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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第九章 修練の3層5区

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2話 お好み焼き

 広島駅のすぐ近くに構えるお好み焼き屋。普段は活気溢れる店内だが、今はとても静かなものだった。皆一角のテーブルにばかり視線がいってしまい、食事に集中できていない。


「あれだな。気配遮断って偉大なんだな」


 そうこぼすのは鈴鹿。普段屋外に出ているときは気配遮断を使用しているのだが、なぜこうも目立っているのか。それは一緒の席に座っている二人のせいである。


「俺も気配遮断のスキルは持っているが、レベル3だ。このレベルだとお前みたいに器用な真似はできない」


 そう告げるのは灰ヶ峰(はいがみね)だ。黒髪に真っ赤に濁る瞳。特級に手が届くほどのステータスである灰ヶ峰は、当然容姿も整っている。鈴鹿と同じく美を体現するような美形。造形美を誇る顔は、いつまでも見ていられる。現に、灰ヶ峰に見とれて箸が止まっている客が多いのだから過剰な表現ではないだろう。


 身に纏うスーツも高級な仕立てなのがわかるほど生地が良く、オーダーメイドなのか灰ヶ峰の体形に合っている。さらに耳や指などはダンジョン産の装飾品が着いているのだから、鈴鹿にはホストにしか見えない。ここまで顔が整ったホストがいれば、性格がどれだけクズでも通い詰める女の気持ちもわからなくもない。


 そんな灰ヶ峰は、目立つからこれ着けとけと先ほど鈴鹿が購入した丸眼鏡のサングラスをかけている。顔がイケメンだから目立つのだ。ふざけたような丸メガネでも着ければマイナスになって目立たなくなるだろ。そんな鈴鹿の浅はかな考えは、灰ヶ峰がサングラスをかけた瞬間に崩壊する。普通に似合っていた。むしろカッコいい。どういうこと。イケメンってなんでも似合うのか? そんな素朴な疑問を浮かべたほどだ。


「すみません鈴鹿様。私は気配遮断というスキルは持っていないようです」


 そう言って申し訳なさそうに縮こまる女性は、研究施設で鈴鹿にスカウトされた女性であり、鈴鹿によって蘇生された女性だ。蘇生された直後は無理やり移植されたような傷口が痛々しい角や尻尾であったが、今ではそれらも馴染んでいる。坊主頭だった髪の毛も今はすっかりと生え揃い、美しい長髪が後ろで一本結びにされていた。髪の毛は黒みがかった紺色だが、毛先に進むにつれて色が薄くなっていき、結ばれた髪の先は水色と美しいグラデーションをしている。髪の色は魔力の影響を受けて変化することも多く、この女性の不思議で綺麗な髪色も魔力の影響だろう。


 角は太いみきから枝分かれしたような形状だ。尻尾は細く長く、普通に立っていると尻尾の中ほどでもう地面についてしまう程長い。角も尻尾もどちらも髪の毛と同じように黒に近い紺色であるが、光の当たり具合によってはあざやかに青みがかっており宝石のような美しさをたたえている。


 ぎされたような皮膚や爪、それにかぎ爪の様になっていた脚はなりを潜めていた。それでも角と尻尾は存在を主張するように残り続けているが、それは存在進化したことで見た目に変化が現れるのと何ら変わらない。鈴鹿の黄金の瞳や、灰ヶ峰の赤く濁る瞳と一緒。ちなみに女性の目の色は藍色。夕闇に染まるよいの空の様に美しい色だった。


 こちらの女性、なぜこうも見た目が変わっているのかというと、鈴鹿によって強化を受けたからである。鈴鹿が所有するアイテム『狂鬼の面』、その効果は以下の通りだ。


 名前:狂鬼の面

 等級:幻想ファンタズマ

 効果:狂天童子きょうてんどうじに認められた者のみが装着することができる面。相手の力を喰らうことでその力を蓄えることができ、任意の者に分け与えることができる。


 色々と鈴鹿もツッコミどころがあった。まず幻想ファンタズマ級とは何ぞやというところが一番だ。現状ネットで調べてわかる範囲の最高レアリティは伝説エピック級である。その先は調べても出てこなかったが、まだ上があるかもしれないと言われていた。伝説エピック級であっても名前通り伝説クラスのアイテムとのことで、世界中でも保有しているギルドは極わずかだそうだ。


