11話 探索者高校の就活事情
夏休みも終盤に差し掛かるこの時期は、探索者高校3年生にとって焦りを覚える時期であった。
探索者高校を卒業するためには、探索者ランク四級に昇級する必要がある。“卒業するまで”なのでまだまだ余裕はあるのだが、その前に彼らには就活が待っていた。
探索者は探索者ギルドに所属することが一般的だ。探索者ギルドとは探索者を支援したりドロップアイテムの管理を行う、いわば探索者が所属する会社のようなものだ。
探索者ギルドに入ることのメリットは多く、ギルドのランクによって探索者協会から優遇措置が受けられたり、ギルド管轄のドロップアイテムである装飾品や武器を借りることもできる。
ドロップ率1%のアイテムをパーティで揃えることは難しくとも、ギルドで複数のパーティーが活動していればそういった希少なドロップ品も揃えることができる。序盤のアイテムをギルドの新人に回し、自分たちも先達がゲットしたアイテムを使用する。そういったアイテムの有効活用、循環が行われるのだ。
それだけでなく、ダンジョンではいかに多くの情報を持っているかも重要だ。情報一つで命が助かることも、効率よく稼ぐことだってできる。そういったギルドで蓄積してきた情報があれば、効率よく稼いで成長することだって可能だ。
ギルドに所属するデメリットは報酬の一部をギルドに納める程度で、得られる恩恵の方が多いとされている。もちろん、自分の成長限界までギルドで効率よくレベル上げをしてもらい、すぐにギルドを脱退して別のギルドに所属したりフリーで活動する場合は、多額の違約金が必要になることもデメリットではある。
だが、ほとんどの探索者は探索者高校を卒業するとともにギルドに就職を行う。自分たちでギルドを興すことも、パーティ単位で探索を続けることもできるが、そんな探索者は滅多にいない。
高校卒業と同時に会社を立ち上げるか既存の会社に就職するかであれば、圧倒的に後者が多いだろう。ダンジョン探索がソロでは厳しいように、パーティだけでやっていくのも難しい。
特にステータスについてはやり直しが効かないため、探索者の育成にノウハウがある企業に入ることのメリットは計り知れない。そんな諸々の理由から、探索者のほとんどはギルドに所属していた。
そんなギルドへの就活は、探索者高校3年生の夏休み明けから秋にかけて行われる。その時までの探索実績にレベルとステータス、発現したスキルから探索の方針、筆記試験から実技試験まで諸々含めて評価されるなかなか厳しい就活となる。
厳しい理由は、探索者が度々起こす問題が原因だ。
探索者はレベルアップによりステータスの上昇や能力による摩訶不思議な力を手に入れることができる。ステータスアップの恩恵は攻撃力や防御力の上昇だけで、心までは鍛えてくれない。心が未熟な者に過ぎた力が渡れば、その先に待っているのは不幸な結末だけだ。
馬鹿にされたことに腹を立てて殺してしまう者。自分の思い通りにならずに腹を立てて家や店を燃やしてしまう者。強い力をちらつかせ、周囲を虐げヤクザの様に恐喝・強請りを行う者。学生時代に虐めてきた者たちに復讐する者。
そういった者たちが未だに後を絶たないのがこの世界の現実だ。そして、そういった者を取り締まることが難しいのも、また実情でもあった。
レベル100程度までであれば対処できる。探索者の多くは成長限界が100前後であり、レベル100の壁を越えた犯罪者であろうとも、同じレベルの探索者を揃えて捕まえることも殺すこともできる。
だが、レベル150を超えるとほぼ捕まえることはできなくなってしまう。対抗できる者がいなくなってしまうからだ。
もちろんレベル150を超える者もいるにはいるが、彼らはモンスターを倒しダンジョンを探索するためにレベルを上げているのだ。決して人間を捕まえるためではない。
それほどのレベルになればお金で動くこともなければ、お互いがお互い手を出さないような暗黙の了解が出来上がっている。
モンスターであれば情報はあるが、人間が相手であれば奥の手を隠していることも少なくない。格下相手や人数を揃えてタコ殴りできる状態でもなければ、ほとんどの探索者が探索者を相手にすることを嫌がるのだ。
かといって、警察や自衛隊がそこまでのレベル上げができているかというとそうではない。そのため、探索者は一定以上のレベルに達すると治外法権となってしまうのが今の世界的な問題であった。
そんな状況だが、身内のギルドで犯罪者が出た場合、最も苦労するのが所属先のギルドだ。
レベル150以上は無法地帯と記載したが、そのレベルの探索者は少数しか存在しない。レベル150を超えると一級探索者に昇級し、その上のランクは特級となる。一級探索者の下は準一級探索者と呼ばれているが、そこまで合わせても探索者の総人口から見れば1割を切っている。探索者の中でもエリート中のエリートのランクである。
