ルフィーナ⑫
「やったわね♪」
ルフィーナはシオンの手をとると満面の笑みを浮かべて言う。すでにルフィーナの顔は下にある美しいものになっていた。
「え~と、喜びの前に確認したいことがあるんだが」
シオンの言葉にルフィーナは端と我に返ったようでシオンの手を離すと畏まった表情を浮かべた。その表情には緊張の感情が含まれている。
「まず、今の顔がルフィーナの本当の顔と言う事で良いか?」
「うん。これが私の本当の顔よ」
「へぇ~」
シオンはルフィーナの顔をまじまじと眺める。
「あの、そんなにジロジロ見られると恥ずかしいんだけど」
ルフィーナは頬を染めながらシオンに言う。
「まぁ良いじゃないか。減るもんじゃないし」
「そうだけど恥ずかしいの!!」
ルフィーナの反応にシオンは苦笑を浮かべ、話を続ける事にする。
「それでどうして変装なんかしてたんだ?」
「う~ん、気取りやがってと思うかも知れないけど、私って美人でしょう?」
ルフィーナははっきりと自分の事を美人と言い放った。ここまではっきり言われるといっそ清々しい物である。実際にルフィーナは美を司る女神と称するに相応しい容姿をしているのは事実である。
「ああ、確かに美人だな」
シオンもルフィーナの返答に迷い無く答える。この辺りシオンに照れというものはない。
「それが理由よ。何の力も無い美少女が一人旅、当然ながら身の危険を感じるには十分だと思わない?」
ルフィーナの言葉にシオンは納得する。確かにこれほどまで容姿の整ったルフィーナが一人旅を行えば余計なトラブルになるのは間違いない。
「それで変装したというわけか。でもお前、もう少し何とかならなかったのか?」
シオンは納得しつつルフィーナの変装用の顔を思い浮かべるとため息をつく。いくらんあんでもあの顔を今の顔では落差が酷すぎるというものだ。
「でもあの顔のおかげで私は余計なトラブルに巻き込まれることなくここまでこれたわ」
「まぁいいや。じゃあこれから真面目な話をするとしようか」
「……いいわよ」
シオンの言葉にルフィーナも表情を引き締めた。
「ルフィーナの本当の祝福は何だ? 【隠密】というのはウソだろう?」
シオンは直球の質問をルフィーナに投げつけた。ここで腹芸を使う必要はないとシオンは考えた故での質問である。
「……まず言っておくけど……私は犯罪者じゃないわよ」
ルフィーナは躊躇していたが、意を決したようにシオンの目を真っ直ぐに見つめて言う。
(やはり犯罪のイメージの付きまとう祝福というわけか)
シオンはそう察すると静かに頷いた。シオンのその反応を見てルフィーナは話を続けた。
「私の祝福は【暗殺者】よ」
「暗殺者……か」
「そうよ。『気殺』と『変装』のスキルは暗殺者の必須スキルというわけよ」
「なるほどな」
ルフィーナの言葉にシオンは納得の表情を浮かべつつ返答する。
「あれ? あんまり忌避感はないみたいね」
「まぁな。【暗殺者】の祝福が発動したからといって犯罪行為を行ったわけじゃなければ忌避する理由はないだろう」
「私の言葉を信じるの?」
ルフィーナの口調は軽いがそこに込められた感情は真剣そのものであることは間違いないだろう。その真剣な気持ちを察したシオンは茶化すような事はせずに返答する事にした。
「まぁ実の所知らん」
「へ?」
「ただルフィーナが俺に危害を加えるようなやつじゃない事は分かってる。だが出会う前の事なんぞ知らん」
シオンの返答にルフィーナは呆気にとられた表情を浮かべた。しかし、それからすぐにルフィーナは顔を綻ばせて言う。
「シオンらしいわね。まぁ根拠無く“信じる”なんて言われても呆れるだけだしね」
「まぁな。ルフィーナのその反応から何か犯罪者扱いをされた経験があるというわけだな」
「うん、私の場合は家族から犯罪者扱いされたわ」
「家族から?」
ルフィーナの言葉にシオンの目が細まった。その反応に気づいているのだろうがルフィーナはそのまま続ける。
「ええ、私の一つ下の妹が【聖女】の祝福を発現したの。そうすると両親は犯罪者のような祝福を持つ私が邪魔になったのよ。妹の足を引っ張る出来の悪い姉から排除すべき者となるのはそんなに時間はかからなかったわ」
ルフィーナの言葉にシオンは沈黙する。ルフィーナとシオンの境遇の根幹はまったく同じであったのだ。
「妹もお前を邪険にしたのか?」
シオンの言葉にルフィーナは首を横に振った。
「ううん、アルティナ……あ、妹の事ね。アルティナは私を庇ったわ。そのおかげで両親は表面上は私を虐待しなかったけどね。アルティナが聖女として修行を行う事になり家を出ると虐待が始まったのよ。このままだと碌な事にならないと思って私は家を出たのよ」
ルフィーナは忌々しそうに言う。
(そこも同じかよ……)
シオンは自分とルフィーナの置かれている状況があまりにも似通っている事にため息をついた。
(祝福か……。大層な名前が付いているが結構な不幸を生み出している感じがするな)
シオンは祝福に対して否定的な感情が後から後から湧いて出てくるのを感じた。
世の中の大部分の者達は祝福に支配されているといっても過言ではない。人格、功績で評価されるのではなく祝福で評価が決まってしまう世界のありようにシオンは反発心しか芽生えない。
「私の事情はこんなところよ」
「そっか、わかったよ」
「さて、それじゃあ次は私の番ね」
「ルフィーナの?」
「ええ、シオンの祝福は【剣士】じゃない。かといって【魔術師】ともちがうわね。両方の特性を合わせた【魔剣士】とも言えるだろうけど、それとも違うわよね? だってそれだったらシオンがリッチを攻撃する度に懐で何かを割る理由が説明付かないものね」
ルフィーナの言葉にシオンはうっと返答に窮した。スキル発動のために行っていた木札を割る行為がバレていた以上、用意していた言い訳は予め潰されてしまったのだ。
「返答に窮したわね。私を信用出来ないというのなら無理にとは言わないわ」
ルフィーナの言葉にシオンは考える。ルフィーナの言葉はシオンへの譲歩に他ならない。自らは本当の情報を伝えているにも関わらずこの配慮にシオンは伝えるべきだという気持ちが大きくなっていく。
(ルフィーナの事だけ聞いて自分は話さないというのは公平じゃないよな……)
シオンはそう考える。シオンは基本的に相互主義者であり、恩には恩を仇には仇で返すというのが信条なのだ。虐待を行う両親に対して暴力で応酬したのはシオンの信条からすれば当然の事なのだ。
「ルフィーナ……俺の祝福を話す前に頼みがある」
「何?」
「俺と組んでくれ」
「へ?」
「俺は仲間にしか祝福の事を教えるつもりはない」
「良いわよ」
シオンの要請にルフィーナはあっさりと了承する。あまりにもあっさりと了承したためにシオンは一瞬返答に詰まった。
「何驚いてるのよ。元々、シオンと組みたいと思っていたから声かけたのよ。願ったり叶ったりだわ」
ルフィーナの言葉にシオンは笑うと口を開いた。
「そうか。これからよろしくな」
「うん♪」
シオンとルフィーナはどちらから共無く手を握った。そしてそのままシオンが話を続ける。
「ルフィーナ、俺の祝福は【偽造者】だ」
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