14.昇格! 狩りランクⅡ
昨日と同じように授業が終わると、暇な時間が到来した。
四人でご飯を食べ終えて、寮に帰ってきた後、俺はナルキと一緒に自身の部屋に戻る。
「なんか、オルエイって思ってたより時間を持て余すな。」
俺がそう言うと、ナルキが返す。
「まだ戦闘訓練が始まってないからじゃ無い?」
「まあ、放課後丸々空いてるしな。そうだ! 暇だし狩りに行かないか?」
「ごめん、僕はちょっとパスで。」
「なんだよ、やらないといけない事でもあるのか?」
「うん、ちょっとね。王都の方に用事があるんだ。」
なんだか歯切れの悪い返事だった。
「じゃあ、もう行かないといけないから。」
そう言うとナルキは簡易的な荷物だけ持って寮を出ていってしまった。
取り残された俺は、一人でベッドに横たわる。
ローズマリーなんかは昨日実家に手紙出しに行っていたし、暇な俺がおかしいのだろうか?
やることのない俺は、一人で狩りに行こうかなと考えていた。
とりあえず、体を起き上がらせて、部屋の端に置いてある剣を持つ。
後は、狩りの受付所に提出をするカードをポケットの中へ入れる。
よし、行こうと思って扉を開けると、目の前に俺と同じく武装をしたシアがちょうど歩いていた。
「シア?」
「あ、エスタ。今から何しに行くの?」
「狩りをしようと思って。」
「へえ〜、エスタもなんだ。」
「『も』ってことはシアも?」
「うん、ちょうど狩りをしようと思ってたとこなんだ! これは運命だね、結婚しよ!」
「結婚はしないが……ローズマリーはどうしたんだ?」
「野暮用だって、王都に。」
「へえ〜。」
王都に、か。
ナルキも王都に用事があるって言って飛び出していったな。
もしかして、そういうことか?
俺が思考を巡らせていると、シアが提案してくる。
「ねえエスタ、せっかくだから一緒に狩りしよ!」
「ああ、いいぞ。元々ナルキを狩りに誘ってたくらいだしな。」
「やった〜、じゃあ、さっそく行こ行こ!」
シアは嬉しそうな様子で狩りの受付所へと足を進めた。
俺はシアと2人で狩りをするとこになった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「おめでとうございます。お二人の生徒ランクがIからIIへと昇格しました。」
受付へ到着して狩りの申請をするなり、突如係の人にそう言われた。
「やった〜、昇格だって、エスタ!」
「早いな、まだ一回の狩りしか行っていないのに。」
俺がそう言うと、係の人が説明してくれる。
「低ランク帯は魔物のレベルが低く設定されているので、既に魔物との戦闘経験がありそうな生徒はすぐに昇格させるようになっているんです。お二人はたった4時間で合計100匹もの魔物を狩っているので、昇級に値すると判断されました。このまま頑張れば、すぐにでもランクⅣ辺りまで行けるでしょう。」
そう言われて少し嬉しくなる。
「ではカードの提出をお願いします。返却の際にランクの更新をさせて頂きます。」
俺とシアは、それぞれ自身のカードを取り出す。
そしてカウンターに置くと、受付の人が回収する。
「もうランクⅡのエリアへ行ってもいいんですか?」
俺の質問に係の人は頷いた。
「ええ、構いません。ただしランクⅠのエリアにいる魔物と比べると凶暴な個体が多いので、お気を付けください。」
それを聞いておれはシアに話しかける。
「じゃあ、今日はランクⅡエリアに行かないか?」
「いいよ。エスタと狩りできるなら、どこでも大歓迎!」
ひとまず、受付カウンターでやることは終わったので、おれ達は受付を出て、歩きながら場所を決めることにする。
俺は、ポケットサイズの地図を広げて、シアに見せる。
「ランクⅡのエリアっつっても、結構いろんなエリアがあるな。」
「青の森に、ラザール湖、ノノイラ廃街、あとチカルタ遺跡?」
「どこに行きたい?」
「どこでも。ラザール湖だけは嫌かな?」
