19.エスタVSグレル
「叩き潰す? 夢見てんじゃねえよ。」
そう言うと、彼は地面に木刀をつき指す。
続けて喋り出す。
「なぜ俺様がこんな一番下のクラスに落ちる羽目になったかわかるか? エスタ。」
「純粋な実力不足だろ。」
「ちげえよ殺すぞ。」
そう言うと彼は目を瞑る。
そして一度大きく深呼吸をして目を開ける。
「体が弱かったからだ。」
それは、ナルキに聞いた話と同じだった。
「俺様は昔から体が弱くてよ、身体能力系のテストはからっきしだったんだよ。入試ん時、身体能力23点、戦闘センス34点。とてもじゃねえが自慢できる点数じゃねえ。」
どこかで聞いたような話と同じだった。
「だがよ、俺様には莫大な魔力があり、魔法の才能があった。」
目指す物があるのに、他者より足枷を持って生まれた者。
「俺様の魔法の才能は、弱かった俺の体をも帳消しにできる程大きかった。」
だが、足枷がある分、自身の長所を伸ばし、追いつこうとした者。
「見ろ、これが入試の時、Aクラスにも並ぶとオルエイ直々に認められた俺様の力だ。」
彼は俺だった。
「『魔装』!」
そう言うと、彼の中に秘めた莫大な魔力が溢れ出て、彼の周りを覆う。
それは今まで見てきた魔装の中でも上位に位置するほど凄かった。
今まで強いと言ってもFクラスで一番上というだけだろうと思っていたが、これは違う。
正直舐めていた。
少なくともFクラスで留まっていい人材じゃない。
それこそAクラスやBクラスに匹敵する程だと思う。
「思ってたよりやるな、流石に侮りすぎていたか……」
俺がそう呟いたのが聞こえたのか、彼は笑いながら返す。
「後悔してももう遅えぞ。テメエに逃げ道はねえ。」
「逃げる? 誰が。」
「テメエだよ。さあ、さっさと魔装を展開しやがれ。始めようぜ。」
「いや、俺魔力ねえし。」
俺がそう言うと、彼は一瞬ポカーンと口を開けた。
今までないくらい間抜けな顔を見せる。
そして、大声で大爆笑をし始めた。
「ハハハハハ! 魔力が無えだと!? それなのに俺様に喧嘩売ってきたのか!?」
つられて、周囲のギャラリーからも少し笑い声が聞こえる。
まあ、当然の反応だろう。
今までもそうだった。
この世界は魔力が全て。
どれだけ武を極めた武人でも、魔力がなければ速攻で負ける。
魔力が無い俺は、周囲から嘲笑われる対象だ。
「その度胸は買ってやるよ。」
「なあ、グレル逆に考えよう。」
「あん?」
「魔力が無いと言うことは、魔法系の科目が全て0ということだ。なら、俺はどうやってオルエイに入学して来たと思う?」
俺がそう言うと、何か気が付いたグレルは笑うのを止め、真顔に戻る。
そして言った。
「だが、世の中魔力の少ねえ魔族が活躍した話を聞いたことがねえ。」
「試してみるか? かかってこいよ。」
それがある意味、決闘開始の合図だったのだろう。
グレルの木刀がものすごいスピードで俺の元へと向かってくる。
俺は持ち前の剣術で、彼の攻撃を弾いて反撃する。
だが、流石身体能力を強化しているだけあって反撃は防がれてしまった。
俺達はお互い、一度距離をとる。
一瞬の攻防だったが、お互い、色々理解させられる戦いだった。
「やるじゃねえか。」
「そっちこそ。」
今のやり取りでわかった。
このグレルってやつ、口先だけのやつじゃない。ちゃんと強さを持っている。
恐らく一対一で戦えば、シアに対しても善戦するだろう。
Fクラスというくらいだから侮っていた。
実際、ナルキとローズマリーは狩りにてあのレベルの低い魔物に対して苦戦してたし、そんなものかと思っていた。
しかし、それは間違っていた。同じオルエイに通う魔族でも、ピンキリということだ。
目の前のこの男は技、力、共に洗礼されていた。
だが、魔装こみのあいつよりも、パワーは俺の方が勝っている。
