人でなしの涙
「やれやれ、、この程度の事ができないとは、使えぬな」
戦闘中は観戦に徹していた若い声の主が、椅子からゆるりと立ち上がるのが見えた。
一行は警戒しながらその姿がよく見える場所まで近づく。キョウキョウもそろり、と先に進んだ。
声の主は、鋼色の髪を長く垂らした美しい青年。ただし、人ではない証に耳は長く尖り、白い顔は血が通っていないかのよう。そしてその目は青く、冴え冴えとした冬の湖に似た静けさをたたえていた。
「お前がここに俺たちを呼んだ黒幕って訳か」
シーファーは全く気圧される事無く、青年にくってかかる。
しかし青年はシーファーの方をちらりとも見ず、ばさり、とマントを翻した。
その次の瞬間、虚空から現れたつららが一行に襲いかかった。
「くっ、光の盾よ!」
リアンの叫びと共に光でできた盾がPTの前方に現れ、つららからPTを守る。
青年は無言でそれを見ていたが、優雅とも言える動作で右手を振るった。
すると、更なるつららが、今度は頭上から降り注いだ。
リアンの盾は間に合わない。一瞬にしてつららに貫かれる一行。
つららが細かったのと各自の回避によって大ダメージにはならなかったものの、その冷気と傷はPTの勢いを奪うのに十分だった。
気づけば青年は元の椅子〜玉座と呼べるような豪華な〜に座っている。立つほどの相手ではないと思われたのだろう。
「つまらぬ」
青年は誰に聞かすでもない調子で言葉を紡ぐ。
「やはり人間はその程度か」
「おまえは、何なんだよ!魔物じゃないのか?」
苛立つシーファーの問いに、
「あんな下等な存在と一緒にされるのは心外だな、さらに下等な人間よ」
そう言えるほど、青年は明らかに常軌を逸した力を持っていた。
「アルベロを倒したからいいことを教えてやろう。あれが人間の言葉を理解しながらお前たちにまともに話しかけなかったのはなぜだと思う?」
ひそっとリーナ。
「人間の言葉しゃべれたの?」
その様子を見下ろす青年の口から発せられた言葉は、一行の気持ちを逆なでするには十分だった。
「あいつは気位が高くてな、路傍の犬ごときと話すと身が穢れると言っておったわ」
「て、、めえ」
「久々に楽しめそうだと思ったが、残念だな。さようならだ」
ヒュウウと、男が口笛を吹くのと同時にPTの前に現れたのは巨大な氷塊。
「押しつぶせ」
氷塊はPTの真上に浮き上がると、そのまま落下してきた。
ズウン
氷塊は床に突き刺さった、、ように見えた。
「部屋を汚してしまったか」
青年は眉をしかめて立ち上がる。が、
「ま、、ちなさ、、い」
氷の下から切れ切れに聞こえた声。
「まだ生きていたか。意外と、しぶとい」
青年は椅子に戻る。
PTはリアンの光の盾の下で辛うじて氷塊に潰されずにすんでいた。
リアンの光の盾以外に、他の面々が必死に両手を上げて氷塊を支えていた。光の盾が氷塊の重さを殆ど防いでくれているため、このような芸当が可能なのだ。
「あぁぁぁぁ!」
シーファーが気合い一発で雷を降らせ氷塊を砕いたので、一行は重さから解放されて男に向き直った。
シーファーとリアンは次なる攻撃に備えて呪文の詠唱を開始し、ソフィアとリーナ、キョウキョウは男と術士たちの間に立ち塞がった。
「では、これならどうかな」
男が指をパチンと鳴らすと同時に、巨大な氷柱がPTの足下から幾本も出現し、襲いかかる。
とっさに術士たちは詠唱を止めて飛び退き、その他の三人も何とか氷柱をかわすことができた、、と見えたが、
「まだまだ」
男はパチンパチンとしきりに指を鳴らし、氷柱は広間のいたるところに出現した。PTはどんどんいる場所を奪われ、追いつめられていく。
「ノークト!」
