22話 告発
鈴鹿と灰ヶ峰は対面するように革張りのソファに腰かけていた。尾道組の応接室のようなこの場所は、高そうな日本刀やら掛け軸やらが飾っており、パッと見ただけでもその筋の部屋だとわかる場所だった。何の部屋かはわからないが、落ち着ける場所をと思ってこの部屋を選んだ。ここで灰ヶ峰と仲良く話すためじゃない。これから鈴鹿はダンチューブの配信をするのだ。
鈴鹿はいつものようにスマカメを取り出し、撮影の準備を進める。ただ、いつもと違うことがある。それはここがダンジョンの外であるということ。身バレ防止のために、鈴鹿はダンジョン外で配信を行っていなかった。しかし、今日は違う。鈴鹿がどこにいるかなんて些細な問題だと言わんばかりに、背景をぼかすこともしない。
違いはそれだけじゃない。鈴鹿の横には灰ヶ峰がいた。黒髪に赤く濁った瞳を持つこの男は、鈴鹿とのコラボ相手である。いわばゲスト。普段鈴鹿はソロ配信であるが、今日は特別の様だ。以前も不撓不屈の永田やケイカとコラボしているため、珍しいとはいえ初めての試みというわけではなかった。
だがそれ以上に一番目を引く違いは、鈴鹿が『狂鬼の面』を着けていないことである。今まで身バレ防止のために仮面を着けていたというのに、今日は着けていない。着け忘れではない。あえて着けていないのだ。義を通すために。
「じゃ、配信始めるぞ」
「ああ」
そう言って、鈴鹿は配信を開始する。すでに昨夜から予約配信をしていたので視聴者が待機していることだろう。配信タイトルは『まさかのコラボ!? 探索者の闇に迫る! クレイジーシーカー!』だ。いつもは視聴者の数とか気にしないのだが、今日ばかりは人がいてくれると嬉しいなと思いスマカメを起動する。
【始まった!】
【わこつ!!】
【えっ!? 狂鬼さん顔出てない!!??】
【ほんとだ!! え!? 顔出し!!??】
【お面付け忘れ???】
鈴鹿が狂鬼の仮面を着けずに配信を始めたため、配信を開始した直後だと言うのにコメントは凄まじい量が流れている。この分では視聴者は相応にいてくれているのだろう。こんな適当に配信しているというのに、ありがたいことだ。
「お面ね、今日は無し! 初顔出しでございます」
【まって……狂鬼さんって女性?】
【イケメンというか……美】
【狂鬼さん顔美しすぎませんか】
【え、男なの? 男の娘なの? どっち??】
【宝塚とか所属してます?】
「漢です。さて、そんなことはどうでもよくて、皆にはこの顔を覚えてもらいたいんだよね」
そう言って、スマカメの位置を調整して顔がアップに映るように撮る。おっさんの顔アップなら悲鳴が上がるが、性別すら超越した美形の顔であれば悲鳴すら湧かない。皆コメントを打つ手が止まってしまう。
【なんで顔覚えてほしいの? グッズ化するの?】
「いやぁ、これがいろいろあってさ。もういっそ顔出して、この顔にピンと来たら関わらないようにしてほしいんだよね」
【どういうこと? ファンに囲まれたとか?】
【厄介オタでも発生した?】
【狂鬼相手にリア凸したんか? 気合入ってるな】
「それだったらまだよかったんだけどねぇ。実際はもっとひどいのよ」
家族構成から祖父祖母に交友関係までしっかりと把握され、そんな身内をリアルタイム撮影までされる始末。今までの探索した情報まで筒抜けで、水刃鼬からzooのメンバーを助けたことまで知ってると来た。厄介オタというか普通に犯罪者が来てしまったのだ。
「ねぇ、灰ヶ峰くん?」
「ああ、俺たちは狂鬼を殺すよう指示を受け、狂鬼が自殺するように周囲の人間関係から性格分析まで調べ上げ、徹底的に追い詰めようとした」
