14話 オークション
ダンジョン探索を休憩していたこの一週間は、逆に忙しかった。
ヨキが定禅寺家に住むと言うので両親から許可を貰ったり部屋を片付けもしたし、zooのメンバーやヤス、それにチームヤスのメンバーとも食事に行って近況報告を行った。ただぼうっとする日というのも休息に必要なタイプの鈴鹿にとって、毎日予定があるというのは気疲れする。むしろダンジョンに行ってる方が休んでるまであった。
サラリーマン時代は地元から離れて働いていた鈴鹿は、盆暮れに帰省すると毎日誰かと会ったり両親と出かけたりと予定が詰まっていて全然休めなかった。あの現象と全く同じである。次のダンジョンも遠方にしようと考えているために、一気に予定を入れているのだから仕方がないのだが。
そんな鈴鹿にとってバタバタしていたここ最近だが、いつも通りの用事とは別のことも発生した。なんと西の女傑である雨道が東京にやってきたのだ。鈴鹿に電話がかかってきて、『君に言われたから西をダメにした者を摘んだよ。今から東京に行くんだ。一緒に美味しいものでも食べに行かないかい』そう言いだした。
これにはさすがの鈴鹿も付いて行かざるを得ない。西の偉人からのお誘いに加えて、美味しいものを食べようと言われたのだ。付いて行かない選択肢は無いだろう。雨道には大阪でもいろいろ美味しいところに連れて行ってもらったから、せっかく東京に来たならお供しなくてはと思ったのだ。
ヨキも行くと言うので二人で雨道のもとへ向かえば、そこには雨道と猛虎伏草のギルドにいた天満と九条がいた。それと、九条が背負っていた大きなリュックの中には、芋虫みたいになっている西成もいた。ちょうど鈴鹿が猛虎伏草に訪れた時に対応した3人が揃っていた。一人見るも無残な姿になっていたが。
雨道に聞いたところ、西成がスキルによって大阪のギルドを誘導していたそうだ。今回は裏で糸を引いていた西成の身柄と、それはそうと世間に迷惑をかけまくった猛虎伏草を始めとした西のギルドの処遇について協議するために来たという。
特級探索者でも操られるんだと思ったけど、鈴鹿もできるなと思ったのでそういうものなのだろう。西成は茫然とした顔をしていたが、口を割るかわからなかったのでダメ押しで支配しておいた。洗いざらい話せよと。
猛虎伏草の二人からは誠心誠意謝罪を受けた。それから暴走を止めてくれたことに関する謝意も。思考の誘導を受けていたそうだが、西が持っていた探索者優先の思考という根っこは変わっていない。国を優先した藤原に見切りを付けた雨道の思考が西の探索者の根幹にあるため、探索者は自分の強さを追求し続けることこそ本懐という思考なのだそうだ。
起こる確率は低かったかもしれないが、思考の誘導を受けていなくともあのような形になっていた可能性もゼロではない。もちろんテロ行為は別として。だからこそ、天満と九条は東京に赴き、事態の説明とその罰について協議し、全面的に受け入れる方針だと言う。
『特級探索者を死刑にすることは難しいです。他のギルド員にしても、何も知らない者の方が多い。これからは猛虎伏草は警察や自衛隊の組織として組み込んでいただき、二度と探索者によるあのような悲劇が行われないよう、取り締まる部隊の強化へと尽力していきたいと考えています』
そう九条は言っていた。
警察や自衛隊の組織でも一級探索者相当の者はいる。ただ、特級まではいない。今後は猛虎伏草がこれまで培ってきた経験や技術を国家に捧げ、治安維持の向上に寄与していく方針を提示するそうだ。当然彼らは刑務所に収容され、服役しながら協力していくという。受け入れられるかはわからないが、蜥蜴のようなゴミが幅を利かせる世の中にならないよう頑張ってほしい。
