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迷子のキモチ  作者:
6/8

第六話

 全ての動きがスローモーションに見えた。

 車が突っ込んできて、カズにぶつかって、そのまま空中に浮いて、地面にたたきつけられ、カズの周りから、赤い血がとめどなく広がっていた。


「カ……ズ……?」


 周りがざわつき始めた。携帯でどこかに連絡をする人、倒れているカズを見て顔を青くする人、色んな人がいた。私はその二つのどちらにも当てはまらない。ただ、目の前の光景が信じられなくて立ちつくすしかなかった。

 カズの周りに広がっていた血は、雨のせいでさっきよりも広がっていた。まるで海みたいに。私は、叫び声もあげれなかった。

 すると、カズに駆け寄っていたサラリーマンの人が私に手招きをした。


「君、このこの知り合いだよね。今救急車呼んだから、この子についていてあげて」

「救……急車……? え、何で……」

「え?」

「カズなら平気だよ。そんな……救急車呼ぶほどでもないよ。ねぇ、カズ、大丈夫だよね?」


 私が呼びかけても、返事は返ってこなかった。


「カズ……? ねぇ、カズ。カズったら、ねぇっ」

「君! やめなさい。わかるだろう?」

「……分からないよ、分かりたくないよ……! だって、だって……さっきまであんなにピンピンしてたのに、伝えたいことあったのに……せっかく胸張って好きだって言えそうだったのに……! ねぇ、カズ、このまま目が覚めないなんてことないよね? ねぇ……答えてよ、いつもみたいな強気な態度で言ってよ! 嫌だよ……こんな終わり方嫌だよ!」


私の悲痛な叫び声が、雨の中で響く。でも、雨にかき消されて、私の声はカズに届かない。それはまるで、あの日迷子になった私みたいに、とても寂しくて怖かった。


「っカズ! 起きてよ!」


 このときの私はよっぽど頭がおかしくなっていたのかなんとカズにビンタをしてしまった。それも一度ではなく、何度も。さっきのサラリーマンの人が慌てて止めに入った。それでも起きないカズに、私の目から涙がこぼれた。


「起きなさいよ! 私こんなの嫌なんだからね! アンタだけ先に死ぬなんて怒るからね! カズ!」

「う……」


 カズの指先が少し、ほんの少しだけ動いた。


「カズ!?」

「いてーな……それに……頭に響くんだよ……」

「カズ……!」

「うわ、何泣いてん……だよ、ブス」

「ブスは余計だよ! ったく……」

「お前……約束破ったな……」

「約束? あ……」


私はあの日の別れる時にした約束を思い出した。


「ごめんね……約束守れなくって」

「……なぁ真子、俺が死んだら、その約束無しにすっから」

「え……?」


その言葉は、もうすぐカズが死ぬって、私にはそういう風に聞こえた。


「なっ、縁起でもないことっ!」

「う……ごほっ、ごほっ、げほっ」


 急にカズが苦しそうに咳をし始めた。


「カズ!? 大丈夫!?」


カズの背中をさすっても、咳は酷くなる一方。そして、一番ひどい咳をした時カズが血を吐いた。真っ赤な血だった。私は何も言えなくなった。

 このままだと、カズが死んじゃう……!


「カズっ! もう喋らなくていい! 喋るな!」


 私の目から、また涙がこぼれた。それを見たカズは、私の忠告を無視してこう言った。


「ンなわけに……いかねぇだろ……、お前、ごほっ……言いたいことあるって……言ったじゃねぇかよ。言えよ……」

「そんなっ、今それどころじゃないよ!」

「言えって!」


 カズが怒鳴った。それは泣いているように聞こえた。その後、カズがまた咳き込んだ。


「っ……もう時間がねぇんだよ……!」


 多分、カズが一番分かってるんだ。もう自分が手遅れだということを。だから怒鳴ったんだ。めったに怒鳴らないのに。


「カズ……」

「……」

「私、カズの事好きだよ。大好き。ずっとそばにいて欲しいの。」


 無表情だったカズが笑った。


「サンキュ……俺も、真子のこと好きだ……。でも、最後の願いは聞いてやれねぇ……」

「カズ……」

「叶えてやれねぇことは、約束しねぇ主義なんだよっ……」


 しっかりとした口調で、私をまっすぐ見て言った。

 カズの息が荒くなってきた。苦しそうに顔を歪めている。もう終わりが近いかも、私はそう思った。そう思ったとたん、口が勝手に動いた。


「カズ……私頑張るから、色んなこと頑張るから、だから、カズも最後まで頑張って……

「あぁ」

「……私、絶対、一生カズの事忘れないよ、だからカズも、私のこと忘れないで」

「あぁ」

「カズ……大好きだよ」

「……あぁ」


短かったけど、カズはちゃんと返事をしてくれた。そんなカズが愛しくて、涙が止まらない。私の涙は、カズの首下に、ぽたぽたと落ちていく。そんな私に、カズは痛くて上がらないであろう腕を、私の目元まであげ、涙を拭いてくれた。


「カズ……」

「な…真……子……」

「な、何?」


 大分、カズの声が聞き取れにくくなってきた。早く救急車が来ることを、心の中で祈る。


「俺のことは、ごほっ……忘れて良いから……」


言葉を失った。


「なっ、何いってんのさ!」

「真子」


反抗しようとした私に、カズは厳しく私の名前を呼ぶ。その声に私はまた言葉を失ってしまう。すると、カズは厳しい表情をやわらかくさせた。


「笑えよ」


 その言葉に私はまた泣きそうになった。だけど、手で乱暴に顔をぬぐって笑った。顔が引きつっているかもしれない、変な顔かもしれない、でもカズを見たら、自然と笑顔がつくれた。カズは私の全てだ。


「マコ……好きだ……」


 また、カズの手が私に伸びてきた。そして、私の頭を掴むと、自分の方に引き寄せた。一瞬、何が起こったかわからなかった。カズの顔が有り得ないほど近い。だからすぐに分かった。

 初めてのキスは、血の味がした……。

 その時、やっと救急車が来た。


「カズ! 救急車来たよ! ……カズ?」


 カズを見ると、カズは目を閉じていた。まるで寝ているように。


「カズ……?」






「残念ですが……」


 病院に運ばれて、30分後のことだった。医師から出た言葉は、残酷なものだった。


「死……んだ……カズが?」


私が半分放心状態で問いかけると、医師はこっちです、と言って、ある部屋に案内された。

 そこには、カズがいた。


「カズ……」


 カズはベットの上に寝かされていた。ゆっくりと近づいて、カズの顔に手を当てる。いつもなら息があたるのに、手には何もあたらない。


「本当なんだ」


 本当にカズは死んだんだ。




『もしかしてまいごか?』  『おまえなまえは?』  


『おれはカズっていうんだ』  『おまえは?』  


『マコか、よろしくなマコっ』  


『おまえまたひとりぼっちになっちゃうだろ、そしたらさみしいだろ!』


『やくそくまもれよ』  『俺、真子のことが好きなんだ』


『真子!? どこだ!?』



『マコ……好きだ……』



 その瞬間、私は急に震え出し、口から声が出た。言葉になっていない、叫び。自分でも不思議なくらいの叫びだった。看護師さんが止めに来た気がするけど、覚えていない。

 何でこうなったのかとか、これからどうすれば良いのかとか、全然分からなくて、理解でいたのはただ一つ。カズが死んだ。

最終段階に入ってきました。後一話か二話くらいで終る予定です。最後まで読んでくださいね♪

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