11話 準一級探索者戦
鈴鹿は夜更けにもかかわらず、出雲の街中を走っていた。
「おい、早くしろ。遅いぞお前ら」
「「す、すみません!!」」
鈴鹿を襲いに来たヤンキーたちを引き連れて、彼らが所属する神在會なるギルドの拠点に向かっている最中だ。
それにしてもちゃんと消せたな。探索者の力。
発端は鈴鹿を追走させているヤンキーたち。こいつらを更生させるにはどうすればいいだろうかと悩んだ。すでに半分ヤクザみたいなギルドに所属している以上、脅したところで簡単に性根が変わるとは思えなかった。こいつらから悪意を除けば多少はましになるかなと、突飛な発想に行きついた。
そんな雲を掴むような話だが、思いついたと同時にできるなとも思った。
滅却の魔眼。狂鬼が持っていた能力であり、鈴鹿に宿った破壊の力。不死という特級の権能すらも脅かす唯一無二の力。
不死の権能すら脅かしうるほど強い力ならば、人という存在すら滅却できる力ならば、選んだモノだけを破壊することだってできるんじゃないか。もはや言った者勝ちかもしれないが、一定以上の強さを持つスキルは、そんな性質を持っていると鈴鹿は思っていた。
気配遮断なのに相手の認識を阻害する目的で使えばまるで変装しているかのように鈴鹿という存在はぼやかされたり、剣神という戦闘特化のようなスキルでは鈴鹿の緊張の糸を切ったように概念を断ち切ることに成功していた。
ならば、鈴鹿もできるはず。そう思い滅却の力を使ってヤンキーたちを小突けば、心が綺麗なジャイ〇ンよろしく改心した少年たちへと変わっていた。
では、次だ。悪意を消せたのなら探索者としての力も消すことだってできるのではないか。そう思い至るのも当然だ。彼らは探索者。一般人よりも強力な力を有している。だからこそ好き勝手暴れているし、理不尽を相手に押し付けられるのだ。
その根幹を破壊すれば、残るのは力を失った元探索者だ。警察だって捕まえることができるし、レベル10まで上げた一般人にも倒すことができる存在になる。
探索者の力の根源。ステータス、スキル、ダンジョンとのつながり。それらすべてを破壊するように、鈴鹿は滅却の力を持って鰐淵達を攻撃した。結果、彼らが今まで蓄積した力は消滅し、一般人と変わらないレベルまで退化していた。
「まだステータスとか見れるのかな。あ、収納。どうなるんだろ。ま、どうでもいっか」
レアアイテムを持っていたかもしれないが、しょうがない。今から行く先にはこの力を試せる人間がわんさかいるはずだ。そこで試してみればいいだろう。
「あ、あれです! あそこです定禅寺さん!!」
ヤンキーが指し示す一角。なんてことのない数階建てのビルが、神在會の拠点の様だ。
「それで、ギルドにはギルマスとか代表とか、偉い人いるの?」
「た、多分……。自分らも入ったばっかで詳しくなくて、すみません!」
行き当たりばったりでここまで来たが、時刻は深夜。誰もいなかったらどうしよう。
だが、見てみれば電気がついている階もある。いなければここで一晩明かして明日の朝にでも代表を呼びつければいいだろ。幸いここにはこのギルドに所属しているヤンキーたちがいるのだ。彼らに招かせれば不法侵入にもならないはずだ。
そうして、鈴鹿は何も気負うことなく神在會の拠点へと入っていった。
◇
神在會。ギルド規模の割には歴史の浅い三級ギルドである。それもそのはず。神在會は出雲ダンジョンが誕生したことで生まれたギルドだからだ。
出雲地区にダンジョンが出現したことを受け、真っ先に苦虫を噛み潰したような気持になったのは政府や探索者協会だろう。広島ダンジョンを拠点とする蜥蜴によって、中国地方は探索者協会ですら手出しできないエリアとなっていた。
無論、広島ダンジョンにも出雲ダンジョンにも探索者協会は設立されているが、秩序があるかと言われると否と答えるしかない。
別に荒れているわけではない。世紀末のように街が荒廃しているわけでもない。逆に、探索者崩れも中国地方には踏み込まないので、住民からは安全だとすら評価を受ける地域でもある。だが、その裏では非合法な活動が大々的に行われているのだから彼らを受け入れるべきではないだろう。
