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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第九章 修練の3層5区

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12話 永田の苦悩

 皇居にほど近いオフィス街に本部を構える日本屈指の大手ギルド、不撓不屈。その居室で、永田が机に突っ伏していた。


「忙しい……忙しすぎます。なんで私が……」


 呪詛を呟きながらも、しっかりと手を動かし続ける永田。ある探索者と懇意にしているということで急遽対策チームに入れられ、業務の負荷状況が恐ろしいほど増えてしまった。誰だ管理職は。業務負荷の管理が出来ていないではないか。


「すまんな永田。差し入れだ」


霞関かすみぜきさんお疲れ様です。え!? これ新作じゃないですか!! ありがとうございます!!」


 永田の上司である霞関が、出先から戻るタイミングでコーヒーショップの新作とお供のお菓子を買ってきてくれたようだ。眼を輝かせながら、早速食べだす永田。わかっている管理職である。これで業務負荷については三日くらいは目を瞑ろう。


「さっきまでの様子、もしかして却下されたのか?」


「いえいえ。通りましたよ。さすがに」


 永田と事前に練っていた案は、問題なく可決したようだ。通るとは思っていたが、面倒な利権主義者が頭ごなしに否定する可能性もあったが、そこまでは愚かではなかったようだ。


「横浜の日吉さんたちの剣幕凄かったんですよ! 警視庁の人が何か言う度にこ~んなに目が吊り上がっていくんです! 魔力だってバンバン漏れ出てるし! あの人達少し休んだ方がいいですよ!」


 永田が真似しているのかふざけた顔をしているが、それだけ緊迫した打ち合わせだったのだろう。


「横浜のギルドからしたら忸怩じくじたる思いを抱え続けていたからな。横浜にとって、狂鬼はまさに復讐の代行者だったのだろう」


「……ええ、そうです。そうさせてしまったんですよ。私たちが不甲斐ないばかりに」


 永田にとって、彼は狂鬼よりも定禅寺の方が馴染み深くしっくりくる。


 永田が定禅寺を知ったのは、協会職員と談笑という名の情報収集を行っていた時だった。『噂ですが、八王子に鉄パイプの姫って呼ばれるすっごい綺麗な男の子がいるんですって』。そう聞いた永田は、すぐに八王子ダンジョンについて調査を進めた。綺麗な顔。それはつまりステータスが盛れている証拠だ。スカウトである永田が調べない訳がない。


 ただ、調べれば調べるほど永田は困惑してしまう。出てくる情報は永田の持つ常識では考えられないものばかりであったからだ。やれダンジョンを一人で探索しているだとか、やれ探高生どころかまだ中学生だとか、やれ4区5区を探索しているだとか。ガセ情報を握らされているのかと何回精査したことか。


 そんな剣神である天童のような人間がいるものかと。いたとして、こんな短いスパンで現れるものかと。そう思うのもむべなるかな。


 だが実際に定禅寺は天才であった。そして、それ以上に化け物でもあった。


 初めて会った時は、子供っぽくないなという印象だった。むしろ同行させたケイカの方が幼さを感じられた。あれだけの異質な強さを持っていても、その異質さを自覚していない違和感を強く覚えたことが印象的だった。普通あのくらいの歳ならば、自分の力を過信したり傲慢になることだって多い。たとえ人間ができており謙虚であろうとも、自分の力に自信と誇りがにじみ出てしかるべきだ。それが当然であるし、力に自信を持つというのは力を自覚するということでもあり、強い力を持つ者として必要なことでもある。


 だが、定禅寺にはそれがなかった。『自分は強いかもしれないけど、上には上がいるし』、そんな考えの持ち主だった。だからこそ、強さをひけらかすどころか、本当に大したことないと思っている印象だった。よく自分ができることは大したことじゃないと考える人間がいるが、その極致を見たようだった。


 ケイカが魔法を行使した時の余裕は、襲わないと思ったからでも切り抜けられると思ったからでもなかったのだろう。狂鬼チャンネルを見た今ならわかる。彼はどっちでもよかったのだ。ケイカが襲ってきたとしても、それならそれで倒せばいい。勝てないほど強いなら、勝てるように自分が強くなればいいだけ。そんな短絡的で意味不明な思考回路をしているのだろう。


 そんな定禅寺は、狂鬼チャンネルによって探索者の常識を破壊する。初見のエリアボス相手に圧倒する様も、高すぎる各スキルによってダンジョン内で好き放題している様も、イカレたスキル上げや戦闘時間の長さも。全てがすべて永田が経験してきたダンジョン探索とはまったくもって違っていた。


 永田が命がけの戦地で仕事をしているのに対し、定禅寺は巨大なアトラクションで遊んでいるくらい差があった。


 そんな非常識な定禅寺だが、つい先日、日本を揺るがすほどの大事件に巻き込まれてしまった。警察に言わせれば定禅寺が巻き起こしたとなるのだろうが、永田から言わせれば巻き込まれたのだ。


