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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第九章 修練の3層5区

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15話 次なる拠点

 オークションによって散財し、オークションによって巨万の富を得た鈴鹿。あれだけ稼げたならあの食材も買っておけばよかったと悔いの残る結果となったが、得られた食材せんかには大満足であった。


 そんな鈴鹿だが、次なるダンジョンを求めて東京駅に来ていた。当然ヨキも灰ヶ峰もいる。


「お! これこれ! これ乗るぞ!」


 駅へとやってきたサンライズ(・・・・・)号を指差す。ついでにスマカメを使って三人で記念撮影した。見えざる手があれば簡単に写真が撮れて便利で良い。今日はパーティを組んで初めての旅行である。遠方のダンジョンへ行くのだが、鈴鹿にとっては旅行も兼ねている。


 鈴鹿は前回気に入ったサンライズを使って、また遠征に行く予定だった。しかし、何故サンライズなのか。鈴鹿はヤスと伊勢に行くと言っていたはずだ。サンライズは伊勢には行かないし、伊勢に近い名古屋にも停まらない。


「いやぁ、灰ヶ峰に聞いて正解だったわ。まさか伊勢海老が禁漁期間だとはね。盲点というか知りもしなかったわ」


 そうである。三人に次の拠点は伊勢に行こうと提案したところ、灰ヶ峰が今は伊勢海老禁漁の時期だぞと教えてくれた。伊勢海老が目的だと話していないというのに、すでに鈴鹿の思考を理解している灰ヶ峰。適応のスキルは伊達ではないのかもしれない。


 せっかく行くなら旬の時期に行きたい。なので、伊勢には観光として後日行くことにした。


 ではどこへ行くというのか。


 それがサンライズ。行先は出雲ではなく、瀬戸。そう四国だ。サンライズは出雲行と瀬戸行の2種類存在し、今回は瀬戸の方に乗ることにした。これでサンライズも3回目である。よほど気に入ったようだ。


 四国には高知に低層ダンジョンが出現している。なぜ高知を選んだかと言えば、これも灰ヶ峰のおかげだ。今は5月末。全国の低層ダンジョンで美味しい旬のモノが食べれる場所を聞いたのだ。その結果、高知のカツオを提案してくれたのが、灰ヶ峰である。


 鈴鹿は迷わず行先に高知を選んだ。高知のカツオである。食べない訳にはいかない。それに単純に四国に行ったことなかったので、行ってみたかったのだ。


「鈴鹿様、お隣にいますので何かあれば呼んでください」


「おっけー。ヨキも買った本でも読みながら寛ぎなね。灰ヶ峰は酒とか買わなくていいのか?」


「必要ない。良さそうな店でも見繕っておこう」


 そう言う灰ヶ峰の手には、四国版る〇ぶが握られている。先ほど東京駅でサンライズで読むための本を買いに行ったのだが、灰ヶ峰が特に無いと言うのでる〇ぶを買った。これ読んで美味しそうなお店とか観光地教えてくれと。


 ちなみに鈴鹿とヨキは小説を買った。鈴鹿はスポーツに情熱を捧げる話の小説、ヨキはサスペンスものだ。長距離移動の際に読むための本を探す時間が、鈴鹿のお気に入りの時間でもある。


 それぞれ飲み物や食べ物を手に、各々の個室へと入っていった。




 ◇




 サンライズ瀬戸は香川の高松まで走る寝台列車である。


「う~~ん!! いいねやっぱ! 好きだわこの電車!」


 身体のコリをほぐすように鈴鹿はのびをする。歳を取るとベッドによっては寝られなかったり身体が凝り固まってしまうこともあるが、若さと探索者の丈夫な身体が全てをカバーしてくれる。そのため、寝台列車でも快適に寝られるし疲労も残らない。


「ヨキはどう? 大変じゃない? サンライズ」


「私も楽しいですよ。なんだか遠くに出かけているんだという気分をずっと感じられて、ワクワクします」


 ヨキも気に入ってくれたなら嬉しい。こういう寝台列車や夜行バスは好き嫌いが分かれるものだ。帰りは飛行機にするつもりだが、行きから疲弊させてしまっていたら申し訳がない。


