霧の中で
或る日曜の午後だった。
金色の麦畑の中に小さな農夫の小屋があった。
その小屋の前の
僅かばかりの花畑には老婆が一人
花の手入れをして居た。
小屋のデッキには老爺が
ロッキングチェアにもたれて
淡い夢路に入って居た。
「お~い。」
「お~い。」
誰かが呼んで居る。
白いミルクの様な霧に包まれていた。
霧の中をあても無く歩いていると、
耳元に息づかいを感じた。
「ふと、自分は何の為に此処を歩いているのだろう。」
そう思った瞬間、
耳元に聲を感じた。
「生きる為。」
ぎょっとして、
肌の粟立つ感じがした。
すると「恐れる事は無い。」
続けて「儂はお前だ。」
「えっ。」
突然の事に呆然とする。
「はっはっはっはっはっは。」
「恐れる事も無理は無い。」
「…。」
「儂はもう一人のお前なのさ。」
「…。」
「儂がお前の実体だ。」
「そ、そんな。」
「お前は今、悩んで居る。」
「しかし、本物の儂はこの通り。」
「…。」
「天真爛漫、臆する事無し。」
「…。」
「取越し苦労する勿れ。」
「…。」
「真実の自我に目覚めよ。」
或る日曜の午後だった。
金色の麦畑の中に小さな農夫の小屋があった。
その小屋の前の
僅かばかりの花畑には老婆が一人
花の手入れをして居た。
小屋のデッキには老爺が
ロッキングチェアにもたれて
淡い夢路に入って居た。