↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第十章 幼子の終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/245

9話 探索者高校の一幕

 探索者高校は文字通り探索者を育成するための高等学校である。探索者にとって最も大切なパーティメンバーを組む授業から始まり、ダンジョンでの立ち回り、基礎トレーニング、各モンスターの特徴など探索者としての基礎を学ぶことができる高校である。


 そんな探索者高校2年のクラスでは、ダンジョン産アイテムの授業が行われていた。


「このように、普及魔材と希少魔材では特性が異なり、使われる用途も変わってくる。普及魔材と希少魔材、特性が違うのは当然として、探索者の視点では何が違うかわかるか? 山田」


「え~と、普及魔材が1~3区のモンスターからドロップする素材で、希少魔材が4区5区のモンスターからドロップする素材です」


「そうだ。知っての通り、4区5区は強力なモンスターが生息する危険地帯。しかし、希少魔材も無くてはならないアイテムだ。携帯電話に使われていることは知ってる者も多いだろうが、それ以外にも最先端の医療装置を含め多くの用途に希少魔材が役立てられている」


 電気以上に魔石が普及している日本。火力発電をはじめ、日本中の電力を賄うには電気を生み出すために多くのCO2を排出する必要がある。しかし、魔石はモンスターを倒すだけで得られるクリーンなエネルギーだ。そのため、ダンジョン保有国は率先して魔石をエネルギー源として活用していた。


 そんな日本にとって、魔力の伝達を効率よく繊細に伝えることができる希少魔材はまさに必須の素材であった。探索者向けの武器や防具のためではない。日々の暮らしを豊かにするために必要なのだ。医療装置に半導体製造装置、魔石自動車やロボットにも、多くの分野で幅広く使われている。


「そのため、準一級探索者以上ともなれば、協会から希少魔材の収集依頼が課せられるようになる。もちろん各ギルドで割り振られるし、ギルド内でも所属するパーティで持ち回るからそう頻繁に依頼が来ることは無いだろう。しかし、依頼が来ないということもまたありえない。危険なダンジョンのさらに危険な区域に行かなくてはならないんだ」


 準一級ともなれば、エリアボスとも戦ってきたような優秀な探索者だ。しかし、それでも4区5区は敬遠される。理由は二つ。単純にモンスターが強いことと、出現するモンスターのレベル差が大きいという点だ。とはいえ、レベル差の部分は何とかなる。4区5区での目的は素材採取。レベル上げではないのだ。そのため、そのエリアの最大レベルのモンスターが相手でも対処できるエリアを選べばよい。


 しかし、単純に出現するモンスターたちが強いのが難点であった。もちろん1~3区に出現するエリアボスよりは弱い。だが、エリアボスであれば全てのリソースを使い全力で倒しても問題ないが、通常モンスターが相手であれば魔力を温存しながら戦う必要があるのだ。何故なら、いたる所に同じ強さのモンスターがいて、連戦することだって考えられるからだ。たった一回の戦闘で魔力の大半を消費してしまっては、すぐに撤退するしかなくなってしまう。


 そして、モンスターを倒すのに手間取れば別のモンスターがやってきて連戦。それが重なれば魔力切れや、最悪逃げ出してモンスタートレインとなってしまうことも考えられる。


 だからこそ、今のトップ探索者たちは1~3区のエリアボス周回をしているのだ。エリアボスは強いが通常モンスターはそこまでの強さではないため、全力でエリアボスと戦うことができるから。


「上位の探索者となるためにはリスクの高い探索が必須になるだけでなく、こうした危険な役割も与えられる。そんな探索者が命がけで集めてきた素材で、日本は発展してきた。だからこそ、探索者は敬われ、探索者自身も先達に恥じぬよう自分を律する必要がある」


「先生。狂鬼は5区で活動していますよね? 狂鬼のように5区で活動する探索者のおかげで、他の探索者の希少魔材のノルマが減ることは期待できますか?」


「現時点では無理だな。まず、狂鬼一人で希少魔材の供給量を満たすことは難しい。そして何より、狂鬼はモンスターをあまり倒さない。動画外で倒しているかもしれないが、少なくとも動画ではモンスターの多くをスルーしている。あれでは希少魔材の安定供給を期待することも難しい」


 狂鬼チャンネルでは通常モンスターと戦うシーンがほとんどない。観察することはあれど、普通のダンチューバ―が行うようなモンスターとの戦闘がないのだ。代わりにエリアボスとの戦闘を配信しているが。


