ルフィーナ⑦
宿屋から出る際に謎のイベントがあったが何とかシオンたちはリブト大森林地帯に向けて出発していた。
シオンは「探知」のスキルをすでに発動している。ルフィーナにバレないように木札を折っているのはシオンにとって基本であった。
リブト大森林地帯に入ってからシオンは「獣寄せ」の木札をポケットの中でボキリと折って発動させる。
そこからシオンとルフィーナはリブト大森林地帯に入っていく。シオンはチラリとルフィーナを見るとルフィーナは注意深く周囲の気配を探っている。
(油断しないというのは高ポイントだな)
ルフィーナの態度にシオンは感心する。新人は何が恐ろしくて何が危険かの知識が圧倒的に不足している。恐ろしい事が分からない事ほど恐ろしい事は無い。それ故に知識のない者は警戒しないのだ。
ところがルフィーナは注意深く周辺を探っている。これは単に知識があるというだけでなく経験により周辺への警戒を怠る事の危険性を認識しているという事だろう。
(いたな……)
シオンは心の中で探知に引っかかった気配を察知する。数は五体で距離は約三百メートルほど先だ。
(警戒をほとんどしていないな。ゴブリンかそれとも経験の少ない冒険者か?)
シオンは判断を保留しながら気配を察知した方向にさりげなく進路をとる。油断すると自分がどの方向に進んでいるかわからなくなるがその辺りシオンは周囲の木に傷をつけて目印としている。
「シオン……誰か来るわ」
ルフィーナが小さくシオンに告げる。シオンが気配を察知して一分ほど経ってからの事である。距離として百五十メートル程だ。
「分かるのか?」
「うん、数は五体……身長は全員が一六〇㎝台、槍を持っているのは一体、棍棒を持っているのは一体、あとの三体は弓を持っているわ。体格からしてゴブリンの可能性が最も高いわね」
「距離は?」
「大体一五〇メートルといったところね」
ルフィーナの言葉にシオンは小さく頷く。
(この距離でルフィーナは体格、持っている武器までわかるのか……)
シオンはルフィーナの言葉を真剣にとらえる。ルフィーナが察知した気配は数といい距離と言いシオンが察知したものと同じなのは間違いない。
しかし、ルフィーナはシオンよりもより正確に相手の詳細を察知したのだ。
「ルフィーナ、相手はどうやらこちらに向かってきてるみたいだ。ここで迎え撃とう」
「わかったわ」
「茂みに隠れてゴブリン達の不意をつく」
「え?」
シオンの言葉にルフィーナは意外そうな反応を示した。
「どうした?」
「え、だってゴブリン五体よ。それなのに不意をつくの?」
「当たり前だろ。闘技場で試合やってんじゃないからな」
「そういうものなの?」
「もちろんだ“いざ尋常に勝負”なんて俺にとっては阿呆の戯言だよ」
シオンの言葉にルフィーナは微笑むと嬉しそうに頷いた。
(なんでルフィーナはこんなに嬉しそうなんだ?)
シオンはルフィーナの態度に内心首を傾げる。納得して頷くというのもわかる。正々堂々としないことへの忌避感を示すものもわかる。だが嬉しそうな反応をルフィーナが示した事に対してやはり疑問が生じてしまう。
ルフィーナの反応は自分の居場所を見つけた者の反応である事をシオンは察した。それはかつての自分が【偽造者】の祝福を使って冒険者として初めて仕事を成し遂げた時の感情に似ているような気がしたのだ。
「シオン、私には「気殺」のスキルがあると言ったのを覚えている?」
「ああ」
「私のスキルを使えば奇襲はやりたい放題よ」
ルフィーナはそう言うと突然ルフィーナの気配が消えた。もちろん目の前にルフィーナの姿は見えるが突然おぼろげになったのだ。
「へ?」
シオンはルフィーナの気配が消えた事に対してさすがに驚きを隠せなかった。目にルフィーナの姿は見えているというのに本当に目の前に存在しているかどうかがわからないレベルで気配が察知出来ないのだ。
「これが……「気殺」か」
「うん。あ……【隠密】の祝福によってもたらされた力よ」
「すごいな」
「えへへ」
シオンの心から感心したような反応にルフィーナは少しばかり照れたような反応を示した。
「ルフィーナ、それじゃあ弓を持つゴブリンを優先的に始末してくれ。槍と棍棒の方は俺が始末する」
「わかったわ」
「だが、この配分に拘らないでくれ。あくまでルフィーナの命が大事だからな。それにゴブリンだけで今回の仕事は終わりじゃないからな」
「うん」
シオンの言葉にルフィーナはしっかりと頷いた。シオンの言わんとする事を理解してくれたようであった。
「じゃあルフィーナやるぞ」
「うん」
シオンとルフィーナはそれぞれ武器を構えるとゴブリンに奇襲をかけるために茂みの中に隠れた。
二人が茂みの中に隠れてゴブリン達を待っているとしばらくして足音が聞こえ始めた。
(来たな……)
シオンは懐に忍ばせていた「剣技向上」の木札を出来るだけ音を立てずに折る。同時に「魔獣寄せ」のスキルは解除している。シオンは三つ同時に偽造したスキルを使用する事が出来るが余力を持たせて二つしか使用しない。不意を衝かれた際の備えであるのだが、それがシオンにとって切り札的存在になっているため、戦闘に置いてパニックになった事はないのだ。
ゴブリン達は二人に気付く事なく通り過ぎる。そして二人を通り過ぎた瞬間にルフィーナが飛びだした。
ルフィーナは双剣を抜き放ち弓を持つゴブリンを襲う。ルフィーナは一切音を発すること無くゴブリンの延髄を斬り裂いた。斬り裂かれた延髄から血が舞い、被害者のゴブリンはそのまま崩れ落ちた。
ゴブリンが地面に触れる前にルフィーナはさらに双剣を振るい、ゴブリンの首筋を斬り裂いた。
ルフィーナはそのまま最後の弓を持つゴブリンの背後に回り込むと延髄を刺し貫く。瞬く間にルフィーナはゴブリン三体を斬って捨てたのだ。ここでようやく槍と棍棒のゴブリンが異変に気づいた。仲間の三体が地面に倒れ込んだ事に理解が追いついていないようで狼狽しているのは明らかだ。
(いける!!)
ルフィーナは混乱するゴブリンではまともな対処をする事が出来ないと判断すると自分でもう一体のゴブリンを片付ける事にしたのだ。二体ではなく一体としたのは視界の端にシオンが飛びだしてくるのが見えたからである。
ルフィーナが目をつけたのは棍棒を持つゴブリンである。ルフィーナが槍を持つゴブリンを狙わなかったのは、シオンの方が槍を持つ方に近かったためにそちらを狙うと判断したからだ。
ルフィーナは左剣でゴブリンの棍棒を持つ腕を斬り飛ばすとそのまま右剣でゴブリンの首を斬り裂いた。鮮血が舞った先にはすでにルフィーナはいない。ルフィーナが振り返った時にシオンの足元に最後のゴブリンが斬り伏せられているのが見えた。
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