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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第九章 修練の3層5区

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10話 狂鬼への反応2

明日からはまた隔日投稿になります。

本日(10話)、明日(11話)、3日後(12話)

 赤い門をくぐり青々とした銀杏いちょう並木を抜けた建屋の一角。そこで教授とゼミの生徒が一対一で話していた。


「さて君はダンジョンについて疑問に思っていることはあるかね」


 少しおどけた様な顔をした教授は、人当たりの良さそうな印象を受ける。白髪が混じりだした髪は短めに切られ、茶色を基調としたスーツ姿は様になっている。顔立ちが良く整えられたひげが似合うこの男は、生まれつき綺麗な顔立ちだったわけではない。探索者と呼ばれて差し支えないほどのレベルを持っているからこそ、年齢を重ねた渋みを兼ね備えた紳士然とした容姿を手に入れていた。


 ダンジョンについての疑問。そんなあいまいな質問をされた生徒だが、利発りはつそうな生徒は迷うことなく不思議に思っていたことを挙げた。


「教授の論文や書籍は読ませていただきました。その上で、私もダンジョンは何故こうもゲームのような在り方をしているのか。そこが不思議でなりません」


「お、読んでくれたのかね。ありがとう。不思議だよねぇ。なんなんだろうね、ダンジョンって」


 教授が執筆した著書『ダンジョンとは神の盤上ゲームである』という本は、大反響……とはいかず、残念ながら全然売れていない。


 ダンジョンという摩訶不思議な世界におけるルールに、一貫するシステムの匂い。それをゲームと紐づけダンジョンの起源や目的へと切り込んでいく名作なのだが、そう思っているのは一部のマニアだけである。


「それで、ゲーム性が不思議と感じたということは、君自身もダンジョンにおけるルールにゲーム性を見出したということだろう。どの点でそう思った?」


「最もゲーム性を感じる点は、ダンジョンは人類に対して有益でしかない点です」


「ほう、続けたまえ」


「ダンジョンが世界に出現した際に、ダンジョンブレイクが発生しております。ですが、それ以降ダンジョンブレイクの発生はただの一度も起きておりません。このことから、ダンジョンが人類への侵略、地上をダンジョン化させるような侵略的思考はないと考えます。もちろん断言できる訳ではありませんが」


 ダンジョンを研究する者の多くが理解できないのが、ダンジョンブレイクである。現在ダンジョンブレイクを防ぐためには、『各階層で探索者が活動する事』という非常にあいまいな定説が一般的となっている。


 ただ、これには多くの者が疑問に思っていた。というのも、ダンジョンブレイクが発生した時、日本以外の国もダンジョンでの探索は行っていたのだ。もちろん最小限の調査に留めていた時期もあるため常に大々的に探索していた訳ではないが、それでもダンジョンブレイクが発生した頃には本格的に調査が始まっていたタイミングであった。それはつまり、定説である探索者の活動数はこれに含まれないんじゃないか、そう思うのは必然だろう。


 あの時、日本だけがダンジョンブレイクが発生しなかった。では、日本とそれ以外の国で何に差があったか、それは探索深度とダンジョンで死んだ人間の数だ。


 日本では民間人が率先してダンジョン探索を行ったため、当時は世界で最も探索が進んでいた。もし、各層にたどり着くまでに期限が設けられているのであれば、つじつまが合う。1年以内に2層に辿り着かなければダンジョンブレイク、3年以内に3層に辿り着かなければダンジョンブレイクと言った感じだ。


 しかし、今ではこの説も廃れている。ケニアなどではダンジョンの探索深度は日本に比べて劣っているが、いまだにダンジョンブレイクは発生していない。最も探索している国以外で発生するにしても、あれ以来どの国でもダンジョンブレイクは発生していないのだ。


 つまり、ダンジョンブレイクはダンジョン探索させるための強制的な呼び水の役割であり、探索している人数や深度などとは関係ないのではないか、そうまで言われていた。


 その他にも、ダンジョンが地球外生命体であり地球を侵食しているという説や、ダンジョンが一定数以上に達すると地上でもダンジョン化が進められる説など、多くの説が提唱されている。


「ダンジョンブレイクを抜きとして考えると、ダンジョンが有益でしかない点はいくつかあります。まずステータスの向上。私は育成所を利用しましたが、それでも容姿に多少の変化を受け、身体も丈夫になりました。今では当たり前とされるこれらの変化ですが、人類にとっては恩恵でしかありません」