「狂鬼がモンスターをスルーする理由は、強くなるためだ。トップ探索者が1~3区のエリアボスを周回してレベルを上げるように、狂鬼はそれを5区で行っている。つまり、狂鬼に成長限界が訪れ、日本のためにあの強さを遺憾なく素材集めに使うのであれば、希少魔材の供給はかなり落ち着くだろうな。それか狂鬼が動かずとも、狂鬼の影響を受けた探索者が4区5区の探索へ続くのならば、それも期待できる」


 エリアボスと戦うことのない探索者ならば通常モンスターを倒し続ける。しかし、良質なステータスを求める探索者は通常モンスターばかりでレベル上げをすることは無い。そのため、準一級以上の探索者となれば、成長限界の兆しが見え始めてようやく、通常モンスターのアイテムを得ることがメインとなるのだ。


「狂鬼は極端な例だが、プロの探索者と呼ばれる者たちはただ強ければいいわけではない。安定して素材を持ち帰ってくることも、強くなることと同じぐらい重要だ。魔石、素材、それらを探索者が安定して供給しているからこそ、今の世の中があるのだから。希少魔材だろうと普及魔材だろうとな」


 強い探索者はたしかに必要だ。だが、それと同じくらい安定してアイテムを持ち帰る三級、二級探索者も重要である。日本の基盤は彼らが支えていると言っても過言ではない。そして重要な点は、二級、三級の探索者であってもダンジョンでは命がけということだ。レベル差があるモンスターからはアイテムがドロップしないため、彼らは通常モンスターであろうとも死ぬ気で戦い続けていることに変わりはない。


 エリアボスを倒せるから上なのではない。レベル200を超えれば偉いのではない。同じように死ぬ気で戦い続け、ローテーションを組みひたすらダンジョンでアイテムを持ち帰り続ける彼らもまた、この国にとってなくてはならない存在なのだ。


「ん、時間だな。それでは、課題をだすぞ。来週のこの時間までに、普及魔材と希少魔材の日本における取得割合、およびそれぞれの魔材が使われている製品や活用事例をA4レポート1枚にまとめてくること。いいな?」


 課題に対し非難の声が上がるが、教師は特に気にしない。いつものことだ。


「それから、もう6月だ。夏休みにはギルドへのインターンがある。そろそろどのギルドに行くか目星をつけておくように」


 そう言って教師は終了の挨拶を日直に依頼する。


「あ、そうだった。陸前《りくぜん》。話す事があるから、支度が終わったら職員室まで来てくれ」


「わかりました」


 陸前希凛(きりん)が返事をし、この日の授業は終わりとなった。




 ◇




 希凛が職員室へ行くと、担任に連れられ別室へと連れていかれる。


 希凛は真っ白な髪にピンクのメッシュが入ったド派手な髪色をしていた。耳にはこれでもかとピアスが空けられ、学校だというのにちゃんとピアスも着けられている。そんな見た目をしているから職員室に呼び出されたかというと、そういうわけではない。


「何の話かは分かってると思うが、確認だ。提出された探索スケジュール、本当に4区のエリアボスに挑むつもりか?」


 座るや否や、教師が切り出した。


「もちろんです。そのためにここまでやってきたんですから」


「それはわかってる。そもそも4区を探索しているだけでお前らの凄さは十分知っている」


 けどな、そう繋げながら教師が希凛の覚悟を問う。


「4区のエリアボスとなれば3区までとは一線を画す。何故トップギルドが4区5区の探索を捨てているか、君ならわかるだろ」


「だからこそ価値があるんですよ、先生」


「……狂鬼の真似をするな。そう言えればどれだけ楽だったことか」


 そう言って、教師は一枚の紙を取り出す。それは希凛が1年の時に提出した、zooの3年間の活動予定が描かれた資料であった。1年目のパーティづくりの課題の一環として、パーティ内で探索者高校3年間をどう過ごすかを提出するものがある。無茶苦茶なスケジュールを提出する者は指導の対象になるし、3年修了時に立てたスケジュールと比較することで、自分たちのスケジュール立案の課題を見つける狙いがあるのだ。そして、スケジュールを共有することでパーティ内の共通認識となり一体感を生むこともできる。


