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保健室の恋人  作者: 実月アヤ
ep.4 キスを贈る場所
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キスを贈る場所

「でも学校で会える時間が減るのは寂しいな」


 昼下がりの保健室でお茶を飲みながら、遥は呟く。


 あれから、一週間。

 理事長がどう根回ししたかはわからないが、あからさまに非難する声は無くなって、穏やかな日常が戻ってきた。……好奇心に満ちた目で見られることはあるが。無言の視線は、遠慮のない質問よりたちが悪い。保健室で二人きりになると、玲一は溜息混じりに吐き出した。


「俺らは珍獣か!そんなに珍しいですかー!!」

「うん……私、玲一みたいな人、あまり見たことないわ……」


 色々な意味で。遥は思わず突っ込んでしまう。


「まあ退職、退学にされないだけ、ありがたいわよね。……だけど玲一は、寂しくない?」


 問い掛けてくる遥に、玲一は横目で彼女を見て言う。


「俺の部屋で会えるだろ」


 口を尖らせて遥が玲一を見上げた。


「それとこれとは違うよ……」


 言った彼女の髪を撫でて、玲一は首を傾げる。


「誘ってる?」

「違うわよ!」


 頬を染めて否定する遥を目を細めて眺めながら、玲一は微笑む。こうやってからかう度に全開の反応を返してくれる年下の恋人が可愛い。ただ、この可愛さを知っているのが玲一だけではないというのが問題だ。


「学校で会えなくなったら困るのは俺のほうだよ。目を離したらお前にいつ、よその男が寄ってくか、わからないからな」


 すくい上げた髪に口付けて、自分を見つめる玲一に、遥はドキン、と胸が高鳴る。


「誰が寄ってきても、私には玲一しか見えないよ……」


 小さく小さく呟けば、玲一はそれは艶やかに微笑んで。


「……本当に?」

 

 唇を重ねてくる。何度も、何度も。


「疑ってない、クセにっ……」


 どうしよう。……総攻撃だわ。完全降伏。

 遥は潤んだ瞳で玲一を見上げ、それがまた彼を煽るなどと気付かずに、ひたすらキスに応える。


「れい、いちっ……校内で、こういうのはダメだって……」

「“バレないように”してもいい。デショ?」


 意地悪く笑う、愛しい愛しい……保健室の恋人に。

 いつだって翻弄されてしまう。


「他の男にそんな顔、見せちゃダメだよ」


 クスリ、と玲一が笑った。



「それなら俺が見張るからご心配なく~」


 軽快な声と共に、遥と玲一の間にストンと分厚いファイルが割り込んだ。

 その持ち主は。


「悠君?」


 悠がそこに立っていた。スーツを着ているが、どう見てもホストにしか見えない。


「何その格好」


 玲一が嫌な予感と共に聞く。


「俺今日からここで教育実習なの。宜しくね~遥ちゃん」

「はあ!?」


 玲一が声をあげた。遥は戸惑ったまま、二人を見つめる。


「ていうか、アンタ教育学部だったわけ?日本の子供達の将来が著しく不安になってきたんだけど」


 養護教諭の冷たい視線にも、悠は動じない。楽しそうににっこりと微笑んで、遥の肩に手を回そうとして、玲一に叩かれた。


「大丈夫、大丈夫。俺がバッチリ害虫駆除して、ついでに冴木先生からも奪い取ってみせるから~」

「やらねぇよ!」


 玲一は遥を抱き寄せる。いつもの穏やかな顔でもなく、余裕の表情でもない、彼の顔に、遥は嬉しさにクスクスと笑って、玲一を抱き締め返したーー。



 ねぇ、私たち。

 ここで、一緒に過ごしてきたよね。

 愛おしい時間、愛おしいひと。



「大好き」





 廊下を、女子生徒と、男子生徒が、手を繋いで歩く。


「……知ってる?ここの伝説」

「え?何ソレ」

「スッゴい格好良い保健室の先生と、めちゃくちゃ美人の先輩カップルが居るの。二人の過ごした場所、……裏庭の桜の木の下で告って、保健室でキスすると、ずっと幸せになれるってジンクス」

「……強引だな……」

「とかいってアンタ私に裏庭でコクったじゃないの。ちゃっかり乗っかったくせに」

「……じゃあ、保健室でキス、な」


 その言葉に、女子生徒は嬉しそうに微笑んだ。





ep4. fin

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