21.妙な噂
「ねえ見て、あの男、昨日生徒会に喧嘩売ったらしいぜ。」
「女の子にパンツせがんだって話も聞いたよ。」
「え〜きもい〜。」
次の日、廊下を歩いていると、そんなひそひそ声が聞こえてくる。
ただ歩くだけで周囲の視線がこちらを向いているのがわかる。
冷たい目線が痛い。
これも全てあのグレルが変なことをしたせいだ。
早朝、俺は教室に入るなり、すぐにグレルの元へ向かった。
「おい、グレル、お前俺の噂ばら撒きやがったな!? 決闘に負けた腹いせで変なことしやがって……。プライドはないのか!」
いや、逆にプライドを傷つけられたからこんなことをしているのか?
まあどっちでもいい。
問題なのは俺の妙な噂が学年中に流れていることだ。
俺の愚痴を聞いたグレルは、頭に血管を浮かべながら不機嫌そうに返す。
「あ? 知らねえよ。誰かが勝手に広めただけだろ。」
「騙されないぞ! 俺ともう一度決闘しろ! そんで俺が勝ったらこの広まった誤解を解け!」
「なんで俺様がそんなことしなきゃなんねぇんだよ! やってねえ、つってんだろ!」
「え? 本当にやってないの? お前に限ってそんなことある?」
「うっせえ殺すぞ。俺様をなんだと思ってんだ。」
だって、今までの悪行からして一番やってそうじゃん。
グレルは本気で困っている俺を横目にニヤッと笑って嫌味を言ってくる。
「だが、良い様じゃねえか。テメエの本気で嫌そうな顔が見れただけでも今日は学校に来て満足だ。」
「お前、良い性格してんな。」
「聞きたいことが終わったんなら、とっとと失せろ。テメエと喋るだけで吐き気がしそうだ。」
グレルに突き返されてしまった。
ひとまず、俺はいつも一緒に喋っていた3人の元へと行く。
「エスタ、大変そうだね〜」
俺の顔を見るなり、ナルキはそう言った。
「大変だよ。冷たい視線に晒されながら登校するこっちの身にもなれってもんだ。」
俺がそう愚痴っていると、ローズマリーが口をひらく。
「この学園には貴族も多く在籍しておりますので、噂が回るのは早いですわ。今頃上級生にも噂がいっているのではないでしょうか?」
「勘弁してくれ。このままだと学校一の嫌われ者になっちまう……」
「別に良いんじゃ無い?私はエスタの事大好きだよ。」
シアのニコニコな視線が眩しい。溶けてしまいそうだ。
俺が悩んでいると、不意に、一人の女の子に声をかけられた。
「エスタ君、ちょっといいですか?」
そう言われて振り向くと、そこには昨日俺をはめたララリアさんが立っていた。
彼女は申し訳なさそうな表情をして謝る。
「昨日は本当にごめんなさい。ありもしない事を言って、あなたを嵌めてしまって。」
ララリアさんは背中を曲げて、誠意のある謝罪をした。
本当に申し訳なさそうにしているので、俺はすぐに許す。
「いいよ、別に。気にして無い……ことは無いけど、まあそれなりの事情があったんだろうなって事は察しが付くし。」
「今更言い訳にしかなりませんが、グレルさんに脅されていたんです。」
「だろうな。ちなみになんて脅されたんだ?」
「彼の親が私の出身地を治めている貴族なのを良いことに、「おれに逆らったら、親の首が飛ぶぞ」って」
「グレルのやつ、ガチモンの屑だな。」
ドン引きした。
流石に脅しの内容くらいは選べよ。
それは冗談にならないだろ。
彼女も苦労してるな……
「でもそれ、言って良いのか? 今もグレルに脅されてるんだろ?」
「いえ、昨日決闘に負けてどうでも良くなったのか、もういいって言われて。」
「それで謝罪に来たってわけか。」
「はい、本当にごめんなさい。」
「いいよいいよ。もう罪悪感とかも持たなくて良いから。これからは対等な関係でいよ?」
「……はい!」
俺に許されてほっとしたのか、彼女はスッキリした表情を浮かべた。