そんな中国地方にできた二つ目のダンジョン。それも人口も少ない田舎町と言っても差し支えない出雲地区。蜥蜴が根を張らないわけがなかった。
始めはダンジョンの様子見ということで雲太のような外部のギルドも好きに活動できていた。だが、一年ほども経てば3層1~3区は蜥蜴の息がかかったギルドにしか探索申請が降りなくなり、ほどなくして出雲で活動していた真っ当なギルドたちは拠点を移していった。
雲太のように2層を探索しているギルドが残ってもいたが、3層を独占している以上いずれ拠点を移す必要がある。こうして、出雲ダンジョンで活動する主なギルドは蜥蜴傘下で埋め尽くされた。
そんなギルドの一つ、神在會が拠点とするビルの一室には、幹部が集結していた。
理由は一本の通報からだった。
神在會含むギルドが所有している倉庫に雷が落ちたと通報があったのだ。広く深く張った情報網からの連絡。誤報ではないだろう。
だが本日は快晴。落雷などあるはずはない。となると考えられるのは敵襲だ。
「わざわざ夜中に何もない倉庫を襲撃するなんてありえるか?」
「意味はないな。嫌がらせか、出雲で活動する探索者がいちかばちか俺らを追い出すために何かしたか。どっちにしろやったやつは見つけ次第殺せばいいだろ」
「ああ、何人か向かわせた。うちが殺るか余所が殺るかはわからねぇが、時間の問題だな」
この出雲の地は彼らの縄張りだ。こんなことをやらかして逃げ切るなど無理な話。もちろん一級探索者あたりならできるだろうが、一級探索者がわざわざこんな意味のないことをするわけがない。それにここは蜥蜴のシマでもあるのだ。一級だろうと喧嘩を売ることはないだろう。
「はぁ、こんな夜に問題起こしやがってどんな馬鹿だよ。ただ殺すだけじゃ収まんねぇぞ」
それは一同、同じ思いだ。
時刻は日付を超える前。まだそこまで夜遅くというわけではないが、こんな時間にギルドに集合させられ厳戒態勢を取る必要があるのだ。この出雲で彼らに逆らう者はいないとは思うが、絶対ではない。万が一狙っての攻撃だとしたら、対処を誤れば彼らは責任を取らされ殺されてしまう。だからこそ、こんな通報にも律儀にギルド代表含む幹部が集結して待機しているのだ。ストレスもたまるというモノである。
倉庫に調査に行かせた部下の報告を待っていると、部屋がノックされた。誰何の声も許可も出していないが勝手に扉が開かれる。それは常ならばありえないこと。全員が体を扉に向ければ、開けられた扉からは今年入った新人たちが現れた。
誰だこの馬鹿たちの教育係は。教育係もろとも数人殺して気を引き締めるか。そう代表たちが決意したとき、部屋に異物が入ってきた。
一見すればただの子供。新人たちと変わらない、いや、それよりも若いかもしれないガキだ。しかし、本来この場所にいないはずの人物がいる。それだけで代表たちは即座に動いた。
一式防具を使いフル装備に換装し、収納から武器を取り出した。その間に存在進化まで済ませ臨戦態勢を整える。
その間わずか。違和感を知覚すれば一瞬で判断し全力で制圧する。ここまで動けるからこそ、彼らはギルドの管理を任されているのだ。
「へぇ、存在進化してるんだ。三級ギルドなのに」
だが、彼らはそこから動くことができなかった。まるで広島本部の幹部たちと対面したかのようなプレッシャー。動けば死ぬ。目の前の子供が何者かも、顔すらうまく認識できない中で、それだけは明確に理解することができた。
神在會の代表と幹部は全員がレベル125を超えている。探索者の等級で言えば準一級探索者に該当する一流の探索者だ。三級ギルドの代表としては従来ならばありえない。
三級ギルドの代表は三級探索者だ。所属している一番上の探索者のランクがそのギルドの等級になるため当然である。その法則から言えば彼らがいることが神在會が真っ当なギルドではないことを示唆している。
準一級ギルドと三級ギルドでは母数が比較にならない。目立たなくさせるためにも、新規で設立しやすい三級ギルドを彼らは隠れ蓑に選んでいるのだ。
「ああ、動かないでね。存在進化した探索者とこうして対面する事ってなかったからさ。変なことされたらはずみで殺しちゃうかもしれないから」