キョウキョウが叫び、ダメージから回復したノークトはいつの間にか男との距離を詰め、飛びかかった。
「おっと、そのトカゲと近接戦は遠慮させてもらう」
ノークトの歯が男に届く前に、男の放ったつららがノークトを襲う。
ノークトは尾を振ってそれを砕き、男から少し距離を取った。
もちろん、ノークトが男に向かっている間にPTは動いていた。中断させられた呪文をシーファーがまず完成させ、高らかに叫んだ。
「天より至れ雷!」
男の頭上より遙かな上空からの一筋の雷が男に下る。
黒こげになるはずの男は、片手を無造作に上げる。氷の板が出現し、雷と激しくぶつかって、両方弾けるように消えた。
「あれを片手で防ぐのかよ」
キョウキョウはシーファーの声に、今まで聞いた事のない焦りを感じていた。
「私がやる。光の葬列!」
リアンの叫びと共に、光でできた十字架が多段攻撃となって男に向かう。
クラーケンすら沈めたリアンの上級聖魔法だ。相手が何であれ、魔物に近い存在ならば効くはず。
男はとん、と床を蹴った。光の十字架は男の元いた床に突き立って消えた。
「く」
リアンが悔しそうなのを尻目に、男は空中に浮かんでいる。
まるで重力など存在しないかのように、優雅に。
空中に浮かぶ男に、二枚の薄い三日月が両側から襲いかかった。リーナのチャクラムだ。
男は笑みを浮かべたまま、それを軽く受け止めた。リーナが目をむく。
「返すぞ、ほうら」
男が軽く投げ返しただけのチャクラムは、寸分違わずリーナの首を狙っていた。
「リーナ危ない!」
ソフィアがリーナの身体に被さるように庇い、その背をチャクラムは切り裂いた。
「ソフィア!!」
ソフィアはそのまま崩れ落ちる。
「だい、じょうぶ、、そこまで深くはない、、と思う、、」
切れ切れの声で自分の傷を診断するソフィア。
「ポーションを、、」
ソフィアの言葉に慌ててリーナがソフィアの荷物を探る。取り出した緑色のポーションをソフィアに含ませると、ソフィアの傷から流れ出ていた血が止まった。
「許さない、、」
リーナが上空の男を睨みつけた。
「キョウキョウ、耳塞げっ」
「へ?」
状況を飲み込めていないキョウキョウは、慌てるシーファーを前に戸惑っていた。
「いいから、早く。でないと、、」
シーファーの言葉の途中ですう、とリーナが息を吸うのが感じられた。
次の瞬間、
ラーーーーー
音の洪水がキョウキョウの耳を襲った。音の奔流とでも言うべきそれは、キョウキョウの耳だけでなく、頭の中まで襲い、キョウキョウは崩れ落ちた。キョウキョウの頭の中でうわんうわんと変な音が鳴っている。
男は、というと、その美貌を歪めて明らかに苦しそうにし、空中にいることができなくなったようで、地上に降りて耳を押さえている。
しかもそれだけでなく、リーナは謎の言語で何かを歌い始めた。
「こ、、の歌は、、、呪歌の類か、、、」
男が苦しみだすと同時に、部屋を占めていた氷柱が消え去った。
苦しむ男にシーファーとリアンが呪文を殺到させる。
雷と光の二重奏が男に向かい、リーナの歌に気を取られていた男はもろにそれを食らった。
「よしっ」
シーファーたちは何故この音の奔流の中で動けるのか、とキョウキョウが見れば、シーファーとリアンの耳には耳栓がしっかりとはまっていた。
・・・先に言ってよ、、
歌声としては一流で美しい調べなのに、キョウキョウの頭は音のせいか歌の効果なのかガンガンと痛み、それから逃れるために、懐に入れていたハンカチを裂いて耳に急いで突っ込むしかなかった。とたんに、頭痛は消えた。
ノークトは、と見ると、かなりリーナから離れた位置で、やはり苦しそうな姿が認められた。
・・・耳ある生き物ならなんでも効くのか、、ある意味最強?
