表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
保健室の恋人  作者: 実月アヤ
ep.2 恋人試練
45/75

ep.2-2 プロローグ

 泉学園が進学校たるゆえん。

 それはひとえに、アメと鞭。



「どーして、旅行のすぐ後にテストなのぉ?」


 遥が机に突っ伏した。


「理事長センセのイジメだああー」


 隣でユミも同じく突っ伏した。


「しかし意外ね。ユミはともかく、遥も追試候補なんて」


 芽依が言った。その言葉にユミが反論する。


「めいちゃーん、ユミはともかくって何」


 遥はうう、と唸った。


「ここ、本当に進学校なのよね。テストのたびに実感する……」


 公立高校に通っていた時には、遥はどちらかといえば成績上位だった。けれど泉学園ではベースが違いすぎる。テストの度に必死になってなんとか切り抜けてきたが、未だに慣れない。芽衣が遥を見た。


「遥は、冴木センセに教えて貰えば?先生○大医学部卒じゃなかったっけ」


 彼女が挙げたのはトップレベルの有名な国立大学だ。もちろんそれは遥も知って居た。けれど、ん~と遥が返事ともつかない声を上げる。


「そう、だけど。……追試ギリギリとか、知られたくないし。第一、冴木先生とじゃ勉強にならない……」


 芽依がおお?と笑う。


「別のお勉強で?」

「違うわよ!緊張して」


 真っ赤になって否定する遥に、ユミが目を丸くする。


「婚約までしてるのに、今更緊張するの?遥ってば、可愛い……」

「からかわないのっ。ほら、勉強、勉強!」


 仕方ない。あの隙のない美形の恋人は、未だに傍に居るだけで彼女をドキドキさせるのだから。傍に居たいが、彼の顔を眺めているうちに勉強どころでは無くなってしまう。

 遥はドン、と参考書を取り出し、溜め息をついた。


(しばらく玲一のとこには行けないなあ……何て説明しよう……)


 しかし確かに一人で勉強を進めるのは限界が来ていた。クラスメート達との勉強会も彼女のペースまで下げてもらうわけにもいかない。各教師に聞いて回るのも時間のロスでーー。


「あ、そうだ。適任が居た」


 遥はにっこりと微笑んで、メールを打った。



「悠君……教えて?」


 上目遣いの遥に、悠は鼻血噴出寸前。


「は、はるかちゃん、俺、冴木センセーに殺される!」

「ダメなの?」

「……もう殺されてもいい!!」


 遥に抱きつこうとした手は虚しく空を切った。彼女が鞄から参考書を出すために屈んだからだ。ぱっと満面の笑みで掲げてみせた本には『数学』の文字。


「はいっ!悠君、数学担当だもんね?」


 ……す、すうがく?


「別のお勉強じゃないのか……」

 

 なんてお約束な。ガックリうなだれる悠の様子など構わず、遥は意気揚々とノートを広げ始めた。


「く……」


 色々残念になりながらも悠も教科書に目を落とす。せっかく彼女が頼ってくれたのだ。冴木ではなく、自分を!これは期待に応えなくては。

 結局のところ、問題を見ていればすぐに二人で夢中になった。


「あ、ここね。ここはさ……」

「あ、そうか……ありがとう、悠君」


 微笑む遥はやっぱり可愛い。抱き締めたい。ちゅーとかしちゃいたい。

 そんな邪な考えを浮かべた悠に釘を刺すように、ふと遥の携帯が鳴った。一瞬迷い、彼女は悠に断って電話に出る。


「あ、玲一?ん、ごめんなさい、今日は」


 電話の相手が冴木玲一だと気付くとつい意地悪をしたくなり、悠は遥の携帯を取り上げた。


「あ」

「もしもしセンセー?遥ちゃんは今俺と2人っきりで、オトナのお勉強中だから、邪魔しないでね?」

 

 相手の反応など聞かずにぶち、と電話を切ってやる。遥が驚いた顔のまま、悠を茫然と見ていた。


「あ、ごめん。遥ちゃん」


 謝れば、彼女は首を振る。


「いえ、私はいいんだけど……悠君、15メートル飛び込み台とか平気な人?」


 え、何されるの、俺?



 悠の家で試験勉強を終えて。遥は一人で帰り道を急いでいた。送る、という悠を、まだ明るいからと断って駅へと向かう。

 彼も自分のレポートがあったはずだ。邪魔し過ぎても良く無いと思ったからだった。


「あ」


 駅前のロータリーに見慣れた車が停まっているのを見て、遥は近づく。中を覗き込むと、運転席から、乗れ、と視線で言ってくる、端正な顔。


「わざわざ迎えに来てくれたの?……ありがとう玲一」


 助手席に乗り込めば、彼は無言のまま車を出す。


(あ、あれ?怒ってるのかな)


 遥はつい恐る恐る、彼の様子を窺う。


「玲一?」


 彼は答えない。ポーカーフェイス過ぎて、怒っているのかもわからない。けれどいつもと違うのは確かだ。

 今日もともと父の家に行く予定は伝えていた。目的が悠とのテスト勉強とは言っていないが。しかし彼があんな対応をしたので、後から勉強を教えてもらっている、とフォローのメールは入れたのだがーー。


(どうしたんだろう……)


 車の窓の外を見た彼女は気付く。気付けば向かっているのは遥の家ではない。玲一のマンションだ。


「あの、玲一……」

「お母さんには連絡しておいた。今日はうちに泊まり」

「え?どうして……」


 戸惑う遥をよそに、車はあっという間にマンションに着き、玲一はエレベータのボタンさえも少し乱暴に押した。あっけにとられている彼女の腕を引いて部屋へと入る。玄関の扉を閉めた途端、玲一が遥を壁に押し付けた。


「嫉妬、しないと思ってる?」


 悠と二人きりでいたこと。

 そう囁かれて、遥は戸惑う。彼女を覗き込む彼の瞳が強くて、逸らせない。


「え、え、あの」


 え?嫉妬って、言った?ヤキモチ、焼いたの?

 思っても見なかった彼の問いに、答える前に強く肩を掴まれて、玲一にキスされた。


「ーー!!」


 びっくりしてつい玲一の肩を押し返すが、ビクともしない。拒否ではない、ただ驚いただけだ。けれども彼はますます力を込めてくる。


「んーー!」


 激しいそれに、息が出来ない。


「れ、っ……いち」


 やっと放されたそれに、涙目で荒く息をつけば。彼はそれまでの真顔はどこへやら。満足そうに笑った。


「イイ顔。今日は寝かせないからね」

「えっ……!」


 真っ赤になって硬直した遥の手から、玲一が鞄を取り上げて。

 ……参考書を出した。


「朝まで、お勉強」


 ……ああ、そっち……。


「紛らわしい……!」


 まんまとからかわれたことに気付いて、遥は頬を膨らませた。そんな彼女を見て、彼は飄々と言ってのける。


「え?……俺はそっちでもイイけど?」

「すみません、勉強しますっ!」


 やっぱり玲一は、ドSだ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