 それを踏まえたうえで、伝説エピック級の上が幻想ファンタズマ級かと問われると、ほんとか?と疑問である。まぁ、この辺りはいくら考えてもすぐに出てくる答えではないので、気にするだけ無駄だと鈴鹿は考えないことにした。


 次に気になるのは狂天童子に認められたという一文。気になって鈴鹿は尾道組の構成員に仮面を装着させてみた。結果、消滅した。滅却の力でも使われたように、構成員が消滅してしまった。なんか仮面からも怒ってるような気配がしたのでそれ以降試してはいないが、ろくなことにならないことは分かった。


 そして、今回行使したのが、『蓄えた力を分け与える』という能力だ。このお面、鈴鹿が配信中にご飯が食べ易いように口と一体になるという能力だけではなかった。当たり前だが。


 まずこの能力を行使するためには、力を蓄える必要がある。今回蓄えていた力は3つ。練鱗淵れんりんふちばん、特級探索者大久野、そしてガスマスクである。ガスマスクはアイテムのはずであったが、大久野とは別の力として蓄えられていた。ラッキーである。


 で、鈴鹿はよくわからないのでこの3つの力をこねくり回し全部女性に分け与えた。この力も尾道組の構成員を使って試してはいたが、試した力は探索者でもない構成員程度の味噌っかす能力ばかりだ。お面もお面でこんなゴミ蓄えるなと訴えてるように感じたので、俺もそう思うと鈴鹿はろくに試していない。だから、蓄えていた強い3つの力が、どう作用するかなんてわからなかった。なので全部上げた。これから鈴鹿と一緒にダンジョンに行くなら、強い方がいいよねぇと思って。


 結果、女性は存在進化を一足飛びで果たした。そのおかげもあってか角や尻尾などが身体に馴染み、存在進化の影響にまで落とし込むことに成功する。さらにステータスも盛れたために容姿にも変化が起きた。透き通る様にきめ細やかで白い肌、手足は細く長く、それでいて出るところは出ている抜群のプロポーション。鈴鹿にも負けず劣らずな美しい顔、そして、彼女が強く望んだ美しい長い髪が反映される。


 美しく生まれ変わったことで、彼女も灰ヶ峰に負けず劣らず目立っていた。むしろ角や尻尾がある分灰ヶ峰よりも目立っていると言っても過言ではない。そんな彼女も丸いサングラスを着けているのだが、全然隠せていない。むしろ芸能人のお忍びかなんかかと逆に目立つ始末。ちなみに鈴鹿も丸いサングラスをしている。三人お揃いである。


 女性は研究施設で簡素な手術服のような物しか身に着けていなかったため、先ほどユニ〇ロで買い揃えた。それまでは鈴鹿の持つ一番普段着っぽい一式防具である猿猴の防具を貸してあげていたので、あられもない格好で連れまわしたわけではないことを言及しておく。


「灰ヶ峰はまずは気配遮断のスキル強化してもらわないとな。アイテムとかないの?」


「組織内にはあった。だが、諸々含めて東へと譲渡するトラックに積み込み、既に輸送済みだ」


「……今更なんだけどさ。あのトラックって輸送してる物品めっちゃ価値あるよね? 総額はちゃめちゃに高いよね? あんな普通のトラックで大丈夫かな」


「大丈夫だ。むしろそんな物が積み込まれているなんて誰も思わない」


 まぁ、それはそうか。普通の貨物トラックで金塊輸送しているようなものだもんな。


「ん? てことは灰ヶ峰って今フル装備状態じゃないの?」


「いや、逆だ。フル装備のみ収納に仕舞っている。それ以外はトラックに積み込んだ」


 なんでも、灰ヶ峰にとって大事な人なんていないから、鈴鹿の毒で自殺する前に猛虎伏草の元代表、雨道うどうと戦う予定だったそうだ。ここ最近の西の暴走の原因は、雨道うどうにあるそうだ。正確に言えば忖度そんたくらしいが、雨道さえ死ねば西は沈静化しまともに戻るはずらしい。それに加え、東西のいさかいも紐解けば藤原と雨道との確執によるものである。ならば、雨道を殺せば東側も溜飲を下げるだろうと考えたそうだ。