灰ヶ峰たちは元々鈴鹿に対して調査をしていたそうだ。猛虎伏草がスカウトに動くと同時に、どこのダンジョンで活動しているのか、東と紐づいているのかどうか、その辺りを調べていたそうだ。だが、2層でのエリアボス配信をきっかけに、情報収集のレベルが上げられた。鈴鹿こそが西が求めていた人材かもしれなかったからだ。剣神と同格のスキルを持っているかもしれない、新たな原石の可能性が。
その結果、鈴鹿が神在會と接触した時にはある程度の調べがついていたそうだ。すでに東との結びつきも強く、引き抜きが難しいという結論も出ていた。これは猛虎伏草の判断ミスである。まさかここまでの速度で鈴鹿がレベルを上げてくるのは想定外であり、川崎掃討戦以降鈴鹿への接触も難しくなってしまっていただけに、完全に不撓不屈に出し抜かれた形となった。
そのため出雲にいるこの機会に猛虎伏草へ改めて勧誘し、誘いを蹴った場合は蜥蜴を使って殺す様に指示を与えた。まだレベル200を超えていないこのタイミングを逃せば次は無いという焦燥感も、判断を早められた一因でもあるだろう。
【え、殺すって言った?】
【なんで? どういうこと? 狂鬼さんとその黒髪イケメンは敵同士ってこと?】
「ね、なんでだろうね。灰ヶ峰くんはなんで俺を殺そうとしたの?」
「猛虎伏草の勧誘を拒み、東側に付く恐れがあったからだ。お前は強い。今を逃せば次は確実に特級へと至るはずだ。ならば、先々障害となる者を摘み取れるチャンスを逃すわけがないだろう?」
「なるほど。猛虎伏草の勧誘を蹴ったら殺されるのか。そう猛虎伏草から指示されたの?」
「ああ。猛虎伏草の幹部である西成から東に回られたら手が付けられないから、このタイミングで狂鬼は殺せと指示があった」
コメントがとてもざわついている。猛虎伏草というビッグネームが飛び出し、殺害依頼を出していたなんて情報はすんなりと受け入れられないだろう。
【じゃあその人は殺し屋ってこと?】
「ああ! ごめんごめん。灰ヶ峰くんの自己紹介がまだだったね。よろしく」
「灰ヶ峰だ。探索者ランクは5級だが、レベル的には1級相当になる。所属している組織に名前は無いが、呼称として蜥蜴と呼ばれる組織に属し、そこの幹部をしている」
「ほぉ、蜥蜴ですか。具体的にはどんな組織でどんなことを?」
「我々は簡単に言えば探索者の力を利用した裏社会の組織だ。麻薬の製造から販売、拉致監禁、脅迫恫喝、ダンジョンアイテムの違法輸出に外国人のダンジョン利用斡旋など、業務は幅広いな。主に西側の意向、とりわけ猛虎伏草の指示に従って東の力を削ぐこともしている。この前の川崎での一件も、我々が深く関与しているからな」
犯罪と名の付くことは全てやるのがモットーですという組織である。数えだしたらキリがないだろう。
「広島を拠点とする広域暴力団の尾道組と協力関係にあり、対探索者に関する全般を我々が担っていると捉えてもらえればいい」
「はぁ、これはまた随分最低な業務紹介ですね。つまるところ、探索者版のヤクザって感じですか。結構派手に動いてるみたいだけど、捕まったりしないんですか?」
「しないな。大阪府警をはじめ、関西、中国地方の警察とは癒着関係にある。麻薬、女、賭博、ありとあらゆる欲を掻き立て、『相手が探索者だから』という建前の下、手出ししないようになっている。もちろん、逆らうことを恐れて従う者もいるがな」
なんでもありである。ヤクザ相手でも実行役の末端を逮捕するのはできても、組長や幹部クラスを逮捕するのは凄まじいハードルがあるのだ。それなのに相手が探索者であり、そもそも暴れられた場合の被害を想定して普段からもあまり手出ししない真の"暴力"団が相手では、余計及び腰になる背景もあるのだろう。
この組織に所属してるんだから連帯責任!とできたらもっと楽なのだろうが、それが通じるのも一般的なヤクザまで。探索者相手にそれをすれば、警察が機能不全に陥る程の被害を受けることになるだろう。警察組織はそれを歴史から学んでいる。
