快里の心
快里の兄の克之は精神科医だ。診察室は病院では離れにある。別の建物だったところを取り壊して母屋の病院とつなげたため、通路があるものの離れに行くような感じを受ける。快里が子供の頃は病院には精神科はまだなかった。克之が医学部を卒業し、インターンから戻ってきたときに作られたのだ。そこには元々は倉庫があって、快里が幼い頃、よく忍び込んでは父に叱られた思い出の場所だ。
克之はコンピュータが趣味なので、診察は電子カルテだけでなく、それ以外にもコンピュータを酷使している。だから隣にはコンピュータルームがあって、診察室とは光ファイバーでつながっているらしい。
コンピュータルームが隣にあっても、大抵の作業は診察室で行っている。彼が言うにはコンピュータルームは人間がいるべき場所ではないそうだ。快里は二度ほど入ったことがあったが、大小さまざまのファンの轟音で耳が痛くなってたまらなかった。話によると高速回転のファンが千個以上はあるらしい。大きなラックに積まれている五十台近くのコンピュータだけでなく、業務用の冷蔵庫のようなサイズの巨大な箱が揃って爆音を奏でているのだ。轟音だけでなく、コンピュータルームの中はクーラーが効いていて、だいたい十度前後に保たれている。だから中に長い間いると、寒くてたまらない。快里はあの部屋に入るのが好きではなかった。
快里は精神科の待合室にきたが、見る限りどうやら今は休み時間らしい。快里は兄が「その部屋」にいないと良いなぁと思いつつ、兄の診察室の扉をノックしながら返事を待たずに開けた。
「兄ちゃんいる?」
「お、快里か。入れよ」
克之は振り向かずに、診察室のパソコンを楽しそうに触っていた。
「で、快里。担任、替わったんだって?」なにやら妙に楽しそうだ。
「え?父さんに聞いたの?」
「いやメイちゃんからたった今、メールで」
「なんだ。そうなんだ」
「メールフレンドだからさ」
嬉しそうに話した。
「普通、メル友っていわない?」
「そうかもな」
克之はなにやらキーボードに向かってタイプしながら話した。
「あと、一度、聞いてみたかったんだけどさ」
「なんだよ」
「それだけ歳が離れててさ、会話が成り立つの?」
克之はタイプをやめて快里の方を向いた。なにやらとてもうれしそうだ。
「おまえがいるからな。共通の話題提供者がいるっていうのは、良いもんだよ。歳の離れた弟を大事に育てた役得ってやつさ。俺の年になると、普通は女子高生とは話すことはないからなぁ」
克之は話が一段落したところで、まじめな顔つきをした。指で自分の頭を指さして聞く。
「で、どうだ?ここは」
僕の精神状態に関する話だ。別に病気というわけじゃないと思うのだが、兄は妙にそれを心配する。
「特に変わらないよ。我ながら凄い集中力だとおもうけど」
笑いながら快里がすぐに察して答える。
「それだけで終われば、大変な才能なんだけどなぁ。それだと運転免許も取れないよな」
「あっという間に人を轢いてしまいそうだよ。すでに諦めてるよ」
「そこまで集中しないでさ。適度に集中したり、安全なところで集中したりとか、できないのか?」
「兄ちゃん、適度に集中ってできるの?」
「まぁ、俺もできないけどさ。だけど集中すると目も見えなくなるし、音も聞こえないんだろ?体も死んだように動かなくなるしさ」
