19話 鳴鶴の依頼
香川県。言わずも知れたうどんの王国で、鈴鹿は今日も美味しいうどんをいただいていた。
「美味すぎる。なんなんだこのコシ。どうなってんだこれ」
噛んでも歯を跳ね返すほどの弾力。出汁の利いたスープと絡み、ネギやショウガの薬味が食欲を刺激する。半分ほど食べたところで七味をかければ、これがまたいいアクセントになって無限に食べれてしまう。
鈴鹿はチェーン店のうどん屋さんも良く行っていて美味しいと思っていたし、なんなら冷凍うどんでもコシがあって美味しいと思っていた。だが、これは別格だ。美味すぎる。
鈴鹿はとり天、ヨキはかき揚げ、灰ヶ峰はサツマイモのてんぷらをチョイスし、朝からうどんを堪能する。
「さすが峰だよ。灰ヶ峰コレクション侮れんな」
「ですね。昨日のカツオも美味しかったですし」
「情報誌に載っている店だからな」
昨日はダンジョン探索を終えて地上に戻ってきた日だ。灰ヶ峰に付いて行けば、これまた最高のお店を紹介してくれた。初日のひろめ市場で食べたカツオも絶品だったが、店内で味わう至高のカツオも格別だった。ミョウガやニンニクと共に塩を付けて食べるカツオの美味いこと美味いこと。至福のひと時だった。
市場の喧騒の中で味わうカツオも、落ち着いた店内でダンジョンの疲れを癒す様にしみじみと味わうカツオのフルコースも甲乙つけがたい。
四国と言えば他にも骨付き鳥や宇和島の鯛めし、四万十の鰻に鳴門金時など美味しいものがいっぱいある。困った。ダンジョンに行っている場合ではないかもしれない。
ダンジョンでカツオの藁焼きでもやってみようかな。今は水魔法があるから手が汚れてもすぐ洗い流せるし。そんなことを本気で考えている。
「今日の夜は骨付き鳥食べない?」
「骨付き鳥ですか?」
「うん。なんかでっかい鳥のお肉食べるの。美味しいみたいよ」
「わかった。店は見繕っておく」
安心と信頼の灰ヶ峰だ。任せておけば万事OKである。今日は高知から車も出してもらっているし、灰ヶ峰がいてくれてとても助かっている。誰だ灰ヶ峰を殺せと言う視聴者は。殺すわけないだろこんな有能な仲間を。
お昼もうどんかなぁ。そんなことを考えながら、鈴鹿は依頼を受けていた鳴鶴の本社へと向かうのだった。
◇
鳴鶴。その歴史は高知ダンジョンの誕生と共に始まった。高知ダンジョンからダンジョンのアイテムを入手し、徳島にあるダンジョン産アイテムの素材加工メーカーが原料となる魔材を製造、香川にある鳴鶴が開発設計からデザインまで行い、愛媛の今治にて美しい染色を施した丈夫な防具を作成する。素材調達から加工製造まで一貫して四国で行う鳴鶴は、品質の高さが評価され探索者から高い支持を得ているメーカーだ。
武器製造に関しては行っていないものの、防具以外にも探索者用のアイテムの製造や探索者クオリティのアウトドア用品の販売など、堅実にラインナップを増やしているメーカーでもある。
そんな鳴鶴の開発者である栗林は、同僚と共に緊張してその時を待っていた。
「おい、本当に狂鬼が来るのか?」
「ああ、一昨日連絡があったからな。今日の10時に来られるそうだ」
「栗林、お前狐に化かされてるわけじゃないよな? 疑っちゃいないが、さすがに疑いたくなる内容だ。わかるだろ?」
それは栗林も同感だ。逆の立場なら頭がおかしくなったのかと休暇を勧めていただろう。栗林も勧められた。
現在栗林たちは、大規模な開発を行っていた。堅実で名高い防具メーカーである鳴鶴らしくない、大胆な新製品の開発を。それがパワードスーツであった。
内容はいたってシンプル。彼らが得意とする防具に、身体強化と同様の効果を施す機能を持たせるというものだ。これを魔石という外部からの動力提供で実現させることで、低レベルの者であっても探索者に対抗できる力を付与することができるのではないか。その思いを胸に、彼らは開発を行っていた。
