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保健室の恋人  作者: 実月アヤ
サイドストーリー 1.
34/75

玲奈の物語・中

 恭一郎の気持ちはわからないまま。

 それからいくらか経って、文化祭の季節がやって来た。


「玲奈、似合う!!」


 クラスメイトの歓声に、くすぐったい気持ちになりながら照れる。

 文化祭でうちのクラスは喫茶店をやることになって、私は放課後クラスメイト達とその衣裳の試着をしていた。

 ハイウエストの、ひらひらミニスカート。フリルのついた可愛いエプロンのウェイトレス。(今みたいにメイドさん、とは言わなかったけど)

 恥ずかしいけど、でも可愛いなって、自分でも気に入ってた。

 ユキが後ろから近寄って、にっこり笑いながら、私の脚を撫でる。


「玲奈、足なが~い。綺麗~……羨ましい」


 その、『羨ましい』が、恨みがましく聞こえるんですけど!!

 ……ほんとはあんたも着たいとか思ってるんじゃ……。


 そこへ、恭一郎が通りかかった。私の格好を見て、ギョッとする。……失礼な。

 で、更に私の脚を見て、眉をひそめた。


 ん?……あ。


「ちょ、ちょっと、ユキ、離して離して」


 ユキが私の脚を撫でたままだった!!

 やば~はしたないとか、思われたよね。ユキ見た目は男だし。


「っ、泉先生、可愛い?」


 ごまかすつもりで首を傾げてクルリと回れば、


「エロい」


 不機嫌いっぱいの顔で、恭一郎が呟いた。


 ……は?なんか今、思いっきり恭一郎らしくないセリフが。


「高校生相手にエロいって。泉先生、日頃玲奈をどんな目で見てるんですか?」


 ユキがニヤニヤと笑いながら言って、恭一郎はムッとしたように口を尖らせた。

 あ、その顔が可愛いとか思ってしまった私はビョーキ?

 ある意味病気か。恋の病だもんね。

 ……いやいや、呑気に考えてる場合じゃなかった。


 油断していた私に、恭一郎はとんでもない爆弾発言をしたんだ。


「どんな目でもないよ。大人をからかうもんじゃない。……心配しなくても君の彼女に色目使ったりしません」

「は?」


 私は、呆然。ユキは一瞬目を見開いて。

 大爆笑、した。



 ……本当に呑気にしてる場合じゃなかった。


「誰が誰の彼女よおぉっ!どうやったらゲイでオカマの彼氏が出来上がるわけ!?」


 私はユキに掴みかかりながら、リビングで叫んだ。


「落ち着きなよ、玲奈」


 ユキは私達が恭一郎の家に住んでるのを知っている。だから今日は思わず、連れてきてしまった。いつもなら友達なんて誰も連れてこないけど、こんな内容の話をそこらでするわけにはいかないし、ユキの家は遠い。どうせ恭一郎も玲一も帰りは遅いしね。


「俺の性癖こと知らないんだから仕方ないんじゃないの。言っていいのに」


 ずず~っとジュースを啜りながら、ユキが言う。


「だって……ユキの秘密ペラペラ喋れないよ。恭一郎さんのことは信用してるけど、ユキは大事な友達だもん」


 私がまだ彼に出会う前のことだけれど、彼はそのことが友達にバレた途端、陰口を叩かれて随分嫌な目に遭ったって聞いていたから。

 俯いてそう言えば、ユキは優しく微笑んで、抱き締めてくれた。


「俺、玲奈のそゆとこ大好き。ずっと親友ね」

「うん。私も大好きだよ」


 私もユキを抱き締め返した。


 ――と。

 ガチャン、とリビングの扉が開き、私の目に入ったのは。


「ただいま、れ……」


 不自然に、途切れた声。ごと、と床に落ちた鞄。目を見開いて、立ち尽くす恭一郎。その後ろに玲一。

 ーータイミング悪すぎるわぁっ!!


 つい、私もユキも、硬直。すると弟がひょっこりと顔を覗かせた。


「うわ~やるね、玲奈」


 玲一っ!写メを撮るな!!


「あ、あの」


 慌ててユキから離れる私に、恭一郎が冷たい目を向けた。


「……君も高校生だし、どこで誰とイチャつこうが勝手だけど。僕の家では止めて欲しいな」


 突き放した言葉。軽蔑を含んだ目。

 私の言い訳なんて、聞く気もない、彼のその冷えた瞳をまともに見てしまって、息が詰まる。

 

 どうして、理由も聞いてくれないの?恭一郎は、私のことなんてもうどうでもいいの?私が誰と何をしていても、そんな目を向けるの?

 

 なかったことにされたキス。

 簡単に突き放してしまえる関係。

 ーー私は、彼にとって何なのだろう。

 

 悔しくて、悔しくて、涙が滲んだ。

 違うのに、違うのに。言いたいのに、言葉が出ない。

 涙が、零れた。


「……なら、出てく」


 意固地になった口からは、そんな言葉しか出ない。立ち上がった私を、恭一郎が驚いたように見た。


 と。


「……っきゃああっ、氷の貴公子~っ!!」


 緊張感のない、悲鳴が響き渡って。

 ユキが猛ダッシュで、玲一に飛びかかった。


 ……は?


「いや~本物~!!実物も格好イイ~!あ、俺ね、新城由季ね、よろしくぅ」


 玲一が、自分に抱きつく男子高校生を冷静に指差した。


「この人、玲奈の友達?面白いね」


 いやいやいや!抵抗しようよ!

 私は玲一からユキを引きはがそうと引っ張る。


「ユキ!人の弟ターゲットにしないでよ!!玲一はノーマルなんだからね!」


 何だか嫌だ。ものすごく嫌だ。


「……え?」


 恭一郎が、茫然と呟く。あ、忘れてた。

 ユキを見れば、“言って良いよ”と頷いてくれて。私は恭一郎へと説明した。


「ユキは、ゲイなの。恋愛対象は男の子なのよ」

「はいぃ!!?」


 あ、ぶっ飛んだ。

 恭一郎は頭を抱えて、


「本当に?うちの生徒が?それってアリなの?」


 とか何とかブツブツ言ってたけど。やがてピタリと動きをとめて、ぎぎぎ、とぎこちなくこっちを向く。


「じゃあ、玲奈の彼氏ではないの……?」


 と、おずおずと私を見た。私は首を横に振って、否定。


「そんな……僕はてっきり……」


 がくりと、彼の肩が下がった。

 何なのかしらね、この反応。やっぱりこの人、私の事、好きなんじゃないのかしら。……なんて、希望を持ってみたり。

 黙ってしまった恭一郎と私を見て、ユキが玲一の背を押して出る。


「玲一君、お邪魔だから俺達は場所変えようか~」

「とか言って、玲に何するつもりよ?弟はダメだからね、ユキ!!」


 結局、誤解は解けたものの、収集着かないまま。

 ……ああ、もう。

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