13.我らがクラス委員長!
夜、日課である剣の素振りから戻って来ると、不意に、寮の裏側のなかなか見えづらい所から声が聞こえた。
「こんなの横暴だ!」
かなり大きな声だったで、気になって物陰に隠れながら覗いてみる。
すると、そこには金髪イケメンの一人の少年をグレルとその取り巻きが囲んでいた。
何事だろうか? なんとなく察しはつくが……
「君達にそんな権利はないよ!」
金髪の男の子はグレルに向かってそう叫ぶ。
一方のグレルは涼しそうな顔をして彼を見ていた。
「テメェ、ローズマリーみてぇな事言うやつだな。権利ならあるさ、俺様はてめぇより強ぇ。この国は強ぇ奴が正義なんだ。」
平然とそう言う彼には一切の悪気など無さそうだった。
ただ当たり前のようにその価値観を言うだけ。
それにしても、揉めている原因はなんだろうか? おそらく金髪の子がお金を払わなかったとか、そんなとこだろうか。
グレルは続ける。
「テメェはFクラスにいる限り、俺様のルールに従わなくちゃならねぇんだよ。」
「断ったら?」
金髪の少年がそう言うと、突如グレルの右拳が彼の腹へと炸裂した。
本気の一撃だ。魔装込みで殴っていて手加減など微塵もない。
殴られた男の子は思いっきり腹を抱えて地面に倒れ込む。ついでに嘔吐する。
生身でくらったら、相当きつい一撃だろうことは側から見てもわかる。
男の子は倒れたきり、全く動かなくなってしまった。
グレルは男を見下しながら、自身の手下に指示を出す。
「こいつの金を根こそぎ持ってけ。」
すると手下達は、言われた通り全く動くことの出来ない男の子を漁り始め、金を徴収する。
流石に割って入ろうかと迷ったが、おれは貴族に関わった人がどんな目に遭うのか知っていた。
ここで突っ込むのは無謀だ。
グレル達がこの場を去るのを待つ事にした。
物色が終わると、やつらはすぐに撤退する。
倒れ込んだ男の子の方は完全に放置だ。
グレル達が完全にいなくなったのを確認すると、おれは金髪の男の子に声をかけに行った。
「大丈夫か?」
俺がそう言うと、彼は頑張って仰向けになる。
「ちょっと大丈夫じゃないかも……」
「とりあえず、安静にしとけ。痛みが治まったら肩を貸してやるから。」
「ありがとう。」
そう言われると、なんだか体がむず痒くなった。
「礼は言うな。おれはお前が殴られている所をただ見ているだけだった。」
「君、最下位の子だよね。」
「ああ。」
「じゃあ仕方ないよ。」
仕方ないというのは、勝てるわけ無いし怖いだろうから仕方ないという意味だろう。
余計に体がむず痒くなる。
「てか、俺の事ちゃんと認識してたんだな。」
「席順でクラス順位はわかるからね。一番上と一番下の子の顔は覚えてるよ。」
「一番下って覚えられるのなんか嫌だな……」
「はは、ごめんごめん。」
男の子は乾いた声で笑う。
「あんた、名前は?」
「カオ。君は?」
「エスタだ。」
「よろしくね、エスタ。」
「こちらこそ、よろしく、カオ。」
この後おれはカオを介抱して、少し仲良くなった。
☆★☆★☆★☆
次の日の一限目だ。
「本日は、クラスの委員会決めを行います。」
ナートル先生が教壇に立つなり、そう言った。
委員会というのは、あの委員会だ。学級委員だの、風紀委員だの。
やるだけ時間を取られるし、なにしろ面倒くさいが、何故か率先してやる人が後を経たない例のあれだ。
先生は続ける。
「オルエイ高等学園の委員会は、全てで5つあります。学級委員、風紀委員、文化委員、保健委員、体育委員。各男女一人ずつの参加が義務付けられていますので、クラスの半分の生徒は参加を強制されます。内申点の加点もありますので積極的に参加してください。ではまず、学級委員をやりたい人は挙手してください。」