世界でも研究が盛んに行われている、スキルを必要としない能力の行使。彼らが行っているパワードスーツ作りもその一つである。
通常探索者用の防具には魔力親和性の高い魔材を使用することで、魔力の通りを良くすることが求められている。これにより探索者が身体強化をする応用で防具にも魔力を通し、防御性を高めることができるのだ。鳴鶴はそれを外部からの魔石を使用することに加え、攻撃力まで上昇させられる製品の開発をしている。
当然一筋縄ではないかない。世界各国が開発を進めている分野であり、一つの技術開発をきっかけに日進月歩の目覚ましい発展が期待できる分野である。
鳴鶴は本来このような基礎研究ともいえる段階のものに開発リソースを割く様なメーカーではなかった。数十年先を見据えた開発ではなく、粛々と目の前の製品の性能を上げていく。そこに力を注ぎ続けた結果、今の確固たる地位を築くことができた。
それなのになぜそんな大掛かりな開発を手掛けるのか。それは昨今の探索者による犯罪が原因である。
探索者起因の犯罪は今だろうと昔だろうと多かった。しかし、最近では組織化が進み、より大胆化してきていた。最たる例は蜥蜴だろう。広島や出雲のダンジョンを支配下に置き、東アジアへと不正にアイテムの横流しや外国人のレベル上げなどを行っていた。そのせいで被害に遭っている者も多く、泣き寝入りしていたケースがなんと多いことか。
ひとえに探索者に対する国家の力不足。探索者協会による探索者の取り締まり強化も進められているが、昨今の世界的に見られるダンジョン産アイテムの需要増加により、探索者を多く治安維持にまわすことも難しい。
そもそも、探索者による大きな犯罪であれば協会に所属する探索者や、警察組織に所属するレベルを上げた特殊部隊が対応する。規模によっては要請を受けたギルドが当たることもあるだろう。だが、今問題になっているのは全国に広がる細かな探索者犯罪の問題だ。
蜥蜴の様に特級探索者がいるため手を出せないのであれば、鳴鶴も声を上げられない。しかし、探索者が起こす各地の犯罪に対しては、改善するために鳴鶴が声を上げたのだ。全国にいる警察官の能力を向上させるためのアイテム開発。これにより、探索者崩れによる犯罪を警察が取り押さえられるようになるだけでなく、収容施設で暴動が起きようとも対処できるようになる。探索者にも厳罰を。それが鳴鶴が目指す社会であり、彼らの製品で実現したい世界であった。
鳴鶴は探索者向けのアイテムの製造メーカーであり、探索者によって成り立っている企業だ。だからこそ、一部の素行の悪い探索者や探索者崩れのせいで、探索者全体が悪く思われることを防ぎたいと考えていた。その一助が、このパワードスーツである。命がけの探索をせずとも探索者崩れに多いレベル50前後と同等まで能力を向上させる。これによって探索者に対する国家機関の人手不足を解決し、適切な管理を行える社会を実現するのだ。
まだまだ試作も試作であり道は険しいかもしれないが、彼らは寝る間も惜しみ製品開発を行っている。
そんな時、川崎の悲劇が起こってしまった。このパワードスーツができていれば被害をもっと抑えられたかもしれない。だというのに、自分たちはどれだけ検討しても製品化どころか機能の確立すら目途が立っていない。どうすればいいか。世界各地の論文を読み漁り、出願された特許とにらみ合い、それでも行き詰まりを感じていた時に、栗林は出会った。世間を騒がせている一匹の鬼に。
初めは確信が持てなかった。栗林は娯楽として狂鬼チャンネルを見ているだけで、狂鬼のファンかと言われると違う。ただ、強い探索者については開発に活かせる可能性もあり、狂鬼はスキルの開示などオープンなところが多いため参考として欠かさず見ていた。
だからこそ、栗林は行きつけのうどん屋さんで朝食を取ろうと立ち寄った時、店内に灰ヶ峰がいたことに失礼を承知で何度も見てしまった。あいつは狂鬼チャンネルに出ていた男だと。