そんな東京側とのすり合わせを当然面倒くさいと思っている雨道は、面倒事を全部天満と九条に押しつけるので一緒に美味しいものを食べに行こうということだった。二人に任せる気満々の雨道が何で東京まで来たのか聞いたら、『あのネズミが動き出しても面倒だからね。けど、狂鬼君が完全に枷をはめただろ? なら安心して私たちは東京を観光できるというものだ』とのことだ。大々的に支配をしたわけではないというのに、雨道は気づいたようだ。さすがである。
こうして雨道と東京観光をすることになったのだが、雨道も久しぶりに来たとのことで美味しいご飯屋さんを知らないと言うのだ。衝撃である。だから鈴鹿は当然の様に永田に電話した。
『雨道って猛虎伏草の元代表といるんですが、一緒にご飯行きませんか?』
スカウトなら偉い人との繋がりとかもあった方がいいのかなぁと思い、永田を誘った。人脈紹介の見返りは美味しいご飯屋さんの情報。お財布は雨道が持ってくれる。鈴鹿からしたら完璧な作戦だった。永田には蜥蜴の件をほとんど全て丸投げしてしまっていたので、謝罪もしたいと思っていたのでちょうどいい。
そんな軽い考えで電話したのだが、これがミスだった。何がミスかといえば、雨道がいると言ったことだ。永田の護衛としてケイカも来るかもなぁくらいに考えていたら、ケイカの代わりに不屈の藤原と剣神天童がやってきた。
もう一触即発の空気が凄かった。雨道は何の気兼ねもなく藤原に老けたねぇとか言うし、藤原は何故か雨道に怒っているし、天童は強いし酷い空気だった。小動物の様に縮こまってる永田が不憫でならなかった。ギルドのトップが付いて行くと言えば連れてこざるを得ないよね。
ただ、そこは皆さん大人だった。雨道がこれから浅草観光するから、終わったら行くよと言ったらちゃんと引き下がってくれた。別に雨道もカチコミに行くわけではないのだが、藤原からすれば延々と連絡も無視し続け日本を滅茶苦茶にしようとしたギルドの元代表が雨道である。文句の一つどころか、文句しか出てこないことだろう。それでも、藤原は引き下がった。雨道が行くと言うのなら来ると信じたのだろう。
『久しぶりの東京観光なんだ。お前もどうだ?』そんな雨道の提案を却下し、藤原は帰っていった。そして天童は残った。
鈴鹿、雨道、天童。それに永田とヨキ。そんな不思議な組み合わせで、一緒に浅草観光を満喫した。別に天童は雨道に対してわだかまりは無いようで普通に会話していたし、ヨキは初めての浅草とのことで楽しそうにしていたし、浅草観光の後に美味しい甘味が食べられるお店に連れてってもらえたので鈴鹿も満足だった。
永田だけが非常に気を使っていて不憫だった。出雲のお土産だけじゃ足りなかったかもしれない。それでも、持ち前のコミュ力の高さから甘味処に着くころには緊張も解けて鈴鹿と雑談に花を咲かせるほど馴染んではいたが。
色々言われてしまった。とても心配したとか、出雲は危ないって言ったでしょとか、あんな大事になる前に相談してほしいとか、次は何かあったら先に教えてくださいとか。永田は鈴鹿が出雲に行くと言った時、止められなかったことをとても悔やんだそうだ。あんな事件に巻き込んでしまってごめんなさいと、何故か永田に謝られてしまった。
こちらこそいろいろと面倒事を押しつけてしまって申し訳なかったと鈴鹿も謝り、両者の間にへんなしこりができることは無かった。ただ、その結果永田から後処理が大変すぎて忙殺されそうだとか、なんで民間企業のはずの不撓不屈がこんな忙しくなるんだとか、しこたま愚痴を言われたのはご愛敬だ。それでも雨道がいる手前大分抑えていたことだろう。
そんな永田の忙しさの原因の一つに、ランドタイガーや蜥蜴がため込んだアイテムの売却が含まれていた。何せ数が膨大だ。警察も一緒に立ち会いながら、売却して良い物と止めておくべきものの仕分けを、不撓不屈含むいくつかのギルドや探索者協会が間に入って仕分けをしているそうだ。