「そうだね。リスクなどなく、銃を撃てば丈夫な身体が手に入る。おかげで町医者が泣いていることだろう」


 完全に病気にならないという訳ではないが、育成所であってもレベルが10まで上げられればかなり丈夫な体を手に入れることができる。


「次に魔石を含むダンジョン産アイテムのドロップです。これにより日本は資源の依存先を国外にゆだねる必要が無くなり、日本の発展に多大な恩恵を与えています」


「アイテムのドロップは有益だが、それは探索者が命をかけて得られた物だろう? 例えば狩った獣はハンターの手柄になる。これは等価交換の理屈であり、ダンジョンに限った話ではないのではないかい?」


「いえ、違います。ダンジョンでは資源が有限ではない。この破格すぎる現象は、ダンジョン保有国を富ますのに十分すぎるほどの恩恵を与えています」


 一つの山に鹿が100頭いた場合、ハンターは100頭全てを狩るわけにはいかない。来年も再来年も鹿を狩れるように、数に制限をかけて狩りを行う。だが、ダンジョンでは違う。1層1区に酩酊羊が100頭いたとして、100頭狩ってもすぐに別の場所から酩酊羊がリポップする。無限の資源の供給。それはこの世界での物理法則を完全に捻じ曲げた現象であった。


 ダンジョンが現れた国が富むのと同時に、この上ない依存先としてダンジョンと寄り添うように生きることになる。ダンジョンが突如消滅したらどうするんだ、そんなリスクもあるがそれらを飲み込んででも計り知れない恩恵を受けている。


「素晴らしい着眼点だ。無限の資源。よく調べてるね」


「ありがとうございます。ダンジョンに入った者にステータスという恩恵を与え、無限の資源が報酬としてもたらされる。ダンジョンは人類に有益でしかありません」


「そうだね。特に領地の問題も大きいね。ダンジョンという拡張された世界からの資源は、島国の日本にとっては大きな恩恵だ。ただ、人類に有益というのが、どうゲーム性を感じられる要因となっているのかね」


「はい。私は教授が唱える盤上ゲームとは違い、ダンジョンをアクションゲームとして考えています。教授はアクションゲームなどはやられたことはありますか?」


「当然あるよ。マ〇オ64もやっているし、苦行であったがモン〇ンの初代もやっているよ。まぁリオレ〇スを前に挫折してしまったがね」


 遠い目をする教授。最近ではシリーズも重なり人気になったようだが、正直無限の時間を要求されるあのゲームをもう一度しようとは思えなかった。


「そこですよ教授。それこそがゲーム性なんです」


「難敵を前に挫折することが?」


「そうです。ですが、例えば、その難敵を倒すと実際に大金が入ったり、存在進化という特殊な能力を手に入れられるとわかっていたら、教授は諦めましたか?」


「なるほどね。ダンジョンを探索すれば100%の報酬が期待できる。だからこそ、人類はその報酬を求めてダンジョンへと誘われると?」


「そういうことです。その難易度が高ければ高いほど、達成した時に得られる称号を求めてしまう。だからこそ、人類は先へ先へと探索を進める。富と名声のために」


 それは面白い発想であった。教授が提唱する盤上ゲーム論と似ているが、よりゲーマー目線に立った視点と言える。


「ですが、これは教授の理論をベースにしています。よりダンジョンへ招き入れるためのゲーム性を高めている点にフォーカスしました」


「素晴らしいね。よく練られている。そして、総じて言えるのはやはりダンジョンにはゲームマスターがいると言うことかな。改めて、私が提唱する盤上ゲーム論を説明する。これをベースに、実際の探索者と会って意見を聞いて行こうか」


「お願いします。実際の探索者は出来れば一級の様な高レベルの探索者だといいですね。理想は狂鬼ですが」


「狂鬼か。彼は面白いよね。君は何故狂鬼の話が聞きたいのかな?」


「狂鬼が一番ダンジョンを楽しんでいるように感じるからです。私がゲームマスターなら、創ったゲームを楽しんでくれる人の方が嬉しいので。きっとサービスしちゃうでしょうから、狂鬼が最もダンジョンへの理解が深いんじゃないかなって思ったんです。理屈ではなく本能の部分で理解してるかなと」


「大変すばらしい。君とは良い付き合いが出来そうだ」


 満足気にうなずいた教授は、資料を取り出し自身が提唱する理論について講義を始めるのだった。




 ◇




 日本で最も混雑しているダンジョンと呼ばれる博多ダンジョン。ここはダンジョン保有国である日本が世界へと開放しているダンジョンである。


 金やレアアース、それに石油の産出国などは、自国の強みを活かして経済を回している。日本も当初はダンジョンのアイテムを国外にも販売することで、経済を回すとともにダンジョンの恩恵を他国にも与えていた。しかし、ダンジョンが出現し時が経つとともに、ダンジョンで強化された探索者たちの犯罪が問題視された。