「警察はしょうがないとしても、探索者協会はどうなの? 探索者相手に取り締まりするのも役割の一つでしょ?」
「無理だな。警察同様に西にいる協会の人間も我々に与している背景もあるが、そもそも協会に所属する探索者だけでは我々に太刀打ちできない。とすれば周囲のギルドの協力が不可欠であるが、我々は関西から中国地方にかけて広く根差しているんだ。各ギルドは我々と結びつきがあり、特に猛虎伏草を始めとした大阪の特級ギルドとの繋がりが密接だ。その状況で協会に協力するギルドなど存在しない」
「なるほどなるほど。大阪のトップギルドたちは蜥蜴と蜜月の関係だから、協会の要請は受けてくれない。かといって東京のギルドに頼もうにも、大阪と争ってるから広島まで来るのはリスクが高いってこと?」
「そうだな。例え東の特級が動こうとも、奴らが来る頃には我々は十分闇に潜める。そもそも、東京のトップたちに遠路はるばる広島まで来てもらうことも目的の一つだったからな」
東西の争いで西が成したい目的は、日本の探索者のトップ独占である。東が戦力を割いて西まで遠征するのならば、全力で遠征組か待機組を叩くことで東西の勢力圏が一気に塗り替わる。西は東の勢力を弱めることが第一のため、そもそも蜥蜴が派手に動いて東のトップギルドが動くことは許容範囲であった。
【待って待って待って! さっきからなんか凄いこと喋ってない??】
【蜥蜴って西の工作員って言われてる組織だよね……?】
【え、これマジ? なんか狂鬼さんいつもと違うベクトルで頭おかしい展開作ってる?】
【そいつとコラボって、狂鬼さんも蜥蜴だったのか?】
「アッハッハッハ! 違うよ違う! そんな訳ないだろ?」
鈴鹿の黄金の瞳がカメラを見据える。瞳孔が縦長に伸びたその瞳は、隠されることのなくなった鈴鹿の整った顔立ちと合わさってひどく不気味に映った。
「そうだね。こうなった経緯を詳しく説明しようか」
そう言って、鈴鹿はかいつまみながら皆に語って聞かせた。気分転換に出雲ダンジョンまで遠征してたら金を寄こせとカツアゲされた。優しく注意して改心させた後、指示した人たちにお説教して回った。そしたらなんとそいつらは悪名轟く犯罪集団の下部組織だったようで、親組織の蜥蜴のお偉いさんが来てお話し合いの場が設けられたのだ。
「ひどいもんだったよ。スーツ姿の人相悪いおっさんが大量に待機しててさ、猛虎伏草には入らないよって伝えたら急にパソコン取り出して、画面には俺の実家が映ってるんだぜ? 他にも俺の家族や友達が中継されててさ、じいちゃんばあちゃんの名前まで読み上げる始末だよ。で、自殺するか彼らを犠牲に我々と泥沼の戦いをするか、どちらか選べだってよ」
【ひっ……】
【えっぐ】
【あまりにも鬼畜過ぎる】
【それって横浜でも同じ手口だったのかな。許せない】
コメントからは蜥蜴のやり方に対する非難の声が噴出している。特に最近では川崎掃討戦の際に横浜のギルドで被害があったようで、その時の手口と鈴鹿への脅しのやり方が酷似していることに憤りを覚えている者もいるようだ。
【で、狂鬼さんはどうしたの? 生きてるってことは脅しに屈しなかった感じ?】
「う~ん。まぁそうだね。戦いを選んでたら、こいつらは脅しじゃなくてマジで俺の家族とか殺されてただろうね」
実際川崎では実行に移しているし、あの様子で行動に移さないただの脅しなわけがないだろう。ギルドにも所属してないたかが一個人にあそこまでやるとは思っていなかったが、もはやあのレベルまでの徹底ぶりは防ぎようがなかった。強さが目立った時点で、八王子にいようが東京ダンジョンに行こうが遅かれ早かれああなっていたはずだ。