食事をしているのは三人。一人はヤクザである黒髪の男、もう一人は美しい竜の女性、そしてパッとしない地味な印象を受ける少年だった。明らかに子供が異質であった。容姿に優れる力を持った探索者二名に囲まれた少年。その少年に対する女性の態度。灰ヶ峰が一緒にいる点。そこから、最初はヤクザの組長の息子かなんかかと思った。
だが、少年に対して強い違和感を覚えた。見るのを止めうどんを食べ出すと、途端に少年の顔が思い出せなくなる。もう一度見れば、ああこんな地味な感じだったなと思い出せるのだが、また見なくなると忘れてしまう。普段なら気にも留めないかもしれない。けれど栗林の頭の片隅にあった、狂鬼なら何でもありかもしれないという思いが、その違和感を見逃さない。
栗林が気づけたのは彼が開発者として常にデータと向き合い、少しの変化ですらきちんと理由付けをして地道に堅実に研究を進めていたからに他ならない。そして、狂鬼ほど卓越した強さを持つ探索者であれば、彼の研究を進める一助になりえるという確信が、彼に一歩を進ませた。
もしかしたらヤクザの組長の息子かもしれないのに、ヤクザを壊滅した狂鬼と間違われたとわかれば不興を買ってしまうかもしれないというのに、狂鬼であると確信があるわけではないのに、栗林は賭けに出た。ハイリスクハイリターン。普段なら絶対にしないだろう賭けだ。けれど、日本をより良くしたい、早く治安問題を解決したい。その思いが、栗林の背中を押したのだ。
「きょ、狂鬼様が守衛所にお越しになりました!」
総務の方が正面玄関口で並ぶ栗林たちに報告する。車で来られるということだったため、彼らは正面玄関で待機していた。時刻は9時55分。1~2時間は遅れてくるかもしれないと思っていたが、時刻通りだ。
「社長、よろしくお願いします」
「あ、ああ。大丈夫だ。栗林さんも、狂鬼さんと会った時は誠実な印象だったのだろう?」
「はい。歳は15~16歳のはずですが、随分大人びた対応を受けました」
「よ、よし。せっかくの栗林さんが掴んだチャンスだ。みんな、気合入れるぞ」
総務部部長や技術部部長、デザイン部部長から社長までが一堂に会している。できるだけ緊張を与えないために人数を絞り、かといって軽んじていないことを表すためにそれなりの人数で狂鬼との会合に臨む。
栗林含め、この場にいる全員が緊張していた。
彼らは仕事柄探索者と会う機会が多い。しかし、今から会うのは特級すらも超えたレベルの探索者。超越者たる剣神達に並び立つ者だ。
社長ともなれば一級どころか、特級である藤原と会ったこともある。探索者にまつわる防具メーカーとして、東京で開催された会議で同席したのだ。ただ、藤原のような探索者たちはギルドに所属している。いわば企業の会長のような存在だ。企業に所属しているというだけで一定の信頼が担保される。
しかし、これから来る狂鬼はギルドにも所属していない探索者だ。どんな人物なのか。不安を抱くのは当然だろう。
そんな鳴鶴の面々に向かって、狂鬼たちがやってくる。今日は変装するスキルを使っていないのか、一度だけ配信で出した美しい顔のままだ。
「あ、どうも初めまして。狂鬼と言います。……これって本名名乗った方がいいですかね?」
「いえいえ、問題ございません。ようこそ鳴鶴へお越しいただきました。私が鳴鶴で社長を務めております―――」
社長が狂鬼へと挨拶し、応接室へと向かう。部長などが名刺を渡す中、狂鬼は自身が名刺を持っていないことに恐縮していたのが印象的だった。ギルドにも加入していない15、16の子供が名刺を持っている方がおかしいが、狂鬼は『やってしまった。作っておけばよかった』と意気消沈していた。
鳴鶴の会社紹介や現在開発している製品について説明し、本日どんな評価をするか、どんなデータが欲しいのかを説明してゆく。狂鬼は適宜疑問点などを聞きながら、こんなデータはいらないのかなどコメントまでくれた。