 そのためのフル装備。雨道は剣神のスキルを所持する特級探索者だ。特級に至ってすらいない灰ヶ峰では、例えフル装備であろうとも勝ち目のない戦いであったそうだが。


「ふ~ん。じゃあさ、その雨道ってやつを俺がればいいんじゃない? 猛虎伏草と戦うなって言ってたけど、雨道なんて引退した奴なら殺っちゃっても万事オッケーだったりしないかな?」


「しない。そして思いつく限り最悪な手だ。雨道を殺せば大阪全てとの戦争が間違いなく起こる。特に、雨道に憧れて結成されている大阪の特級ギルド、『千年一剣』が玉砕覚悟で来るだろうな。それは日本が割れることを意味する。そして、他国の介入を受ける結果となるはずだ。俺は万が一雨道を倒せたとしても自殺する予定だったからよかったんだ。それに雨道は強い。油断すればお前でも危ういぞ」


 ううむ。いい案(ひらめ)いたと思ったのだが、ダメなようだ。灰ヶ峰は淡々と良い悪いを言ってくれるので、なんとも良いアドバイザーである。やはり仲間にして正解だった。しかし、俺の強さを知る灰ヶ峰が俺でも危ないと思うとは……雨道か、どんな人だろうか。


「残念。それに気配遮断のアイテムも無いってなるとスキルレベル上げしかないか。じゃあ灰ヶ峰はごたごた片付いたら気配遮断強化してね。じゃないと一緒に歩くのめんどい」


「善処しよう」


 自分に向けられた視線ではないが、鈴鹿は周りから無遠慮な視線が向けられていると居心地が悪い。灰ヶ峰は周囲から常に見られてるのに居心地悪くないのかな。もう慣れたのだろうか。


「君も頑張って気配遮断覚えよっか。これあげるから、気配遮断の感覚覚えてスキル強化していこう」


「ありがとうございます。精進いたします」


 鈴鹿が収納から一枚のマントを取り出し、女性へと渡す。擬態のマントだ。これを付けたり外したりすれば、気配遮断の感覚も少しは掴めるだろう。『闇夜の雫』や『忍びの外套がいとう』もあるが、まずは自分で気配遮断スキルを覚えてもらった方がいい。『忍びの外套』は破格の性能なので有効活用してもらう分にはいいのだが、どうせなら自分でスキル覚えた方が応用も利くというものだ。一応『忍びの外套』も後で渡しておくか。鈴鹿は使うことは無いだろうし。


「さてさて、お好み焼きが来る前に少し話すか。まずは君の名前を教えてほしいんだけど」


 さっきから鈴鹿が君と呼んでいたのは、キザを気取っていたからではない。名前を知らないからそう呼んでいるのだ。


 研究施設で狂鬼の面による能力付与が行われた後、女性は気絶してしまった。それも聖魔法による回復を施せばすぐに目を覚ましたので、力が流れ込んでびっくりしたのだろう。じゃあ移動するかと思ったのだが、彼女はろくな服を着ていない。連れてこられた時に着ていた服も処分されているとのことで、彼女が着れる服がなかった。


 家に帰るかと提案しても拒否。なので一式防具を渡して服を買いに行き、お腹も空いたので念願のお好み焼き屋さんに来たところであった。ただ、慌ただしかったからと言って名前すら聞かないなんてどうなのと思うだろう。当然鈴鹿は一度名前を尋ねた。移動時のタクシー内で、名前教えてと。ただ帰ってきた答えはこれだ。


「私に名などございません」


「またそれか。自分の名前嫌いだったの?」


「そうではないですが、私はあそこで死んでおります。ならば私は過去の私とは別物。故に名前はありません」


 ふむ、難しい。あれかな。キラキラネームだったのかな。ちらりと灰ヶ峰を見るが、女性も凄まじい形相で灰ヶ峰に釘をさすために睨みつける。この様子だと灰ヶ峰は知ってそうだが、無理に聞き出すことでもないだろう。


 ちなみに鈴鹿と女性は一緒に横並びで座っており、向かいに灰ヶ峰が座っている。鈴鹿の隣がいいというので好きにさせた。自分を救い出した人間と、自分の身体を弄繰いじくり回した組織の人間だったら、前者の近くにいたいというものだろう。


 名前を言いたがらない事情は分からないが、聞かれたくないことを無理やり聞くつもりもない。


「それじゃあ何て呼べばいい?」


「鈴鹿様に名付けていただきたいです」


 キラキラ、キラキラ。まるで瞳に天の川でも流れているのかと思えるほど期待に輝いている。それに対する鈴鹿の正直な感想は「え、困る」だ。ただ、この女性に対して鈴鹿はできるだけ面倒を見ようと思っているので突っぱねることはしない。


