プロローグ(1)
このお話は、同作者の『Endless Story』と繋がっております。
どちらから先に読んでいただいても大丈夫ですが、『Endless Story』を先に読んでいただいた方がお楽しみいただけるかもしれません。
映画のような物語を、がコンセプトです。
どうか忘れないでください
共に過ごした日々を、私の想いを、私自身を
私の言葉は貴方の重荷になるかもしれません
私の想いは貴方を苦しめるかもしれません
それでも、覚えておいてほしかった
傲慢で、自分勝手な私の最後の願い
叶わぬと知っていても、この気持ちに嘘はありません
だから、覚えていてください
いつか、いつかまた巡り会えた時、もう一度、貴方に伝えます
私は、貴方を――
※ ※ ※ ※ ※
「レイア様」
バルコニーに用意されたティーセット。木で編まれた椅子に深く腰掛けていた少女は、名を呼ばれゆっくりと目を開けた。
腰を超える髪。眩い光を反射したかのような銀灰色の目。身を包んでいるのは極上の絹で作られた薄黄色のドレス。袖から伸びた華奢な手が動き、頭上から降り注ぐ光を遮った。
夢を見ていた。昔からずっと見続けている、あの花畑の夢。
優しくて、温かくて、幸せな――夢。
「マルファス?」
「おはようございます」
隣に控えていた初老の男は、優しく笑いながらそう答えた。
柔和な顔に似合わぬがっしりとした体つき。少女が貴い身分であるにも関らず、この男しか傍にいないのはそれだけ彼が優秀だからだ。
「だいぶ寝てしまったようね」
「そうでもありません。昨日のご公務の激しさを考えれば、もう少しお休みいただいても良いぐらいです」
ふうっと、男が息を吐きながら部屋の端を見やる。大きな業務デスクに山々と詰まれた紙の束。最近、この国との交易を求めてくる者が増えたのだ。
「何が目的でしょうか……」
「さあ? 戦争の後、大陸も変わったから」
「アフィメルス国の書状が多いですね」
「あの国が戦争の勝者と言えるもの。他は、アフィルメスに比べ領土も軍備も小さいし、援助を受けている所もあるし」
「我らのように静かに暮らせば良いものを」
どこか拗ねたように言うマルファスに、少女は苦笑した。
「私達は無駄な争いをしない。最初からそう創られたのだから、他が違ってもしょうがないわ。世界の均衡を保つこと。それが私達の役目だもの……ところでどうしたの? 仕事?」
椅子から体を持ち上げ、どこか年相応のむっつりとした様子でマルファスを見上げた。
「いえ、祭壇の間に『白と黒の王』がおいでです。お話をしたいと言われています」
「……そう。分かった」
すっと立ち上がった瞬間、もう先程の少女の顔はない。あるのは、凛とした雰囲気の大人びた顔だけ。
「では参りましょう。女王陛下」
マルファスの手をとり、少女は歩き出す。
彼女の名は、レイア・フィル・ジ・アレネス。この時まだ十八歳。『原初の一族』と呼ばれる者が住まう国、閉鎖されたアレネス国第十二代女王。それが、彼女である。