『数日後には早速一発目のオークションが行われるんですよぉ~。売上金額は川崎の被害に遭われた方たちへお渡ししますので、早急に対応しています』
そんな永田のセリフに反応したのは鈴鹿だ。アイテムの売却金額は川崎に還元するというのは鈴鹿が発案なので知っている。鈴鹿はいらないし、探索者だけに分け与えるのは違うし、証拠として警察が押さえるのも資源の無駄だと思ったので、川崎の被害に遭った人に渡すに行きついたのだ。
だが、その方法は知らなかった。
オークション。ちょっとときめくワードではないだろうか。ぜひとも見に行ってみたいし、何なら参加してみたいし、もっと言えば鈴鹿が持っているアイテムも売ってみたい。そんなことを永田におねだりすれば、むしろおいでと歓迎してくれた。出品も狂鬼が出品すると言えば協会側にねじこめるだろうし、どうかなと提案もしてくれた。
やはり持つべきは四方にコネを持つ大企業勤めの友人である。そんな利用するだけの関係にはなりたくないが、行ってみたいので甘えることにした。ちなみに雨道はオークションに興味がないとのことで、ちゃちゃっと藤原と話したら帰ると言っていた。
そんなこんなで、オークション当日。
正装が必要かもしれないと思ったのだが時すでに遅し。スーツは仕立てに時間もかかるしお直しが必要なので、今日は灰ヶ峰にお願いしてお店でそれっぽく見えるコーディネートをしてもらった。なのでいつもよりもフォーマルな服装となっている。
鈴鹿のお供はヨキと灰ヶ峰。灰ヶ峰はいつもスーツなので問題ないが、ヨキはドレスを着ている。今日はパーティ結成して初めてみんなフォーマルな出で立ちであった。永田は当日は忙しいとのことで招待券だけ貰っているので、手続きもスムーズである。
個室に案内されると永田がやってきた。
「ごめんね。忙しくて出品する物受け取ったらすぐ行かなくちゃいけないんですよ」
「大変ですね。今回僕が出品するのはこの二つです」
そう言って収納から取り出すのは、二種類の武器。
名前:叢雲の剣
等級:秘宝
詳細:認められた者が持てば、空に揺蕩う綿雲のように軽く感じられる業物。装備者の敏捷を20%上昇させ、叢雲を操ることが可能となる。
名前:重撃なる矛
等級:秘宝
詳細:認められた者が持てば、如何なるものさえ破壊する一撃を授ける業物。装備者の防御を10%、攻撃を15%上昇させ、痛打の心得を授ける。
この二つは3層5区に出現する碧雲の鱗と重鎧の鱗から強奪したアイテムだ。毎回強奪するので通常の武器の名前は知らないが、3層5区ともなるとレベル150前後のモンスターが出現しだすため、探索できる者もそういない。そのため情報もほとんど出回っていないだろうから、強奪して強化した武器でも大丈夫だろと思ってこれにした。出回っていて武器の名前や能力が違うことがわかっても、今更感あるので別にいいだろう。
この前久しぶりに不屈の藤原と会ったが、やはり脅威は感じなかった。天童は雨道同様に戦っても勝てるかどうかわからないと思わされる凄みがあったが、特級ではもう脅威を感じないレベルまで鈴鹿は成長していた。
つまり、強奪スキルが露見したところで誰も鈴鹿に言うことを聞かせることはできないので、気兼ねなくアイテムを出品できるというものだ。
碧雲も重鎧も、使っている武器は個体によって様々だ。この二つの武器はそれぞれダブっているので、今回出品することにした。
「これはまた……凄い武器ですね」
「3層5区のモンスターの武器なので、ちょうどいいくらいじゃないですか?」