「それで観光大使灰ヶ峰さん。ここは香川だよ。俺うどん食べたいです」


「わかってる。こっちだ」


 もはや鈴鹿の行動を理解している灰ヶ峰は、観光雑誌を読んだことでおすすめのうどん屋さんまで把握してくれている。なんと助かることか。やはり灰ヶ峰は有能だ。仲間に一人は欲しい逸材である。


 灰ヶ峰が当然のように迷うことなく進んでいく。鈴鹿は地図を読めるがスマホの地図アプリが無いと不安でしょうがない。灰ヶ峰はそんなことないようだ。


 灰ヶ峰が案内したお店は、うどんの製麵所。地元密着の歴史ある製麵所なのだろう。灰ヶ峰は鈴鹿のツボをしっかりと押さえているようだ。


「100点です。灰ヶ峰さん。あんた凄いよ」


「選んだかいがあったよ」


 全然心がこもっていないセリフであるが、鈴鹿の灰ヶ峰への感謝は本物だ。うどんドロップするモンスターとかいないだろうか。いないだろうな。どんなモンスターだよ。


「俺かしわ天好きなんだよなぁ。かしわ天あるかな」


「きっとありますよ鈴鹿様」


「コロッケが有名らしいぞ」


 朝の時間帯だが、店内にはそれなりに人がいる。観光客というよりも、地元民が利用しているようだ。これから会社に行くのかサラリーマンが多い。


 セルフでうどんのトッピングや天ぷらを取っていき、お会計を済ませる。お会計が安すぎる。うどんってなんでこんなに美味しいのに安いんだろうか。申し訳なくなってくる。


「「「いただきます」」」


 朝から香川のうどんとは最高だ。やはり高知を選んでよかったし、サンライズ瀬戸に乗って正解である。


「んっ! コシ凄い! 何だこれ! めっちゃ凄い!」


 語彙が消失した鈴鹿。冷やしを頼んだのだが、あまりのコシに衝撃を受ける。生ではないのだ。しっかり茹っている。だと言うのに、茹でたのかと疑問に思うほどしっかりとしたコシが残っていた。


 鈴鹿は冷凍うどんが好きでサラリーマン時代よく食べていた。それでもしっかりコシがあるなと思っていたが、これは別物だ。うまい。凄いぞ香川。本当に香川のうどんは別物であった。


「ヨキ冷たいの食べてみるか? コシ凄いぞ」


「食べたいです。温かいのどうぞ。あ、コロッケも食べてください」


 鈴鹿と灰ヶ峰は冷やしを、ヨキは温かいのを頼んでいたので交換して食べる。鈴鹿はかしわ天、ヨキはコロッケ、灰ヶ峰はちくわ天をトッピングしている。ヨキが頼んだ温かいうどんも、しっかりとしたコシがある。どうなってるんだこのうどん。鈴鹿の理解を超えている。


「冷やし凄いですね。これは……凄いコシです」


「だよね! 凄いよこのうどん! さすが峰! ありがと!」


「高知のカツオも任せておけ」


 凄い。灰ヶ峰がいることの安心感たるや。


 鈴鹿は一人旅も好きなのだが、これは数人での旅行のメリットが遺憾なく発揮されている。灰ヶ峰が調べてくれ、三人いるから食べ物もシェアしながらいろんなものを食べられるし、素晴らしい。鈴鹿はどこを観光するのかなどルートや場所選びはできるのだが、ご飯屋さんのチョイスが苦手だった。そこを灰ヶ峰がカバーしてくれる。


