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迷子のキモチ  作者:
5/8

第五話

一番長いかもです。

 家に帰ると、お母さんはアルバムを広げていた。


「ただいま、何やってんの?」

「おかえり、見れば分かるでしょ〜」


お母さんの周りにはたくさんの写真が散らばっていて、片付けているのか散らかしているのか分からないくらいだった。

 私も空いているところに座り込んで、てきとうに写真を手にする。


「あ、これ璃子だ」

「あら、ホントね。あの子写真にあんまり写ってないのよね。昔からカメラ嫌いで」

「璃子らしいじゃん」


 手に持っている璃子の写真は、五歳くらいだろうか、隣でピースしている女のことは正反対で、璃子は嫌そうにピースしている。本当にあの子らしいな、なんて思っていると、急にお母さんが声を上げた。


「ちょ、真子。これ見てみなさいよっ」


口を抑えながらなにやら興奮しているようだ。なんだろうと思って、写真をのぞき込む。


「うわっ……」


そこには、三歳の私が写っていた。

そして、私と一緒に写っている男の子……


「カズだぁ……」


 泣いている私を、カズがおんぶしているショットだった。


「これ、私とカズが初めて出会ったときの写真だよね」


 そう、それは私たちが三歳の時の夏休み。家族で動物園に行ったときのこと。




 私は迷子になった。


「ちち……はは……」


 確か私はお父さんとお母さんのことを呼びながら、人ごみの中泣き歩いてた。夏休みだったせいか、たくさんの親子連れが居て、小さかった私にとって、知らない人たちが周りに居ることは恐怖以外の何者でもなかった。

 右も左も分からなくて、必死でお母さんとお父さんを探そうとしたけど、周りの大人たちが壁になって、私の視界には足しか入ってなかった。小さい私に気付いてくれる人はいなくって、それはとても心細かった気がする。

 泣き歩き疲れた私は、人ごみからやっとのことで抜け出し、隅っこの方でちぢこまった。


「ちちぃ……ははぁ……」


それでも小さい私は、どこに居るのか分からない両親のことを呼んでいた。

 その時だった。カズが、私の目の前に初めて姿を現したのは。


「おいっ、おまえ! なにやってんだ!?」


 大きな声で、真っ直ぐに私を見てそう言った小さいカズ。でも小さい私は、自分と正反対のカズがとても怖かった気がする。なぜって、とても強気な態度だったから。小さい私にとって、カズは新しい人種だった。


「もしかしてまいごか?」

「……うん……」

「よし、わかった! おれがおまえのママとパパさがすのてつだってやるよ!」

「え……」

「のれ」


驚いている私をよそに、カズは一人で話をすすめていった。そして、ひざを地面につけて、私に背を向けて短く一言そういった。そう、それはまさしくおんぶ。私はカズの事が怖くって、ただ言う事を聞いてた。


