4話 速井サクラ
コ、コメディ…??
コメディ?コメディ?
コメディどころか会話すらほぼないんですけどね^^;
あけおめです!!2019年も楽しく生きましゃ〜!
4話
それでも、ぼくは話すことに決めた。
高3の時、ぼくが見殺しにした少女――速井はやいサクラについて。
ぼくと速井は幼稚園から高校までずっと同じとこに通っていた。
そこまで仲が良かったわけではないので、幼馴染とまでは言えないかもしれないが、お互い腐れ縁程度に感じていただろう。
そんな彼女について特筆すべきことは、全国トップレベルの短距離ランナーだったことだろう。
全校集会ではほぼ毎回、何らかの大会で表彰を受けていた。
「まぁた、サクラのせいで全校集会長引いちゃったよお」
彼女の友達が言葉は皮肉だが、友達が表彰されるのを、やはり嬉しそうに言うのも毎回恒例だった。
きっと、誰もが彼女のことを特別な人間だと思っていた。
才能に愛された、走るために生まれてきた人間なのだと。
そう思っていないのは学校の中でも、きっと二人だけだったろう。
ぼくと、速井本人だ。
ぼくたち二人だけは正しく理解している。
ーー速井サクラに才能はまるで無い
そもそも、速井は小学校の頃、クラスで一二を争う鈍足だったのだから。
運動会でそんな速井の走りに呆れた彼女の母が、半ば無理やり学校の陸上部に入部させた。
入部してから、彼女はどんどん足が速くーーは、ならなかった。
少なくとも暫くの間は、やはりクラスで一二を争う鈍足のままだった。
少し成果が見えだしたのは入部して一年経った頃だろうか?
あまりに最長がゆっくりだったために大して記憶にないのだ。
しかし、記憶していることもある。
彼女の練習量だ。
朝、日直などで早くに学校に行く日にはいつも、すでに速井がグランドを走っていたし、母の買い物の付き添いで学校のそばを通るときも、日が落ちるまで練習していた。
恐らく、誰よりも早く来て、誰よりも遅くまで練習していた。
亀の歩みのようにゆっくりとだが、誰よりも練習した彼女は着実に早くなったいた。
小6の時には、男子も含め学校の誰も彼女にかけっこで勝てる人間はいなかった。
その頃から、少しずつ全校集会でも表彰されるようになっていた。
きっと、地区大会などでいい成績を残せるほどに、彼女の走りは上達していた。
毎日走ることだけ考えて生活すれば、誰だって速くなる。
誰よりも練習すれば、それだけ上達する可能性が広がる。
当たり前のこと。
でもその当たり前のことは、彼女以外誰も真似出来ない。
誰よりも練習する。
それを当たり前にやってしまう彼女は、当たり前に上達し、当たり前に誰よりも速くなり、当たり前に結果を残す。
ーー才能があるから
ーー自分たちとは違う人間だから
高校のクラスメイトはそう言うが、ぼくからしたらそんな事は口が裂けても言えない。
速井サクラの努力に、才能が入り込む余地なんて1ミリとしてなかったのだから。
才能があろうがなかろうが、圧倒的な練習量を前にしたらそれは等しく同じことなのだから。
その努力の一片を知ってるぼくは、決して『才能』なんて言葉で彼女を表せない。
高校1年だったかの時、地域新聞で速井のインタビューが小さく載っていたことがあった。
『自分は才能がないので、周りの人が自分と同じ練習をしたら絶対負けちゃうんですよ。だから誰にも真似出来ないくらい練習してます』
その記事を偶然見たぼくは、きっと速井の頭の中では鈍足な女の子のままなんだろうなと思った。
そんな彼女は、自分が大会で結果を残しているからと言って、他人を見下したりはしなかった。
むしろ、努力だけで成長した彼女は、誰よりも他人の可能性を信じ、他人に対してどこまでも親切だった。
スポーツ優秀。
品行方正。