フル装備の準一級探索者が動けない。逆に子供は何も気負っていない。準一級探索者であり裏社会を生きる彼らが本気で対峙しているというのにだ。
異常事態。彼らは即座に無駄な抵抗は止め、相手の要求を聞く方向へ切り替える。この場を切り抜ければ本部へ連絡し、判断をあおげばよい。もし戦闘になるのであれば、足に自信のある一人だけを本部へ向かわせ、残りの人間で何とか時間を稼ぐしかない。
会話は無くとも、彼らの方針は一致していた。
「こんな夜更けに、一体何の用だ?」
「なんだ、知らないのか? まずはこいつらだな。ほら、自分たちで言え」
「だ、代表! すみません! 自分たちは真っ当に探索者をやりたいんです! 神在會を辞めさせてください!!」
勝手に辞めろ。そして二度と面を見せるな。そう思うも、素直に口にすることは無い。
そんなことを言うためにこんなやつを連れてきたのか? こいつらにそんなコネは無いはずだが、どうなってる。
「そうか。残念だよ。好きに生きるといい」
「「あ、ありがとうございます!!」」
「よかったなお前ら。もうこんなことするなよ」
「ありがとうございます、定禅寺さん!」
子供に励まされ、涙ぐみながらお礼を言って出ていく新人たち。
当然そんな簡単に辞められるわけがない。このギルドがどういうギルドか理解したうえで入っているのだ。入ったことで内情も多少は知れる。そんな者たちを、辞めますと言ってはいそうですかと認めるわけがないだろう。
あいつらはすぐに足跡を辿られて見つけ出され、探索者資格は剥奪、実行部隊というただの探索者崩れに成り果てるだろう。
異質な子供は新人たちと共に部屋から出ていくことは無かった。新人たちが辞めるのに付き添っただけというわけではなかったようだ。
もしそうならどれだけよかったことか。そんなことのために神在會に首を突っ込むような正義感溢れる馬鹿は、徹底的に調べて追い詰めるだけ追い詰めればいいだけなのだから対処は楽だったのだが。
「さて、俺の方もあなたたち、というか、この神在會に用があるんだよね。あなたたちが神在會の代表で合ってる?」
「ああ。俺が代表だ。で? 定禅寺、この名前にもお前にも俺たちは心当たりがないが?」
新人たちが呼んでいた名前が子供の名前なのだろう。発言の通り、そんな名前に心当たりは一切なかった。
「あれ、聞かされてないんだ。このギルドに所属している鰐淵ってのが俺や雲太ってギルドを強請りに来てさ。いやー困った困った」
その言葉で事の顛末を理解する。鰐淵には1000万持ってくるように指示していた。雲太では絞り切れないと踏み、別の探索者を標的にしたのだろう。それが虎だともわからずに、尾を踏んだと。そういうことだろう。
本当に使えないやつだ。あいつらはレベル90程度だったはず。とっとと存在進化させ、ばらして外に売っぱらうか。外の変態共は存在進化した探索者を集めてるような蒐集家もいるからな。最後くらいギルドのために働いてもらおう。
鰐淵たちの将来が代表たちの中で決まった瞬間だった。
「それは迷惑をかけたな。鰐淵にはダンジョンで稼げと発破をかけたんだが、まさか脅して金を巻き上げるなんて犯罪に手を染めるとは思いもしなかったよ」
「そうなんだ。見る目無かったね」
「ああ、本当に。鰐淵には手を焼かされていたんだ。俺たちも被害者なんだ。素行不良な鰐淵を更生させるために雇ったというのにな」
つらつらと思ってもないことが出てくるよく回る口である。自分たちも被害者なんだと強調し、責任の所在を鰐淵へともっていこうとする代表。しかし、定禅寺は取り合わない。
「まぁ、内部のごたごたは後でやってくれ。俺の要求は三つだ」
「要求? やったのは鰐淵だ。俺たちに要求するのは筋違いじゃあねぇか?」
代表がそう言った瞬間。彼らは臨死体験を味わった。格上のエリアボスと相対したような、はたまた上位者の不興を買ったような、恐ろしいプレッシャーが彼らを襲う。
自分たちの根源を破壊されるような、存在ごと消滅させられそうな圧倒的な力が定禅寺から噴出していた。
「俺は交渉をしに来たわけじゃない。結果を伝えに来たんだよ。まだ生きていたかったらYes以外は口にするな」