今のはあくまでウォーミングアップ。本気はここからだ。
そう思っていると、グレルが口を開いた。
「降参するなら今のうちだぜ。」
「冗談はよせよ。こっからだろ?」
「そうかよ。……なら、」
グレルは右手をゆっくりと上に挙げた。
何かの挙動。
瞬間、手平の上にわずかな空気のゆらめきが見えた。
徐々に空気は発光していき、そこには灼熱の炎が顕現する。
あれは、無詠唱魔法。
本来必要な呪文を唱えるという工程をすっ飛ばして魔法を使う高等技術。
オルエイに来る程の学生なのだから、使えてもおかしくはないが、魔法発動までの時間が極端に短い。
グレルは炎を自身を中心に円周状に投げ捨てる。
すると、ボワー、と彼の周りに炎の壁が立ち上がった。
いわば炎の結界だ。
近づけば、燃やされ灰になる。
非常に練度の高い魔力操作に、俺は感心した。
「俺様の炎を越えられるかあ?」
グレルは醜悪な笑みを浮かべた。
そこにあるのは慢心と余裕。
俺が炎の結界を越えられないと踏んでの笑みだ。
しかし、彼の考えは腑に落ちている。
俺には魔力がない。
それ故に遠距離で攻撃する手段がないのだ。
一瞬で相手の特徴を判断して、策略を巡らす。
伊達にオルエイに入学してないな。
「……凄い熱だな。触ったら火傷しそうだ。」
「火傷? ハハッ! その程度で済んだらいいけどなあッ!」
グレルは再び右手を上に上げる。
すると、彼の周囲に無数の炎の球が生成された。
遠目でもわかるほど空気が揺れ動き、あの炎にどれだけの熱が込められているのかがわかる。
次の瞬間、彼の周囲の炎は疾風の如く噴射され、俺1人に無数の球が襲いかかる。
瞬きをする暇もない一瞬。
その線でしか動きをとらえられない球達を、全神経を張り巡らせて回避した。
空中で体を捻りながら思う。
……殺す気かよ。
容赦のない攻撃だ。
生徒相手に、ましてや魔法が使えず魔装で防御できない相手に繰り出す攻撃ではない。
全ての球を避け、地面に着地すると、周囲から歓声が聞こえた。
俺を応援するものではない。
どちらかというと、動きに対しての賞賛の声だ。
グレルの顔を見ると、目を見開いて口を開けていた。
今ので決めきるつもりだったのだろう。
「まさか、今のが全力か?」
俺が口を開くと、グレルはこちらにがんを飛ばす。
「なわけねぇだろ。」
そう一言だけ呟いて、彼は手のひらに、新たなる炎を生み出す。
まるで粘土をかき混ぜるかのように火の形を変えてゆく。
「俺様の実家は炎の名家だ。代々火属性魔法の扱いに長け、炎だけで今の地位を獲得した。まあ、家は嫌いだが、それでもこの能力は気に入っている。」
手元の炎は次第に形のある物へと変化していく。
ただの丸い火は、羽を生やし、顔を形成し、灼熱の鳥へと変貌を遂げた。
「なんせ炎は当たるだけで勝てる。魔力量の多い俺様にこれ程相性のいい魔法は存在しねえッ!」
グレルは炎で作られた鳥の羽を横方向へと伸ばしていく。
会場の端から端まで、炎の羽で埋め尽くされた。
魔力量に物を言わせた物量攻撃だ。
これだけの量の炎を操るにはかなりの集中力と技術を要するはず。
しかし、グレルはけろりとした表情でこれを行っているのだから恐ろしい。
まあ、魔力使えないから、今彼がやっていることがどれほどの難易度なのか俺にはわからないんだけどね。
「もう一度言うぜェ、エスタ。降参するなら今の内だ。」
「まさか。撃つならとっととしろ。」
「ハッ! 死んでも後悔すんなよッ!」
グレルは俺の言葉に触発されて言い残す。
瞬間、彼の右手を中心に形作られた炎の鳥が打ち出された。
「『獄炎鳥!』」
炎で形成された鳥はこちらに向かって突進する。
速度は先の炎弾程は無い。
しかし逃げ場所のない広い範囲での魔法だ。
非常に厄介極まりない。