「う~~~ん」


「では、良い名前が決まるまでは私の事はメイドとお呼びください。今日から鈴鹿様のお世話は私がいたしますので」


「そうなの?」


「はい。そう決まりました」


「そうかぁ」


 まぁ、いいか。とりあえずの呼び名は決まった。そのうちいい名前が閃いたら付ければいい。それに名前を付けると言ってもあだ名やアカウント名みたいなものだしな。気楽に考えてもいいかもしれない。


「じゃあメイドさん」


「メイドです」


「メイド。これからについて話そうか。今後は俺たちと一緒にパーティ組んでダンジョン探索してもらうつもりなんだけど、大丈夫?」


「当然です。私の命は鈴鹿様のために使わせていただきます」


 うん、覚悟決まったメイドさんだ。悪くない。


「オッケー。それが聞ければいいや。お好み焼き食べたら俺と灰ヶ峰は大阪に一度挨拶してくるから、その間に家に戻ったり友達と会ってきたら? しばらくぶりでしょ」


「それにはおよびません。私があそこに連れ込まれたのは2月です。今は5月。三ヶ月も行方不明であれば、今更会う必要もありません」


 そうか。連れ去られたのは昨日今日ではないのか。それでもたった三ヶ月だ。会わない理由にはならないと思うが。


 そう思いちらりと灰ヶ峰を見れば、女性を一瞥した後に説明してくれる。


「こいつは親に売られてあそこに収容されている。そんな親にわざわざ会いに戻りたくはないだろう」


 メイドは微笑みを浮かべたまま微動だにしていない。


「あー、なるほど。思い出させてごめんね。友達にも会わなくて大丈夫?」


「大丈夫です。私も鈴鹿様と一緒に大阪へ付いて行きます」


 大阪に付いてくるのはいいけど、最悪揉めて大乱闘になりそうな気もするんだよなぁ。力を与えたからメイドも強くなりはしたけど、レベル100の存在進化超えてそこそこと言ったところだ。ガスマスクを着けた大久野にも劣る。う~ん。『忍びの外套』装備して離れてもらってたら大丈夫だろうか。


 いつも通りの軽い考えで、メイドの大阪同行を許可する。


「じゃあ決まりだね。お好み焼き食べたらみんなで大阪行こっか」


「はい!」


 ニコニコ微笑むメイドと、大丈夫か?と呆れた眼を向けてくる灰ヶ峰。灰ヶ峰は彼女がこうなった原因の一端でもあるのだから、そんな眼を向けるな。お前が大阪でメイドのお守りをするんだからな。


「お待ちどうさま! イカ天のうどん1つと、スペシャルのそばが2つね!」


「おお!! おいしそう!! ありがとうございます!!」


 鈴鹿の前に何とも美味しそうなお好み焼きが提供される。ソースの香りが食欲をそそり、大ぶりのイカやエビがゴロゴロと入っていてなんとも贅沢だ。


「灰ヶ峰。そのイカ天のやつちょっとちょうだい。俺のもあげる」


「いいぞ。好きに取れ」


「ああ! シェア! その手がありましたか……姑息な」


 灰ヶ峰のイカ天にうどんの組み合わせも美味しそうだ。灰ヶ峰とシェアするのを悔しげに見ているメイドだが、メイドは鈴鹿とお揃いが良いと同じ物を頼んでいるのでシェアする必要が無い。


 イカ天は食感も面白いしコクがあっていいなぁとか、うどんはあっさり食べれるなぁとか、海鮮美味いしそばも最高とか、広島のお好み焼きは絶品であった。次は物騒な用事ではなく、普通に観光で来たいなぁ。そう思う鈴鹿であった。

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― 新着の感想 ―
そりゃ3人の客が全員店内でサングラス掛けたまま飯食ってんだもん。余計目立つわ
灰ヶ峰が言ってる「他国の介入」は特級の数を減らす事が問題なら狂鬼の面の「相手の力を喰らうことで、任意の者に分け与えることができる能力」を使い大阪の敵対的探索者を殺さず能力を奪いZooやヤスパーティーを…
日常回良いねぇ、こんな話が続けば良いけど、書くのは難しいんだろなぁ、「作者が闘いを求めてる!!」ってか?
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