8話 パーティ結成報告
出雲ダンジョン。鈴鹿が初めての遠征先に定めた場所であり、波乱万丈の地であった。
鈴鹿はただ拠点を変えて観光しながらダンジョン探索をしたかっただけだと言うのに、悲惨な目に遭った。その結果目を覆いたくなるような悲劇を鈴鹿も生み出しているのだが、変に絡んでこなければ発生しなかったことなので、今頃地獄にいる人たちはちゃんと反省してほしい。
目には目を、歯には歯を、悪意には悪意を。鈴鹿は恩を受けたら恩で返し、理不尽な悪意には理不尽な悪意をお返しする。ただそれだけである。
そんな出雲の地だが、それも今日でおさらばである。
「定禅寺君、本当にお世話になったわ。ありがとうございました」
改めて、雲太のリーダーである八雲が鈴鹿に頭を下げる。他のメンバーもそれぞれ鈴鹿へお礼を言った。
「皆さんのおかげで出雲は楽しかったです。美味しい海鮮もいっぱい食べれましたしね!」
ダンジョンでの特訓を終えた鈴鹿たちは、雲太と合流した。ボロボロにされていたギルドも掃除が終わっており、後に残ったのは神在會からもらった収納袋と多額の現金だった。もちろん、それを回収しに来る輩はいないので、彼らの好きに使ってほしいと告げている。
その後約束していた二回目の釣りに行き、釣ってきた新鮮な魚で鈴鹿とのお別れ会を開いてくれた。しれっとヨキもその場にいたのだが、雲太のみんなは深く理由を聞かずに一緒に輪に入れてくれた。
もちろん灰ヶ峰は連れて行っていない。諸悪の根源たる灰ヶ峰を彼らに会わせるつもりは無いので、あいつは一人でダンジョンで死なない程度に特訓させておいた。ちょっと可哀想なので戻ってきた灰ヶ峰に残ったお刺身を差し入れしたが、それくらいなら彼らも許してくれるだろう。
そんな訳で、鈴鹿たちは八王子に戻ることにした。出雲でやり残していたダンジョン探索と雲太たちとの釣り。それが終わったからだ。出雲ダンジョンでは最後に3層5区のエリアボスと戦おうと思っていたが、それはしていない。ヨキと灰ヶ峰、それから鈴鹿の特訓のみに留めた。雨道と会ったことで鈴鹿にも思うところがあり、レベル上げよりも特訓を優先した形となった。
夜のホームに、発車が近いアナウンスが響く。鈴鹿たちはサンライズで帰るのだが、雲太達はわざわざホームまで来てくれていた。
鈴鹿は彼らに感謝している。彼らがいたから出雲という遠征先を楽しめた。出雲での遠征を良い思い出にできたのは、彼らのおかげに他ならない。彼らがいなければ鈴鹿は出雲大社を見学した後はいつも通りダンジョンに籠っていただろうし、探索者高校の生徒のダル絡みや、神在會のカツアゲと出雲にはヤンキーしかいないのかと勘違いのまま終わるところだった。間違いなく雲太は出雲の良心である。
「私たちは定禅寺君の味方だから、心もとないかもしれないけど何かあったら遠慮なく私たちを頼ってね」
「ありがとうございます。出雲に来たら皆さんにお声がけしますね」
「おう! 次会う時は俺たちも存在進化できるように頑張るぜ!」
佐香が元気よくそう言えば、そしたら低層ダンジョンの出雲から離れないとじゃんとツッコミを受けている。出雲ダンジョンも3層の独占は当然無くなっているし、探索者協会の立て直しも進められるだろう。探索者として適度に無理しながらも頑張ってほしいものだ。
「ヨキちゃんも、定禅寺君を支えてあげてね」
「お任せください」
「それじゃあ、皆さんまた!」
そう言い残し、鈴鹿たちを乗せたサンライズは東京へ向け走り出した。
◇
鈴鹿が育った地、八王子。数週間しか離れていなかったが、随分久しぶりに感じる。慣れ親しんだ八王子に戻ると、肩の力が抜けるようだ。見知らぬ地ということで知らず知らず気を張っていたんだなと、実感できる。
そんな鈴鹿たちは、お昼を食べるためにラーメン屋に訪れていた。当然食べるのは八王子ラーメン。八王子に来たからには、灰ヶ峰とヨキには八王子ラーメンをご馳走しなければならない。
「はぁ。うめぇ。帰ってきたって気がするわ」
実家のお味噌汁とか、地元の食堂とか、各種名産品。地元を感じられる品というのはいい物だ。
「美味しいです、鈴鹿様」