 そんなzooが提出した3年間のスケジュールには、探索者高校三年の卒業時、1層5区のエリアボス全てを倒すと書かれていた。


 そう。彼女たちは鈴鹿の影響を受けて1層4区を探索しているのではない。もともと、そう予定していたのだ。今では狂鬼チャンネルによって4区5区が身近に感じられるようになり、今年の新入生の中にも狂鬼を目指し5区のエリアボスを倒すと豪語している者もいる。だが、zooたちは自分たちの目標のために4区5区を探索することを決めていた。その覚悟の差は歴然だ。


「ただ、あまりにも前のめりが過ぎる。この予定表にもあるが、4区のエリアボスに挑むのは年末を想定していたはずだ。今はまだ6月。急いては事を仕損じる。この場合、失うのは仲間の命だぞ」


「わかっていますよ。みんなもね。それでも、私たちは進むと決めたんです。鈴鹿ちゃんに影響を受けていることは否定しませんが、さすがに分別はつきます。だからこそ、私たちは未だ1層4区を探索しているのですから」


 教師からすれば、2年生になったばかりで4区のエリアボスに挑もうとしているのはあまりにも性急すぎると言わざるを得ない。狂鬼の影響を受けてスケジュールを早めるのは危険だと注意するのも当然だ。だが、希凛から言わせればそれは違う。鈴鹿を目指すのならば、今頃1層5区のエリアボスに挑んでいなければ到底たどり着くことはできない。


 希凛たちは自分たちがやれることをキチンと理解し、その上で無理な探索をした結果が、当初のスケジュールを半年早めるというものなのだ。決して自分たちを過信している訳でも、無謀な探索に挑んでいる訳でもない。


「情けない話、私では君たちがエリアボスに挑むことが適切なのかどうかもわからない。所詮は二級探索者だ」


 担任は存在進化をすることはできたものの、その先へ挑むことはできなかった。エリアボスに挑んだことすらない。ただ、教員として知識は持っている。エリアボスに挑むということがどういうことかを。


「君たちはギルドに所属していない。その意味を理解したうえで、エリアボスに挑むと言うんだね?」


「当然です。対策装備を揃えるどころか、エリアボスの情報すら未確定です。プロの探索者から見れば、何とも危険な探索だと叱責を受けることでしょう」


 ギルドに入るメリットは、蓄積された情報と歴代のギルド員が集めた対策装備の恩恵を受けることができる点だろう。どんなエリアボスが相手なのか事前に知っていれば、立ち回り含め事前にシミュレーションすることができる。そして、そんなエリアボス相手に有効な装備を整えることができれば、戦いを有利に運ぶことができるのだ。


 しかし、希凛たちはまだ学生であり、ギルドに所属している訳でもない。そうなれば、十分な対策を用意するどころかエリアボスがどんな攻撃をしてくるかもわからない不確定要素が多すぎる探索となる。一つのミスが死に繋がるようなダンジョンで、何も対策できないエリアボスに挑む。それはあまりにも危険だ。


「ならせめてギルドに所属したらどうだ? zooならば一級はもちろん、特級だろうとも受け入れてくれるはずだぞ」


「それは求めていません」


 きっぱりと、希凛がその提案を固辞する。


「この無謀ともいえる探索をしていて、最近分かってきた気がするんです。探索者とは何なのかを」


 何も情報がない危険なエリアを手探りで探索するのは、まるで常にモンスターの手のひらにいるような言いようのない感覚である。そして、地上に戻った時の膝が抜けるほどの安堵感。精神が研ぎ澄まされ、集中は極限に達し、自分自身の存在能力が広がってゆくのが分かるのだ。


 ギルドに入れば装備も情報も探索スケジュールさえ決めてくれるだろう。あとは何も考えずひたすら探索ノルマをこなすだけで済む。それは探索者にとって一つの理想の形かもしれないが、希凛はそんな飼い殺しのような探索者を目指してはいない。鈴鹿のように、探索者は自由のはずだから。だからこそ、ギルドに入らず4区を探索しているのだ。


「この感覚を失うわけにはいきません。止まることはできないんです。私たちは、進み続けることでしか強くなることはできないですから」


「そうか……。ダンジョンに行くという意思を止めることはできない。私は教師である前に探索者だからね。ただ、理解しているだろうが今回の探索は死ぬ確率が高いはずだ。遺書を更新するなら忘れないうちにな」


「みんなにも伝えておきます」


 探索者高校では、1年時に皆が遺書を書いている。ダンジョンでは何が起こるかわからないための準備だ。探索者に命の危険はつきものである。それを明確に自覚させるためにも、遺書というのはわかりやすい手段であった。