 日本でも無差別殺人など痛ましい事件が起きたが、それを鎮圧できる探索者が日本には多くいる。しかし、ダンジョンを保有していない国からすれば、暴れた探索者の犯罪を食い止めることは難しい。その世界的な問題を受け、日本は博多ダンジョンを解放し、各国の軍隊や警察組織のダンジョンでのレベル上げを解放していた。


 当然受け入れられる数はそう多くは無いが、それでも世界の犯罪者たちに対する抑止力に繋がっている。他のダンジョン保有国でも同様にダンジョンを解放している国もあるが、日本ほど広く受け入れてはいない。逆にダンジョン保有国のアルゼンチンでは、軍の受け入れは行っていないがダンジョンを信仰する宗教の信徒であれば、国籍問わず受け入れている例もあった。


 そんな世界的にも重要な博多ダンジョンは、当然凄まじい警備が敷かれている。各国の軍人が訓練しているようなものだ。暴れられたら手に負えず、民間人に被害が出る恐れがある。そのため博多ダンジョンには警察が常に警邏けいらしており、レベル150を超える一級相当の特殊部隊もこの地で警戒に当たっていた。


 そんな特殊部隊の一員である木場は、訓練終わりの一服を楽しみながら隊長に愚痴をこぼしていた。


「訓練、訓練、訓練。たまにダンジョン探索……自分らって何がしたいんすかね」


「いざという時のためだろ。特に最近では中国の動きも活発化していたからな。先月の中国の探索者の入国者数はかなりのものだ。我々が見張る必要がある」


「で、結果が川崎のテロじゃないっすか。その時自分らはお守りっすか? 分別はつきますし重要なのもわかりますが、こんなんだから民間や協会に流れる奴が多いんじゃないっすかねぇ」


 隊長にあたるのは違うとわかっているが、吐き出さずにはいられない。


 彼らは国を守るためにこの職に就いた。何度も死にかけながら、ダンジョンでレベル上げも行ってきた。実際にダンジョン内で死んでしまった同僚もいる。それでも彼らは懸命に生き抜き、一級相当のレベルまで成長するに至った。


 けれど、彼らが任される持ち場は九州の博多ダンジョン。任されるのは外国人の軍や警察がレベル上げをするのを見守り、時折潜入を試みる他国のスパイを水際で食い止める仕事である。これも重要な仕事であると理解しているが、国内で起きたテロにすら満足に関われなかった事実が彼らに鬱憤を溜めさせる。


「川崎のテロについては不撓不屈が動いた。だからこそ、掃討戦ではあれだけの被害で抑えられたのはわかっているだろ」


「わかりますよ。あれだけの戦力が動いたんですから。ただ、そこに自分らもいてもいいだろってことが言いたいんですよ」


「その結果ここが手薄になる方が問題だ」


 川崎のテロについては、ヤキモキする気持ちは皆同じだ。特級や一級が大量に動くからといって、人命救助のプロでもある自分らの方がより被害を抑えられたとも思っている。当然存在進化を経ているような犯罪者には特級をあてて瞬殺してもらう方が効率がいいことも理解はしているが。


 ただ、彼らには動けない理由があった。それは彼らがこの九州に根を張っている理由にも繋がっているのだが、博多だけは外国人の探索者であっても入国することができる唯一の土地だからである。


 博多ダンジョンは東アジアを筆頭に、ダンジョンを保有しない国の軍や警察のレベル上げを行えるよう開放しているダンジョンである。国内に他国の軍隊がいるのだ。それも多くの国々の精鋭たち。何かあれば即座に鎮圧できるように、徹底的にこの地は警察が警邏けいらをしているのだ。


 警備が厚い理由は三つある。一つは先ほどと同じく、多くの外国の探索者が活動しているから。二つ目はそれがこの地を開放するために住民と交わした契約だからである。


『他国の軍や警察の精鋭が利用するダンジョンをあなたの地元に認定します!』。こんなことを言われて手放しで喜べる者はそういない。刑務所どころか、障がい者施設や学校の建設にすら反対する者が多い国だ。到底受け入れられない。それを納得させるための施策の一つが、徹底した警察の監視であり、自衛隊の常駐であった。


