表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
保健室の恋人  作者: 実月アヤ
after story2. 診察室の恋人
73/75

波乱の幕開け?

「頼む!冴木!一生のお願い!!ーー遥ちゃん、俺にちょうだい!」


 それは冴木玲一の親友、水瀬陸(みなせりく)の一言から始まった。


「断る。馬鹿。死ね」


ーー秒殺。


 天才美形外科医であり(やっかいな事に、自他共に認めている)、玲一の高校時代からの親友で、今は同僚である彼。

 認めたくはないが、ある意味では玲一の一番の理解者であり、恩もあれば、情もある。けれど最愛の妻を譲るつもりなど毛頭無い。


「……そこはせめて事情を聞こうよ、冴木」

「断る。馬鹿。死ね。地獄に落ちろ」

「……悪い方向にグレードアップした……」


 ガックリと肩を落とした親友に、玲一は冷たい視線を送る。


「話したいなら話せ。俺が聞くかどうかわからないが、寝言をほざくよりマシだろうしな。ああ、この後オペあるから三分以内で」

「ホントに遥ちゃん以外には態度豹変だよね、君……」


***


「見合い?」


 さすがに三分は無理と、休憩時間を待って水瀬は屋上に玲一を連れ出した。そこで彼が口にした言葉に、玲一は冷静に返す。


「ふーん、すれば?」

「嫌だよ!俺は皆のアイドル水瀬先生なの!誰か一人のものにはなりませーん!」


 激しく否定する水瀬に、玲一は冷たい。


「ってもお前ももう29だろ。いい加減イイ歳だし」


 水瀬は親友の言葉に煙草を出す。火を着けようとするがうまくいかない。彼の営業スマイル中にはありえない、荒んだ口調でブツブツと文句を言い出した。


「クソ、あのオッサンめ。俺に面倒を持ち込みやがって。こんなことなら、ここで武者修行なんかしないで、さっさとうちの病院継いでおけば良かった!」

「ーー念の為聞くが、オッサンて病院長のことだよな」


 雇用主をオッサン呼ばわりする同僚に玲一は溜息をつくが、教師時代に自分も同じようなことを言っていたことを思い出す。


「で、なんで『遥を貸せ』なわけ?」


 溜息混じりに問えば、水瀬は顔を上げる。


「見合いを断るために、遥ちゃんに俺の彼女のフリをしてもらいたいなーって」


 上目遣いで言われても玲一はとりあわない。


「そんなの頼む相手ならいくらでもいるだろ、お前」

「……後々面倒なのはちょっと」

「お前まだそんな付き合い方してるわけ?」


 学生時代、彼女はとっかえひっかえ、順番待ちまでさせていた水瀬の女たらしっぷりは健在らしい。

 玲一は手すりに頬杖をついて、たっぷり、10秒。


「……断る」

「さーえーきぃ!」


 情けない顔で拝んでくる親友に、呆れ顔のまま返す。


「遥じゃバレるだろ。病院長、俺の結婚式に出たんだぞ」

「見合い相手だけ誤魔化せれば良いんだよ。この見合い、相手のお嬢さんから是非にって持ち込まれたんだって。俺にその気はないって病院長にはちゃんと言ってある。なのにあのハゲ、恩師の娘だから自分では断れないとか言うんだもんー!」


 最早半泣きになっている水瀬に、玲一はこめかみを押さえた。


「……遥次第。いいな?」

「……っ!うん!サンキュー、さすが親友!!」

「いい加減やめたくなってきたけどね」


 玲一は白衣の胸ポケットに引っ掛けていた眼鏡を取り出した。仕事モードの合図。


「さて、行きますか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