しかし、リーナの歌はそれ以上歌われることはなく、歌は唐突に終わった。
男を見るとかなり消耗した様子で、服は焦げ、最初に座っていた椅子を支えに何とか立っているという感じだった。
その間に、リーナはソフィアに肩を貸し、何とか壁際まで下がった。
「リアン、再度同時攻撃行くぞ」
シーファーの言葉にリアンは黙ってうなずく。
ノークトの様子がようやく落ち着いたようなので、キョウキョウはノークトの近くまで戻り、距離をとる。
ノークトはしきりに頭を振ってはいたが、その紅い目に男の姿を写している。
攻撃はシーファーたちと連携した方がいいのだろうが、当てにされていないキョウキョウにはどうすればいいか分からない。
様子をうかがっていると、シーファーとリアンの攻撃呪文が発動したのが見えた。
その瞬間、男が発音しがたい声を出した。氷の壁が男とシーファーたちの間を塞ぎ、呪文から男を守った。
それだけでなく、氷の壁はシーファーとリアンの背後にも瞬時に出現し、PTを分断する。
「潰れろ、虫けら」
シーファーが呪文で氷を割るべく片手を振り上げるが間に合わない。
ズズン、、、
氷の壁はシーファーとリアンを挟んで静かになった。
「リアン!シーファー!」
残った三人が叫ぶも、その声は氷の壁に反響して消えた。
「まさか、、だよね?」
キョウキョウが震え声で呟きながら氷の壁に触れる。閉じた氷の壁は冷たくそびえ立ち、中の様子は全く分からなかった。
「あとは三匹か」
男はまだダメージを感じさせる声で言いながら、再びあの音を出すべく口を開きかけた時、
ピシッ
氷の壁の中心に細かいひび割れが入った。
広間にいる全員が見つめる中、ひび割れはだんだん大きくなり、やがて氷の壁に穴が開いた。
そこから出てきたのは、リアンを抱えた黒衣の影。
「シーファー、、なの?」
リーナが戸惑いながら口にする。
リアンをゆっくりと三人のいる場所に運んで下ろしたその姿は、血管が浮き出た身体をところどころ破れた黒衣に包み、頭には一本の角、爪も長く鋭く伸び、背中からは中途半端な長さの片翼の骨組みだけが生えた異形。目の色も紫ではなく金に変わっていた。
「、、、ミルナ」
声もいつものシーファーの声とは似ても似つかぬしわがれ声。
三人が呆然としていると、シーファー?は男に向き直って軽く地面を蹴った。
人間にはあり得ない程の距離を軽々と詰め、男の近くに降り立ったシーファー?の手には大きな雷球が。
男が気づいて氷の盾を出すより早く、シーファー?の放った雷球は着弾した。
「ぐぁぁぁぁ」
男が雷の中で苦しんでいる。それを見る間もなく、シーファー?は左手を高々と上げた。そのとたん、黒い雷がさらに男に降りた。
バリバリバリッ
「ぐぅぅ、、おまえ、、は何者だ、、」
男が苦しみながら問いかける。
その問いに答える事なく、シーファー?が右手を上げると男の足下から黒い炎が吹き出した。
「ギャアァァァァァ」
男の絶叫を見つめるシーファー?の血管が浮いた顔が、突如苦痛に歪んだ。
男が最後の力で氷の刃を作りだし、至近距離のシーファー?を貫いたのだ。
ぼたぼたぼた
腹から垂れる血は、赤ではなく黒だった。
男は炎の中でにやりと笑うと、そのまま燃え尽きたように黒い粒子に変じて散った。同時に、黒い炎も消える。
「怪我してる、、治療、、しないと」
自らもけが人のソフィアが上体を起こすも、傷の痛みに再び沈み込む。
シーファー?は黒い血を流しながら立っている。
「オレハ、、、」
なぜか怪我をした腹ではなく、頭を抱えて苦しんでいるシーファー?。
と、シーファー?の動きがぴたりと止まった。
そのまま、片手を振り上げる。
「危ないっ」
その頃には気がついていたリアンがとっさに光の盾を作り出す。
シーファー?の放った呪文は光の盾と相殺して消えた。
「ちょ、何でこっちに攻撃してくんの?あれシーファーじゃないの?」
キョウキョウの問いには誰も答えられない。
ぼたぼたと血を流しながら、シーファー?は何故か微笑っていた。
まるで、獲物を見つけた肉食獣のように獰猛な表情で。
そして、一歩一歩、こちらに向かってくる。
「シーファーの気配も持ってるからたぶんシーファーだと思う。けど、今は危ない」
リアンの言葉に、リーナとキョウキョウはソフィアを背後にかばってシーファーと対峙する。リアンもそれに続く。
「シーファー!止めて、あなたと戦いたくない」
リーナが叫ぶも、シーファーの歩みは止まらない。
再びその手が上がる前に、仕掛けたのはリアン。
「光の葬列っ!」
光が幾筋もの十字架となり、シーファーを貫く。
「グ、、」