 これがパーティというものか。ダンジョンでは個別でしか戦っておらずパーティ感が一切ない鈴鹿が、初めてパーティの連携を強く感じた瞬間であった。


 うまいうまいとうどんを食べる鈴鹿。そんな時、鈴鹿たちを5度見くらいする者がいた。見た目はただのサラリーマン。探索者でもないだろう。例によって鈴鹿の顔は判別できないだろうが、ヨキや灰ヶ峰は見えているはずだ。高知にダンジョンがあるからといって、香川ではあまり探索者を見る機会がないのかもしれない。二人の容姿は特級に手が届くレベルで整っているため、なおさらかもしれないが。


 早く二人にも気配遮断のスキルレベルを上げてほしいところだ。灰ヶ峰はなんか簡単に覚えそうだけど、ヨキがわかんないんだよなぁ。エリアボスと戦わせているとどんな戦闘か見れないし、困ったものである。今戦わせている辰砂大鬼しんしゃのおおおにを倒したら、次は通常モンスターに一切気取られずに辰砂大鬼小突(こづ)いてくるとか任務与えてみようかな。


 鈴鹿が気配遮断のスキルレベルが上がったのは、1層4~5区のモンスターと遭遇しないように猿猴の元に通い続けたからだ。ヨキも今度から2層3区で別れて、一人で辰砂大鬼の下まで行かせた方がいいかもしれないな。そっちの方が気配遮断とか気配察知とかスキル覚えそうだし。


 鈴鹿がヨキの更なる特訓内容を考えていると、うどんもなくなってしまった。つゆは言わずもがな、かしわ天も非常に美味い。どうしよう。また食べたい。なんで香川にもダンジョンないんだよ。香川と高知がもう少し近ければ通ったんだけど……。


「灰ヶ峰ってさ、運転できる?」


「できる」


「ダンジョンお休み期間にレンタカー借りて観光地連れてってって言ったら怒る?」


「いいぞ。またうどん食いたいのか?」


「さすが峰! うどんまた食べに来よう! あと道後温泉と祖谷いやのかずら橋も行きたいし、金刀比羅宮ことひらぐうと四国カルストも行きたいです!!」


 灰ヶ峰なんでもできる件。まぁ免許くらいは持ってるか。この前の出雲では足が無くて観光があまりできなかったからな。鈴鹿レベルなら走ってもいいのだが、道もわかりにくいしで断念したのだ。四国には長居するかもしれないな。誕生日までには帰ると思うって親には伝えていたが、余裕で過ぎてしまいそうだ。


 現在は5月末。鈴鹿の誕生日は6月6日だ。1~2週間あるが、観光もするとなると厳しいかもしれない。四国カルストではキャンプしてみたいし、道後温泉では当然お泊りしたいし、なかなかハードスケジュールである。


 しっかり予定考えないとな。鈴鹿はこのパーティのリーダーである。探索スケジュールや遠征スケジュールを決めるのは鈴鹿の役目だ。いつものようにフワッと1~2週間ダンジョン行って、気分で帰ればいいでしょは通用しない。それはソロだからこその身軽さだ。ヨキも灰ヶ峰も鈴鹿に合わせてくれるだろうが、予定も決まっていなくてフラフラされると彼らの予定も決まらないのでストレスを与えてしまうかもしれない。ある程度明確なスケジュールは必要だな。


 そう考えていた時だった、鈴鹿に声をかける者がいた。


「いきなりのお声がけ申し訳ございません。狂鬼さんでしょうか」


 そちらを向けば、先ほど鈴鹿たちを5度見していたサラリーマン風の男だった。力は感じない。探索者という訳ではなさそうだ。それなのに、こいつは鈴鹿に声をかけた。気配遮断で認識を阻害しているはずの鈴鹿をだ。


 おかしい。見破られるはずがないのだ。この男に真実を見定めるような特殊なユニークスキルでも発現しているというのだろうか。気配遮断を使用していない灰ヶ峰やヨキに声をかけるのはわかるが、認識阻害されている鈴鹿を狂鬼と見破るのは、それこそ特級でも難易度が高い所業であるはずだ。だからこそ、この男から見た鈴鹿は記憶にとどめることすら難しい印象に残らない子供程度にしか理解できていないはずである。


 何だこの男は。感じる力は一般人のはずなのに、ちぐはぐな結果に鈴鹿の警戒心が上がる。とりあえずこの手の人間は一度否定しておくに限る。


「違いますよ」


「そ、そうでしたか! お食事中だというのに人違い、大変申し訳ございませんでした!」


 そう言うと、サラリーマンはやってしまったという顔をしながら、滝のように冷や汗を流して謝罪する。その様子から、鈴鹿の断り文句を素直に受け入れたように感じられた。


 ん? なんだこいつ。どういうことだ? 山勘ヤマカンで俺が狂鬼だと思って声をかけたのか? 本当に?


