第三話
私がイライラしてたのは、愛里のためだ。多分……。志帆先輩にヤキモチやいてただの、私がカズのこと好きだの、まったくもって有り得ない!というよりも、あってはいけないのだ。だって愛里はカズのこと好きだし、カズは志帆先輩のことが好きなんだから。
次の日、学校へ行っても昨日のことが頭から離れなかった。
いつも通り詩織が一組に勝手に入ってきて私におはようと元気よく言う。力なく返事する私に、詩織はどうしたの、と問いかけた。
「ふ〜ん、なるほどね」
璃子と同じようなセリフを言う詩織。
「それってどう考えてもヤキモチでしょ」
「璃子も同じこと言ってたよ。しかもとどめに、お姉ちゃんカズ君のこと好きなんでしょ〜、だってさ。有り得ないって」
「何で有り得ないの?」
「だって、小さいときから隣の家でずぅーっと一緒だったんだよ?私にとっては家族のような存在だし……それがいきなりヤキモチだの好きだの意味分かんないよ」
そう、カズは私にとって家族のような存在なのだ。今までもこれからもずーっと、変わらないものだと思ってる。なのに急にこの展開。少女漫画でもあるまいし。それに、
「だってしぃ、愛里はカズのこと好きなんだよ?友達と同じ人を好きになるなんて有り得ない。その上カズだよ?ますます有り得ない。小三まで同じお風呂はいってた仲だし……」
すると、詩織から返ってきたのは言葉ではなくため息。
「何?」
「……真子、私から一つだけアドバイス言っとくわ」
急に真剣になった詩織に、私もつられて真剣な表情になる。
「いい?想いなんて一秒前と一秒後じゃまったく違うの」いつどう変わっていくかなんて分からない。恋だってそれと同じことなのよ」
「どういうこと……?」
私が聞くと、詩織は頭をかきながらため息をついた。呆れてるって感じだ。
「失ってから気付いてるんじゃ、もうおそいの。自分の今の気持ちを、正面から受け止めなさい」
今までの全てが壊された気がした。
私がカズのことを好き?さっきも思ったとおり、カズとはこれからも家族のような存在のまま。好きだなんて、有り得ない。この考えだけは否定しなければならない。
「あれ……?」
何で否定しなきゃならないんだ……?
「真子!次の問題やってみろ!」
数学教師の怒鳴り声ではっとした。時計を見ると十二時十五分。あと五分で昼休みのチャイムが鳴る。詩織と話してたときは確か十時三十五分だった。
「(この二時間何やってたんだ!?)え、えっと!?」
イスから立ち上がって、数学教師をチラリと見ると、眉間に青筋をたてて睨んでいた。その顔はどう見てもヤクザだ。冷や汗が流れた。どうやってこの危機から逃れようか、頭をフル回転させていると、窓側の席の一番前に座っている人がスリーピースしていた。カズだった。私の鼓動が高まりだした。それは数学教師が怖いからとかではなく、カズのせい。
「何だ真子、分かるのか分からんのか、はっきりしろ!」
「え、あ……」
もう一回カズを見ると、まだスリーピースをしていた。すると、目が合った。カズは苦笑いしながら口パクして何かを伝えようとしている。
『さ・ん』
「さ、さん?」
「お・・・・・・なんだ分かってるんなら自信もって言え」
「あ、はぁい」
それからすぐにチャイムが鳴った。私はほっと胸をなでおろす。カズがいなかったら本当に危なかった。それよりも、カズが私を助けてくれたという嬉しさがこみ上げてきた。
「……」
「おっばかな真子ちゃん、僕に何か言うことなぁい?」
さわやかな笑みを浮かべたカズ君でした。
「あら、ドウモアリガトウ、お調子者のカズ君」
「うわ、何かありがとうのトコだけ棒読みだったな、オイ」
「ま、ホント今回は助かりました」
「さすが俺だな!」
カズが笑った、私に向かって。不思議なくらい嬉しい。心のもやもやが無くなって行くのが自分でも分かる。
もう、私は自分の気持ちを否定できない。愛里、ごめん、私カズの事好きだ。好きだって気付いたしまった。
気付いてしまった自分の気持ちに、私は少しくすぐったくなった。
晴れていた空が、くもり始めていた。
はい、第三話終りましたぁ!(拍手
ついに物語がスタートし始めたって感じです。本番はここから!のはず・・・・(オイ
物語の感想とかくれると嬉しいです☆