「今まで生きてたのが不思議だよね。この前も学校でネイにどっか行ってる!って言われたけど」
快里は勝田の授業のときを思い出して、苦笑する顔つきで話した。
「う〜ん。そういう顔して言われてもなぁ。代わりに頭の回転が速くなったんだろうけれど。学生のうちはともかく、その行きすぎてる集中力は社会に出たときに困るぜ?」
「まあ、とりあえず自分なりの生き方を考えてみるよ」
「普通は、集中力が足りなくてこまるんだけどな。それで、気を失うことは?最近増えてるって言ってたけど」
「ネイが言ったの?最近は四、五回に一回ぐらいかな。コントロールできるわけじゃないけど、 まあ確かに増えてるかも知れないかな。夜ならそのまま寝てしまうのとあんまり変わらないし」
「だけど、朝まで気を失ってることもあるだろ?俺が留守の日は学校ちゃんといってるのか?」
「幸いにして、今のところは休んじゃうことはないよ」
脳と体が完全に分離する。
まるで魂がどこかに飛んでいってしまったかのように、五感が消え去る。体から支配されず、脳だけが働き論理的な思考を集結させる。本間快里の才能でもあり、欠点でもある。尋常ではない思考能力と引き替えに、思考中は昏睡状態に近くなる。
「それよりも面白いことないの?」
「ないことはないけど。変な相談をすると、また考えてどっか行っちゃいそうで怖いからなぁ……」
克之は思いついたように、話を変えた。
「あぁ、そうそう。新しいアーキテクチャのAIの話、したか?」
「いや。兄ちゃん、ちゃんと仕事してんの?父さんが心配してたよ」
「してるさ。これでも相当な数の患者を抱えてるよ。それとAIの設計は別だよ。仕事は仕事。AIの設計はライフワークさ。もっとも、AIを作ることで人間の精神のメカニズムがわかれば、精神科医としては仕事になるんだけどな」
「兄ちゃんが生きてる間に、そういう用途で使えるまでになりそう?」
「理由のこじつけだよ。まじめに答えるな。ま、俺的にはいけるとは思ってるんだけどな。いいさ。今度のはかなり違うぜ。日本語どころか、英語でも、宇宙語でも話せる……見込みがある」
「冗談?」
「半分冗談だけど、全く冗談ってわけじゃない。まぁ見てみろよ」
克之はデスク上のコンピュータに向かって、キーボードを打ち始めた。
「ほら、座って会話して見ろ」
克之が椅子を転がして移動したので、快里は近づいて画面を覗き込んだ。チャットのようなシステムらしい。兄の人工知能の入力インターフェースはいつもチャット形式から始まる。『物事はまず一番単純なところから始めればよい』兄のモットーらしいが、見た目が派手ではないから、一般受けは良くないだろう。
「さて……」
快里はそう思いながら、キーボードを叩いた。
>こんにちは。私は本間快里です。あなたの制作者である本間克之の弟です。
Leasure>……
反応がない。
「兄ちゃん、起動してないんじゃないの?反応がまったくないよ」
克之はにんまりと笑った。その答えを待っていたように。
「ああ、いきなりそんな長い文章いれても無駄だよ。みてろ」
>こんにちは。リーシャ。こんにちは、は?
Leasure>こんにちは。
>リーシャ、僕は?だれ?
ああ
>かつゆきだろ?