「ですね。よかったです。下手に5区のエリアボスのアイテムとかですと、適正価格で落札されない恐れがありましたので」
今回鈴鹿は何を出品するか事前に連絡できておらず、参加も飛び込みだった。エリアボスのアイテムのように眼玉となる物は、事前に登録して周知しておかなければ買い手側も予算を確保できていないことも多く、下手すれば相場よりも低い価格で落札されてしまう恐れがあった。
「これって開始価格ってどうすればいいんですか?」
「開始価格は協会買取価格の半額からスタートと決まっております。3層5区の有用な武器ですので1本数千万からスタートではないでしょうか」
「えっ、そんな値段ですか?」
「安心してください。スタートは低いかもしれませんが、億はつくと思いますよ!」
いや、低いんじゃなくてスタート価格高くない?という疑問である。だが、鈴鹿は3層4~5区のモンスター素材を少し売っただけで数百万円の売却金額を得られたため、そんなものかと思う。
実際、鈴鹿が今回出品する武器はかなり有用なアイテムであり、価値が知れ渡った状態であれば10億は確実に超えるアイテムである。一級探索者が生涯使い続けることができるレベルのアイテムであり、特級探索者が使っていても見劣りしない性能があるのだ。
このアイテムの最大のポイントは、レベル160のモンスターからのドロップ品でありながら強奪によって強化されている点だ。本来強力な武器を使用する場合、適正外のアイテムを使用すると成長に悪影響を及ぼす。例えば、1層1区で3区のアイテムである『付出の証』を装備した場合、ステータスの成長に影響を受ける。それは自分で得た力ではなく、与えられた力になるからだ。育成所のような銃を使う戦いに似ている状況といえる。
ダンジョンは自身の適正レベルエリア以上のアイテムを装備すると、悪影響を受けてしまう。この武器も、準一級探索者が使えばステータスに影響を受けてしまうだろう。しかし、一級探索者であれば適正レベルであるため、影響を受けない。強奪によって強化された武器だというのにだ。
これが強奪スキルが壊れスキルである所以である。適正エリアから得られるアイテムを強化することで、適正以上の力を持ったアイテムを悪影響を受けずに使えるのだ。探索者の強さには3つのパラメータがある。ステータス、スキル、アイテムだ。レベル100を超えるにはステータスが必要とされ、レベル150を超えるには強力なスキルが必要とされていた。ここにアイテムが入ってきにくい理由が、強力なアイテムは適正外のアイテムだからである。それを覆すことができるのが、強奪スキルなのだ。
この武器は一級探索者相当の武器でありながら、特級探索者が使っていても見劣りしない武器である。つまり、成長限界を迎えていた一級探索者が、更に先に進むことができる可能性を秘めた武器といえた。
そんな破格の武器が数億で済むわけがない。しかし、それはアイテムの有用性が理解されてこそ付けられる値段である。5区の武器という情報も乏しいアイテムであり、鈴鹿自身が説明できるわけでもない有用性が理解される訳がなく。結果、相場よりも圧倒的に安い価格での取引になる恐れがあった。しかし、鈴鹿はそもそも理解していないので、億超えるの!?とただはしゃいでいた。
売れる金額が高いことに喜ぶ反面、猛虎伏草からもらったお金もあるので正直荒稼ぎしたいという欲はかなり抑えられている。小市民鈴鹿にとって、億超えの大金は現実味が湧かない。昔であればこれでFIREだ!なんて思っただろうし、数億と言わず何百億と金が欲しいと思っていた。だが今はまだ探索者を続ける予定なので、FXをやっていたようなお金の執着心はなかった。
あれか? 欲を捨てたからこんなにポンポン大金が入ってくるのか? 今ならFXでもワンチャンあるか?
