ルフィーナ⑨
ゴブリンと灰猟犬を危なげなく倒したシオンとルフィーナはアンデッド討伐に向けて移動をしていた。
リブト大森林地帯には瘴気が溜まるポイントがいくつも存在し、そこに溜まった瘴気によってアンデッドが発生するのだ。
発生したアンデッドは種族に関わりなく襲いかかりその命を奪う。ある意味アンデッドとは生者すべてに対しての敵対する忌むべき存在と言えるだろう。
そのように自然発生的に発生したアンデッドに対して人為的に発生したアンデッドも存在していた。
そのようにアンデッドを使役する者達のことを「死霊術師」などと称したりする。死霊術師は真っ当な職業として認められているが、やはりアンデッドを使役するということで忌避されることも多い職業である。
また、死霊術師の中にも良からぬことを考えてアンデッドを使役する者もおりそれが忌避感を強めているという現実があるのだ。
シオンとルフィーナは注意深く周囲に注意を払いながら進んでいく。
「ねぇシオン気付いてる?」
「ああ、随分と瘴気が濃いな」
「うん、ちょっと自然にこうなるなんてありえないわよね?」
ルフィーナの言葉にシオンは厳しい表情とともにうなづいた。ルフィーナの言う通り二人が進んでいる間に周囲の瘴気が突然濃くなったのだ。
「大物が出そうだな。ルフィーナ、これほどの瘴気の強まるアンデッドなんだから油断するなよ。ひょっとしたらリッチクラスが出てくるかもしれないからな」
リッチという単語を聞いたルフィーナの顔に緊張の表情が浮かんだ。リッチは高位の魔術師がアンデッド化した者であるというのは常識であり死の支配者とも呼ばれているほどの強力なアンデッドだ。
(まぁ倒せん相手じゃないけど油断して良いことなど何一つないからな)
シオンはかつて偶発的に出会ったリッチと戦闘になり勝利を収めている。しかし、リッチは意識のある者が普通のために個性というものが存在するのだ。
そのために、シオンが斃したリッチと次に出会うリッチは同じということはありえないのだ。
「ねぇ、リッチのようなアンデッドに出会ったらどうするの?」
「そうだな。まずは選択に迫られるな」
「選択?」
「ああ、戦うか、逃げるかだ」
シオンの言葉にルフィーナは考え込む。
「でも逃げるといっても相手はリッチよ。逃げ切れるかしら」
「その辺の事も考慮に入れて選択するのさ。逃げた時に後ろから魔術を放たれればただ殺されるだけだからな」
「確かにそうね」
シオンの言葉にルフィーナは納得の表情を浮かべつつ返答する。
「ルフィーナの気殺がものすごく有効だと思うな」
「え?」
「考えてもみろよ。おまえの気殺は目の前にいるのに存在感がなくなるほどのものだ。一度、敵の視界から外れて仕舞えばもう一度見つけるのは至難のわざさ」
「そうかそうすれば」
「ああ、ルフィーナは逃げ切れるというわけさ」
シオンの言葉にルフィーナは不満気な表情を浮かべた。
「どうした?」
「私はシオンを置いて逃げるようなことはしないわよ」
「は?」
ルフィーナの言葉にシオンが呆気にとられた声を出した。
シオンはリッチを斃した経験があるために逃走を選択するつもりはほとんどないと考えていたのだ。しかしルフィーナはシオンがリッチを斃せる事を知らないために自分の身を犠牲にしてルフィーナを逃すつもりであると誤解したのだ。
「私は仲間を置いて逃げるなんてそんなみっともないことはしないわ!!」
「え〜と、ルフィーナ?」
「冗談じゃないわ!! 私は何が何でもシオンを犠牲になんかしないんだからね!!」
ルフィーナはだんだんと興奮してきたようで声がどんどん大きくなっていった。
「リッチごとき出てきたところでけちょんけちょんにしてやるわ!!」
「あのな、ルフィーナ誤解があるようだからいっておくけど、俺はリッチと戦闘経験があるぞ」
「え?」
「リッチと戦闘経験があってから生き残ってるということは別に自分の身を犠牲にするつもりはないと言えるだろう?」
「あ、そうかもしれないわね」
シオンの言葉にルフィーナは少しばかり冷静さを取り戻したようである。
「だろ?リッチは確かに強力なアンデッドと言えるだろうけどべっつに勝てない相手じゃない」
「その手段がシオンにはあるというわけね」
「そういうことだ。それを今から証明してやろうか?」
「え?」
シオンの言葉にルフィーナが訝しがった。シオンはそれには答えずルフィーナの後ろに視線を送りながら言い放った。
「というわけだ。相手してやるから出てこい!!」
シオンの言葉を受けてぐにゃりと空間が歪んだと思ったらそこから黒いローブを纏った一体のリッチが現れた。