これには一同も思わず安堵する。狂鬼が協力的だとわかったからだ。
人となりもわかっていないギルドにも所属していない特級探索者など、どんな反応を見せるか不安でしょうがない。相手はあの狂鬼なのだ。噂が本当であれば、国家ですら手を焼いていた特級を擁する探索者崩れのヤクザ組織を一夜で皆殺しにした探索者である。それによって救われた人たちが大勢いることは理解できるし、これによって治安が改善していくだろうことはわかるが、それでもたった一人で巨大組織を殺しつくしたという事実は、どうしたって不安を抱くものだ。
それが、蓋を開けてみたら年相応に素直でいて、対応も目の付け所も大人びてさえいる。会社概要などの子供にとってつまらないかもしれない内容も、興味深く聞いてくれる。それでいてずば抜けた強さであるため取れるデータの質も期待できる。上役の中で栗林の今季のボーナスの成績が高くつけられることが決まった瞬間であった。
「じゃあ狂鬼さん、データの測定を始めても大丈夫ですか?」
「了解です」
そういって、栗林含め開発者たちが狂鬼を連れてゆく。
データ取りをする前に契約について決めたのだが、ひと悶着あった。狂鬼が法外な値段を突き付けてきたわけじゃない。むしろ逆だ。狂鬼含めヨキという女性と灰ヶ峰という元ヤクザ3人分のオーダーメイドのジャージを作るだけで、データ取りの報酬はいらないと言い出したのだ。
当然そんな訳にはいかない。むしろ服の部分はお礼としておまけで無料でもいいくらいなのだ。さらにデザイン部長がここに来て攻めだした結果、狂鬼コラボジャージとして売り出す許可すらこぎつけたので、さらに金額が発生することになる。社長の顔が金額どうなっちゃうのと悪くなりだしたが、狂鬼は相場もわかんないからと灰ヶ峰に委ねた。
結果、狂鬼は四級探索者なので、四級探索者相当に支払うお金で構わないと破格の条件を突き付けてくる始末。いいアイデアだと褒める狂鬼とは別に、さすがに適正価格を逸脱した取引は容認できない鳴鶴。結果、一級探索者相当と見込んでデータ取りは300万円、ジャージのコラボ企画料として300万円の計600万円という狂鬼のブランド力に対して破格の結果に終わった。
一級相当と考えれば妥当だが、狂鬼を起用するというのはそんなレベルの事ではない。鳴鶴が狂鬼と繋がっているという事実は、とんでもない宣伝効果に繋がるだけでなく、他の企業に対する大きすぎるアドバンテージとなるだろう。
狂鬼とコンタクトを取れる立場にいる者は、不撓不屈についでの立ち位置を確保したということだ。企業としては初のコラボであり、狂鬼紐づきの企業という圧倒的な立場を確立できる。その効果はたった600万円では済まない額ではあるが、『鳴鶴のジャージは気に入ってるからオーダーメイドしてくれるだけで元取れてる』と大変嬉しいことを言っていただき、この価格で契約となった。
「実験室ってこんな感じなんですねぇ。めっちゃ整理されてる」
「5Sは徹底していますから。では、こちらも取り付けますね」
魔力の流れを読み取ることができるボディスーツに着替えてもらい、ボディスーツと計測器を接続していく。イメージはモーションキャプチャー用のボディスーツだろうか。ただし、カメラで読み取るようなことはせず、全身に這いまわされている魔材の脈動を読み取ることで、探索者の魔力の流れを測定することができるのだ。
「先ほども説明しましたが。高すぎる魔力が流れると計器に悪影響を与える可能性がありますので、全力での魔力解放はご容赦ください」
「って言っても一級の人くらいの魔力ならいけるんですよね? ギリギリを攻めるつもりはないですが、高かったら教えてください」
「もちろんです。では身体強化に意識して魔力を流してもらえますか?」