さすがにそんなリスクを取ることはしないが、そろそろ適当に資産運用を始めてもいいかもしれない。猛虎伏草のお金はヨキと折半で1.5億円ずつにしたので、ヨキの分も運用しよう。ヨキは鈴鹿の都合で生き返らせ狂鬼の面を使って力を与えたことで、配下の様であり家族の様でもあるような、身内感がとても強い。そのため、探索者を辞めた後も考えて今のうちからお金を貯めておくべきだと思ってしまう。
「では、これは預かりますね。あ、定禅寺君からの出品って公表しますか? オークションは出品者を公表するしないを選べます。不撓不屈ですと公表することで出所の信頼や付加価値が付きますので公表するんですが、狂鬼がゲットしたアイテムとなればプレミアがついて高くなると思いますよ!」
「はぁ~そういうもんですか。初めてですし、高く売れた方が嬉しいですから名前出してみます! 出品者は狂鬼で、定禅寺は出さないでくださいね」
「もちろんです! この武器って3層5区のエリアボスと一緒にいたモンスターの武器ですよね? その時の映像なんかも流していいですか?」
「大丈夫です。よしなにお願いします」
永田なら任せても安心だ。信頼と実績の永田である。
アイテムを渡すとすぐに永田はいなくなってしまい、代わりに別のスタッフが鈴鹿たちを会場へと案内してくれた。
「へぇ、こんな感じなんだ」
オークション会場は鈴鹿が思っていたのとはちょっと違った。椅子がいっぱい並んでいて、番号札を掲げて価格を言うのかと思ったが、そうではないようだ。大学の講義室や音楽ホールのように前に行くほど下がっていく部屋には二人用の机がずらりと並んでおり、各座席の机にディスプレイとテンキーのような端末が置かれている。番号札は見当たらない。あの操作端末で価格を入力するのだろうか。価格が飛び交うのを想定していたが、どうやらそうはならなそうだ。
そんな会場を、鈴鹿たちは見下ろしていた。
そう、何故か通された部屋はVIP専用の個室であった。会場をガラス越しに見下ろせるような部屋で、壁には大きなディスプレイが設けられている。当然操作用の端末も置いてあるので、ここからでも問題なく入札に参加することができるだろう。
欠点はステージから遠いことで現物のアイテムを目視しづらい点だが、連れてきてくれたスタッフが出品目録の中で気になるものがあれば事前に部屋にお持ちするので、スタッフにお申し付けくださいとのことだ。完全にVIPである。
やはり持つべきは運営にすらコネがあるトップギルドの友人なのだろうか。まさか初めてのオークションをこんな高待遇で楽しめるとは。実に気分がいい。
「ヨキ見て、飲み物も頼める。なんか頼もうぜ」
「いいですね。私はオレンジジュースがいいです」
そんな楽しんでいる鈴鹿だが、勘違いをしている。永田の計らいでVIP席に通されているのは事実だが、ただの探索者をVIP席に通せるほど永田に力はない。単純に鈴鹿の功績があるからこそ、この席へ通されているのだ。
そもそも、探索者協会で開かれるオークションであるが、この会場に入れるようになるには相応に敷居が高い。探索者協会が開催するオークションは、ネットからも参加することが可能である。当然国内限定であり事前登録なども必要ではあるが、日本全国から参加することができる。そんな中、会場に入れる者は協会への貢献度やオークションへの参加歴など、審査基準を満たしていなければ招待すらされない。
鈴鹿が見下ろす会場に座っている者たちは、各ギルドや企業の代表や社長たちばかりである。決裁権を持っているような人間が、直接品を見て入札に参加することができる特権を得られるのだ。そんなお歴々が集まる会場の中でもVIP席へ通されるのは、特級探索者や各業界の重鎮クラスである。
ではなぜ鈴鹿はVIP席へと通されたのか。それはこのオークションに出品される、いやこれから何度か行われるオークションのアイテムのほとんどが鈴鹿がもたらしたものだからだ。蜥蜴という日本に巣くっていた癌。違法に海外へと流されていたかもしれないアイテムたちを、鈴鹿が全て総取りした。