ナートル先生がそう言うと、一人の女子が手を挙げた。
紫髪で黄色目をもった可憐な美少女。とても真面目そうな雰囲気を持っている。
「あなたは、エリーゼさんですね。他にやりたい人はいらっしゃいませんか?」
先生がそう言うも、誰も手を挙げなかった。
「では、女性側はエリーゼさんで決定致します。」
その言葉を聞いて、エリーゼはガッツポーズをする。
そんなに学級委員をやりたかったのだろうか。
一方でナートル先生は困ったような表情を浮かべた。
「しかし困りましたね。男性側がだれも挙手しないとは。やりたい方は本当におりませんか?」
やはり誰も手を挙げない。
「仕方ない……」
その様子を見た先生は急におれを指さして爆弾を落としていった。
「ではエスタ君、あなたがやりなさい。」
「え、おれですか!?」
「誰もやりたく無いらしいので、順位最下位のあなたが引き受けるべきです。」
「はあ?」
委員会に順位もクソもないだろ。
「あの……拒否権は?」
「ありません。どうしてもやりたく無いならクラス順位を上げなさい。」
「ひでぇ……」
「ではこれからの司会は学級委員に決まった二人に任せましょう。二人とも前へ出てきて自己紹介を。」
何故か、俺が学級委員に決まってしまった。
前へ出ると、一緒に学級委員になることが決まったエリーゼがクスッと笑った。
そして小声で話しかけて来る。
「災難だね。」
「ほんとだよ……」
「私エリーゼ、よろしくね。」
「おれはエスタだ。こちらこそよろしく。」
おれ達は軽い自己紹介をすると、委員会決めの司会を務めた。
委員会決めは案外早く終わった。
仲のいい人だと、ナルキが保健委員、ローズマリーが風紀委員、カオが文化委員になっていた。
委員会が決まり終わると、少し早めの休み時間に突入する。
おれは流れでエリーゼと会話を交わす事になった。
「エスタ君はどこ出身なの?」
「アースティン近くの村だ。」
「うそ、アースティン!? じゃああたしと結構近いかも。あたしネビロ出身なの!」
「すぐそこじゃないか!」
アースティンというのは街の名前だ。
王都からちょうど北側にあり、国境付近だからかかなり栄えていて大きい。
またネビロというのも街の名前で、アースティンの隣にあり、観光地として比較的有名だ。
「北側から来てる人は少ないから珍しいな。」
「本当だね〜。私もここまで近い人は初めて見た。」
国一番の高等学園であるオルエイには、当たり前だが全国規模で生徒が集まって来る。
特にこの魔族国家ギャラバンは両脇に大国があるおかげで、東の方と西の方に人が集まっていて、おれ達の出身地周辺は人が少ない。
だからおのずと同郷やその周辺の出身は珍しくなる。
「あ〜でも、アースティンといえば、やっぱりあの人だよね。」
エリーゼが何かを思いついたように言う。
「あの人?」
「ほら入学試験、主席の。」
「ああ、アーシャ。」
「そうそう! 100年に一度の逸材といわれるギャラバンが誇る天才。」
《氷の白姫》ことアーシャ。
その才能はとてつもなく、将来は魔王になるだろうと言われている天才だ。
昔、とある事件に巻き込まれた影響で周囲に心を閉ざし、滅多に感情を出さないことからついた異名が『氷』。
その実力は、齢15歳にして既に魔王の直属の部下、四天王に及ぶとされている正真正銘の化け物。
「同郷だと目にする機会とかあるの?」
「ああ、よく見るよ。あれは怪物だな。」
「やっぱり凄いんだ。あたしも見たいなあ。」
「見れるさ、きっと。」
休み時間おれ達はたわいも無い会話をする。
これから一緒に学級委員をやる者同士だ。
少しだが、エリーゼと仲良くなれた気がする。