 見てて気の毒になりそうなほど謝罪して席に戻ろうとするサラリーマンに、何か悪い人じゃないかもと感じて呼び止めてみる。


「ちょっと待ってください。なんで僕が狂鬼だと思ったんですか?」


 呼び止めたことでサラリーマンの血の気が一気に引いたことが見てわかった。何だこの男。何に怯えているんだ? 鈴鹿は圧を隠しているので、そんな怯えられることも無いはずだが。


「も、申し訳ありません……」


「いや、何も謝ることないですよ。なんでそう思ったのかなって疑問だったので。怒らないので教えてください」


 特殊なスキルであれば口外するのははばかられるか? 店内には数人客がいるが、サラリーマンたちはさっさと食ったら帰っていくし、誰もこちらに気を向けている様子はない。それでも虎の子のスキルを開示させるのはマナー違反か。


 呼び止めて悪かったと言おうとした時、男が切り出す。


「そ、そちらにいらっしゃる方は、この前狂鬼チャンネルに出演されておりました。その時蜥蜴というヤクザの一員だと話されております。そんな彼と一緒にいる子供というのは、一般人の子供とは考えづらいです。私からはあなたが狂鬼さんには見えませんが、狂鬼さんは高レベルのスキルを複数所持しているため、変装するようなスキルを所持していてもおかしくないのではと思い至りました。どうしても狂鬼さんにお願いしたいことがあり、一縷の望みをかけてお声がけした次第です」


 こちらが心配になるほど真っ青な顔をして詳しく教えてくれる男。理路整然としており、大変わかりやすい。そして、彼が怯えている様子もわかった。


 原因は灰ヶ峰だろう。灰ヶ峰がいたからこそ、鈴鹿を狂鬼なのではと疑うことができた。しかし、灰ヶ峰がヤクザの一員であることも理解している。つまり彼はヤクザの連れに声をかけたということだ。生半可な覚悟では声をかけられないだろう。何故なら彼は鈴鹿が狂鬼だと確証を得られていなかったのだ。それでも、先ほど話した内容から賭けに出る価値があると判断して、声をかけたということだ。


 すごいな。鈴鹿が逆の立場ならできなかっただろう。ヤクザ、それも探索者のヤクザだ。それのツレにお前〇〇か?と声をかける勇気。馬鹿が後先考えずに声をかけたというわけではない。彼は恐らく最悪のケースなども想定し、それでも声をかけたのだろう。狂鬼チャンネルで灰ヶ峰を知ったということは、灰ヶ峰たちが何をやっていたかも知っているはずだ。そんなえげつない悪党に声をかける。それも賭けで。凄い勇気だ。


 ある程度自分の中で確証は持てたのかもしれないが、それでも賭けは賭けだ。その賭けに出て、この男は当てた。それをハズレだと追い返すズルは違うだろう。


「座ってください。よくわかりましたね。正解です。僕が狂鬼です。話だけなら聞きますよ」


 そう言って席を促す。あまりにも顔が真っ青で、倒れそうだったのだ。それほど勇気を出して声をかけたということだろう。その勇気はんであげたい。それに、彼は鈴鹿がうどんを食べ終わってから声をかけてくれたことを鈴鹿は知っている。うどんを食べている時に鈴鹿たちを5度見していたし、そのあともチラチラと見ていたからだ。その心意気も気に入った。