ララリアさんの謝罪が済むと、次はエリーゼが俺の元へやってくる。
「エスタ君〜、その、あたしもごめん。」
「おう。」
「ララリアの言うことを間に受けちゃって。」
彼女は気まずそうな顔を浮かべた。
昨日はララリアさん呼びだったのに、いつのまにか呼び捨てになっている。
仲良くなったんだろう。
「まあ、ジュース一本でいいよ。」
「わたしが言うのもなんだけど、その対応の差は何!?」
「いや、なんか、ララリアさんを責める気になれなかったから、エリーゼに責任とってもらおうと思って。」
「うわ〜、そうやって人によって対応変えるんだ。ひど〜い。」
「冗談じゃん。別に怒ってないよ。」
エリーゼは恐らく正義感が強いだけなんだと思う。
その矛先が今回は俺に向かっただけ。
俺からしたら被害は受けたが、彼女自身が何か悪いことをしたわけでは無いので、本当に怒ってはいない。
謝罪をもらったので、俺としてはもう満足だ。
「まあ、そのなんだ、気にして無いから、これからも学級委員よろしくな。」
「うん、ほんとにごめんね。」
そうしてエリーゼの謝罪が終わった。
ララリアもエリーゼも、根は素直で真面目なのだろう。
俺がこれ以上とやかく言うことはなかった。
問題は最後に謝りに来た3人だ。
「「「エスタ様ッ!」」」
謝罪の後、エリーゼ、ララリアさんと親睦も含めて少し雑談していると、突如ものすごい声で3人組がやってきた。
何事かと思ってそちらの方を見ると、そこにはグレルの取り巻き3人衆がいた。
「お前ら、なんにしに来たんだ。」
俺がそう聞くと、3人は息ぴったりで語り始める。
「我々」
「エスタ様の配下になりたく」
「来た所存でございます。」
「…グレルは?」
「「「見限りました!」」」
あいつ取り巻きに見限られてやがる。
てか、貴族の取り巻きって、そんな簡単に裏切って良い物のか?
そんなことを思っていると3人衆の一人が喋り出す。
「エスタ様、おいらに発言の許可を。」
「お…おう……いいぞ。」
なんか雰囲気に流されて許可してしまった。
「おいらはパマルと申します。先日、ララリアさんと共にあなたを嵌めた人っす。」
「ああ、覚えてる。」
「あの時のことを謝罪させてください。」
「おう、まあいいよ。」
3度目の謝罪でもう疲れていたので、軽く流してしまった。
謝罪を受け入れられたのが嬉しかったのか、彼は笑顔で感謝する。
「ありがとうございます。」
そう言った後、彼らは3人で顔を合わせてからこちらを見て、
「「「エスタ様、我々にあなた様に従える許可を!」」」
そう叫んだ。
「いらん、そもそもお前ら誰だよ。俺名前すら知らんのに……」
そう言われて、彼らはハッと気づき、名乗り出した。
「おいらパマルと申します。」
「わがはいラタルと申します。」
「我はカラルと申します。」
「「「3人合わせて、パマルラタルカラル!」」」
「やかましいわ。」
3人合わせてって、名前並べただけじゃねぇか。
てかなんなんだこのよくわからんノリ。
「お前ら、グレルの取り巻きやってた時もそのノリだったのか?」
「いえ」
「グレル様に」
「やめろと切れられました。」
「だろうな。そもそもなんであいつの手下なんか……」
「「「脅されてたので。」」」
なんかララリアからも同じ話を聞いたような気がする。
俺は恐る恐る聞いてみた。
「ちなみに、なんて脅されてたんだ?」
「「「逆らったら親の首がないと思えと」」」
「うっわ。ひでえ。」
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俺は、取り巻きの相手を終えた後、そっと1人でグレルの場所へと向かった。
そして一言。
「お前、想像を絶するクズだな。」
「うっせぇ、わざわざそれを言うためにこっちくんじゃねぇ、殺すぞッ!」




