不思議な飛行隊
或る日曜の午後だった。
金色の麦畑の中に小さな農夫の小屋があった。
その小屋の前の
僅かばかりの花畑には老婆が一人
花の手入れをして居た。
小屋のデッキには老爺が
ロッキングチェアにもたれて
淡い夢路に入って居た。
「お〜い。」
「お〜い。」
誰かが呼んで居る。
霧の中を蒼い円らな瞳の
青年が歩いて居た。
「おっ、居たじゃないか。」
「ジェフ。待っていたよ。」
「き、君は…。」
青年が驚くと、
初老の小さな小父さんが
「さあ、行こう。」
「ど、何処へ。」
「夕べ云っただろう。
此れから編隊飛行の訓練だ。」
そう云えば、謎の小父さんも
青年も
目の醒めるような
コバルトブルーの飛行服を着ていた。
見渡すと
あちらからも、
こちらからも、
コバルトブルーの
飛行服を着た人々が、
丘の上を目指して居た。
「ど、何処へ行くんだい。」
小父さんは呆れたような顔をして
丘の向こうを指差した。
「あの世界一大きな椚の木さ。」
見上げると丘の向こうに
二百メートルは有るだろうか
その根元には
洞穴のようなゲートが有り
真っ赤な服を着た
門番が居た。
不思議なエレベーターに乗ると
どんどん椚のてっぺんに昇って行った。
「さあ、着いた。」
其処は椚の木の上で、
広いグラウンドのようなまん中に
係員が大きな
飛行具を配って居た。
「さ、君の番だよ。」
何も判らないまま、
青年は大きな飛行具を背負わされた。
「ね、一体どうなるの。」
「何、怖がる事は無い。」
やがて
びょ〜っと
大風が吹くと
椚の幹は
ばりばりっと
身震いをして
広い広場の全ての物が
強風に巻き上げられた。
「うわあっ大変だ。」
「竜巻きだ。」
青年は多くの仲間達と
空高く吹き飛ばされた。
瞬く内に
あんなに高かった椚の木は
遥かに下になってしまった。
すると身に付けた飛行具の上から
スルスルと何かが飛び出した。
「うわ〜。」
其れは二十メートル程の、
そう、
たんぽぽの羽根のような
すてきな羽根だった。
その飛行具は
一杯に風を受けて
大空に漂った。
「お〜い。どうだね。」
「高いです。
素敵です。」
青年は心まで舞い上がってしまった。
「エベレストが見えます。」
「エジプトが見えます。」
「嘘だけは上手くなったな。」
或る日曜の午後だった。
金色の麦畑の中に小さな農夫の小屋があった。
その小屋の前の
僅かばかりの花畑には老婆が一人
花の手入れをして居た。
小屋のデッキには老爺が
ロッキングチェアにもたれて
淡い夢路に入って居た。
おやおや
老婆が感心した。
またどんな夢を見て居るのかしら。