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保健室の恋人  作者: 実月アヤ
After story1. 奥さまは女子大生
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合コン

 合コン当日ーーザワザワと盛り上がる中、遥は高校からの親友達を見つけて話し込んでいた。


「いやしかし、よく冴木センセーが許したね」


 ユミがけらけらと笑いながら遥に言う。


「普段クールなのに、遥に対する独占欲だけ半端ないもんね」


 もう一人の親友、芽衣が頷く。


「そうだよなー。高嶋さ……あ、もう冴木さんか」

「慣れないな。冴木先生も同じだし」


 同じく高校からの友人、松本拓海と岡本健吾が遥の旧姓を呼びかけて、彼女はああ、と頷いた。


「遥、で良いのよ?」

「え、マジで?俺らあの恐ろしい悪魔に殺されない?」


 遥に憧れて、玲一に散々脅された経緯のある拓海は、顔を赤くしながらもビクビクと聞いた。それを聞いて遥は小さく首を傾げる。


「大丈夫よ……多分」

「多分!?」

「……一応お医者さまだし、手当はしてくれるわ」

「え、ボコられるの前提!?」


 盛り上がる一同に、みちるが近寄ってきた。


「冴木さん、楽しんでる?話し中にごめんね、紹介してって子が何人か居るんだけどいい?」

「ええ、もちろん」


 遥は友人達に断って、みちるに着いて行く。離れていく視線の先で、ユミが何やら携帯のメールを凄い勢いで打っていた。


「えっと、田辺さん。今日は誘ってくれてありがとう」

「いえいえ!こっちが無理に誘ったのに。あ、みちるでいいよー。あたしも遥って呼んで良い?」

「もちろん」


 ふわりと笑う遥を見て、同性のみちるでさえドキッとする。

(いやー、ホントに綺麗な子だなー)


 見惚れながらテーブルを移動すれば、そこにいた男子学生達がワッと歓声を上げた。すでに結構な量のお酒を呑んでいる奴もいて、結構な盛り上がりだ。


「冴木さん!」


 そこにはクラスで口説いてきた橋本も居て、遥を見て目を輝かせる。


(こいつら、あたしと遥とで態度違い過ぎ!)


 みちるはぶぅっと口を尖らせたが、誰も気に留めない。けれど紹介を頼まれてしまった手前、遥に申し訳ないと思いながらも彼女に話しかけた。


「えーと、そっちが教育学部の小笹君、経営学部の宮沢、荒木、そっちが岩本君でーー」


 彼らはほとんどみちるの話など待たずに遥に迫らんばかりで、彼女は何とか皆に「よろしく」と呟いていた。全員覚えるなど無理だろう。分かっているし、みちるだって遥にそこまでさせる気もない。ただ紹介して、と言われた義理は果たした。遥には災難かもしれないが、それだけだ。

 そうやって何人かを紹介してから、みちるは遥に頭を下げた。


「ごめんね。参加してくれただけでも悪かったのに、こんなことさせて」


 正直みちるも、遥を見世物のように扱っていたのだと思う。

 それくらい彼女は美しくてーー憧れ半分、嫉妬半分だった。

 けれど根気良く付き合ってくれた遥は、みちるの顔を立ててくれて、それでも男子学生達に特別良い顔をすることもなく、さらりとかわしていた。


「やっぱり彼氏、居るんでしょ?誰の誘いにも乗らなかったもんね」


 みちるの問いに、遥はちょっとだけ驚いたように目を丸くしてーー小さく笑う。


「彼氏ーーじゃないんだけどね。大切な人が居るの」


 ほわりと赤く染まった頬で恥ずかしそうに笑う遥に見惚れながら、みちるが聞こうとした時ーー。


「冴木さんっ!一緒に呑もうよ~!もーホンット可愛いよねー」


 橋本が後ろから飛び付いてきた。相当酔っているらしい。


「ちょっと!邪魔よ、橋本!今あたしが遥と女子トーク中で……!」


 みちるは両手でぐいぐいと彼を押しのけて何とか遥から引き剥がそうとするが、彼女の抗議など受け流して、橋本はなおも遥に抱きつこうとする。

 周りの学生達が、囃し立てた瞬間ーー。


「すみません、うちのに手を出すのは止めてもらえるかな」


 艶めいた、涼やかな声。長い指が橋本の襟首を掴んで遥から引き離す。


「ちょっと、何だよーー、っ!!?」


 振り返った彼らが絶句した。

 ーーみちるも、だ。


 橋本を掴んで、遥を背に庇う様に間に立って居たのは、美形としか言いようのない端正な容貌をした長身の男性だった。

 さらさらと零れる明るい茶色の髪に、同じ色の切れ長の瞳。皮肉気に笑う口元が妖しい。滲み出る色気と落ち着きは文句のつけようのない大人の男。

 押し黙る一同の前で、遥は驚いたように彼を見上げて問う。


「どうして、ここに?」


 彼ーー玲一はクスリと笑って遥の背後を示す。


「槇原から連絡貰った。本当によく出来た友人だな」


 見やれば離れたテーブルで、ユミがグッと親指を立ててニヤリと笑っていた。先程のメールは玲一に打っていたのか。用意周到な彼女に苦笑する。


「もう、皆して過保護なんだから」


 けれど嬉しそうに遥は言い、その頬が赤く染まっているのを見てみちるはやっとフリーズしていた口を開けた。


「遥の、彼氏さん……?」


 ものすごい格好良いんだけど!イケメン通り越してるんですけど!

 それに答えたのは玲一だった。


「いいえ」


 その答えに、様子を伺っていた男子学生達は色めき立ち、また女学生達も美形とお近づきになれるチャンスかと目を輝かせて、現れた美青年を見つめる。

 が、しかし。



「彼氏ではなくて。ーー夫です。妻を迎えに来たので、連れて帰ります」


 ーーえ?


 一瞬の静寂と。



「「「えええぇぇーー!!!??」」」



 ーー次の瞬間の恐慌に。

 玲一は颯爽と遥の肩を抱いて店を出る。


「……玲一、わざとね?」


 騒ぎにしたくなかったのに……。

 じとりと睨む妻を見返して、玲一は綺麗に微笑んだ。

 


 二人で並んで歩きながら、玲一は妻を見つめる。

 信用していないわけじゃない。遥はちょっと口説かれたくらいでふらつくような女ではない。

 けれど、相手を包み込むような微笑みや、ふとした拍子に見せる艶のある顔は男の欲を掻き立てるもので。ああいう強引な輩からなるべくなら引き離しておきたい。

 彼は遥の手をとって、指を絡ませた。


「これも愛ですよ、遥ちゃん。いい加減諦めて欲しいね」


 クスリ、と笑みを零しながらの開き直りは、遥の可愛らしい困った顔を引き出した。


「……玲一の色仕掛けには騙されないんだから」

「騙すなんて。俺はただ、遥を誰よりも愛してるだけだよ」


 さらりと言ってのける彼に、遥が絶句し、


「……ズルい」


 と呟く。

 その頬がまた赤いのを見て、玲一は嬉しそうに笑った。

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