「気に入ってもらえてよかったよ。心なしか灰ヶ峰も口角が上がっている気がするし」
「ああ、美味いぞ」
能面面なのでわかりにくいが、灰ヶ峰も気に入ってもらえたなら嬉しい。ヨキも美味い美味いと食べている。ステータスアップの影響で恐ろしく美人なヨキがラーメンを食べているのも、ギャップを感じられるな。
「それで、これからどうするんだ?」
「今日はこれからギルドマスターにパーティ結成を報告する予定。で、明日からはしばらくこっちかな。なんか疲れちゃったし」
鈴鹿は灰ヶ峰とヨキとパーティを組むことにした。と言っても一緒に強大なモンスターと戦おう! という感じではなく、各々死に物狂いでモンスターと戦いましょうという、新しい概念のパーティであるが。とはいえ、一緒にダンジョンに行って探索するので、パーティと言えばパーティと言える。ならば、将来所属するギルドのマスターには話を通しておくのが筋だと考えた。
それ以降はまた別のエリアのダンジョンに行こうと思ってるのだが、初めての長期旅行が慌ただしすぎて少し食傷気味だ。ヤスにも会いたいし、数日はゴロゴロしている予定である。
「だから二人もホテル1週間くらいとっておいて」
「承知しました」
「わかった」
「というか、あれだな。二人とも八王子に家借りる?」
灰ヶ峰は広島に家があるみたいだが、ミニマリストなのか荷物は全然ないとのことだ。ヨキに至っては家になど帰りたくないとのことで、荷物はゼロである。
しかし、それをずっと続けるわけにはいかないだろう。今回鈴鹿も八王子に帰ってきて気が抜けた様に、帰る場所というのは必要だ。
「今後どこを拠点として活動するかによる。東京を起点とするならば、住む場所の確保は必要だな」
「う~ん、東京かなぁ。ダンジョン探索するたびに日本を転々とする予定だけど、最終的に腰を据えるのは深層ダンジョンがある場所だよね。となると東京か大阪だけど、東京かなぁ。雨道さんとお茶できるから大阪も捨てがたいけど。二人はどう思う?」
「私はどちらでも構いません」
「未だに大阪が候補に入るところが頭がおかしい。危機管理意識を持て。変に絡まれても面倒くさいだろ。東京にしておけ」
鈴鹿にとって大阪のギルドは何もそそられない集まりだった。ダンジョンを頑張って探索する気概もなく、トップ探索者がダンジョン外の権力争いに躍起になる。うまくいかなければヤクザを使って脅すなんて、もう目も当てられない。直接対峙してもわかったが、再び鈴鹿の身内を狙うような気合もない。あれは蜥蜴という組織あっての凶行であったのだろうが、あそこにいたのは直接手を汚しもしない意地汚い者か、弱い者だけに強く出れる玉無し共だった。
雨道の様にひたすら鍛錬して高みの扉を開く努力をすればいいものを、あいつらは雨道から何を学んだのか。雨道は自己中だから何も教えてないかもしれないが、探索者ならば学び取れよと説教したいほどだった。
だからこそ、鈴鹿にとってそんな路傍の石ころは視界にすら入らない。もうあれは終わった案件であり、気に掛けるレベルのギルドではないと。
「まぁ、特に否やが無いなら東京にするか。東京ダンジョンが将来的な活動拠点かな」
「わかった。とりあえず広島から八王子に住居を移しておく。その辺はこの一週間で行っておこう。ヨキの家も手配する」
便利な男である。やはり1パーティに一人は灰ヶ峰が欲しいな。
「いえ、それには及びません。私は鈴鹿様のお家に厄介になりますので」
「ん? 家来るの?」
「はい。そう決まりました」
「そうかぁ」
知らない間にヨキの中でそう決まったらしい。まぁ、別にいいのか? 家には納戸もあるし、俺の部屋片づけて納戸の荷物運べば寝るくらいはできるだろ。両親に相談が必要だけど、話せる範囲のヨキの境遇を伝えればオッケーしてくれそうだし。
「じゃあヨキは家来るか。今日親に聞いてみるから、とりあえず今日はホテル泊りなね」
「はい。よろしくお願いします鈴鹿様」
ヨキは狂鬼の面の効果で力を与えたせいか、他人という気がしない。眷属という扱いなのかもしれないが、身内みたいに感じるのだ。だからそばにいても気を使わないし、そうしたいなら好きにすればいいという思いである。