鈴鹿にはそんなつもりもなく全部不撓不屈に押し付けたと思っているが、そう思っているのは鈴鹿だけだ。何故こうもスムーズに全てのアイテムを回収できたのかを彼らは触れないが、これらのアイテムは鈴鹿がいたからこそ日本の真っ当なギルドや企業へ還元されることになるのだ。そして、得られた売却金額は被害を受けた川崎の人や、横浜のギルドへと寄付される。そこまでの功績を立てた者がVIP席に通されないわけがなかった。
あとは単純に特級すら凌ぐ力を持った探索者をもてなすのは、当然と言えば当然の待遇でもあるのだが。
「灰ヶ峰はオークション来たことある?」
「いや、俺も初めてだ。何か買いたい物でもあるのか?」
「ないよ。今日は遊びに来ただけだし。あ、灰ヶ峰も欲しいのとかないの? 元をただせばお前の古巣のアイテムだし」
蜥蜴のアイテムを根こそぎ奪ったから、灰ヶ峰が有用だと思うアイテムもあるかもしれない。今鈴鹿の手元には1.5億円に加え、今日売る武器の売却金額が入る。一つで億は超えると永田が言っていたが、どうなるかわからない上に手数料もよくわかんないので、二本合わせてジャスト1億はいくと考えても2.5億あることになる。物によっては何か買ってもいいかもしれない。
「目録を見たがいくつか良いものはある。が、金がないから買えないな」
「またまた~。蜥蜴の幹部だったんだからたんまりあるでしょ」
「何言ってるんだお前。お前が蜥蜴の私財含め全て神奈川の倉庫に運び込んだんだぞ。当然そこには俺が管理していた資金も含まれている。蜥蜴を潰したあの日に、俺の持ち物はフル装備以外全てトラックに積み込んだぞ」
「え? あっ、そっかなるほど。そう言えば装備とかも雨道さんと戦うようにフル装備してたけど、それだけって言ってたね」
灰ヶ峰も例外なく資産やアイテムを放出したのか。まぁ、当然だな。悪いことしてたわけだし、俺の事殺そうとしたんだし。
「あれ? じゃあ今どうやって生活してるの?」
「この前ダンジョンに行った時、エリアボス戦の前に2体モンスターを倒しただろ。そこで得たアイテムを売却した金がある」
「ギリギリじゃん」
「普通に生活する分には問題ない。ただ、休息をまだ取るというのなら一人でダンジョンに行くつもりではいる」
そのあたりのこと全然考えてなかった。灰ヶ峰も言わないのも悪いとは思うけど。
「それで、何が欲しいの?」
「装飾品だな。装飾品の数が探索者の強さに幅を持たせることができる。有能なスキルを得られる品も出品されていた」
事前に出品目録をチェックしていた灰ヶ峰は内容を把握していたようだ。まじめである。
「装飾品かぁ。高いだろうし、これから俺たちは5区のエリアボス倒していくから自ずと強い装飾品ゲットできるようになるでしょ。これも訓練の内ってことで」
ある意味、それが灰ヶ峰の罰とも言えた。レベル200を目前にしてアイテムリセット。最悪である。フル装備が残ってる分優しいと言えるかもしれないが。
「あ、気配遮断系は無いの? 二人とも必要でしょ」
鈴鹿が持っている気配遮断系のアイテムは、『闇夜の雫』以外はマント系で地上では浮いてしまう。『忍びの外套』を使えば周りから見られることは無くなるだろうが、今はスキルを覚えてもらう必要もあるので渡していない。
装飾品系で気配遮断のアイテムがあれば二人にはいいんじゃないだろうか。そう思ったのだ。
「気配遮断系は出品されていない。悪用されるリスクがあるから、オークションではまず出されないぞ」
「ええ、そうなんだ。じゃあしょうがない。ヨキはお金持ってるし、欲しいのあったら参加していいからね」
「はい。ですが私は鈴鹿様から武器や防具をいただいているので、追加で購入する予定は無いです」
ヨキは大金を持っていると言うのに、特に贅沢な物を買ったりしていない。服など身の回りの物は当然買っているが、ブランド品とかは元々縁がなかったそうで興味がないんだとか。
