追憶と孤独
入学式、というとてもつまらないイベント。
ただただ長いだけのマニュアル通りな内容の無い話。
社会人同士のお世辞とお礼。
それに強制的に参加させられる生徒。
自由に参加出来る権限を持つ親。
なぜこのようなつまらないイベントに親というものは自由権限でありながらこぞって参加するのだろうか。
親が参加すれば生徒は参加しなくてもいい、という制度が欲しい。
まあその制度が成立したところでわたしには不成立だ。
なぜなら、わたしのお母さんは来てくれていないから。
別に来て欲しいという訳ではない。
ただお母さんはあの事件以来、わたしに全く関心を示さない。
それどころか会話すらない。食事は毎日出て来てくれるので飢え死ぬなどといったことはないのだが。
わたしには『父』という存在があやふやだ。むしろ無いと言ってもいい。
父はわたしが2歳の頃、家を出て行った。突然なんの前触れもなく。
ある程度わたしが育ってから聞いた噂では愛人がいたとかなんとか。
家の収入を父に頼りきりだったものだからお母さんはきっととても大変な思いをしてここまでわたしを育ててくれたのだろう。
...だからと言って、いまわたしの存在を無視するというのはなかなか度し難い。
そうなってからもう一年たつし別に慣れた。そこまで不便という訳もない。
そんなことを考えていると司会の先生が「新入生!退場!!」と気合いを入れてわたしの脳内の思考に割り込んでくるものだから迷惑極まりない。
まあおかげでこの重苦しい現実を終わらすことが出来るのでありがたい話だ。
言われたまま『気怠げに』席を立ち、他の生徒の後ろをついて体育館を退場する。
...そういえば。
さきほど教室でわたしに話かけてきた少女はどこに居るのだろう?
辺りを少し見渡してみたがわからなかった。
久々に誰かと会話をした。...いや会話ではないか。
まだわたしという存在に気を遣って話かけてくれる人間がいたとは驚きだ。
もう誰もわたしをわたしと認識してくれていないものだと思っていた。
まだ世界からは『いないひと』と認定されていないらしいな。
あの少女は何者なのだろう。かなり怪しげな雰囲気だった。
今度探るとしよう。
さて、教室に帰り着き担任の先生の話が教室に響く。
明日の予定やら何やら。
わたしの愛しの美恋ちゃんはというと前の席の三科 由紀と静かに騒がしくお話をしている。
あぁ可愛い。本当に美恋ちゃんは可愛い。
...だからこそ、壊したい。その綺麗な顔を。その美しい心を。
担任の先生の解散という言葉のもと生徒たちがちらほらと帰っていく。
どうやら美恋ちゃんは三科 由紀と一緒に帰るようだ。
そのポジションは今までわたしだったのに...。
許さない。必ず。三科 由紀...わたしが罰を下してあげる。
そして美恋ちゃん。
わたしだけの美恋ちゃんにしてあげるから......。
待っていてね。