風邪薬をお飲みなさい、と言われた。でも……。
目覚めた瞬間の違和感は、ただの風邪のせいだと思っていました。
日常のすぐ隣に潜む歪みと、逃げ場のない恐怖を描いたショートホラーです。
※一部にショッキングな暴力・出血描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
ある朝僕は酷い頭痛と寒気を感じながら目覚めた。朝食を作ってくれていたママにそれを訴えると、ママは直ぐ様風邪のお薬があるからお飲みなさい、と言った。
でも僕は、そんなママ言葉を信じることはなかった。
━━何故って?
うちのママは、僕が幼い頃に倒れて以来、ずっと寝たきりだからだ。台所に立って料理をするどころか、自力で起き上がることすらできるはずがない。
カタ……カタタ……。
フライパンを揺らす規則的な音が、静かな朝の部屋に響く。背を向けたままのエプロン姿の女は、首を少しだけ傾げ、ぬるりとした声で呟いた。
「どうしたの? 早く飲まないと、熱が下がらないわよ」
振り返った顔には、目も鼻も口もなかった。ただ平らな皮膚がぬめりと光り、手元では真っ黒に焦げついた「何か」が、ジュウジュウと音を立てて煙を上げている。
女は包丁を手に取ると、自分の首元にゆっくりと刃を当てた。
「じゃあ、新しいお肉を追加しましょうね」
切断音とともに赤い液体が床へと滴り落ち、僕は恐怖で声を上げることもできず、ただガタガタと震え続けた。
いただきありがとうございます。
本作は「当たり前の日常が徐々に狂っていく恐怖」をテーマに執筆しました。
いつも側にいるはずの家族が、もし全く別の「ナニカ」にすり替わっていたら……そんな日常の裏側に潜む不気味さを感じていただけたなら幸いです。
主人公がこの後どうなったのか、台所の「女」の正体は何だったのか、ぜひ想像を膨らませてみてください。
また別の物語でお会いできることを楽しみにしています。




