第六章(3)
閉じていた瞼に、また影が落ちる。リーファは目も開けぬまま口を開いた。
「弟も来たけど、兄も来るなんて。暇な兄弟だね」
「アウリュなら、たった今、いきました」
どこにとは言わないが、理解はできた。
「そう。それを伝えに?」
「いえ……貴方にこれを渡すために」
リーファはゆっくりと目を開けた。アウリュとは違う、真っ白な布が視界に入る。その白さに負けぬ手が差し出してくる、白い封筒。
「貴方に渡して欲しいと、レイアが」
その一言で、リーファは奪い取るように封筒を手にした。真っ白な封筒だ。中を見れば、同じ色をした便箋が一枚だけ入っている。
リーファは壊れ物を扱うかのようにそっと取り出した。震えて上手く動かせない指を叱咤しながら、二つ折りにされた便箋を開く。
見たことのあるレイアの字が、綺麗に並んでいた。
リーファは何度も読み返した。回数など覚えていない。気のすむまで読み返した。その間、アースは何も言わずに傍に佇んでいた。
「レイアらしい……内容だよ」
「そうですか」
簡潔に言った。だが、アースは嬉しそうに微笑んで、一つ頷く。
「本当は、もう心を決めていらっしゃるのでしょう? ただ、きっかけがなかっただけで」
「アウリュといい、あんたといい。おせっかいな兄弟だ。他にも気にすることがあるだろ」
「気にすることはありますが、気になることの方が優先です」
おどけたように言う神王に呆れつつ、リーファは便箋を封筒にしまい、大事に懐へと入れた。ただの手紙なのに、温かい気がする。
リーファは杖を掴むと、久しぶりに立ち上がった。足が弱っているのか、少しふらつく。
「これからどちらへ?」
「さあ、決めてない。ただ……」
霧が立ち込める森を振り返る。あの先にはいけない。彼女の亡骸に触れることも、墓に花を供えに行くこともできない。
でも、リーファにできることが一つある。
「レイアの望みを叶えるよ。じゃないと、次に会った時に怒られる」
肩を竦めて言えば、アースは同意するように大きく頷いた。
「月並みですが、頑張ってください」
「あんたもね」
同じ残された者同士、自然に手と手を握り合って別れる。
歩き出したリーファは、振り返らなかった。振り返る暇があるのなら、進もうと思った。それがきっと、彼女にもう一度会う道に繋がっていると信じて。




