ。結果的にそれが私達にとって利益が一番大きいわ。それに一人が戦っているみたいだけどどう考えても勝ち目は無さそうよ」
「ああ、どっちが先に喧嘩をふっかけたかはわからないが確認はしておこう」
シオンの偽造の能力は単にスキルの名を知れば偽造できるというものではない。実際にスキルの名を知り、スキルの効果を確認する必要があるのだ。
シオンが現在有している偽造の木札はシオンが一年間の冒険者稼業で先輩の冒険者達から教えてもらったスキルである。
シオンはルフィーナに再び木札を渡した。
「えっと……『身体能力倍増』!?」
ルフィーナが渡された木札に書かれていたスキルを読むと驚きの声を上げる。このようなスキルがあることをルフィーナは知らなかったのだ。
「ああ、『身体能力向上』の上位バージョンだ。【戦神】という祝福を持っていた『オリハルコン』クラスのおっさんが持っていたスキルでな。酒を奢った際に色々と持っているスキルについて教えてもらったんだ」
「良く教えてくれたわね」
「そりゃ十四、五の小僧が“凄いですね”とヨイショしたら色々と教えてくれたぞ」
「あんたって意外とあざといわね……」
ルフィーナの声には呆れの成分が多分に含まれているがシオンはまったく気にした様子も無い。コンビを組んだシオンとルフィーナは被っていた猫の皮を脱ぎ捨てるとそれぞれに素で話すようになったのである。
「何を言う。お前が自分の容姿を武器になると考えたように俺も少年のしたたかさを発揮しただけだ。それに別に【戦神】のおっさんには何ら損害を与えていないぞ」
「何がしたたかさよ。そういう詭弁は良くないと思うわ」
「お前には言われたくないぞ」
「失礼ね。私は女の武器を使ってるだけよ」
「お前も十分にあざといぞ」
シオンとルフィーナは互いにへらず口を叩きながら戦いの場へと向かってる。すでにシオンもルフィーナも『身体能力倍増』のスキルを使っているために息が乱れることもなく凄まじい速度で駆けている。
「……片方がやられたな」
シオンがそう口にするとルフィーナは重い口調で言う。
「……間に合わなかったようね」
「ああ、だがもう一人まだ生きてる」
「え?」
「倒れた方にすがりついているからな。治癒魔術を施しているのかも知れない」
「急ぎましょう」
「ああ、ルフィーナは気殺を」
「わかってるわ」
シオンがルフィーナに気殺の展開を指示する。するとシオンの横を走っているはずのルフィーナの気配がおぼろげとなった。
(相変わらず凄いな)
シオンは横目でルフィーナを見ると確かにそこに存在しているのにも関わらずほとんど気配がしないことに対して戦慄する思いである。しかもシオンは『気配探知』のスキルを使った上でこれである。
(味方で良かったな)
シオンは心の中でそう安堵の息を漏らした。
(あれか……)
シオンの視線の先に全身鎧の男と二十代前半の女性が何やら話しているのが見えた。女性が杖を構えた所を見ると女性が仇討ちを行うつもりである事が窺えた。
「まずいな……仕方ない。ルフィーナ先に行くぞ!!」
「え? あ、うん!!」
シオンはこのままの速度では間に合わないと考えると懐から『瞬神』のスキルの木札を取り出すと同時に割った。
その瞬間、ドン!!という音と共にシオンの速度が一気に上がりルフィーナを置いていった。
速度を一気に上げたシオンは全身鎧の男が剣を振り下ろそうとした刹那に女性との間に割り込むと剣で受ける。
キィィィィン!!
シオンの剣と全身鎧の剣がぶつかり澄んだ音色を周囲に響かせた。
「ほう……俺の剣を受け止めるか……しかも、俺が振り下ろすまでのあの一瞬で潜り込むとはな」
全身鎧の男の称賛の言葉にシオンはニヤリと嗤う。
「そいつは……どうも!!」
シオンは力を込め、全身鎧の男の剣を弾いた。全身鎧の男はフワリと数メートルの距離を飛ぶとまるで体重を感じさせない様子で着地する。
「なかなかやるな。小僧……名乗れる名があるなら名乗って見ろ」
全身鎧の男の言葉にシオンは一瞬であるが逡巡する。基本的に名をバカ正直に答えるというのはいらない情報を与える事になるためにシオンはあまり行わないのだ。
「ふ……用心深いな」
「何、名を聞くときは自分から名乗るというのが当然と思ってるからな。あんたの不躾さに呆れただけだ」
「くくく……言うじゃないか。まぁだが小僧の言葉にも一理あるな。良いだろう。俺の名はジェルク=デミウルシア=ウィヴィスだ」
ジェルクと名乗った男にシオンは直接答えるような事はせずにシャーリィに問いかける。
「こいつが今名乗った名と貴女に名乗った名は同じですか?」
シオンの言葉にシャーリィは虚を衝かれたような表情を浮かべそこから口を開いた。
「は、はい。同じです」
シャーリィの言葉にシオンは頷くと口を開いた。
「そうか。本名を名乗ったと言う事でこっちも名乗るとしよう。俺の名はシオン、帝都の冒険者ギルドに属する『シルバー』ランクの冒険者だ」
「ほう、冒険者か……ならばお前も俺の糧にしてやろう」
ジェルクは剣の鋒をシオンに向けた。