「以上だ。君たちに英雄の加護があらんことを」


「ありがとうございます」


 そう言って、颯爽と部屋を出ていく希凛を、担任は眩しそうに見送った。




 ◇




 猫屋敷《ねこやしき》薫(かおる)が帰り支度をしていると、クラスメイトが話しかけてきた。


「ねぇ、にゃあちゃん! 回復魔法の使いどころ教えて!」


「ん? いいけど」


 黒紫色のツインテールを揺らしながら、猫屋敷は話しかけてきたクラスメイトに向き直る。猫屋敷も希凛同様バチバチにピアスを付けており、メイクも地雷系を彷彿とさせるばっちりとしたものをしていた。


 そんな猫屋敷に、クラスメイトが相談を持ち掛ける。


「私まだ魔力低いから回復魔法ぽんぽん使えなくて、いつも出し渋っちゃうんだよね。だから戦闘中に回復魔法を使うタイミングとかあれば教えてほしいんだ。にゃあちゃんはどうしてる?」


「なるほどね。僕も最初は苦労したよ。特に毒魔法と併用しなきゃいけなかったしね」


 低レベル時の魔力量は低い。その中でやりくりして魔法を使わなければ、すぐに魔力切れとなってしまう。そのためクラスメイトは戦闘時に回復魔法を渋りがちになってしまうが、それでパーティが崩壊したら本末転倒である。


「僕は基本、ワン子にしか回復魔法を使わないんだ。タンク職だから一番ダメージを受けやすいってこともあるけど、小鳥は避けるからダメージ受けないし、希凛は上手く立ち回るからね」


「あっ、そっか。にゃあちゃんのところは小鳥ちゃんいるもんね。アタッカーが小鳥ちゃんだと回復も必要ないんだ」


 小鳥は小回りが利くアタッカーであり、回避特化のタンクともいえる存在だ。ダメージをもらいやすい前衛である犬落瀬と小鳥では、犬落瀬を注視していればよい場面がほとんどである。そのため、回復要員としては気にかけることが少なくていいともいえる。


「基本的にはね。でも、僕らは四人だから一人でも欠けたらかなり不利になる。だから、みんなの動きが鈍らないように回復魔法をかけるんだ」


「わかる! 私もそうしたいんだけど、どうやって動きが鈍ってるって判断するの? 回復魔法かけないと遅いって怒られるし、逆に舎弟狐《しゃていきつね》に殴られたからヤバいと思って回復魔法かけたら、今のは大丈夫とかいうの。意味わかんなくない?」


「あ~、まぁ正解はないよ。これやればオッケー何てことはない。だから僕はみんなの動きを覚えてるんだ」


 そう言って、猫屋敷が自分がしていることを説明する。


「まず、ドローンの映像を何度も見直す。そうして、ワン子ならこう動く、小鳥はここで止まらない、希凛はこういうタイミングで攻撃する。そういった癖を覚えるんだ。で、それがワンテンポでも遅れていたら回復魔法を使う」


 この攻撃を喰らったら回復魔法を使うというような定義はない。ダメージを受けるごとに回復魔法を使っていれば、本当に大事な時に魔力が枯渇してしまうから。


「単純にダメージはダメージでも動きに支障が出るものとそうじゃないものがあるでしょ。殴られて痛いだけならいいけど、当たり所が悪くて痺れて動きに支障が出るなら回復魔法が必要になる。こればっかりはパーティメンバーの動きを覚えないといけないし、何度も失敗を繰り返して覚えるしかないよ」


「えぇ~、にゃあちゃんでもそうなんだ」


「そうだよ。何度も繰り返して覚えるしかないんだ。ただ、ある程度の使うべきシーンはあるよ。授業でもやったけど―――」


 クラスメイトに回復魔法の使いどころを教えながら、猫屋敷は自分たちの成長を実感する。たった1年ちょっとだが、パーティメンバーとは濃い時間を過ごしてきた。どんな攻撃が不味い攻撃かなど、仲間の様子を見ればすぐにわかる。


 僕たちは確実に成長している。そう自分を安心させるように、クラスメイトに授業でやった内容をかみ砕いて説明するのだった。




 ◇




 探索者高校には一風変わった部活も多い。魔法を研究する部活もあれば、剣術や槍術など武術を鍛える部活もある。そんな多種多様な部活の一つ、魔道具開発部に犬落瀬《いぬおとせ》優梨愛(ゆりあ)はいた。