「一週間の休息が終わったら八王子ダンジョンに行くのか?」
「いや、せっかくだしまた別のダンジョン行くよ。どこに行くかは考えとく。候補でもあれば教えて」
「特にない。任せる」
「おけ。じゃ、飯も食ったし探索者協会行くか!」
八王子ラーメンを堪能した鈴鹿たちは、都ま〇じゅうをお土産に買い探索者協会へと向かった。
◇
探索者協会の防音施設が完備された会議室に、zoo達が入室してきた。
「久しぶり、鈴鹿ちゃん。今回もまた大変だったみたいだね」
入ってきたzoo達は、鈴鹿の横に座る二人に驚くものの席に着く。特に灰ヶ峰については警戒しているのがわかる程だが、無理もないだろう。灰ヶ峰は鈴鹿の配信で蜥蜴の幹部として紹介した。蜥蜴と言う巨悪の幹部が何食わぬ顔で同席していたら、警戒しない方がおかしい。
「鈴鹿ちゃんが今回したこと、配信外の事についても多少知ってるつもりだよ」
希凛が鈴鹿を見据える。
「殺し過ぎかな鈴鹿ちゃん。やらざるを得ないことを踏まえても、君ならもう少し上手くできたでしょ?」
警戒されていたのは鈴鹿に対してもだったようだ。
配信外の事。それはつまり蜥蜴の代表を殺したこと以外の事を指しているのだろう。蜥蜴の大多数を問答無用で殺したことか、はたまた無関係の人間を巻き込んで殺したことか。鈴鹿は咎められていた。
「やられたことはやり返す。それができる力があるのだから。降りかかる理不尽には理不尽を押し返したいと思うのは、間違ってる?」
「気持ちはわかるよ。気持ちはね。私も売られた喧嘩は買う性質だ。けど、ラインを越えるのはよろしくない。あくまで蜥蜴だけで完結させるべきだった。蜥蜴の構成員による同時多発的無理心中。あれ、鈴鹿ちゃんの指示だね?」
「言っただろ? やられたことをやり返すって」
剣吞な雰囲気。希凛は鈴鹿にお冠なようだ。
「この世界はダンジョンみたいに単純じゃないんだ。人と生きるならばそのルールに則る必要がある」
希凛が鈴鹿を見る。まだ存在進化すら経ていないはずの希凛が、特級すら歯牙にもかけない鈴鹿に正面から宣戦布告する。
「私は鈴鹿ちゃんをギルドの一員だと思っているからね。仮に、警察が鈴鹿ちゃんを指名手配に加えたならば、真っ先にその首を取るからね」
「……できるの?」
「らしくないことを聞くね。するんだよ」
数秒、鈴鹿と希凛の視線が交差する。いつもの余裕たっぷりの自信に溢れた笑みではなく、希凛は真顔で鈴鹿を見る。冗談ではないぞ。そう伝えるために。
「ま、今回の件で鈴鹿ちゃんが指名手配されることは無いと聞いてるから、杞憂ではあるけどね。相手も相応以上に下劣だったし、鈴鹿ちゃんがやられたことも理解している。だから今回は注意だけにするよ。けど、次はない。指名手配されようがされまいがね。私に責任を取らせないでね」
「ごめんなさい」
「いいよ。私は君の手がどんなに汚れようとも、大切な仲間であるという気持ちは決して変わらない。けれど、ギルドを立ち上げる身として、負う責任もまたあるというだけさ」
ただの高校生の希凛がここまで情報を持ち合わせているということは、相当に首を突っ込んで動いたのだろう。鈴鹿をギルドの一員だと自負しているから、そのギルド員がしてしまった過ちの責任を取るために、きっと希凛は動いたのだ。
鈴鹿は自分がしたことを後悔するつもりはない。何度過去に戻ろうとも、同じ理不尽を押し付けたいと考える。ただ、未来のギルドマスターを煩わせないためにも、次は激痛と最悪の夢を見させる毒だけに留めておこうかなと、反省した。
「それで、パーティを組むって聞いてるけど、その人たちかな?」
希凛がもう話は終わりだと鈴鹿に促す。この話の後にはとても紹介しにくい者がいるが、どうしようかと鈴鹿はとりあえずヨキを紹介する。
「うん。ちゃんと説明するね。まずはこの綺麗な角が生えてる女性。ヨキって言うんだ。端的に言えば蜥蜴って西のヤクザの被害者だったんだけど、仲良くなって仲間になった」
「ヨキと申します。よろしくお願いいたします」
