ルフィーナ⑥
中々話が進まない……
翌朝、シオンとルフィーナは目覚めると大きく伸びをした。この数日二人は野宿であり久しぶりにベッドでゆっくりと睡眠を取ることが出来たのだ。その嬉しさは喩えようも無いほどであった。
「おはよう」
「おう」
シオンもルフィーナも疲れがすっかりとれたような清々しい挨拶を交わした。
「夕べはびっくりしたわよ。いきなり“お前が好みだ”とか言ってくるんだもん」
ルフィーナの声にはからかいの要素が多分に含まれている。
「いや、言ってねえだろ!! 記憶を捏造するな!!」
ルフィーナのからかいにシオンは鋭くツッコミを入れる。シオンからのツッコミを受けてルフィーナは楽しそうに笑った。
「まったく」
「あはは、ゴメンね♪」
シオンの憮然とした表情を見てルフィーナは笑いながら謝罪するがどことなく嬉しそうなルフィーナの様子にシオンも毒気を抜かれてしまいつい笑顔になってしまう。
(ルフィーナって良い子だよな)
シオンはルフィーナの好感度が自分の中でどんどん上がって言っているのを感じた。ルフィーナの容姿は確かに優れているとは言えない。だが、それ以上にルフィーナの人柄はシオンが好意を持つのに十分な根拠となっていたのである。
それが恋愛感情なのか、友人としてなのかはわからないが少なくともシオンはルフィーナとチームを組んでも良いと思うほどにはルフィーナに対して好意を持ってるのだった。
「さ、冗談はこれぐらいにして今日は頑張るわ。シオンも色々と教えてね♪」
ルフィーナはベッドから出て立ち上がった。ルフィーナの体は出るとこが出て引っ込むべき所は引っ込むという魅惑の曲線を持ったスタイルである。普段はローブに隠されていたさすがに就寝中にはローブを脱いでいたのでそのスタイルにシオンは見とれてしまったのだ。
「ああ、わかった。とりあえず朝メシ食ったら仕事に出かけよう。場合によっては今夜もまた野宿になるかも知れないからちゃんと食っておこうぜ」
「う~名残惜しいけど仕方ないわね」
シオンの言葉にルフィーナはチラリとベッドに視線を向けた。シオンが野宿と言った事でベッドで寝られる幸せがお預けになった事を察してため息をついた。
「まぁ冒険者だからな。そのうち余裕が出来ればテントを買ったり出来るようになるから少しはマシになるさ」
「そこまでの道のりは遠いわね」
「ああ、だけどそこに辿り着いたら幸せを実感できるだろうさ」
「そうね!! がんばりましょう!!」
「ああ!!」
シオンとルフィーナはそう言って笑い合った。
(ん? ルフィーナのこの表現からすればこれからもチームとして頑張ろうという風にも聞こえるな)
シオンはルフィーナの言葉からそう判断する。ルフィーナがそのように思っている事に対してはシオンは不快ではなくむしろ嬉しいというのが正直な感想である。だが、自分の祝福の事があるために慎重にならざるを得ないのだ。
(あ、つい心の声が出ちゃった。これからシオンが私とチームを組んでくれるなんてあり得ないのに)
ルフィーナは勢い任せにシオンに告げた言葉はシオンとチームを組みたいという本心の表れであったのだが自分の本当の祝福を知ってからも受け入れてくれるわけがないと思っているのである。
微妙な空気が二人の間に流れるが二人とも心の中で頭を振ってどちらからともなく口を開いた。
「朝メシ食べに行こうぜ!!」
「朝食食べに行きましょう!!」
ほぼ同時に言った言葉に二人とも笑うと2人は身支度をして一階の食堂に出かけていった。
* * *
朝食を食べた2人は早速リブト大森林地帯に向かう事にする。今日は文明の匂いのしない森林地帯に向かう事はやや2人の心を重くするが仕事なので仕方が無い。
「すみませんチェックアウトします」
シオンが女将に声をかけると女将はニンマリと笑ってシオンとルフィーナの二人に視線を移して言う。
「昨夜はお楽しみでしたね♪」
女将はそういってウインクをする。それを見てシオンははぁとため息をついた。シオンの反応に女将は唇を尖らせる。女将は二十代後半の妙齢の右目に泣きぼくろのある美人なのだがその仕草は子供っぽさが表れていた。
「ちょっとお客さん、そんな残念そうな顔をしないでよ。ちょっとしたユーモアじゃないの」
「ユーモアと言うには毒気が強すぎますよ。ルフィーナとはそんなんじゃないですよ」
「あら~私は久しぶりにベッドで寝られてベッドの感触を楽しんだでしょという意味だったのにどうしてその子が出てくるのかしら~」
女将のからかいの言葉にシオンは拳を握りしめる。それを見て女将はキシシという表現の笑いを浮かべた。
「このババァ……」
シオンの言葉を聞いた瞬間に女将の体から凄まじい威圧感が放たれた。
(やべ、逆鱗に触れた)
女将から放たれる威圧感にシオンは自らの失敗を悟った。そこにルフィーナがすかさずフォローを入れた。
「もう、シオン!! 女将さんのような美人に照れ隠しだからってそんな事言っちゃダメじゃない!!」
ルフィーナのフォローに女将から放たれる威圧感が一気に下がる。おそらくルフィーナの“美人”というフレーズに機嫌がV字回復したのだろう。シオンもその隙を見逃すことなく女将に謝罪する。
「すみません。どう考えても女将さんのような年齢の方に言うべき言葉ではありませんでした」
シオンが素直に謝った事で女将から放たれる威圧感はすっかり霧散してしまった。
「あら、私ったらつい昔のクセで……ゴメンナサイネ?」
女将の言葉にシオンもルフィーナもゴクリと喉をならした。顔もにこやかだし放たれる雰囲気も穏やかなものになってはいるが女将の目には“年齢のこというんじゃねーぞ”という光がシオンは察した。
「いえいえ!! こちらこそ済みません!!」
シオンは頭を下げて宿屋を出て行こう扉に向かった。続いてルフィーナが出ようとした所で女将がルフィーナの腕を掴んで耳元で何やら囁いている。ルフィーナは女将の言葉に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「お姉さん、仕事が終わったらまた来ますね♪」
「うん、待ってるわよ♪」
ルフィーナと女将はにこやかに挨拶を交わすのをシオンは背後に聞きながら扉を開ける。
(ルフィーナは何を言われたのかな?)
シオンとすればルフィーナが女将に何を言われたかが気になったが何となく深入りを避けた方が良いと思うのであった。
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