定禅寺が取った作戦は正しい。代表たちはこの手の交渉事はお手の物だ。押すべき時も引くべき時も熟知している。強引な交渉事こそ彼らの十八番なのだから。だからこそ、それをさせないために取り合わせない。そのやり方は正しいと言える。
だが、誰もができる方法ではない。圧倒的に力の格差があるからこそまかり通る強引な手段だ。
「まず一個目。雲太というギルドは鰐淵たちにギルドの拠点を破壊され、ギルドメンバーが拉致られた。彼らは恐怖でPTSDを発症してしまったことだろう。損害賠償と医療費で1億用意しろ」
「1億だと?」
Yes以外を口にするなと言われたが、思わずツッコんでしまう。雲太のギルドはぼろい一軒家のはずだ。修繕したところでそこまでの価値は無い。
ふっかけてきた。交渉事の基本でもある。ふっかけて、様子を探りながらギリギリを出させる。落としどころは2000万程度だろうか? 子供なりによく考えてきたみたいだな。
代表が二の句を告げようとするが、定禅寺が先手を制す。
「あ、やっぱ少なく感じるよな。じゃあ2億で」
「は?」
「早く持ってこい。俺が届けてやるから。あんだろ? 2億くらい」
あるわけがない。神在會はフロントギルドなのだ。まとまった金額は口座で保管されている。
現金で大金を動かすことも多いが、あがりは本部へ随時輸送しているのだ。この拠点にも現金はあるにはあるが、金庫を開けても1億もないだろう。
「2、2億なんかあるわけないだろうが」
「はぁ。あれか? 交渉か? 反抗するたびにお前らの四肢をもいでやろうか?」
突然右腕が何かに掴まれる。定禅寺のプレッシャーにより動けない中、右腕が万力に締め付けられるように握り締められてゆく。
「わ、わかった!! 2億だな? 現金は今すぐ用意できないから、振り込みをさせてくれ!」
「しょっぺぇな。悪の組織じゃねぇのか? んな金ねぇなら真っ当に探索者した方が儲かんだろ」
散々な言いようだが、文句を言いながら幹部の一人を指す。
「おい、存在進化がゴリラのお前。とりあえずこのビルにある現金かき集めて来い。残りの差額は振り込みにしろ。10分だ。1分すぎるごとにここにいるお仲間の頭をトマトみてぇに握り潰すからな。とっとと行け」
ガタイのいいゴリラの存在進化をした幹部が指名される。急いで出ていこうとするが、定禅寺が釘を刺した。
「ああ、俺は気配察知も得意なんだ。助けを呼びに逃げてもいいが、このビルから出入りする奴がいたら即座に攻撃するからその辺よろしくな」
脅しではないだろう。確実に定禅寺はレベル150を超えている。そこまでたどり着ける探索者はステータスが高いだけではない。スキルも揃っているはずだ。
「はぁ、拍子抜けだよ。金塊の山くらい用意しとけよな」
ぶつくさ文句を言っているが、ひどい言いがかりだ。フロントギルドにそんな金を置いておくメリットが無い。ヤクザなどの裏社会の組織は、資金洗浄が必要な金など口座に保管できない資産が多いからそういった物に変換しておくケースがあるというだけだ。その辺の一企業が金塊を保管している訳が無いだろう。
「じゃあゴリラ君がお金集めてる間に二つ目ね。さっきのは雲太の分。で、次は俺。俺もヤンキーたちに絡まれて怖い思いしてさ、夜道を歩けなくなっちゃったよ」
誰もがふざけるなと思ったが、口にはできない。
「俺は金はまぁいいから、なんかアイテム一つで手をうってやるよ」
「アイテム? ダンジョン産か?」
「そうそう。武器でも防具でも装飾品でもポーションでもアイテムでも、よさげな物だったらなんでもいいよ」
一級以上の探索者が喜ぶアイテム。それこそ法外な金額を要求されている気がしてならない。
一級ならば武器や防具は事足りてるだろう。装飾品もギルドに多く保管されているだろうし魅力は感じにくいはず。収納袋ならば否やは無いだろうが、彼らにとっても替えが利く物ではない。
消耗系が無難なところか? ポーション辺りが確実だろうが、あまり出したくない。この辺りは各々の虎の子であり、海外に法外な値段で売れる貴重な品だ。