だからむしろ今回の件はラッキーだったかもしれない。幹部ではなく下っ端だけが接触して脅して来たら、ここまでスムーズに組織を潰せなかったかもしれないのだから。働き者の蜥蜴の幹部に感謝である。
「けど自殺しろなんて要求も呑めないじゃん?」
【でもどうすることもできなくない?】
【結構その状況詰みだと思うんですが……】
【狂鬼さんが生きてるってことは、ご家族は……】
【いやいや、蜥蜴の人間がそこにいるってことは和解したってことだろ。狂鬼さん猛虎伏草に入るのか?】
「あんな味噌っかすみたいなギルドに誰が入るんだよww 探索者なのにビビッて裏の人間使って探索者でもない身内脅して言うこと聞かせるようなギルドだぜ? ダサすぎだろww お金持った坊ちゃんかよ。女々しいと言うか陰湿というか、総じてダセぇな。こっちが恥ずかしくなるくらいには」
鈴鹿は鈴鹿自身を標的に来るのであればここまで怒りはしなかっただろう。探索者らしく、暴力で押さえつけようとしてきても、さらなる理不尽を押しつけてやると鼻息荒くする程度で済んだ。だが、彼らのやり方はダメだ。ダサすぎる。クソすぎる。もはや呆れて暴言のレベルも彼らに合わせた低レベルになるくらい、鈴鹿は愛想を尽かしていた。
「けど選択肢は二つ。自殺か犠牲ありきの闘争か。クソくらえだよな。誰がそんな要求呑むかってんだよ。だから俺は第三の選択肢を提案した」
【とりあえず狂鬼さんが蜥蜴に下ってなくてよかった……】
【ほんとに。そんな連中に狂鬼さんが加担したら日本終わるだろ】
【第三のってどんな選択肢?】
「お説教。懇々と自分たちが如何にクソみたいな存在なのかを説教した」
嘘である。ここからは適当。鈴鹿の毒魔法を秘匿するためだ。ついでに本人は自覚していない『誘いの甘言』も秘匿できる。こんなスキル開示しても百害あって一利無しだろう。
【お説教って……】
【どういうこと? 茶番か何か?】
【いや、嘘って訳じゃないんだろうけど、意味が解らん】
「まぁここは深く探んないでくれ。ダメだぞって注意したら、蜥蜴の皆さんは俺の言葉に感銘を受けて、更生することにしてくれた。それが事実だからさ」
【狂鬼さんのスキルか何かってこと?】
【おい、探るなって言われたろ。まじで触れない方がいい】
【探索者が止めてって言ったことだぞ。それもほとんど何でも開示してる狂鬼さんがだ。恐ろしくて聞かない方がいい】
ものわかりのいい視聴者が多いようで安心した。別にコメントで何を言われようと答える気は無いし、リアルで調査しようとしても見つけたら二度としないように注意するだけに止めてあげるので構わないが。
「で、更生を決めた蜥蜴の皆さんは、自分たちが行ってきた非道な行いに深く反省しておられる。生きていくことすらも烏滸がましいと思う程反省する人が多発したくらいだ」
【待って待って、今横浜で凄い問題になってるランドタイガーの件に噛んでる?】
【なにそれ?】
【昨夜からこの蜥蜴って呼ばれるヤクザギルドたちが横浜の拠点に不自然に集結してて、今横浜とか東京のギルドはかなり緊迫した状況にある】
そんなことになってるのか。確かにとりあえず集合させたから、目立ってしまったかもしれない。まぁ仲間割れしかしないから他のギルドに被害は出さないので許してほしい。
「へぇー、横浜がそんなことになってるなんて知らないなー」
【アホ程棒読みじゃん】
横浜の件についてはついさっき不撓不屈の永田に一報入れているので大丈夫だろう。なんか色々言っていたが、ランドタイガーの事務所にこの世の全てを置いてきたことと、神奈川にある倉庫にこれから物資と蜥蜴の交友関係をしたためた書類を運ぶことを伝えておいた。手間賃は取っていいから、被害を受けた川崎や横浜のギルドに配ってあげてほしいとも。