シーファーの歩みが止まった。
「リアン、やめて、シーファーが死んじゃう」
リーナの言葉に、リアンは困った顔で、
「あの聖魔法、人には効かないの、、でも効いてしまった」
「それって、、、」
ゆっくり語り合う暇はなかった。シーファーが自分を貫く光の十字架を力づくで破り、再びこちらに向けてゆっくりと歩いて来たからだ。
「ノークト、シーファーを止めて。ただしかみつかないで!」
キョウキョウの声にノークトが反応し、ばさりとコウモリの羽をはばたかせてシーファーに頭上からアタックしようとした。
シーファーはノークトに向かって片手を振る。雷が蛇のように長く伸びてノークトに襲いかかる。すんでのところでノークトは上空に回避。
「うぅ、、かみつき無しで動きを止めるってむずい」
キョウキョウは弱音をはくも、リアンは真剣に次の魔法を紡ぐ途中、リーナはチャクラムを投擲するところで、返事はもらえなかった。
「止まって」
リーナが願いを込めてチャクラムを放つ。チャクラムはシーファーの眼前でクロスしてリーナの元に戻った。
シーファーの歩みは止まらない。リアンの魔法が完成した。
「光魔法陣」
シーファーの真下に光の魔法陣が出現した。腹の傷はそれほど痛むそぶりを見せなかったシーファーが苦痛に顔をゆがませる。足止めと魔法封じの聖魔法の一種だ。
「リーナ、歌って」
「え」
「あなたの歌なら届くかもしれないから」
リアンの言葉に、リーナは先ほど男を苦しめた歌を歌うべく息を吸う。
シーファーとリーナ以外は、しっかり耳栓をしたのを確認した後に、高らかに歌い出す。
たったワンフレーズでシーファーが頭を抱えて光魔法陣の中に崩れ落ちた。
「シーファー!」
リーナが歌を止めて駆け寄る。
「待ってリーナ、まだあぶな」
リアンの制止も振り切ってシーファーの元に着いたリーナは、シーファーの身を起こす。
とたんに、シーファーの片腕が上がり、小さいリーナは吹っ飛ばされて床に転がった。
金色の憎しみのこもった目が、周りが全て敵と雄弁に語っている。
リーナはダメージの残る身体をうんしょ、と立ち上がり、再びシーファーの元に向かう。
「シーファー、怪我、早く治さないといけないよ、うごか、ないで」
だがシーファーは再び敵が近づいてきたと認識、魔法を使おうとして失敗し、再びリーナを力いっぱい払いのける。
どさり
「リーナ!」
皆の叫ぶ声など気にも留めないで、リーナは何度でも同じ事を繰り返す。
やがて、何か小さな呟きがシーファーから漏れた。至近距離にいたリーナは、聞き取る事ができた。
「ナゼ、、ダ」
その戸惑いに、リーナは傷だらけの顔で笑って、こう言った。
「だって、なかま、だから」
シーファーの再びリーナを振り払おうとした動きが止まった。
金色の瞳が揺れ動き、そして、シーファーは倒れ込んだ。
「シーファー?シーファー!!」
今まで見た姿が嘘だったかのように、シーファーは人間の姿に戻っていた。リーナはシーファーを揺らす。その頬には一筋の涙が光っていた。
まだ顔色が青白いソフィアも近寄ってきて、シーファーの傷を何とか処置する。傷はあるものの、黒かった血は赤く変じ、ほぼ止まっていた。
「帰りましょう」
リアンがそう言った言葉に、気を失っているシーファー以外の全員が無言で頷き、そうして城の魔物討伐のクエストは終了した。
街道の結界の封鎖は解けており、意識のないシーファーを街まで連れて帰ったのはいいものの、街の医者に診せる訳にもいかず、PTは宿屋でシーファーの意識が戻るまで見守る事にした。
シーファーだけでなく、ほかのメンバーも満身創痍である。それぞれに治療と休息は必要だった。
幸い、古城の魔物を討伐した褒美としてかなりのお金を得ることができたため、少し高めのいい宿屋を貸し切って過ごす事ができている。
シーファーは個室にして、皆が代わる代わる様子を見に行くようにしていた。
そんな中、シーファーがまだ目覚めぬ部屋で、キョウキョウが言いにくそうに他の三人に話だした。
「あのさ、、ちょっといい?」
「?」
「この槍だけど、シーファーが変身した時、赤く光ったんだ。つまりは、シーファーはあいつらと同じモノなの?」
「え、、」
思わず眠り続けるシーファーを見つめる面々。
「私が一番シーファーと知り合って古いけど、この人の素性はよく知らないの」
リーナが言う。
「あんまり素性とかそういう話をしたくなさそうだったから、何か訳ありだと思って聞かなかったの」
「じゃあ、これから、どうするの?」
「どうって、、」
リーナは眠り続けるシーファーの顔を見る。シーファーはどこか苦しそうに青白い顔をわずかに歪めて眠っている。