栗林の言葉を受け取り、狂鬼が身体強化を発動する。食い入るようにモニターを見ている開発者一同。その誰もが、その得られた波形に唖然とする。
「は? おいおいおい。まじかよこれ」
「いや、凄い……なんでだ? こんなノイズが乗らない魔力初めて見たぞ」
ざわつきだす栗林たち。それに不安を覚えた狂鬼が声をかけてきた。
「えっ、すみません。出力高すぎました? かなり抑えたと思ったんですけど……」
「あ、ああ! 出力は全然大丈夫です! ただ、得られた波形があまりにもノイズがのっていなかったので驚きました」
「ノイズ?」
そうノイズだ。そして、このノイズのせいで魔力の解析の障壁が高いとも言われている。
この魔力測定スーツ然り、魔力を測定する時には大抵ノイズがのる。心電図のように周期的なデータの上にノイズがのっているのならば除去できなくはないが、まったくもってランダムな波形が取れてしまうのだ。正直言ってデータを取ることさえ無駄なのではと思えるほどノイズが混じる。ノイズについても解析は進められているが、未だ糸口は見つけられていない。
わかっていることは、魔力操作のレベルが高いほどノイズが減るということだ。つまるところノイズとは魔力ムラであり、魔力の損失の結果としてノイズが発生するのだ。
このノイズがかなりの曲者であった。ノイズの除去など、今日日研究されつくした分野でもある。不鮮明な画像のノイズを除去するように、様々なフィルターを駆使すれば魔力のノイズなど除去できそうではあるのだが、そうはいかなかった。
魔力はこの世界由来のモノではないためか、法則性が違うのだ。魔力の揺らぎやインパルス応答のような外れ値のようなものが実は大切であったりと、これまでの常識とは違う見方が必要であった。だからこそ、魔力操作のレベルが高い探索者のデータを研究者たちは欲していた。
そんな彼らからすると、狂鬼の魔力データは常識外の数値であった。まったくのノイズの無い、美しい波形。正直、このデータだけでうどん三杯は食える。
探索者相手にスキルの詳細を聞くのはマナー違反であるとわかっていつつも、狂鬼の魔力操作のレベルを聞きだしてみたいと思わずにはいられない。データの信憑性には測定者の魔力操作のレベルが必要不可欠なのだ。だが、論文に記載してしまえば広く狂鬼のスキルレベルが広まってしまう。彼らは研究者ではないのだ。開発者なのだ。であれば、必要なのはデータが有益かどうかというだけ。狂鬼のデータと社内でわかっていれば、信憑性が担保されているも同然だろう。
「ノイズがのってないってことはいいデータってことですよね? じゃあどんどん取っていきますか!」
「お、お願いします! まずは身体強化を維持しつつ、防御を固めるイメージで魔力を操作できますか?」
その後も何パターンもデータを取得した。研究者であれば垂涎もののデータだ。動作一つ一つで魔力の揺らぎも変化する。同じ動作を何度もすれば、その法則性も見いだせる。さらに狂鬼は雷魔法も扱えるため、雷魔法による強化まで同時にデータが取れてしまうのだ。
特に貴重だったのが、身体強化のレベルの高さだろうか。魔力操作によってノイズがのっていないだけでなく、施された身体強化もまた一般的な強化魔法の度合いと比較して圧倒的に微細なものであった。普通であればノイズでつぶれてしまっていただろう魔力のおこりや動きを見れば、狂鬼がどれほど繊細に身体強化を行っているかが見て取れる。
栗林たちが求めているのは、パワードスーツに転用するための身体強化による攻撃力アップの魔力の動きだ。高い魔力操作に加え高い身体強化は、彼らが求めていたデータを軽く飛び越えて素晴らしいモノを与えてくれた。
同僚たちがデータに沸き立ち盛り上がっている中で、栗林は一人『600万はやっぱり安過ぎるな』と安価な金額で契約を結んだことに申し訳なさでいっぱいになるのであった。