ヨキについてはみんなも受け入れやすいのか、よろしく~と明るく迎え入れられている。まぁ、ヤクザでもないしね。はたから見れば普通に存在進化を経た探索者とパーティ組んだということでしかない。
「で、えー続きましてはその隣。濁った赤い瞳がチャームポイントの灰ヶ峰くんです。彼は、その~なんだ。蜥蜴の幹部だったんだけど、気に入ったから仲間にしました!」
「灰ヶ峰だ。今後狂鬼と活動することになっている。無理に受け入れる必要はないが、狂鬼とパーティを解消する気もない」
お通夜みたいな空気になった。
「……灰ヶ峰さん。聞きたいことが。何故西はこんなにも探索者の地位向上をと叫びながら、探索者の地位を脅かすようなことをしたんですか。先の川崎の件。その真意を知りたい」
「西には猶予がなかった。川崎の件まで踏み切った理由、それが根本的な要因だ」
雨道に対しても思ったが、なんか頭のいいっぽい風に言って詳細を語らないの、逆に馬鹿っぽいからしっかり語ってほしいんだけど。
「俺にもわかるように言え」
「西の行動のすべては雨道への忖度だ。雨道という強き輝きの力になりたい。その思いが根底にある。雨道に協力したい、それはつまり雨道を超越者の先へと進めさせること。そのためには仲間が必要になる。だが、雨道と並び立つには剣神に匹敵するスキルが必要だ。しかし、日本に生まれた二代目の剣神は不撓不屈に押さえられてしまった。そこで、西は次に現れる超越者候補を確実に押さえられるようにする必要があった。雨道のために」
そこで一度区切り、灰ヶ峰は鈴鹿を見る。ちゃんと付いてこれているか確認しているのだろうか。はたくぞ。
「それが川崎に繋がる。雨道ももういい歳だ。レベル250の先に進む探索に赴くとしても、もう時間がない。だからこそ、強引だろうとも川崎を犠牲にした。探索者の首が締まろうとも、東の力を削ぐために」
「そういえば川崎の件って蜥蜴が裏引いてたってのはお前から聞いたけど、東側って実際に蜥蜴がやったって証拠は握れてたの?」
「握れていないはずだ。実行したのは関東の探索者崩れ達であり、蜥蜴は一切手を汚していない。そして、蜥蜴から指示されていると知っているのは崩れ達の中でも上層部のみ。崩れ達の上層部はそこそこのレベルの探索者だ。それを生きたまま捕え白状させるなど、そうできることではない。仮に実行できたところで、崩れ共が蜥蜴と思い込んでいるのは西成が呪言によって洗脳し、自分を蜥蜴の幹部だと勘違いしているだけの探索者崩れに繋がるだけだ。証拠は絶対に出てくることはない」
故に、東は蜥蜴を潰しに行けなかったのだ。確たる証拠。絶対裏にいる。そう確信している。けれど、証拠がなければそれはただの思い込みであり、なんの大義にもなりえない。何故暴力団が存在しているのか。何故暴力団の組長が捕まっていないのか。その答えが、蜥蜴が東に潰されていない最大の理由であった。
今回のテロ行為。同じ系列の組織などではなく、全く別の関東で活動する探索者崩れを流用したことが、蜥蜴の勝因であった。
「ふ~ん。証拠ね。叩けば出るかもしれないじゃん。警察とか自衛隊とかが一斉捜索とかできそうだけどね」
「仮に蜥蜴に令状が出たとしよう。だが、内部に仕込ませたネズミが事前に周知し、決定的な証拠など出てくるわけがない。そうできないように、関西と中国地方を支配しているんだ。まぁ、迅速に捜査しようがそう出てくるものはないけどな」
そして、特級探索者がいるというだけで、踏み込みづらい背景もある。特級が暴れた時、警察や自衛隊ではどうしようもない。彼らは九州にレベルを上げた探索者からなる組織を配置しているが、特級探索者がいるわけではない。特級には特級の対抗が必要であり、その結果真っ当な特級が死ぬリスクは国の安全保障的にも許容できない。
故に、多少の悪さは目を閉じられる。ヨキのような被害者など、日本全国で見ればそう珍しいケースでもない。人体実験は無いだろうが、売り先が研究組織か風俗かの違いでしかないのだ。そんな被害者、ゴロゴロいる。戸籍すら売り払う人間がいる世の中だ。そして、そんな小さな悪事を露見したところで、差し出される哀れな探索者崩れが捕まって終わりである。