 東西戦争。一部でそう呼ばれる果てしなくくだらない戦い。調和を重んじる東と、個の強さをたっとぶ西では、探索者に対して根本的な考え方が違っていたのだ。そのため反りが合わず、仲がいいとは言えなかった。けれど、ここ10年ちょっとの間で一気に険悪になり、西側が東の邪魔をすることが増えていた。剣神天童を不撓不屈が招いたからとも言われているが、ヤクザ組織の勢力拡大も含めそれだけが理由とは思えなかった。


 しかし、邪魔をするにも限度がある。先の川崎で起きた大規模テロは完全にラインを越えた行為。猛虎伏草が絡んでいようとなかろうと、蜥蜴という組織はここで潰す必要がある。そのために、藤原や霞関が動いていた。


 事は慎重に。けれど大胆に。剣神さえ動員し一気にケリをつける話も出ていた。だが、それは定禅寺が投稿した一本の生配信によって唐突に終わりを告げた。


 定禅寺が投稿した動画により、蜥蜴の崩壊が確定した。遠征先で蜥蜴に絡まれた定禅寺は、何をどうやったのかはわからないが蜥蜴幹部を寝返らせ、蜥蜴という組織を内部から崩壊させた。さらに、動画内で寝返った幹部がとても電波で配信してはいけないような証拠を流暢に語り、その後蜥蜴の代表であった大久野おおくのを殺害した。


 動画内ではそれだけであったが、永田が事前に定禅寺から連絡を受け横浜のランドタイガーや神奈川の倉庫へ行けば、大量のアイテムと共に証拠品が残されていた。さらに動画内で蜥蜴の幹部が言っていたように、東西構わず蜥蜴の構成員と思われる者の死体が次々に発見された。


 これについて、永田や横浜のギルドの考えと、国の考えが違った。永田たちは強いとはいえ15歳のギルドにも加入していない少年を巻き込んでしまったと考えている。狂鬼は被害者であり、その身を守るために力を振るったのだと。だからこそ、その結果は蜥蜴自らが招いたものであり、ひいては蜥蜴という組織を野放しにした国家、ギルドの怠慢であるとも考えている。


 一方で、国は違う。確かに蜥蜴を罰せなかった国も悪い。それは認めよう。認めたうえで、狙われたら100人規模で人を殺してしまう探索者を野放しにするわけにはいかない。構成員たちが最後に残したメールと不可解な死に方が、狂鬼が関与したことを如実に語っている。つまり、彼らを殺したのは狂鬼である。


 そうもっともらしく言ってのけた。


 噴飯ふんぱんものだ。どの口が言うのか。蜥蜴には尻尾を振った腰抜けどもが、少年には強く出ようとするその浅ましさに失笑すら起きない。


 そんなおかしな主張をする警察側の意見が通るはずもなく、あくまで蜥蜴は内部崩壊を起こして消滅したのだという結論になった。もちろん、定禅寺が殺した大久野は殺すのが推奨されているような指名手配犯だったため、罪に問われることもない。


 ここまでは既定路線であり、問題なく通るだろうと思っていた。正直なところ、定禅寺がたとえ洗脳していたとして、警察側ではどうしようもできない問題もある。特級探索者すら簡単に殺してみせた少年が暴れたら、一体誰が止められるのかと。果たして剣神は動くのか、そして無傷で定禅寺を抑えることができるのか。不確定要素があまりにも多すぎる。だからこそ、定禅寺に対してクリティカルな対応など警察側は元々とれはしないのだった。


 だと言うのに最初にごねた理由は、次の議題の牽制のためだ。蜥蜴が作成した蜥蜴と関りを持っていたとされる人間のリスト。そこに名を連ねる全員洩れなく全て厳罰に処すこと。これに対する牽制だった。


 当然そのリストには警察の人間も多くいる。関西だけでなく、警視庁本部の重役の名前すらあった。それだけにとどまらず、探索者協会や国会議員など、多方面に広がる。それらの人間を厳罰どころか証拠すら妄想の域を出ないとしてもみ消そうとされていた。


「揉めただろう。特に証拠が証言を記述したメモだからな。よく要求を飲んだものだ」


「そりゃあだって、霞関さんのやり方は効果てき面でしたよ。定禅寺君も版権フリーですなんて言ってくれましたから使わせてもらいましたけど、正直ああいう使い方は今でも反対です」


 だだをこねる警察たちだが、永田が見せた切り抜きの動画で次第に言葉を失い、残されたリストの内容通り刑に処していくことが決まった。その動画の内容は狂鬼チャンネルで最後に告げていた部分。


『だからさ、伝えとくよ。探索者とか問わず、あくどいことして過ごしている人たちへ。ぜひ蜥蜴の構成員がどんな最期を辿ったのか、調べてみてほしい。そして振り返ってほしい。自分がやっていることは、はたして狂鬼は許すのかと。もし許さないかもなって思ったら、同じ道を辿ることになるって、肝に銘じておいてほしいね』