これには鈴鹿も助かる。ブランド物を買い漁るのは別にいいのだが、今ヨキは定禅寺家にいる。当然鈴鹿の部屋ではなく、荷物置き場となっていた納戸を片してそこで寝ている。納戸にあった荷物は鈴鹿の部屋に置いてある状態で、納戸も別に広くも無いので物をいっぱい買われてしまうと置き場所が無いのだ。その点、ヨキは物欲が強くないのかあまり余計な物を買わない。唯一部屋にあるのは数巻程度の少女漫画だけだ。
「ん、そろそろ始まるみたい。ちなみに全然オークションについて理解してないんだけど、灰ヶ峰説明できる?」
「ああ。と言っても、そう難しくない。ダンジョン産のアイテムであれば出品することができ、探索者ライセンスを持つ日本国民ならオークションに参加することが可能だ」
オークションは会場だけでなく、全ての探索者協会内の専用施設やインターネットからも参加することが可能だ。オークションの方式は一般的なものと同じで、提示されている価格よりも高い価格を出すことで入札することができる。
他のオークションと異なる点は、開始価格が決められているところだろうか。ダンジョンのアイテムは固定のため、探索者協会内で買い取り価格が決められている。同じモンスターから得られるアイテムであっても、武器の種類や装飾品の形が変わることはあるが、効果は同じため一律の価格付けがされていた。これにより、ダンジョン産アイテムの相場変動を抑制し、安定した価格で市場にアイテムを流すことが出来ている。
協会が主催するオークションでは、開始価格が協会買取金額の半額からスタートすることが決められている。例えば売却金額が100万円のアイテムであれば、開始価格は50万円から。そのため、場合によっては100万円を切る価格で落札される可能性もあるのだ。
この理由は、相場操作をさせないためである。例えば、先ほどの売却金100万円のアイテムを200万円で出品したとしよう。それで落札された場合、次もそのアイテムは200万円から出品されてしまう。そうなると、そのアイテムの適正価格が200万円とされてしまい、故意に値段を吊り上げられてしまう恐れがあった。協会は安定した価格でダンジョン産アイテムを市場へもたらす必要があるため、協会が定めた価格の半額からスタートと決められているのだ。
もちろん、協会以外が主催するオークションもあれば、ギルド間で交渉して合意した値段で売買することもできる。あくまで協会のオークションを利用する場合のルールである。
「購入の意思がある場合は、その端末に値段を打ち込めば反映される」
「なるほどね。俺のアイテムいつ出てくるかな。目録にも載ってないし」
「恐らく中盤から後半にかけてだろうな。序盤に出すような代物でもないが、今回はエリアボスのアイテムが後半に集まっている。それらよりは前だろう」
飛び入り参加させてもらっているので順番は何でもいいのだが、一体いくらくらいで売れるのか気になってしまう。やはりこういうのは自分で参加してみるとワクワクして面白いものだ。
『387番様、85万円! 他にいらっしゃいませんか? ……確定です! 387番様おめでとうございます!』
ディスプレイには収納にしまえる宝箱産の武器が85万円で落札されていた。片手剣と盾のセットで、等級は希少。相場を知らないが、高くもないし相場程度の価格での落札に感じられる。
「へぇ、もっと何百万!ってのばっかだと思ったんだけど。案外蜥蜴ってアイテムため込んでなかった?」
「いや、オークションの流れだろう。全てがすべて高価な品だけでオークションをやるわけではない。それに今落札されたような大したことないアイテムのほとんどは、国や協会預かりになっているだろうしな。一度に放出しすぎると値崩れを起こしかねない」
「なるほどねぇ。永田さんもオークション第一弾って言ってたし、これから小出しで何回かに分けるのかな」
この辺りは全部丸投げしちゃっているので、口出しすることはない。というかしたくない。あくまでこれは蜥蜴が不撓不屈に渡したアイテムであって、鈴鹿は関与していないよって体を保ちたい。でなければとてもめんどくさそうだからだ。ただ、早く換金されて被害者へ還元されればいいなとは思ってる。