多くのギルドは三級、二級の探索者が所属している。そんなギルドに所属している探索者が犯罪を犯せば、締め上げられるのはギルド側だ。納める税率が変わったり、探索者ギルドでの優遇措置を禁止されたり、希少なアイテムの売買が禁じられたりと様々な締め上げをくらう。
逆に罪を犯した探索者は罰金を払うことはあっても懲役を科されることはまずない。
探索者は探索者法と呼ばれる特殊な法律が適用される存在だ。強すぎる力とそれによる国力強化への恩恵を加味され、探索者を優遇するための法律である。探索者法は差別だとか違憲だとか世論では度々問題視されているが、それでも探索者を優遇しなければ国が傾くため今の今まで改正されることなく続いている。
そんな取り締まれない探索者をどうすればよいか考えた結果、同じ探索者に管理させればいいという発想が探索者ギルドの発端でもある。探索者ギルドも探索者法のおかげで通常の企業よりも税制が優遇されるなど恩恵を受けている。代わりに、先ほど述べた様に身内に犯罪者が出れば締め上げられるのはギルド側だ。
ギルド所属の探索者が犯罪をして困るのは、他のギルド職員である。事務職員などは言わずもがな、他の探索者もペナルティを受けて収入が減ったり、めんどくさいアイテム収集の依頼を受けざるを得なくなるなど被害を被る。
そうなると、それを犯した探索者に制裁を加えるのも当然の流れ。力を持つ探索者も、さすがに同じギルドの同レベル帯の探索者に詰められれば従わざるを得ない。それに、あまりにもギルドで手に負えないと判断すれば、ダンジョン内で始末することも度々行われていたりもする。
ギルド制度によって探索者の力を分散させ、どこかのギルドが国家に反旗を翻そうとも他のギルドが制圧することができる。ギルド制度により探索者を社会の枠組みに取り込むことで、探索者をただの会社員にまで収めることができたのだ。
つまり、国は国にヘイトが向かないように探索者ギルドを矢面に立たせ、内々で罰してもらうというのが今の探索者の管理の仕方であった。
そんな背景があるため、探索者を雇用するギルドは厳格に探索者の素質を見極める必要があった。自分たちのギルドのレベルまで成長することが可能かどうかや、組織になじむことができるか性格面を判断したり、むちゃな探索をして早々に死なれてしまわないかダンジョン探索での様子を観察する。そして、犯罪行為に手を染めていないか、きちんとギルドで縛り付けることができるかをしっかりと見極めるのだ。
そんな就活が控えている探索者高校3年生が注力することは、いかに自分を高く売るかだ。探索者にとって一番自分の価値を誇示することができるのは、現在までのレベルとステータスの高さである。ステータスは他者に見せることができないため偽装しようと思えばいくらでもできるが、ダンジョンでの戦闘実施訓練を見れば本当にそのステータスかどうかは簡単に見分けられてしまう。それに、学校側からもどの程度のステータス値かも提出されているため、乖離があればすぐにばれることになる。
ステータスの偽装は命に係わる重大な虚偽に当たるため、偽装が明るみに出ればギルドへの就職が不可になるだけでなく、探索者協会からの締め出しや懲役を科されることもある。探索者高校の生徒であれば高くてもレベル30~40程度であるため、ダンジョンでレベル上げを行っている警察や自衛隊でも十分対応できることから、懲役を科されることもあるのだ。
そのため、ステータスを高くするためには純粋にダンジョン内でリスクをとってステータスを盛る必要がある。今までの努力が如実に表れるのが、探索者高校の就活であった。
そんな就活を控えた探索者高校3年生であるParksは、今日もダンジョン探索を行っている。場所は1層3区。いつも通りの探索ルートで安定した探索を行っていた。
「もう夏休みも終わっちゃうね」
「これから就活だと思うと気が重いよ」
槍を携えた戸吹と上柚木が連休の終わりを嘆いている。
「俺らなら大丈夫でしょ。予定通り夏休みで3区も卒業できるし、二級探索者ギルドに入れるだろ」
「今日で俺ら全員レベル40になったし、やっぱり明日2層行った方がいいんじゃないか? そっちの方が就活にも有利だろうし」
小宮が楽観的に返事をすれば、長沼が不安げに提案してくる。1層3区では、出現するモンスターの最大レベルはエリアボスを除けば40までだ。2層1区に進む場合は、1層3区でレベル40まで上げきることが推奨されている。
「2層には進まないって何度も話し合っただろ? 焦って2層に進めばリスクがでかい。2層探索は就活終わってからだよ。な、陵南?」