「ほ、本当に狂鬼さんですか?」


「はい。ほら」


 気配遮断を解除する。ヨキや灰ヶ峰と同様に彼にも気配遮断を解いて見せる。レベル10に至ったことで、かなり細かなこともできるようになった。とても便利なのでやはり二人にも早々に気配遮断を覚えてほしい。できればレベル10まで。


 鈴鹿の素顔を見て瞠目する男だが、声も出さない。鈴鹿たちが目立たないように抑えたのだろう。この男からは終始鈴鹿に対する配慮が感じられた。だからこそ、鈴鹿も同じように対応する。


 基本的に鈴鹿は『目には目を』を心掛けている。丁寧に来るなら丁寧に返すし、恩を感じれば恩を返すし、悪意があれば悪意で返す。鏡のように返す性格をしていた。


「それで、なんですか? ギルドに入ってほしいとかなら無理ですけど」


「あ、ああ、すみません。ギルドの勧誘ではないです。私探索者用装備を手掛ける鳴鶴めいかくというメーカーで開発をしております、栗林くりばやしと申します」


 名刺を男、栗林が取り出し受け取る。企業のロゴに見覚えがあった。


「あ、知ってます知ってます。というか、御社のジャージで最初探索してましたよ。今もお世話になってます」


 最初に買ったお高い防具が鳴鶴めいかくだ。今も普段着にたまに着るくらい気に入っている。丈夫だしデザインも好きなのだ。チームヤスでは、斎藤に買ったジャージが鳴鶴めいかく製だったはず。


「本当ですか! ありがとうございます」


「なんだ。企業の人か。それで声をかけた用事って何ですか? ただ話したかっただけじゃないんでしょ?」


 えげつないことまで手を染めていたヤクザの灰ヶ峰がいるというのに、顔面真っ青になりながら確証もなく鈴鹿に声をかけたほどだ。ただファンです!握手してください!というわけではないだろう。それならそれでも構わないが。


 栗林がギルド関係者ではなく、企業の人と理解して鈴鹿の警戒はなくなった。開発者などガチガチの理系だろうに、ヤクザ相手に賭けに出る豪胆さに興味が出てきた。


「はい。依頼させていただきたいことが二つございます。現在ある製品の開発をしておりまして、それには狂鬼さんが活動する4区や5区のエリアで入手できる素材が大量に必要なんです。価格は適正価格で買取させていただきます。どうか鳴鶴めいかくに販売してはいただけないでしょうか」


「ん? 別にいいですよ。ただ、そんなにモンスター倒さないからあんまり渡せないかもしれないですが」


 いつも楽だから協会に販売しているが、直接企業とやりとりして販売するのも問題ない。わざわざ鈴鹿が毎回鳴鶴(めいかく)に行って販売手続きしてとかだと手間だが、その辺を上手くしてくれるなら別に構わない。


「本当ですか!?」


「はい、全然いいですよ。協会に話し通してもらって、協会に僕が渡したら鳴鶴めいかくさんが取りに来てくれるとかそんな仕組みにしてくれたら特に」


「そのあたりはこちらで対応させていただきます。契約に関する追加報酬なども別途相談させてください。そしてもう一つが、現在開発している製品に狂鬼さんのお力を貸してほしいんです」


「どういうことですか? PRしてほしいとか?」


「いえ、新製品に身体強化や雷魔法のスキルが密接に関わっておりまして、その開発に雷魔法の造詣ぞうけいが深い狂鬼さんのお力を貸してほしいんです」


 身体強化はカンストしているし雷魔法は確かにスキルレベルが高いが、別に鈴鹿は詳しくない。理論立てて説明なんて論外だ。多分使い物にならないだろう。そのことを説明すると、問題無いという。


「計測器を取り付けて魔力の動きなどを確認させてほしいんです。身体強化のデータが主ですが、可能であれば雷魔法の強化のデータも取りたいんです。それに魔力操作などのスキルレベルが高いほど綺麗にデータが取れるので、狂鬼さんほど適任はいません」