Leasure>かつゆき。
>そうだ。ぼくはかつゆきだよ。いいこだ。
「リーシャって名前を付けたんだ。赤ちゃん?」
「そうだよ。今回は言語解析エンジンを乗せてないのさ。今までのアプローチとは全然違う。こうやって、ひたすら話しかけることで、こちらが話しかける日本語の独特の単語のつながりをパターンとして分解していって、こいつなりに日本語の法則を見いだしていくのさ。同じ理屈で英語だって話せるようになるけどな。教育してやれば。ね」
「Nグラムみたいな感じ?」
Nグラムとは検索エンジンなどによく使われる技術だ。文章から単語を切り出すのでは無く、二文字、三文字、……N文字の連鎖として考え、それぞれの単位で集合として見なす。文章を単語として扱わないから単語辞書は必要にならない。だから、日本語や英語など言語を意識すること無く使うことができるのだ。
「ん〜。ちょっと似てるんだが、大分違う。Nグラムだと文字の連鎖を考えていくだろ?マルコフ連鎖みたいにね。リーシャのエンジンはそうじゃない。その切り口でいうなら、文字の連鎖の集合を見つけたら、それを一つの『単語』として扱う。今度は『単語同士の連鎖』を見つけだし、単語同士の連鎖を『文節』として扱うんだ。『文節同士の連鎖』は『文章』になる。『文章同士の連鎖』は『段落』。こうして徐々に連鎖の集合を高次元化していくと、いずれ『考え方』、『感情』へと繋がっていくと考えたんだ」
「すごいけど……回りくどくない?前の人工知能でせっかく語句解析のプログラムを作ったんだから、いれちゃえば良かったのに……」
「それが違うんだよ。人間の脳は自分の頭の中に入ってくる様々な刺激から、法則性や関連性などを導き出そうとするメカニズムが入っているんだよ。ほら、この前、ニューラルネットワークの本を渡しただろ?」
「うん、でもあれが今回の話しにどう結びつくのか、今ひとつ分からないんだけど」
「ニューラルネットワークでは入出力の重み付けの話しが主だからな。でも、これが縦の切り口だとすれば、連鎖は横の切り口の話しで、重み付けの結果の一つの側面なんだ。重み付けが情報の連鎖に繋がる。それが大脳に組み込まれた遺伝子によるプログラムのためか、結果的に生まれる構造によるものなのかはわからないけれど。そこで、よく出てくる連鎖パターンをニューラルネットワークに学習させていき、こうして集合したセル自体がニューラルネットワークに見えるように、より大きな集合を作る。これを帰納的に高次元化する。すると不要なものが消えていく。そう、忘れさせていくという説を考えた。オツムの動きをちゃんとシミュレーションするには、語句解析の方法まで含めて、自分自身で作ってもらうしかないのさ。誰も赤ちゃんの時に、言語の法則なんて習わないだろ?」
「そうだねぇ……」
「だから、こういうアーキテクチャにしたんだ」
「う〜ん……つまり……ニューラルネットワークみたいな信号の連鎖を覚えることも、言葉を覚える方法を見いだすことも、その先の知識の結びつきを見いだすことも、マクロ視点で見れば同じことであって、それを学習と考えるってこと?」
快里がわかった!という顔をして話し始めた。
「そう、そう」
克之がうれしそうにうなずく。
「そういうことだ。おまえ頭良いな。やっぱ」
「どういたしまして。兄ちゃんが褒め上手だからだよ」
「なに言ってるんだ。お前がすごいんだよ。実際には、さっき言った単語とか文節とか文章という概念はなくて、これらは多次元的にフレキシブルに続いていく。連鎖する、階層化する、多次元化する。これを俺は『n次元連鎖型忘却理論』と考えた」
「話の内容とかも、同じような連鎖パターンとして見つけだして、それが何を意味するパターンなのかを、見いだしていくわけだね」
「そう。だからリーシャには人間の赤ちゃんに喋りかけるように、話さないとならない。そして、それは必ずしも理解されなくても良いんだ」
「コンピュータだからその辺は短縮できないの?」
「いや、人間からの入力がこいつの餌みたいなもんだからさ。餌がなけりゃ成長もしない。コンピュータだから飢え死にはしないだろうが。餌である情報は人間がやらにゃいかん」