「ああ、富士森の言う通りだ。むしろ、ここで2層を探索した方がリスク管理のなさを指摘される可能性もある。不安なのはわかるが、俺たちなら問題ないから心配するな」
富士森と陵南が励ましの言葉を贈る。陵南が言う通り、最前線組のようなリスク上等ステータス優先のようなギルドでもなければ、焦ってリスクをとる探索者の方が嫌われる。
ギルドからすれば、社員である探索者が死ぬことを何よりも避けたい。仲間が死んでしまうという情によるものもあるが、探索者を人的資本と考えた際の損失がかなりでかいのだ。
探索者一人育てるのにかなりの資金を投資することになる。探索者の装備は高額な物がほとんどで、死んでしまえば本人はおろか装備も返ってくることは滅多に無い。怪我をすれば治療も必要で、ポーションも高額だし回復魔法使いがいなければ高額な治療費が請求されることも少なくない。探索者高校の場合は怪我をしても無料で探索者協会に所属している回復魔法使いが治療してくれるが、ギルドに入るとその限りではない。
ギルドにとって、探索者は無事にノルマをこなして帰ってきてくれることが何よりも重要なのだ。自分の力量を見極め、分を弁えた探索ができる探索者を求めている。
「だよな。ごめん話蒸し返して」
「いいって、気にすんな。不安なのは一緒だしな」
Parksは探索者高校の中でも実力が高く、2区での挫折を機に堅実な探索をするようになったことで、ギルドからしたらかなり優良物件だ。Parksのように学年で上位の探索者パーティはどうしたって自分たちの実力に天狗になっている部分があり、英雄願望を捨てきれない探索者が多いのだ。それを込みでギルドは受け入れ、教育に力を入れていくことが多い。
しかし、Parksは挫折をしたことに加え、上の学年には一級探索者ギルドに所属を決めた、陸前希凛の姉のパーティである禍火累々がいた。身近に本物の天才を見ていたことで、英雄願望に折り合いをつけることはそう難しくなかった。
陵南が言う通り、Parksであれば希望の探索者ギルドに就職することができるだろうが、それでも確定する前は不安なものは不安である。
「けど、長沼の意見も一理あるよな。予定よりも早くレベル40まで上がれたし、明日は2層について調べる日にしないか?」
「あー、探索はしないけど調べるだけはしておくってこと?」
「そうそう。2層も調べてるけど、リスク管理でまだ探索は控えてるって言った方が評価高いんじゃね? 1層はもう終わって、次に進む準備してますって感じで」
小宮の提案に、みなが頷いて同意を示す。
「それいいな。それなら就活終わった後もスムーズに2層の探索に入れるしな」
「そーそー。どうせレベル40になったら3区探索する旨味少ないし、『付出の証』粘るのはきついしな」
『付出の証』は幕下蛙がドロップするブレスレット型の装飾品で、ステータスの体力と防御を25ずつ上昇させるアイテムだ。優秀なアイテムだがドロップ率は渋く、1%程度と言われている。
そんな激渋アイテムだが、Parksは運よく1個だけだがゲットすることができ、ドロップした陵南が装備していた。幕下蛙は序ノ口蛙よりも強く数を狩ることが難しいため、渋いドロップアイテムを求めて狩りをすればかなりの時間をとられてしまう。
それであれば、2層の探索準備に時間を割いた方がいい。2層からは宝箱も出てくるため、『付出の証』と同程度のアイテムを入手することも難しくないからだ。
「どうする?」
「そうだな。最近探索も順調でレベルも上がりきったし、小宮の案を採用するか」
「おお! じゃあ今日最後なんだし、ドロップ期待して狩っていくか!」
盛り上がる一同は、いつものルートを歩いてゆく。死角も少なく、不意打ちを受けないルートだ。
「狂乱蛇擬だな」
「幕下蛙もいるね」
「待って、狂乱蛇擬二匹いない?」
「ほんとだ。合計3匹だな」
狂乱蛇擬は褐色を帯びたオリーブ色で草と同化して擬態しているモンスターだ。慣れれば離れていても見つけることができるようになるが、最初は発見に苦労する3区で活動する探索者の天敵だ。
「俺と戸吹、富士森と上柚木が狂乱蛇擬。小宮と長沼が幕下蛙だ」
「俺が最初タゲとるよ」
「おっけ。任せるわ」
陵南が指示を出せば、長沼がタゲ役を買って出た。陵南と富士森はカイトシールドを携えたタンク役で、戸吹と上柚木は槍でリーチを活かした攻撃を行うため、役割が決まっている。一方、小宮と長沼は同じラウンドシールドに片手剣を携えており、どちらが前を張るかすり合わせておく必要があった。
全員が全員自分たちの役割を認識しているため、言葉少なく陣形も整えてゆく。
「さ、アイテムが出ることを願っていこうか」
3区の探索を締めくくるべく、Parks達はモンスターへ挑んでいった。