 そして、三つ目。それはこの地が探索者のスパイが入り込める唯一の地域だからである。


 スパイ天国なんて馬鹿にされることもある日本だが、こと探索者においては徹底して排除されていた。そもそも、国内への探索者の入国が禁止されている。国際空港には警察や自衛隊のレベルの高い者たちが常駐し、入管ゲートには魔力を測定する機器が置かれている。もちろん要人の護衛として同伴するなど入国が認められるケースもあるが、当然それには護衛という名の監視が張り付く。


 そんな外国の探索者に対して警戒の強い日本だが、この博多のエリアだけは国外の探索者でも入国することができる。『ダンジョンは誰のものでもない。探索者の歩みを止めるべからず』。日本のダンジョンにおける理念であり、これを維持するために多大な手間をかけている。逆に言えば、多大な手間をかけようともこの理念は守ると言う、戦後日本を支えたダンジョンへの敬意でもあった。


 その結果、彼ら警察の精鋭部隊がこの地に張り付き、怪しい動きを取ろうとする探索者たちとの攻防を日夜行っているのである。


「あの時不自然に中国からの探索者が大勢来てたじゃないっすか。あいつら繋がってますよ絶対。そのせいで俺らが動けなかったんですから」


「滅多なことを言うな。立場を弁えろ。それを考えるのは俺たちの役目じゃない」


「すんません。けどわかるでしょ隊長も! 吐き出したいんすよ。せっかく力を手に入れたのに、何も活かせないやるせなさ。頭おかしくなりそうですよ」


 一級相当の力を手に入れたと言うのに、基本は監視業務ばかり。相手にするのは外国人。国内で犯罪が起きても自分たちは満足に動けない。自分の判断で動ける探索者たちを羨ましいと思ってしまうのも仕方がない。自分たちが出動しない理由が平和で何も起きていないからなら、木場だって喜んで受け入れる。だが、自分たちが動けないのは政治的思惑であったり他国の邪魔だったりとろくなことではない。


 警察組織に存在進化を経た者が少ないのは必然であった。存在進化を経た探索者は、探索者の成功者たちだ。彼らは自由であるだけでなく、富も名声も得ている。好きなようにダンジョンで活動し、レベルを上げ、アイテムをゲットし、大金を得る。警察だってやりがいはあるが、こと金の部分では日本は圧倒的に少ない。


 清貧とは聞こえはいいが、強いるのは違う。探索者と同じようにダンジョンで活動する彼らの給料は、探索者とは比べようもないほど低い。生きていく上で仕事のやりがいは重要だが、金も重要だ。特に自分のレベルがわかれば探索者としてのランクとイコールであり、いくらくらい稼げるのかが簡単に調べることができる。


 警察だって家族を養っていかなければならない。子供に少しでもいい環境を作ってあげたいと言う思いは、決して否定することなどできないのだ。家族からの要望や本人の葛藤を経て、レベルの高い同僚が民間に流れてしまうのも頷ける。


「まぁ、言いたいことは俺も同じだ。だが、俺たちがいなければ国内はもっと荒れ果てる。水際で食い止められているからこその、今の日本があるんだ」


「そうなんすけどね。はぁ……結局蜥蜴についても俺らは動けず、民間の、それも子供が壊滅させたんすよ。子供にやらせてしまった。これはくるものがありますよ」


「まぁ……な。彼のやり方は決して最善とは言えない部分もあるが、少なくとも手出しせず傍観していた俺たちよりはるかにマシと言える。大人が無駄なことをいつまでも考え続けた結果、子供に被害が及んだ事実は忘れてはならない」


 隊長が珍しく同意した。そのことに木場は驚きつつも、隊長でも腹の底に抱えているものがあるのだろうと理解する。


 川崎のテロについて、明確な証拠が無かろうとも蜥蜴の幹部一同を根絶やしにするために東は動いていた。不撓不屈の藤原を筆頭に、あれほどの怒りを良く抑え込めていたと感心できるほどに。しかし、はいどうぞと簡単に殺害が許可されることは無い。そして、先走り壊滅させに行けば、そこに正義はあるのか問われる形になる。


 ただでさえ探索者を押さえつけようとする連中がいる中、そんな叩くのに格好な話題を提供させることはできない。だからこそ、遅々とした動きであろうとも確実に叩けるように動いていたのだ。蜥蜴を壊滅させて終わりではないのだ。無理やり動いたせいで探索者の首が締め付けられれば、また別の蜥蜴のような組織も出てくるかもしれない。なんとも面倒くさく手間暇がかかるが、きちんと段取りを整える必要があったのだ。