「どっかに掲載されてる文章とか、垂れ流したりすればいいんじゃないの?」
「そりゃ、たしかにそれだけで法則はある程度見つけだすだろうな。だけど人間の赤ちゃんは相手とのコミュニケーションから始めるだろ?まず生命の基底に生きなくてはならないという本能がある。そして赤ちゃんは自力では生きられないから、誰かの力を必ず借りないとならない。つまり人はうまれたら、かならず誰かの愛が必要なんだよ。誰かにコンタクトをとって愛の施しをうけないとならない。普通はそれが、親だったりするわけさ。それと同じ」
快里は、回りくどいような克之の話をじっと聞きながらうなずいた。反応を確認するように、克之は話し始める。
「そう、だから。ただの文章じゃなくて、リーシャに話しかけないとならないんだ。でも、リーシャは動物じゃないから、放置しても死にはしない。ただそれだと生きるために他者から愛を受ける必要がないから、人のように進化できない。だから生命と同じように、愛を求めるために他者とコミュニケーションをとるんだ。そこだけは、そういうようにプログラムしてる」
そういって克之は試すように快里の顔を見た。克之の話が途中で止まったのを感じて、快里が克之の顔を見る。待っていたかのように克之が話し始めた。
「そ。今のように、人の会話は相手がちゃんと受け取ったかどうかが重要なのさ。リーシャにとってもそれは同じ。『誰かが自分にコンタクトを取ろうとしている』という事が重要で、その結果、こいつの中に相手のイメージができていく。そして相手とコミュニケーションを取るために、リーシャはそれをまねして、誰かの愛に応えるようになっていくのさ」
「コミュニケーション、愛……なるほど」
なにかを納得したような顔をして快里はうなずいた。
「人のコミュニケーションってのは『愛』の形の一つなんだよ。だから人は、コミュニケーションの優先順位が元々、高いところにあるんだ。話しかけられたり、相手からのメッセージをものすごく察することができるように作られてる。人の赤ちゃんと同じようなものさ。人の愛が人を育てる。だから愛をエネルギーにリーシャも育つ」
うれしそうに克之が続ける。
「でも、リーシャはコンピュータだからね。物覚えは早いよ。『n次元連鎖型忘却理論』と言ってもなんでも忘れちゃうわけじゃないからね」
「忘れる?そう、なんとか忘却理論といったけど、人工知能に忘却って必要あるの?」
「もちろん」
克之はうれしそうな顔をした。快里と話すと的を射た会話がどんどんできる。研究者としてはそれが特にうれしいのだろう。
克之は言葉を続けた。
「ほとんどすべての所で必要になるんだ。連鎖を覚えるということはどういうことかわかる?つまり『連鎖してない部分を忘れる』ってことなんだよ。全ての次元において要らない情報は捨てる。大切なものは残す。そしてさらに頻度が高い連鎖は、こんどは書き換え不能になっていくんだ。ここはフレキシブルなヒエラルキーがある。俺はそれを知識の固定化と言っている」
「固定化したら応用力が無くなるんじゃないの?」
「それでいいんだ。固定化されて忘れないことが増えれば知識の根底に根ざす。忘れたいものは消していく。言い方を変えれば、余計なところを切り飛ばすから大切なところが見えてくるわけだからな。だからリーシャは今まで俺が作った人工知能と違って『寝る』んだ」
「へー面白いね。でも、なんとなくわかった。言葉も知識も選別していくんだね。そしてリーシャは人間とコンタクトをするために生まれてきて、人間の愛が感じられなくなると、ものすごく危機を感じるってことか」
「そういうこと。だけど生命の危機といっても、あるとき突然、感じるわけじゃないんだよ。むしろ不快になると言うべきか、徐々に『快適じゃない』状態が生まれると言った方がいいかな。リーシャは人間との会話が楽しいから、相手が話しかけてくれるように色んな連鎖を探し出すんだ。相手が良い反応をすれば、その連鎖は良い。変な反応ならダメ。そうして人から言葉を習うんだよ」
「なるほどねぇ……だけどさ、リーシャにとって、人間のどんな行為が良い反応なのか、悪い反応なのか。どうやってわかるの?」