彼女を短く、かつ的確に表現しようとするならそんな言葉が似合う。
そんな彼女の未来はきっと明るいものだろう。
高3の試合が終わることには、沢山の大学の推薦状から、自分が行きたい大学を選び、将来は実業団に入るかどこか有名なところでコーチでもするのだろう。
まるで丁寧に舗装された道のように、陰り一つない明るい未来予想を誰もが信じて疑わなかった。
それはぼくも、そして恐らく彼女自身も。
しかし、そんな眩しい未来は少しの陰りで脆く崩れ去った。
高3の夏、インターハイを目前に、彼女は怪我をしてしまった。
左膝の前十字靭帯断裂。
完治して元のように走れるようになるには半年は掛かるらしい。
インターハイの結果を見て推薦状を出すつもりだった大学関係者の多くは、最後の年に結果を残せず、尚且つ入学しても元のように走れる保証のない彼女を、大学に受け入れることができなかった。
中には中堅層の大学が、これまでの結果を元に推薦状を出したらしいが、トップレベルで文字通り走ってきた彼女にしては満足できる進学先ではなかった。
だが、速井にとって一番大きな問題は進学ではなかった。
ーー走れない
これまで圧倒的な練習量で自信を保ってきた彼女にとって、それは死活問題だった。
ただでさえ才能がない自分が練習できなければ、もう誰にも勝てなくなってしまう。
きっとそう感じてしまうだろう。
誰よりも練習してきた彼女の自信はまるでダイヤモンドの様に硬く、美しかったが、硬すぎる故に脆かった。
速井サクラは日に日に壊れていった。
口数は減り、頬も痩けているようだ。
かつては彼女の周りは輝いて見えたのに、その時はやたらと暗く見えた。
「うっさいっ! 話しかけないで!」
見るたびに不健康そうになる彼女に、友達が気を使って声を掛けた時に、速井はーー誰よりも優しかったはずの彼女はそう切り捨てた。
それ以来、周りのものは速井から距離を置くようにした。
腫れ物に扱うかのように。
時期も秋の終わり頃になると、そんな生活が当たり前になっていった。
そんな時に、何故かぼくは速井と二人きりになる機会があった。
何かの係でだったか、本当にただの偶然だったか、今となっては思い出せないが、その時話した言葉は、決して忘れることができない。
「……速井さ、最近ちょっと態度悪いよ? 確かにお前の気持ちもわかるけどさ……」
二人きりになってから暫く続いた沈黙に耐えられずに、ぼくはそう言った。
今考えると他に言いようがあっただろうにと思う。
他人の気持ちなんて、理解しようとすることは出来ても、決して理解はできないのに。
その時のぼくはそんな簡単なこともわかっていなかった。
「…………っ」
目を向けると、速井は唇を噛み締め、堪えるように泣いていた。
「は、速井!?」
「わかるってなによ!」
声を荒げて速井は僕に詰め寄った。
耐えられなくなって、その目からは大粒の涙が溢れていた。
「……カガリは、カガリだけは……絶対に私の味方だと思ってたのに」
消え入るように言ったはずのその言葉は、ぼくの頭に何度も木霊し痛いほどに響いた。
速井は踵を返して、その場を去ろうとした。
まるで逃げるように。
「ちょ、速井ーー」
「ーー私にはもう、何もないの! もう……関わらないで!」
ぼくの静止の声を言い終わる前に彼女はそう言った。
ぼくは何も言葉にできず、左脚を少し引きずりながらその場から離れていく彼女の背中をずっと見ていた。
全盛期を知っている人から見ると、涙が出そうになるほど見ていてつらい。
今の彼女なら、例え走って逃げても、簡単に追いつくことができる。
きっと、無理矢理でも捕まえて話をすべきだった。
次の日、速井サクラは自殺した。
次くらいで転生できるといいなぁって思ってます