「狂鬼は凄いっすよ。蜥蜴壊滅させた余波はめっちゃでかいです。あれだけ邪魔しに来ていた中国の探索者が全員帰国したんすよ。すげぇよ。ほんと。憧れます」


「それは止めとけ。ミーティングで結論が出ただろ。狂鬼は今も生きてることが不思議な博打が成功した例に過ぎないと。あの強さを手に入れられる探索を生き抜くのは、の剣神だろうとも厳しいはずだ」


 ただただ強すぎる探索者。一つの事に特化している探索者は多いが、近接戦から雷魔法による遠距離戦までこなせるオールラウンダー。それでいて今回の蜥蜴の壊滅に使われたと思わしき洗脳を匂わすスキル。もはやなんでもありだ。


 洗脳というスキルは、ダンジョン保有国である日本といえど見つけることが出来ていないスキルである。洗脳に近いことは呪言や毒魔法によって実現できることは確認しているが、時間もかかる上にできても傀儡かいらいとなるだけだ。


 狂鬼が仮に蜥蜴の幹部たちを洗脳していた場合、数十人規模の構成員をたった1日で洗脳し、自律的に複雑な指示をこなせる完璧な洗脳に仕上げる必要がある。現実的ではないが、狂鬼が完璧な洗脳スキルを所持していると考えれば辻褄が合うのだ。


 それは日本だけでなく、中国であっても行きつく結論。故に、中国は退いた。中国でさえ保有していない凶悪すぎるスキルを警戒して。こと対人戦において考えうる限り最悪ともいえるスキルは、その影がちらつくだけで諸外国に多大なけん制効果を発揮していた。


「わかってますよ。オールラウンダーが器用貧乏になってないなんて、ズルっすからね」


「まぁ一つ朗報なのは、今回の川崎の一件を受け、警察にも探索者の人員を増やす動きが取られるようになることだな。その足掛かりとして、給金が増えるそうだ」


「マジっすか? どうしたんすか? いつもの足の引っ張り合いでうちの政府がそんなこと決断できるとは思えないんすけど」


「お前な……。だが、当たりだ。狂鬼がまとめて蜥蜴を潰した余波で、蜥蜴や他国の息のかかった人間がことごとく辞職に追い込まれている。日本の未来も明るくなりそうだぞ」


 公職に就く彼らは、全ての国民のために行動する。それは自分たちの活動を阻害する運動をしている者たちも当然含まれる。探索者の排斥運動は東京近辺で行われることが多いが、最も標的にされているのは彼ら警察や自衛隊だ。絶対に自分たちに手を出してこないという安心感に甘え、過激なパフォーマンスをしながら声高々に批判する。


 彼らの足を引っ張るのはそんな団体だけではない。日本の警察や自衛隊を強くしたくない層が、そんな市民の声や探索者の危険性を訴え国会でも警察や自衛隊の待遇改善にいなやを突きつける。その背後を洗えば中国の甘い蜜を吸っている売国奴や、探索者の世界を作ろうとした西の息がかかった者など、ろくな奴はいない。


 ただ、蜥蜴が壊滅した際に提出された関係者リストにそれらの人間が名を連ねており、現在排斥が進められているそうだ。狂鬼が為したことは蜥蜴壊滅に留まらず、日本の国力強化にまで波及していた。無論、蜥蜴壊滅時に何名もの一般人が巻き込まれていることを知る彼らは手放しで狂鬼を称賛こそできないが、心の内で感謝を捧げる。


「さっ、そろそろ行くぞ」


 隊長がわずかとなった煙草を灰皿に押し付ける。木場も同じように最後に一吸いすると、隊長の後を追う。


「気張りますか。二度と狂鬼のような子供に手を汚させないために」


 彼らは今日も国外の探索者を監視する。華やかで目立つ仕事ではないかもしれないが、国防の最前線を任された者の矜持として、不穏な人間を国内に入れないために。

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― 新着の感想 ―
やっと東西落ち着いたと思ったら今度は外国か… ダンジョンの話が見たいのに外の話ばかり
更新お疲れ様です。 ダンジョンの謎を考察しているこの教授と教え子は、また登場するのかな? その時は、名前が出るのでしょう。 警察や自衛隊所属の一級探索者等の力がある者達は、個人が突出した力を持ち、…
狂鬼さんに理解のない人たちはどういった行動を始めてるのか興味がありますね 連日更新ありがとうございます!!
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