 これを1回流したら警察は黙り、2回目で俯き、3回目で厳粛に処罰していくことが合意された。


 まさに、『悪いことをしたら狂鬼が来るぞ』という幼子を脅すセリフのようなものだ。狂鬼が手ずから手に入れたリストを、有効に活用できないと?あまつさえ握り潰すと?一応事の顛末はここにいる出席者の名簿含めて狂鬼にお伝えするけど、大丈夫ですか?そう言えばなんと気持ちよく動いてくれることか。


 彼ら警察は蜥蜴の構成員がどのような末路を辿ったのか仔細しさいに内容を知る立場にある。狂鬼がやったのかは確証はない。だが、狂鬼に関わるなというメールが、あの惨状を生み出したのが狂鬼によるものだと理解させられる。様々な猟奇事件にもたずさわってきた警察が眼を背けたくなるほどの、あの惨状を。


 メールによって狂鬼が指示したのではと容疑者に挙げられたが、その行いによって絶対に関わってはいけない相手であるとも理解させられる。狂鬼が怒ったことで同じ結末を辿るくらいなら、自分の地位を捨てお縄にかかる方がマシだと、利権主義者の彼らにそう思わせたのだ。あの中で誰一人自分は切り抜けられると思った者はいないだろう。蜥蜴の構成員の幅広い被害を知っていればなおさらだ。


「はっはっは! ぜひその場に居合わせたかったな!」


「性格悪すぎますよ。今度慰労も兼ねて定禅寺君を美味しいご飯に連れていくので、経費で落としますからね」


「もちろんだとも。それこそ、藤原さんが出すだろうけどね」


 太っ腹な上司に、即座にどのお店に連れていくかを試算する永田。出雲での内容を聞きたい思いもあるので、奮発して美味しい物でも食べに行くとしよう。


「こちらはそんな感じです。そちらはどうだったんですか?」


「こちらも通ったよ。いや、押し通したと言った方が正しいかな」


「ほんとですか? 何事も起きなければいいですが……」


「まずは雨道うどうさんと合意を取る。そうすれば西で天童さんに逆らえる者はいないから、従わざるを得ないよ」


 永田が警察などとやり取りをしなければならなかったのは、彼女の上司である霞関が藤原と共に協会や政府と猛虎伏草の扱いについて協議をしていたからだ。


 雨道との対話は緊迫した東西関係から長らく叶えられていなかった。今回も蜥蜴が消滅したと言うのに、特級探索者擁する猛虎伏草への処罰が軽くなりそうだった背景もあり、藤原たちが動いたのだ。


「猛虎伏草は解体されない。けれど、特級の称号をはく奪、全アイテムの押収と新規加入者の永久禁止。実質解体まで話を持っていけそうだ」


「荒れそうですね」


「その時は天童さんが何人かの首を斬る。西はやり過ぎた。どのような背景があれ、テロリストを特級として居座らせるわけにはいかない」


 もともとこの動きを蜥蜴に対して行えるよう粛々と進めていた。猛虎伏草までは大々的な処罰は厳しいかもしれないが、蜥蜴を消し去れば雨道と話を付けて猛虎伏草へも何らかの罰を負わせる予定だった。しかし、定禅寺が蜥蜴を滅ぼしたことで、全てのリソースを猛虎伏草解体へ向けることができる。


 定禅寺がもたらしたリストでは、幾名かが関与しているだけで、真っ当なギルド員の方が多い。しかし、テロ行為に関与したギルドを該当者だけ処罰するなんて軽いものでは終わらせられない。結果、先ほどのギルド解体と同義の扱いと、関与者については財産差し押さえが確定する。


 無論反発してくるだろうが、不撓不屈含む東の特級ギルドがそれを許さない。唯一の懸念点である超越者雨道も、この件に手を出さないように釘を刺しに行くことが決まった。雨道さえ出てこなければ、天童がいる東に西が逆らうことはできない。


「はぁ、ようやく一息つきそうですかね?」


「これからだぞ永田。大阪を収めた後は、世界の暗躍を潰さねばならない」


「うへぇ。それはスーパースカウトウーマンの仕事じゃないので辞退しますぅ」


 ズゴゴと抗議するかのように差し入れのドリンクを飲み干し、永田はパソコンに向き直る。


 永田に任された仕事は狂鬼と呼ばれる少年との折衝せっしょう。定禅寺の負担を少しでも取り除くべく、永田は今日も関係各所へと根回しを進めていくのであった。

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― 新着の感想 ―
 個人の裁量で特級を減らしたら、国に制御能力が無いと諸外国が付け入る隙になるから、責任取らないなら止めとけってのはパーフェクトプロファイラー灰ヶ峰の見解。  対して、探索者は崇高であるべきと説く東が悪…
政府内に居る蜥蜴関係者が逮捕されていない状態で蜥蜴リストを見ている藤原が政府と猛虎伏草の対処交渉するのおかしくない?先に蜥蜴関係者を処罰させてないから忖度で猛虎伏草が甘い処罰になったのでは⋯ 藤原お前…
不撓不屈の藤原考えや天童の認識を伺いたいね。 正直、警察も政府も探索者止められんないのはわかったよ。障害にならん。 天満と西成の処置やなぁ ちゃんと負け犬描写かいてもらわな心地よく寝れん
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