出雲ダンジョンの件もそうだ。薬物を作っていようが、探索者を締め出していようが、国からしたら一つのダンジョンの機能が失われただけに他ならない。それを奪い返すために特級と揉めるなど、許容できない。これが出雲という地を川崎のように滅茶苦茶にしているというのなら話は変わる。だが、蜥蜴もそこは弁えている。特級探索者という看板によって政府が動けないギリギリを、蜥蜴は生きていた。
「特級の数ってそんな大事なの? そのせいでこの前も止められたけど」
「当り前だ。何故警察や自衛隊の精鋭が常に九州にいるか考えればわかるだろ」
「なんで?」
「博多ダンジョンは国外へと開放しているダンジョンだ。そこでレベル上げを行っている国外の人間に対して警戒している面もあるが、中国を含む諸外国からのスパイとの攻防が主要因だ。知っての通り、探索者は海外での活動が制限されている。友好国ならまだしも、現在の中国との関係は薄氷だ。博多以外で中国人の探索者は活動できない。それに対する監視と対応に追われているんだよ。中国の探索者が大人しく博多にいるのは、日本の特級の数が多いからだ。ここで特級の数が減るようなことがあれば、中国の蠢動を許すことに繋がる」
蠢動すると何がダメなのだろうか。剣神である雨道や天童がいればどうとでもなりそうだけど。あ、でも特級の数を減らしても剣神たちでカバーできそうだけど、雨道や天童の代えは利かないのか。
「一番まずいのは剣神同士の共倒れだ。雨道の話でもあっただろ。藤原が勘違いしているかもしれないと。雨道は基本一人で修練している。それを邪魔することはできず、雨道は自分よりも劣る人間に対して会話をしない。お前とはあんなに親し気に話していたが、他の猛虎伏草への態度を見ただろう。つまるところ、蜥蜴や猛虎伏草側と戦う際、雨道が出てくる可能性を東は常に警戒していた。いや、西がそう誘導していたというのもあるな。結果、天童が動けば雨道が動き、超越者が共倒れする可能性が出てくる。そうなれば日本は中国に喰われる。または、アメリカの属国だな」
「はぁーめんどくさ」
「そうだ。そして、特級の数を減らすことは中国の蠢動を許し、やつらの策略によっては東西の超越者が共食いする可能性すらある。故に度を越えなけれ蜥蜴は見逃されるのだ。断罪するにしても、所詮替えの利く尻尾だけが裁かれることになる」
そう言って、灰ヶ峰は希凛へと向く。
「話が逸れたが、川崎で起こしたテロの真意は西が雨道と並ぶ超越者を雨道が存命中に確保するために、テロを起こしてまで東の力を削ぎたかったからだ。予定ではもう少しすれば蜥蜴を潰すために不撓不屈が西へと来たはず。その際に東の頭を潰せば、東は発言権を失う。いくら天童が残ろうが、数の利で政府は猛虎伏草にも頼らざるをえない。名実ともに日本のトップとなり、どこのギルドが何と言おうとも新たな原石を獲得することができる」
「それが自分たちも破滅する刹那的なものであっても必要であったと?」
「そうだ。探索者ならばわかるだろ。大阪は雨道の力に魅せられている。その後にどれほど国が荒れようが自分たちの立場を悪くさせようが、雨道を先へ進ませられるのならばあいつらは受け入れる。探索者至上主義。たった一人の探索者を最強にできるのならば、それ以外は全て切り捨てる。それが西のギルドだ」
「わからないね。自分が並び立てば良いだけのことを、あそこまでの地獄を用意してやりたいことは原石探しという名の他力本願。心底理解できないよ」
「本当か? どうしようもないほどの埋められない彼我の差を知り、それでも一助になりたいという思いは、君たちならわかるんじゃないか?」
「わからない。そう言ったはずだが? それならばダンジョンで死ねばいいだけの事。尽くせる手を尽くさずに安直な選択を取るその性根に、私は反吐が出るよ」
希凛が吐き捨てる。それには鈴鹿も同意する。自分が手を上げればいいだけなのにね、と。強い者を求めているのなら、自分の命をかけて強くなってくればいいだけなのに。そんなにあいつらの命って大事なものなのかね。他人の命を犠牲にしてまでさ。