「いや~やっぱ希少魔材は全然性能が違うね。これは魅力的だよ」


 計器からの反応を見ながら、犬落瀬が部員と結果について考察し合う。探索者高校は学歴を問わないため、ダンジョンで強ければいいんだろと、やんちゃな者や脳筋の者が多い。そんな学校でガチガチの理系が集う部活は、探索者としてはいまいちな人間が多く集まっていた。いまいちということは、容姿もそこまで整っていない者たちとも言い換えられる。


 そんな中、犬落瀬は群を抜いて探索者として優秀であり、それ故に容姿も抜群に整っている。亜麻色の髪を一つ結びにした犬落瀬は、切れ長の目をした高身長のモデルのような女性だ。あまりにも突出しているがために、男子部員たちは自分では釣り合わないと身を引いており、恋愛のゴタゴタが一切ない健全な部活となっていた。


 そんな犬落瀬の前には電子回路のような物が配線だらけで置かれており、部員たちが計測器の反応をメモしている。それは魔石をエネルギー源に動作する魔石回路の一種であった。それが二つ。他の部員が計測器に繋がる配線を付け替えると、先ほどまで滑らかだった数値にノイズが混じりだした。


「うん。普及魔材と比べるとこれだけロスが少ない。その分魔石を長く使うことができるね」


「それだけじゃないよ犬落瀬さん。見て、こんな少し触れただけで値が凄い変動するんだ」


「うはっ、こりゃピーキーだね。希少魔材だらけの装置ができないわけだ」


 希少魔材は魔力ロスが少なく非常に感度が高いが、その感度の高さが時として邪魔をすることもある。抵抗となる素材を入れ替え、魔力を光に変換するセンサや距離を測定するためのセンサなどを繋ぎ変え、皆であれ試そうこれ試そうと思い思いに素材の特性を確認する。


「ほんと犬落瀬さん様様だよ。探高生で希少魔材使った実験してるのなんて、八王子くらいじゃない?」


「いや~、4区探索しててよかったですよ先輩。やっぱり資料で知っていても実際遊んでみると衝撃が全然違いますからね」


「希少魔材を使ってロボコンとか出てみます? 滅茶苦茶難しそうですけど、はまれば誰も勝てませんよ」


「扱い難しいからね~。でも、せっかくの希少魔材だし魔道具コンだけじゃもったいない気もするよね」


 全国の魔道具開発部をターゲットにした魔道具のコンテストが探索者協会主催で行われている。アイデアだけのコンテストもあれば、実機を作りその性能や創造性を評価する項目など、企業も協賛するほどのコンテストだ。八王子探索者高校でも毎年出ているが、今年はそれだけじゃもったいないんじゃないかと部員同士で話し合う。


 ロボコンは高専と探校生のみが参加できる魔材を使用したロボットコンテストで、お題を達成するためのロボットを作り上げて競うのだ。基本的に専門性の高い高専の方が有利ではあるが、探高側は素材をふんだんに使用することができるため、たまに全国出場する探高もあったりする。


「ロボコンは厳しいんじゃない? ロボコンってエンジンの性能を比べるような単純なコンテストでもないし、希少魔材使ったからって勝てるわけじゃないよ」


「たしかにねぇ。魔道具は得意でもロボットとなるとまた勝手も違うか」


「いやいや、希少魔材を使ってるんだぞってことをアピールしてこうよ! 犬落瀬さんたちの存在を世間に知らしめるいい機会だよ!」


「それはちょっと……あ~でも希凛はそれの方が嬉しいのかな?」


 犬落瀬はロボットの性能じゃなく使っている素材をアピールするような真似はしたいと思わないが、目立つというのはいいことだとよく希凛も言っていた。


「ちょっとうちのリーダーに聞いてみますよ」


「ああ、頼む!」


「希少魔材をアピールしたいなら、どっかの高専とコラボすればいいんじゃない? 素材提供先としてうちの高校の名前もロボットに書いてもらえばよくない?」


「天才か君は」


「それより、希少魔材を使った今年の魔道具案練りましょうよ~。こっち疎かにしたら本末転倒ですよ」


 高校生にとって夢の様に貴重な素材を前に、皆テンションが上がっているようだ。あれもしたいこれもしたいと意見を出し合いながら、zooが持ち帰った希少魔材を前に魔道具の案を出し合うのだった。