「また何かあってシーファーがあれになってこっちに向かってきたら、どうするの?毎回元に戻せるの?」
「それは、、」
リーナが言いよどむ。しかし、一呼吸置いてキョウキョウの顔をしっかりと見つめ、
「シーファーは大事な仲間だよ。何であろうとこれからもずっと」
「、、、」
キョウキョウは無言になって部屋を出て行った。
「はぁ、、」
キョウキョウは困惑した表情で宿の屋上に出ていた。
「どうしたら、いいんだろうね、ノークト」
返事が返ってくるはずもない影の中に思わず問いかける。
シーファーとは知り合って短いが、何かにつけ衝突してきたのは事実だ。仲がいいとは言えないだろう。それでも、シーファーをどうこうしたいとは思えない。でも、変貌したシーファーに自分は恐怖を感じた。それなのに、仲間としてこれからもやっていけるのだろうか。
もう一つ大きなため息をついたキョウキョウの背後から、ソフィアが屋上に上がってきた。
背中を切り裂かれたソフィアだったが、今はだいぶ回復して普通に動く分には問題ないところまできている。
「ソフィア、、」
ソフィアは黙ってキョウキョウの横に来た。
「難しいわね」
やがてぽつりと呟くソフィア。
「あなたのこと、いつも憎まれ口ばっかだけど、最初の召喚の時、信じてたと思うよ」
キョウキョウはクラーケンとの戦いの時のシーファーの叫びを思い出した。
「「召喚士になるんだろ、根性見せろ」」
あれのお陰で今、キョウキョウはここにいると言っても過言ではない。
「そうだけど、、、」
「あなたの戸惑いも分かる。皆思っている事は同じよ。起きたらちゃんとシーファーに聞きましょ」
「うん、、」
階下に降りていくソフィアを見送って、キョウキョウはもう一度ため息をついた。
「キョウキョウ!起きて!」
翌日の早朝、キョウキョウはリーナに激しく揺さぶられて目を覚ました。
「リーナ、、、まだ早いよ」
「それどころじゃないの!!シーファーが、いなくなったの!!」
「え」
寝起きのぼんやりした頭が一気に覚醒する。
「私とソフィアは港の方行くから、リアンと北街道の方探して」
「りょ、了解」
用意もそこそこに宿を出て、先日解放したばかりの北街道へ向かう。
北街道は既に結界魔導士によって新たな結界が張られており、行きかう人も少しずつ戻りつつあった。
キョウキョウは街道をハヴェールドに向かってくる旅人に、シーファーの事を聞きこむ。
すると、黒ずくめの若い男がやけに急いで北街道を進んでいった、という話を聞き出した。
「それたぶんシーファーだよね?どうする?リーナたちに知らせて合流する?」
「いや、知らせてたら遅くなると思う。キョウキョウ、馬乗れる?」
「うん、そっか馬使った方が早いか」
2人は急いで街の入り口にある貸し馬屋へ向かい、かなりいい値段の、馬屋の中でも早い馬を借りた。
そのまま、街道沿いを駆ける。
走りながら、キョウキョウはだんだん腹がたってきた。
・・・こうやっていなくなっても探してくれる仲間置いてどこ行ってるんだ
「居た、あそこ!」
街からずいぶん離れた街道の先に、2人は黒ずくめの姿を発見した。
気配に気づいたシーファーは、逃げるでもなく、無表情で立ちつくしていた。
「シーファー、どこへ行くの?」
リアンが馬を止めて静かに聞く。
「、、、お前らには関係ない」
「関係あるよ!この馬鹿」
キョウキョウは馬を降りるなり、シーファーの胸倉をつかんだ。
「みんなあんたのこと探して、心配してんだよ?なのに、何してんの?」
「、、、」
シーファーは暫し何かをためらうかのような様子を見せると、2人がぎりぎり聞き取れるほどの声で
「お前ら、、俺が、恐ろしくないのか」
「怖いよ!訳も分からないし、殺されるって思った。けど、、だからっていなくなってはい解決ってそれはないんじゃないの?」
「、、、」
「ちゃんと話してよ。話さないと分からないし。それからいろいろ考えるからさ」
「そう、、か」
シーファーの力が抜けたので、キョウキョウは手を離す。シーファーはうつむいたまま動かない。
暫しの沈黙。そんな2人にリアンが声をかける。
「怪我人にこれ以上無理させられないし、キョウキョウ歩きね」
「え、ええー!?」
シーファーとリアンが馬に乗り、キョウキョウは歩きでハヴェールドにゆるゆると戻り始める。
門の近くでこちらに手を振るリーナとソフィアが見えた。
「これで貸し借りちゃらだからね?」
「うるさい、このへぼ召喚士」
そのやり取りを後ろから見ていたリアンは、ほんの一瞬、微かな笑みを浮かべるのであった。