「何故蜥蜴という組織で悪事をしていた自分が、鈴鹿ちゃんとパーティを組めると思ったのかな? 闇の住人が光の下に出てくるなんて、烏滸がましいと感じないのかい?」
「かけらも感じないな。狂鬼に誘われ、その強さに魅入られた。だからこそ、手を取ったのだ」
「犯罪者風情が鈴鹿ちゃんの手を取ると? 汚すの間違いではないのか?」
「俺程度の力で狂鬼の手を汚せると? それこそ烏滸がましい」
なんだ、灰ヶ峰は褒めてるのか? いいぞ。もっと褒めろ。
「……ふぅ。鈴鹿ちゃん、ちょっと二人に離席してもらってもいいかな」
「おっけー。悪いけど、俺コーヒー飲みたいから、カフェオレ買ってきてくれない?」
二人にお使いをお願いし、部屋から退室していってもらう。
「最後に、これは言い訳だが、西を離れた後、思考がクリアになった。恐らく猛虎伏草の西成による呪言を使った思考誘導を受けていたのだろう。思考の誘導は洗脳とは違うからか、俺でも気づかなかった。猛虎伏草を始めとした最近の暴走。西成が関与している可能性がある」
「へぇ。思考の誘導ね」
「そうだ。俺が先ほど話した川崎のテロに対する西の真意。もしかしたら、そこにズレがあるかもしれないと思ってな。一応伝えておく」
そう言って灰ヶ峰とヨキは退室していった。ちゃんとカフェオレは買ってきてほしい。
二人が出て言ったのを確認し、希凛が鈴鹿に確認する。
「正気かい?」
「もちろん。気に入っちゃったんだ。ヨキは外せないし、灰ヶ峰は強くなる。あいつは頭がいいからな。だから仲間にした」
鈴鹿の目をまっすぐ見る希凛。鈴鹿もまっすぐ見返す。本心だからやましいことはない。
「彼は正真正銘の犯罪者だよ。パーティに入れたとなれば、横浜のギルドを始め蜥蜴に恨みを持った人間から攻撃を受けるかもしれない」
「それも定めだな。灰ヶ峰を殺したければどうぞご自由に。俺の周りやヨキに迷惑かけなければ好きにしてくれ。それが灰ヶ峰の業だと理解しているよ」
ただ、強いから殺せないと思うけど。そう鈴鹿は笑ってみせる。
その笑顔に、希凛は水刃鼬と戦っていた時の鈴鹿と重なった。あの狂気的な笑みと。自分がこれだと思ったら、何も迷わずにつき進める者の笑みであると。
「……そこまで覚悟があるのなら私は止めないよ。ただ、ギルドに加入させるかは相談させてほしい。私たちも整理できていないからね。あ、ヨキさんは歓迎だよ。あんな美人、どこで見つけてきたんだい?」
「ほんとほんと! 竜種の存在進化の人! 絶対強いでしょ!」
「鈴鹿ちゃんとパーティ組めるくらいだからね。興味津々だよ!」
「ど、どんな探索してるんですか? と、というか、き、狂鬼チャンネルの内容についてこれる人たちなんですか?」
希凛がパーティを承認した。ならば待っているのは質問タイム。そう言わんばかりに、他のメンバーが話し出す。
灰ヶ峰が入ることで、希凛たちのギルドにもリスクが伴ってしまうかもしれない。だが、ギルドが立ち上がるのは先の話。それまでに、手を出せないほど灰ヶ峰が強くなれば解決するだろう。結局、探索者に求められるのは隔絶した強さなんだ。それを見せ、それでも襲ってくるのならば、灰ヶ峰はそれを受ける義務がある。もちろん、攻撃を受けるという訳ではない。挑戦を受けるという意味だ。怨みがあるなら正々堂々挑みなさい。ということである。
鈴鹿は灰ヶ峰の辿った人生の軌跡を知っている。それ故に嫌悪感がないのかもしれない。ああ、本当にそれしか道が用意されてなかったんだな、そう思えたから。そして何より、強かった。頭がいい点がさらにいい。だから鈴鹿は気に入った。それを周りに強要することを鈴鹿はしないので、気に入らなければ自分の手で殴りに来てくださいで終わりだ。灰ヶ峰に限って言えば、闇討ちしたければどうぞどうぞ。その件で鈴鹿が迷惑を被っても受け入れる。灰ヶ峰を招いた責任があるからな。ただ、ヨキを含む鈴鹿の身内に手を出そうとしたら、それは蜥蜴の再来となるだけだ。
戻ってきた二人を出迎えたのは、女性たちによる質問ラッシュ。主にヨキに対してだが、みんなが気が済むまで、質問は続けられるのだった。