「で、だ。ここにおわす灰ヶ峰くんは自分たちの過ちにひどく悲しみ、蜥蜴やそれに連なる組織を解体することに決めたそうだ。英断だね」
素晴らしい判断だ。できればもっと前にその判断に踏み切ってほしかったところではあるが。
「多分横浜でうんぬんは、その一環じゃないかな。灰ヶ峰くんはこう見えて蜥蜴の次期代表らしいよ。そんな灰ヶ峰くんたちが蜥蜴解体!!って動いてるから、横浜にいる系列組織も慌ただしいんじゃない?」
「横浜のランドタイガーを始めとする我々に関与する組織は、急ピッチで解体が進められている。おそらく今日中には大半の組織がこの世から無くなるはずだ」
「だってさ」
そう、その組織に関与している人たちも物理的に解体が進められ、この世からいなくなることだろう。
犯罪者だって、誰かにとってはいい人で、かけがえのない人だったかもしれない。でもそんなの知ったことではない。俺のかけがえのない人たちに牙を剥いたのだからしょうがない。潔く死ね。以上。
【蜥蜴が解体?】
【え、ランドタイガーって西のヤクザの拠点ってのは陰謀論だったんじゃないの?】
【解体って、そんな散々好き放題やってきて今更辞めますなんて身勝手なことがまかり通るわけないだろ!!】
「おっしゃる通り。だよね。俺も思う。そのへんどうなのよ」
「安心しろ。組織は解体し、構成員も相応の報いを受ける。お前らが受けさせたい罰かどうかはわからないが、俺の目から見ても十分な罰だと判断できる処置が下される」
灰ヶ峰の血に濁った赤い眼がスマカメを見る。その視線は画面の先の視聴者を直接見ているような背筋が寒くなる視線だ。裏社会の次期代表まで登り詰めた男の凄味があった。
【具体的にはどんな罰なんだよ。探索者なら刑務所だって入らないだろうが】
「最終的には死ぬ」
ただ一言。そこに全てが込められている。人は皆いずれ死ぬなんてとんちを言っている訳じゃないことは、灰ヶ峰が纏う空気からもわかる。最終的には。その過程がどのようなものかを、灰ヶ峰は語らない。
「ま、そういう訳でさ、こいつらに恨みがあって自分の手で殺してやりたい!!って奴もいるだろうけど、一応死ぬから勘弁してよ」
【さっきから情報量が多すぎて付いて行けないんだけど……】
【これホントの話? いつも狂鬼さん頭おかしいと思ってるけど、今日はいつも以上だよ?】
「まぁ、いずれニュースにでも流れるんじゃない? 色んな人が蜥蜴には関わってたみたいだし。警察、探索者協会、政府、あとはテレビ局とか? 隠ぺいするようなら……ねぇ? 蜥蜴みたいにならないといいねってね」
鈴鹿はにっこりとスマカメに微笑む。不撓不屈に依頼はしたが、動くのは警察だろう。警察組織がこの世から無くなるのかどうか、それは彼らの英断に期待するとしよう。
「それで、そろそろ動画の本題。蜥蜴って組織は何と代表が特級相当の元探索者なんだって。レベル200越え。だから誰も蜥蜴に逆らえなくて、ズブズブ放置されてこんなにおっきくなっちゃったみたい」
特級は国家戦力にも数えられるレベルだ。特級に対処するには特級が必要である。戦った結果、共倒れして特級の戦力が減ることを国は容認できない。ただでさえ中国は同じダンジョン保有国として日本とバチバチなのに、特級探索者の数が減ってしまえば何が起こるかわからないのだ。
万が一に備えて各国は核を保有しているのだ。同じように、日本も万が一に備えて特級の戦力は確保しておきたい。
結果、裏で動く分にはと日本政府は目を瞑り続けてきた。その結果がこれである。大層怠慢な仕事だ。これには政府も、警察も、各ギルドに対しても不満たらたらである。