何個かのアイテムがオークションにかけられ、白熱することもなくとんとん拍子で落札されていく。そんなに貴重でもないからだろう。ちょっと飽きてきた鈴鹿は軽食などを頼めるメニューを見ながら何か食べようかなぁと意識が逸れていた時、ヨキに声をかけられる。
「鈴鹿様。食材が出品されましたよ」
ヨキに言われて会場の様子を映しているディスプレイを見てみれば、巨大な肉塊が置いてあった。すぐさまガラス越しの会場を見るが、肉塊があることがわかる。
「ホントだ!! あれ何!?」
「5層3区の火炎牛の肉だな。通常モンスターだが、適正クラスが一級探索者だから流通はそこまで多くない」
「欲しいぞ! ヨキ! 参加しよう!!」
「お任せください。確実に落札してみせます」
既に端末を握りスタンバイしているヨキ。出品目録をろくに見ていなかった鈴鹿は、食材が出てくることを知らなかった。鈴鹿が探索するエリアは4区と5区だけだ。4区の素材はギリギリ手に入れられる可能性があるが、1~3区の素材はレベル差的にドロップすることがない。
何故なら3層5区のモンスターがレベル130~160に対し、5層3区のモンスターもまた130~160なのだ。鈴鹿が5層に行く頃にはレベル200を超えているだろうし、アイテムを得るのは不可能だろう。
つまり、ここで競り落とすしか鈴鹿がゲットする機会はないということだ。
もちろん協会経由で購入することは可能なのだが、一級探索者クラスのアイテムは分配先がすでに決まっており、今回の食材も通常であれば協会と契約しているレストランなどに卸すことになる。一部新規枠はあるはずだが、そちらも数多くの料理人が殺到しており予約の争奪戦状態である。
自分で得られる機会がないという意味でも、購入する機会がないという意味でも、このオークションを逃せば次の機会はいつ訪れるかわからない。
落札をヨキに任せ、鈴鹿は目録を見る。バンッバンッと大きく表示されているエリアボスのアイテムらしきものに混じり、鈴鹿の知らない食材アイテムが出品されているではないか。
「灰ヶ峰、この食材は何だ? 美味いか?」
「それは6層1区の土塊豚士の肉だな。生ハムのような肉だと聞いたことがある」
「生ハムだと!? おいおいおい、予算足りるのか!?」
「鈴鹿様。1800万円で落札いたしました!」
「よくやったヨキ!!」
1800万円の肉とはこれいかに。しかし、巨大な肉塊のためグラム単価で考えれば悪くないはずだ。200㎏あったとすれば、100グラム9千円。うん、高い!! しかし、一級探索者でしか入手できない肉となれば、その価格も頷ける。
1.5億という巨額のお小遣いの範囲で食材を買い漁ることを決めた鈴鹿。灰ヶ峰に詳細を聞きながら、ヨキと相談して何の食材を購入していくのか決めていく。ただ見てるだけかと思っていたオークションだが、食材の登場によって鈴鹿の心に火が付いた。
資金運用しようなどと堅実な考えはどこに行ってしまったのか。気づけばエリアボスの食材も購入したことで、合計1億以上ものお金を食材につぎ込んだ鈴鹿。一夜にして猛虎伏草から得た賠償金が消し飛んでしまった。
しかし、鈴鹿が出品した2つの武器が埋め合わせ以上の働きを見せる。誰かが編集したのか鈴鹿が碧雲の鱗と重鎧の鱗との戦闘シーンを流し、この二体からドロップするアイテムであり出品者は狂鬼であることが告げられた。結果、落札は今日一番の白熱をみせる。
価格的には5層のエリアボスなどのアイテムよりかは劣ったが、それでも競り合いが盛り上がりを見せた結果、合計で13億円という巨万の富を得ることができた。武器の有用性を鑑みれば適正価格よりも低いと言えるのだが、そんなこと知らない鈴鹿からすれば驚きの金額である。
ヒートアップして落札価格がどんどん上がっていく様を見ながら、お金持ちってお金使っても使っても増えていくって言うけどこういうことかぁと、どこか遠い目でしみじみとつぶやくのであった。