「じゃあ、ノノイラ廃街に行かないか?」
「いいよ、そこにしよう!」
おれ達はノノイラ廃墟に移動する事になった。
エリアに到着すると、おれは言葉を失った。
何故なら、そこにはひとつの大きな街があったのだ。
既にボロボロで、今にも崩れ落ちそうだが、しっかりと家の形をした建築物が辺り一面に広がっている。
道路を突き破って木があちらこちらに生えていて、その周辺には雑草や苔が点々とある。
その完成度には感服だ。
まさか、学園の敷地の中にこんなしっかりした街があるなんて。
改めてオルエイという学園の凄さと規格外さを実感した。
「想像していたよりちゃんと廃街だな。」
おれがそう言うと、シアは淡々と返事する。
「だってあのオルエイだよ〜。こんなのは序の口。」
そうなのか…
これよりも力の入ったエリアがあるなら俄然、やる気が湧いてきた。
「じゃあ、ぼちぼち狩りを始めようか。」
周囲を見渡しても、あまり魔物は見つからない。
しかも、あちらこちらに建っている家達が邪魔して、奥が見えない為、魔物探しには苦労しそうだ。
前回の赤の森は比較的狩りをやりやすい場所だったことを実感させられる。
ひとまず、おれ達は魔物を探す所から始めることにした。
家の中や、裏側など、一軒一軒みて魔物が隠れていないかを確認する。
案外見つからないものだった。
ランクが上がると、魔物の出現率はさがるのかな?
そんな事を考えていると、さっそく見つかった。
「なあ、あれ。」
おれがそう言うと、シアも頷いた。
「ゴブリンだね。」
視線の先には家の窓があり、その先に4匹ゴブリンが固まって家の中でくつろいでいた。
2匹は棍棒をもっていて、1匹はクロス棒、もう1匹は特に何も持ってはいなかったがグローブのような物をはめていた。
全員地面にねっ転がっていたり、椅子に座ったりしてリラックスしている。
「人型か……」
「面倒だね〜」
魔物には主に3種類の生物的な分類がある。
一つ目は獣型。
最も普遍的で、種類も生息数も多い型だ。
普通の動物に魔法適正を足しただけの生物で、大体は四足歩行をする。まれにいるトカゲ型の魔物や、虫型の魔物などもこちらに含まれる。
二つ目は無機質型。
本来なら存在することすら有り得ないような魔物がここに分類される。
スライムなどがこれだ。
もはや生物としての体を成しておらず、何故これで生きていられるのかがよくわからない魔物達である。
大抵何かしらの強みと弱点がはっきりしており、対処が楽なので普段狩りをする人からは最も好まれる。
三つ目は人型。
その名の通り、人の形をした魔物だ。
二足歩行をすることが多い。
しかし、二足歩行でも獣型と分類される個体もいるのでなかなか区別がつきにくい。
一番の特徴は知性の高さだ。
人型の魔物は知性が高く、考えて戦闘を行う。
また武器を所有するのも厄介な点だ。
三つの分類の中では最も戦いずらく、また故意に人的被害を出して来るので、多くの人に嫌われる。
ゴブリンはこの人型に該当する魔物だ。
というか、人型魔物の中でも最も代表的とされることが多い。
小汚く、醜い見た目からも、特に嫌われている。
戦うとなれば面倒な戦闘が予想されるが、身体能力はさほど高く無いので大丈夫だろう。
「どうする? おれが特攻してこようか?」
「うん、うしろからサポートするよ。」
「了解。」
そんなやりとりを交わすと、おれは思いっきり窓を突き破って、中へと侵入する。
ガラスの割れる音でこちらに気づいたゴブリン達が一斉に襲いかかって来る。
まず一番前にいた一体を横から切断。
すぐに2匹目からの攻撃が来たので、振り翳される棍棒を剣で受け止めて、右肩から斜めに斬る。
瞬間、シアが火魔法でクロス棒を持った個体を撃ち抜いた。
「ナイス!」
おれはそう言って最後のグローブをはめたゴブリンを横から斬った。
格闘技を使うゴブリンだったのだろうが、武器の前では無力だ。
そうしておれ達は4匹いたゴブリンを討伐した。