「へぇ、なんか楽しそう。いいですよ。一回くらいなら」


「あ、ありがとうございます!!」


 魔力操作のスキルレベルが10で雷魔法のスキルは9の鈴鹿ほど、確かに適任はいないかもしれない。


 アスリートのデータを取るのに電極いっぱいつけて数値記録するようなものだろうか。何度もは嫌だが、一回くらいなら楽しそうである。


「ん? 鳴鶴さんって香川にあるんですか?」


「はい。データは可能であれば香川で取りたいのですが、こちらに滞在している間に取らせていただくことは可能でしょうか」


「ああ、僕たち高知のダンジョンに2週間くらいいるので、ダンジョン休息日にで良ければ大丈夫ですよ」


「ぜひお願いします! 当日でも構いませんので、この連絡先にお電話いただければデータを取らせていただきます。その時にアイテムの買取のお話などもさせていただけると助かります」


 そう言って栗林が名刺に携帯の番号を記入する。私用携帯だろうか。仕事熱心なものである。鈴鹿も元は社会人だ。当日連絡の訪問などクソ迷惑なことをするつもりはないので安心してほしい。


「オッケーです。じゃ、僕ら今日は高知行くので、この辺で」


「狂鬼、データ取りをするならある程度報酬の話はした方がいい。でなければ彼らも対応しづらい」


 灰ヶ峰がそんな助言をくれる。


 たしかにそうかもしれない。悪徳探索者がデータ取った後に、報酬は1億だなんて法外な値段を突き付けるかもしれないのだ。そもそも、企業的に値段もわかっていないことにGOサインを出すことは難しいだろう。


「報酬かぁ」


「特級探索者への個別報酬となると応相談が多く。予算でしたら可能な限り頑張らせていただきますが、私だけの判断では今すぐの提示が難しく……すみません」


 栗林が恐縮する。そりゃあそうだ。詰めるつもりもない。一開発者が持っている予算で特級と話をつけることは難しいだろう。開発者の予算とは製品開発にあてるための予算だ。探索者のデータ取りを想定していたとしても、特級は候補に入れていないはずだ。


 ただ、鈴鹿は別にお金に困っていない。この前のオークションで大金を得たのでなおさらだ。


「あ、無理強いじゃないので断っていただいてもいいんですが、鳴鶴のジャージで僕専用のジャージとか作るのって難しいですか? オーダーメイドに憧れがあって」


「え? 当然対応させていただきますが、まさかそれが報酬ですか?」


「え! いいんですか! ならお願いします! 報酬はそれで!」


 ジャージをオーダーメイドする必要があるのかはわからないが、鈴鹿の好きなデザインで作ってもらえたら嬉しい。俄然協力しようと思えてくる。


「す、すみません、配慮していただいて……。当然できる限りの報酬はお支払いいたしますので、当日はよろしくお願いいたします」


「無理せずに。あ、可能であればこの二人の分もデザインできないか検討いただいてもいいですか? それであれば全然追加のお金いらないので。とりあえず今度の探索でゲットしたアイテムはお会いするときに渡しますね」


 四国でやることがまた増えてしまった。鳴鶴は香川にあるのでうどんを食べるついでに来れるので、予定としては全然かまわない。それも鈴鹿専用のオーダーメイドジャージをあつらえてもらえるのだ。今から楽しみである。


 栗林と連絡先を交換し、うどん屋さんに感動を伝えて鈴鹿たちは高知を目指すのであった。

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― 新着の感想 ―
自分、出身が香川なんですが、うどんのコシの強さには驚きますよね。 普段インスタントを食べ慣れていれば猶更。 とても小さい子だと面を食いちぎれなかったり(自分がそうでした) あと、さす峰さんはホントに便…
こんな鬼格安で超越者レベルのデータ取れるとか破格だろ
メイカクの人、特にモノづくりをする人があってほしい理想像って感じで印象よすぎるな 開発のためなら恐ろしいリスクにも身を賭すが、自分の推論を信じての根拠ある挑戦でもある そして情熱に突き動かされつつも配…
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