きっかけ
あれはわたしがまだ中学二年生のときだった。
保育園のときからずっと一緒に育ってきた親友の美恋ちゃん。
ずっとずっと一緒に育ってきた。
お昼はいつも一緒に食べていたし、帰りも一緒。
お家はお隣同士だからよく美恋ちゃんの家で宿題なんか一緒にしたりしちゃって。美味しいお菓子を食べながら日が暮れるまでおしゃべりして。
わたしのお母さんがカンカンに怒って「いつまでやってんの!!......ごめんね美恋ちゃん、いつも遅くまで付き合わせちゃって。」ってわたしを迎えにきたお母さんの口癖。
「いえいえそんな!私も楽しくて楽しくて、ごめんなさい!」
ってよく美恋ちゃんは言ってた。社交辞令ってヤツ。
そんなよくデキた美恋ちゃんと欠陥的なわたしは周りから比べられることがしばしば。
まあそんなのわたしは気にしていなかった。
幼かったのだ。肉体的にも、精神的にも...。
でも美恋ちゃんは違った。確かに肉体的にはわたしと同じで幼かった...まぁ中学一年生のころからすでに胸の辺りがわたしよりも優れていたけども......。
そんなことより、精神的にはとてもわたしなんかを卓越していた。
そんな美恋ちゃんは比べられるのを嫌った。
わたしなんかは比べられる対象外ということだろうとわたしは思っていた。
それから、美恋ちゃんはわたしを少し避けるようになった。お昼は別。帰りも別。休み時間は一緒にいれた。
そんなある日の帰り道。途中で教室に忘れ物をしたことを思い出したわたしは道を引き返し忘れ物を取りに教室に戻った。
廊下で話し声が...美恋ちゃんと、あと2人女の子の話し声が聞こえた。
「ねぇ美恋にさ?いつも休み時間とかにすり寄ってきてる子?あの子ってなんかすっごい暗い感じの子じゃなーい?」
「あーそれ!ちょーわかる!!めっちゃ根暗感ぱないよね〜、お昼とかいつも1人だしー...。」
わたしのことだ。
心臓がドクンと跳ねる。わたしの悪口をいっている。
自分の悪口を言っている現場を目の当たりにしてしまっている。
....美恋ちゃんは。
美恋ちゃんはなんて答えるの?
「そうなんだよね。ぶっちゃけ迷惑で。
保育園からの腐れ縁ってだけで親友ヅラしないでほしいんだよね。」
何かが崩れた。
明確に音を立てて崩れ去っていった。
その場に崩れ落ちそうになりながらも必死にこらえて、わたしは走った。
どこでもいい。だれもいない場所へ。だれにもみつからない場所まで。
ただひたすらに走った。
気づけば公園にいた。昔、保育園に通っていたころよく美恋ちゃんと遊んでいた公園......。
美恋ちゃん...。
堪えていたものが溢れ出した。
止めどなく溢れ出す。
その場に崩れ落ちひたすら、泣いた。
親友だと思っていたのに、ずっと一緒にいたのに...。
『保育園からの腐れ縁ってだけで親友ヅラしないでほしいんだよね。』
美恋ちゃんの言葉が頭から離れない。
「.....うっ。」
気分が悪い。頭が痛い。胸が苦しい。
......死にたい。
その日の19時、わたしは家に帰った。
お母さんに何か言われたが何も頭には入ってこなかった。
ご飯も食べずただただベットでまた、泣いた。
つぎの日、わたしは学校を休んだ。
そのつぎの日もまたつぎの日もそのまたつぎの日も......。
その間、美恋ちゃんから連絡はこなかった。
気づけば一週間も休んでいた。お母さんは何も言わなかった。何かあったと悟ったのか、はたまた呆れているのか。
さすがに学校に行かないとどんどん気まずくなると思い、意を決して学校に行くことにした。
でも気まずさも意を決したことも全部無意味だった。
わたしは学校で『いないひと』になっていた。
だれもわたしを見ない。だれもわたしに話しかけない。
だれもわたしをわたしと認めてくれない。
あんなに一緒だった美恋ちゃんさえも...。
『いないひと』として残りの中学生活を無事に終えたわたしは心が死んでいた。
感情はどこかへ捨ててしまった。
笑い方も泣き方も驚き方も喜び方も怒り方も、ぜんぶ忘れた。
お母さんは何も言わなかった。
どうでもいい。すべて、どうでもいい。
あぁでも。
どうでもよくないことがひとつあった。
美恋ちゃん。
諦めきれない。このままじゃ終われない。
復讐しなきゃ。
わたしをこんな目に合わせた美恋ちゃん。
わたしの美恋ちゃん。
わたしたち、ずっと親友でしょう?
だからわたしは高校を美恋ちゃんと一緒にした。