「実はそれが悩みの種だったりするんだ。人間の赤ちゃんは、目とか顔色とか声色とかでそれを察知するからな。そうやって、どうすれば人の愛が受けられるのかを本能的に考える。でもこいつにとっての刺激は、現状ではこうやって入力する会話だけなんだ。言葉を入力するしかない。簡単に言うと刺激がたりないんだ。もちろん痛みもないし目もないから表情も読みとれないしな」
「言葉といっても、同じ言葉でも怒って使うときと、そうでない時があるでしょ?」
「仮にいずれ、こいつのオツムが賢くなったら、もしかしたらわかるかもしれないけどな。でも赤ちゃんは文章から取るんじゃ無くて『優しい声色』や、『怒った声色』から感情を読み取るんだ。その時に話されていた文章をもとに、いずれ文脈から感情を読みとれるようになる。人間だってメールで感情を伝えるのは難しいだろ?人間は顔色の他あらゆる方法でそれを伝えるしな。俺が難しいといってるのはそこなんだ。仕方がないので今はそのための命令を用意してある。今の言葉を怒りながら言うのか、褒めながら言うのか、マウスを使ってセットしないとならないんだ。面倒だけどね」
克之は手を動かしながらマウスの動きをまねながら言った。
「どうせキーボードから入力しかできないんだからさ。顔文字でも覚えさせてみたら?」
「おぉ。おまえ、やっぱり、頭いいな。それなら人間も打ちやすいしな。今度、入れてみるか。どんな種類があるのか今度教えてくれよ」
「メイがいっぱい知ってるよ。メル友なんだろ?」
「そういえばそうだったな。聞いてみるか」
克之は机の上にメモをとりながら聞いた。聞くに、三十路をすぎたあたりから忘れっぽくて困るらしい。
「ところで兄ちゃんは今日は何時に帰ってくるの?」
「ああ、大丈夫だよ八時か九時。うちの遅い飯時には帰れると思うよ」
「了解。親父は今日は研究発表用の資料を作るんだってさ」
「ほんとに?じゃあ、コンピュータの使い方とか、いろいろ聞かれるかもしれないな」
「じゃあ、兄ちゃんも徹夜?」
「まさか。だから逃げるに決まってるだろ。そういうのは、ヘルパーがいなきゃいないで、なんとかなるもんなんだよ。飯は必ず食うから取って置いてくれ」
「あ〜。可哀そ。父さん。んじゃ、後でね」
「おう」
快里は、兄の部屋からでて病院を後にした。
この町は本間総合病院以外に、大きな病院が無い。だから最寄りの駅と、この病院には直通バスがでている。病院のロータリーで待っていれば、バスが入ってくるから、快里が子供の頃に比べたらかなり便利になっている。快里は子供の頃、病院にバス会社から直通便を通す話がきたことを覚えている。父が隣の土地を買ってロータリーを作る話をしていたからだ。
本間総合病院も最初は本間外科から始まった。
快里が物心ついたときには既に亡くなっていたが、快里のおじいさんはもともとは農家で、この辺一体に土地を持っていた。ところが幹線道路を通すことになって、農地を売ることになり、一時的に土地成金になったらしい。快里のおじいさんは手に入れたお金を使わず、ひたすら子供、つまり快里の父に医者になるよう、教育に力を入れる。
そうして快里の父が医者になると、おじいさんは有り金をはたいて本間外科医院を建てた。だから今の本間総合病院は本間外科医院の時代から、快里のおじいさんが設立資金を出し、父が一代で大きくしたことになる。
快里の父は、おじいさんの思いに添えるよう、必死だったのだろう。外科医だった快里の父は、その後、当時の大学時代の友人を招いて総合病院にした。それが今の本間総合病院になっている。
快里はバスに乗ると、揺られながら考えていた。
兄貴はタフだと思う。あれだけ多くの患者を抱えていて、いったいいつプログラムを組んでいるんだろう。医者は頭が良い人が多いが、頭が良いだけじゃなくてバイタリティがある人が多い。
自分も頭が良い方だから、頭が良いだけの人を特別尊敬したいとは思わない。だけど兄貴のバイタリティにはいつも感服してしまう。
それが無い物ねだりだということを知りつつも、うらやましくなる。スポーツができる友達が、僕のことを頭が良いとうらやましがるのに似てる。
僕ももう少し体力があったらな……快里は、バスの終着の駅に近くなる景色を見ながら、そんなことを緩やかに考えていた。