 ◇




 探索者高校のグラウンドで、新田《にった》小鳥(ことり)は木製の槍を持った男たちに囲まれていた。


 小鳥は小柄なため、遠目で見れば小学生にも見えてしまう。オレンジ色の髪を大きな三つ編みに結び、探高のジャージに身を包みおどおどしている。そんな小鳥が鍛え抜かれた益荒男《ますらお》たちに囲まれている様子は、普通に通報されかねない現場であった。


「今日こそ一発当ててやる」


「そ、そうですね。あ、当てられるように頑張ってください」


「くっそ! 行くぞお前ら!!」


 男の合図をきっかけに、小鳥に向かって各々が攻撃を仕掛ける。槍を突き出す者もいれば、振り下ろす者もいる。タイミングをずらしながら小鳥の動きを先読みして槍を突いたが、まるで軟体動物のようにぬるんと避けられてしまった。


「お、遅いですよ」


 そう言って易々と懐に入り込んだ小鳥は、一人の太ももを木刀で斬りつける。木刀とはいえレベルの高い小鳥の一撃だ。太ももを切られた男はもんどりうちながら転げまわっている。


「くっ!! 怯むな!! 休む暇を与えるんじゃない!!」


「こ、これじゃ、い、息も上がらないんですが……」


 小鳥に煽られ青筋を浮かべながら、男たちが槍で小鳥を攻撃する。背後から攻撃をしようとも、避けた直後に突き込んでも、まったくもって当たる気がしない。


 一人、また一人と地面に男が転がされる。最後に残った男が悲鳴にも似た雄叫びを上げながら小鳥の顔めがけ槍を突くが、穂先が掠っただろと思うほどの近さで小鳥は避け、最後の男も仲間たちと共に地面に転がした。


「が、頑張ってください。せ、先輩方」


「いや、頑張れってお前……。なんで攻撃当たらないんだよ」


 八王子探索者高校の武道系部活に所属する者にとって、新田小鳥とは最悪な人物であった。ある日フラッとやってきたと思えば、『み、みんなで私にこ、攻撃してください』と訳の分からない依頼をされ、こうして返り討ちに遭わされるのだ。今日は槍術部だが、昨日は剣術部が被害を受けている。


 小鳥は曲芸師と呼ばれるレアスキルを発現している。曲芸師は身体操作や身体強化に補正が入り、曲芸のようにどんな攻撃も回避することができるスキルである。これは職業スキルと呼ばれており、暗殺者や狩人のように、いくつかの効果が得られるレアスキルの一種である。そんなレアスキル持ちは滅多にいないため武術系の部活の生徒も小鳥を受け入れるが、毎回ボコボコにされてしまうのだ。


「どんな奴ならお前にダメージ入れられるんだよ」


「zooのメンバーが相手ならどう? 勝てるのか?」


「え、み、皆が相手ですか? う~ん、わ、私もダメージを受けると思います。けど、さ、最後は勝つと思いますよ」


 猫屋敷は魔法系がメインだが、意地は凄まじいので簡単に倒すことはできない。犬落瀬はタンク職なので攻撃を当てることは至難の業だが、犬落瀬の攻撃もまた小鳥を捉えることができないだろう。希凛は何をしてくるかわからない不気味さがあるため、一番やりにくい相手である。


 それでも、最後に勝つのは自分であると小鳥は言い切る。ちなみに、zooのメンバーに同じ質問をすれば、猫屋敷以外は各々自分が一番強いと言うだろう。


「さ、た、立ってくださいみなさん。こ、今週は頑張らなきゃなんです! れ、練習に付き合ってください!」


「はぁ、しょうがねぇ。やるぞお前ら。八王子探高一の探索者の依頼だ! 男魅せるぞ!!」


 そう言って気合十分に立つ男たちだが、数分後にはまた転げまわるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うーん、やっぱり見てて思うけど動物園組は特級にはなれても、その先に行ける人間じゃないな。 全体的にしょうもない。 飽くまで一般探索者の上位互換。 別物レベルじゃない。 主人公達には釣り合わないな。現状…
キャラのそれぞれをわすれてしまってた。 麒麟でギリよ。 読み返さないとだな
パーティメンバーの様子を見て回復かけるとか、鈴鹿には無理そう 下手したら欠損してても放置するくらいしそう まあ鈴鹿パーティは「死ななきゃ安い」くらいのスタンスになるのかもしれませんが そういえば鈴鹿…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。