「おまえ……なまえは?」

「……」

「おれ、カズっていうんだ」

「カズ……くん?」

「そう、おまえは?」

「真子……」

「マコか、よろしくなっマコ」


 その時のカズの声が、さっきと打って変わって優しかった。それがやけに安心して、私はまた泣いてしまったっけ。





「なつかしいなぁ。最後私、カズになついちゃって別れるときにまた泣いてたっけ」

「結局隣に引っ越してきて、今もずっと一緒だものね。笑っちゃうわ」

「……あの時から、今とそう変わらない性格してたなぁ」


 そう、今と変わらないあの性格で、迷子になっていた私を引っ張ってってくれた。カズは、あのときの私にとっての“救世主”だった。


「あぁ、そっかぁ……」


もしかして私、初めてカズと出会ったときから……。


『素直な気持ちで』


 詩織のアドバイスが急に私の脳裏をよぎる。


「素直な気持ちで……か」


気付いてしまったら、もう行動に移すしかないでしょう。

 その時ちょうど電話が鳴った。


「私出てくる」


 お母さんに一言そういって、廊下に出た。


「もしもし」

『……真子?』

「そうだけど……もしかして愛里?」

『うん、愛里』


突然の愛里からの電話。しかも、今日にあんな事があったというのに。


「どうしたの?」

『……真子、椎名君と付き合うの?』

「……今までね、ずっとその事考えてた。でね、今気付いちゃったの。私初めてカズと出会ったときから、カズの事好きだったんだって」


私は、思ったことを愛里にそのまま告げた。いつの間にか私の顔は、笑顔になっていた。気付いたことに対しての、喜びに対して。


『そっか……。ま、しょうがないか』

「うん、ごめんね……?」

『全然っ! このくらい何ともないわよ。……ねぇ、真子?』

「うん?」

『椎名君のこと、いっぱい……いっぱい愛してあげてね』


 その時の愛里の声が、少し震えていた。


「うん……当たり前でしょ。まかしといてよ……ね」


嬉しいはずなのに、これで良いはずなのに……。

 愛里との電話を切って、私は大きく深呼吸をした。そして電話番号をゆっくり押していく。もちろんそれはカズの家の電話番号。私の耳に、電話の呼び出し音が静かに鳴り響く。


『もしもし』

「あ、真子です。こんばんは」

『あら真子ちゃん、珍しいわね。カズなら今コンビニに行ってるわよ』

「どこのコンビに行ったかわかります?」

『さぁ、多分近くのコンビニに行ってると思うけど』

「ありがと、おばさん! それじゃ!」


 乱暴に受話器を置いて、玄関にほうり捨ててあるコートを羽織ながら叫んだ。


「ちょっとコンビニ行ってくる!」

「え!? ちょ、真子!?」


 お母さんのわめき声が聞こえたけれど、私は外にとび出した。

 外は、雨が降っていた。今は小降りだけど、すぐに強くなっていくだろう。でも、私は走った。とにかく一番近いコンビニ目指して。

 今は、好きだと気付いた時の、心の痛みも迷いなど全然ない。やけにスッキリしている。愛里や志帆先輩には悪いけど、私はカズに想いを告げる。11年間の想いを。

 私の左手にはあの写真が握りしめられていた。




『ねぇ、おもくない?』

『おもくねぇよ。はぁ…はぁ…』

『でもさ、すごいあせだよ?』

『だいじょーぶだって! だって、マコおろしたらまたまいごになっちゃうだろ! そしたらひとりぼっちになっちゃうだろ。そんなのマコ、すっごいさみしいだろ!』

『カズくん……だいじょーぶだよ、おろして』

『でもっ』

『て、つなげばだいじょーぶでしょ?』

『……!』

『ねっ?』

『……そうだなっ』




 どこを探しても、カズは居なかった。それでも、私は走った。重かったのに、私がさみしくならないように頑張ってくれたカズに比べれば、雨の中走るくらいどうってことはない。

 その時大分、息が荒くなっていた。白い息を吐きながら、広い街の中で必死にカズを探す。


「いない……」


 私はただこの気持ちを伝えたくって、がむしゃらに走る。どこにいるのか分からないけれど、カズの面影を探してただがむしゃらに。



「え、真子が?」

「そうよ、アンタの事探してるみたいな感じだったわ」

「……俺、ちょっと行ってくる」

「ちゃんと見つかるまで帰ってくんじゃないわよ!」



『真子っ!』

『ははぁ!』

『どこ行ってたのよ! 心配したでしょ!』

『ははぁ……!』

『あら、この男の子は?』

『カズくんだよ。マコのおともだちなの! たすけてくれたの!』

『え……おともだち? おれと?』

『うんっ!マコとカズくんはおともだち!』

『良かったわね、真子。』

『うんっ!』

『カズ君も、ありがとうね』

『……おう』




 さっきからあの日のことばかり思い出す。やっぱりこの写真のせいだろうか。

 お母さんも、私を探す時こんな気持ちだったのかなって思った。この人ごみの中目を凝らして、大切なたった一人を探して、それでもなかなか見つからなくて。

 私の息は完全にはずんでいた。久しぶりに走ったな、なんてしみじみ思ってしまう。私は、立ち止まって息を整えた。

 その時だった。一瞬、私の名前を誰かが呼んでいる気がした。気のせいとは思ったけど、集中して周りの音を聞いてみる。


「……子! 真子!」


 今度は、しっかり私の耳に届いた。もちろんそれがカズだってことにも、すぐに分かった。


「カズ! カズ! どこ!?」


 私も力の限り叫んだ。息が苦しいとか、雨が降ってて寒いとか関係ない。失ってから気付いてるんじゃって、詩織も言ってたじゃないか。私はカズを失いたくない。そのためにも、今は人目の気にせず、ただただカズの名前を呼ぶ。

屋上の時みたいに、小さい声じゃなくて良い。カズまで届くように……!


「真子!? どこいんだ!?」


 私は、人をかき分けて声がするほうに歩いた。そして、人ごみからやっとのことで抜け出して出たところは、交差点だった。車がたくさん行き交う中、じっと向こう側を見据える。私の目は、今カズしか映ってないみたいだ。向かい側にカズが居た。

 人や車の雑音が一気に私の耳から消えて、雨の激しい音だけが聞こえる。目の前に映るのは、カズだけ。よく見るとカズは、傘をさしていなかった。それに、肩を使って息をしているのが、一目で分かった。

 カズも、一生懸命探してくれたんだね。


「真子! お前っ……どこ行ってたんだよ!」

「カズにっ、言いたい事があったの!」

「そんなの家でも良いだろうがっ……!」

「カズが帰ってくるまで待ってたら遅いの! 今すぐ伝えたいの!」


 信号が青になった。それと同時に私たちは走り出してた。

 まず最初に何が言おうかとか、どうやって言おうかとか、考えることはいっぱいあったけど、そんなことより


――カズの隣に行きたい


 一瞬の出来事だった。信号無視した自動車が突っ込んできて、その車からかん高いブレーキ音がしてきたと思ったら、その次にもの凄い衝突音がして、それと一緒に、カズの体が宙を舞った。




『カズくん、いっちゃうの?』

『……』

『やだよぉ。もっとあそぼうよぉ』

『わがままいうなよっ』

『だってぇ……』

『いいか?またぜったいあそべるから』

『ほんとに?』

『ほんとだ。だから、こんどあったときに、きょうみたいにないてたらダメだからなっ』

『うん……』

『やくそくだぞ!』

『うんっ、やくそくね!』



 

 ゆびきりげんまん  ウソついたらはりせんぼんのーますっ  ゆびきった

この回はもっと感動的に書きたかったです…。でも願い叶わず、実力敵わず(涙

思い出の話ももっと上手く取り込んでいけたらよかったなぁって思います。

そこら辺のアドバイス、ぜひ(願;

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