いい歳した大人が何をしているんだと。悪いことしてるってわかりきってるなら何とかしろよと。探索者で強くて手が出せないなら探索者が立ち向かえよと。お前らと同じ探索者がカスみてぇなことしてるんだからケツ拭けよと。そう思う訳ですよ。
「だからさ、俺が探索者を代表して鉄槌を下してあげようかなって。たかが猿山の大将にビビッて何もできない他の特級(笑)探索者さんに代わってさ。探索者の不始末は探索者が片付けてやらないとね」
そう言って、鈴鹿はカメラの角度を変えて部屋全体を映す。革張りのソファに日本刀やダンジョン産のアイテムなどが飾ってある、いかにもヤクザな部屋。こんなところじゃ寛げないだろと思うが、恐らく寛ぐことが目的ではないのだろう。寛げるなら、鈴鹿とは趣味が合わないだけだ。
「ということで、灰ヶ峰くんが頑張って蜥蜴に関する組織を失くそうとしている動きに便乗して、俺も蜥蜴の代表をとっちめようと思ったんだ。まずは手始めに、蜥蜴と仲良しの尾道組ってところに来たわけよ」
【え、そこって尾道組の事務所?】
【そんなコテコテな部屋……スタジオとかじゃなくて?】
【蜥蜴の幹部がいるんだから蜥蜴の拠点とかじゃないの?】
【というか尾道組の事務所だったとして、なんでそんな寛いでるの? 組員は?】
「それが、灰ヶ峰くんたち凄い張り切っててさ、俺が来る頃にはこの事務所ももぬけの殻だったんだよね。組員たちはどこに行ってしまったのか……地獄かな?」
この拠点に生きている人間は鈴鹿と灰ヶ峰しかいない。たんまり稼いでいたのか大きな拠点に二人だけというのは、シーンと静まり返り逆に落ち着かない。
「という訳で、蜥蜴の相方だった尾道組の崩壊は始まった。次は蜥蜴だ。目指すは悪の総大将。クズの親玉、害虫駆除だ」
【狂鬼さんが蜥蜴を潰すのか?】
【あれだけ巨大な組織を?】
【蜥蜴の代表倒したって全部が全部解決するわけじゃないだろ】
「そうだね。全部丸ごとスパッと解決とはいかないんじゃない。けど、俺の気は晴れる」
今回の蜥蜴潰しに、鈴鹿には大義などない。喧嘩を売られたからよりひどい地獄を味わわせる。どこまでいっても、鈴鹿の考えはやられたことのやり返しでしかない。だからこそ迷わない。だからこそ周りに振り回されない。シンプルに。やられたことを更なる理不尽を以てやり返すだけ。
目には目を、歯には歯を、悪意には底無しの悪意を以て対処するのみ。
そもそも、鈴鹿はこの根深い問題を解決に導こうなどと考えていない。鬱陶しい組織が絡んできたから潰すだけだ。彼らが抱える問題や禍根を解決するなど、鈴鹿にお願いするのはお門違いだろう。
「あ~そうだそうだ。蜥蜴に指示出してたって言う猛虎伏草を始めとした西のギルドにもお話はしないとね」
そう言って、鈴鹿はカメラに微笑む。黄金に輝く瞳を三日月に歪めながら。
「お~い、見てるか? 西で活動している探索者諸君。猛虎伏草のメンバーよ。俺はお前らが売った喧嘩を大枚叩いて買ってやるぞ。だから楽しみに待っててくれ。蜥蜴潰したら遊んでやるから」
そう言って鈴鹿は立ち上がる。蜥蜴の代表の住居は尾道組事務所の近くらしい。なのでここからは歩いて訪問する予定だ。
「さて、移動ついでに灰ヶ峰くんにはいっぱい話して証明してもらおう。これから戦う蜥蜴の代表を万が一殺めてしまっても探索者法的に問題ないことをさ」
「ああ、いいだろう。我々に指示を出していたことで―――」
こうして、灰ヶ峰の口から最悪な情報が止まることなく垂れ流される。鈴鹿は探索者法を盾に戦うつもりのため、視聴者にこれは正当な行いであるということを伝える目的で灰ヶ峰に代表を殺害しても問題ない証拠を話させた。しかし、その内容はあまりにもあんまりな深い深い闇のお話。それに関わる表の人間も名を連ねられ、結果多くの人間がこの正当化のために流れ弾が当たったのは、言うまでもないだろう。