金は未払い分は振り込まずに踏み倒せるだろうし、渡した現金も本部の実行部隊を使って回収できるだろう。だが、アイテムはどうなるかわからない。定禅寺はこの後調べ上げて所属しているギルドもろとも強請るが、雲太とは違い一級以上のギルドとなるとすぐには動けないだろう。その間にアイテムがどうなるかは読めない。
だが、渡さねばこの場を切り抜けられない。
やむなし。あとで定禅寺には地獄を見てもらえばいい。レートの低い物から出していき、求めている物を渡さざるをえないか。
「魔導仙嶽の肉はどうだ?」
「魔導仙嶽……」
考え込むようなそぶりをする定禅寺。魔導仙嶽は3層3区に出現するエリアボスだ。レベルは120。100越えのエリアボスの肉は貴重だ。例え何周もしていようと、討伐した探索者が毎回肉を喰える訳じゃない。貴重な肉はギルド側で管理し、斡旋される。政府の意向を受ければ輸出することだってあるだろう。
消耗品であり自分たちも好きに喰えるものではない肉は、貴重なはずだ。だが、渋るということは求めている物ではなかったということか、珍しくもない物なのかもしれない。一級以上のギルドならエリアボスを定期的に倒すだろうから、食べる機会は割とあるのだろうか。
真っ当なトップギルドの内情を詳しく知っている訳ではないため、そのあたりの感覚はうまく掴めない。
「3層3区のエリアボスだぞ? ならチーズもつけてやる。それとも食材はお気に召さないか?」
「なんだと? それで! それがいい!! 肉とチーズな!! くれ!!」
チーズにやたら反応を見せた定禅寺。エリアボスの食材二つは貴重だが、金額にすればそこまででもない。これが5層6層であれば話も変わってくるが、3層のエリアボスならトップギルドであれば調達も難しくないだろうに。
だが、食材2個で済むなら話は早い。これならば損失は最低限だ。ポーションを最初に提示しなくてよかったというものである。
食材二つを取り出せば、定禅寺がさっさと自分の収納へと仕舞った。
「いやぁ! いい取引ができた!」
大変満足そうにしているが、やっていることはカツアゲである。先に手を出したのが神在會なので何とも言えないが、取引とは言えないのではと思う。
「あ、それで3つ目だ。出雲の3層を牛耳るの止めろ。不快だ」
定禅寺には関係ないだろう。そう思うが、要求は要求だ。
「あれは探索者協会が勝手にやっていることだが、止めるよう俺たちからも言おう」
「よろしく。数日かな。それ以降経っても解除されてなかったらまた来るから」
神在會が関わっていると確証を持っているのだろう。事実そうなので、定禅寺の調査が長引くようなら手をうつ必要があるか。
「ゴリラおせぇな。もう10分経ったか? お前は鳥か? お前から行くか? ニワトリみてぇな声出すかな。やってみるか」
「待ってくれ!! まだ10分は経ってないはずだ!!」
鳥の存在進化をしている幹部が必死に弁明する。
「いろんな存在進化あるな。お前は何だ? 肌が黒いけど、何の存在進化だ?」
「俺は魔人だ」
「へぇ。お前は」
「俺は牛だ。見ればわかるだろ」
「なるほどねぇ。で、お前は蛇か?」
暇つぶしなのか幹部たちの存在進化先を見たり武器や防具を眺めている。ほどなくして金を取りに行かせていた幹部が戻ってきた。
「8000万ある。残りは振り込みでいいな?」
「いや、振り込むか怪しいからさ。物でいいよ物で」
そう言うと、定禅寺は現金が入ったアタッシュケースを受け取り片手を出す。
「収納袋。あるだろ? 収納袋なら雲太のメンバーも使えるし、それでいいよ」
立ち込める剣呑な雰囲気。収納袋は彼らにとっての重要な収入源だ。収納袋は海外へ売れば国内の数倍以上で売れる。そのため、定禅寺が考える収納袋の値段と彼らが考える収納袋の値段は大きく乖離しているのだ。
「……収納袋は雲太に渡すのか?」
「当然。雲太には差額の1億2千万持ってきたら収納袋と交換するようにとも言っておこうか?」
「それが条件だ。お前が思っている以上にこれは貴重なものだ。取扱いに注意しろよ」
代表がリュックサイズの収納袋を取り出し中身を移すと、定禅寺へと手渡した。
「え、これだけ?」
「それ以外は無い」
「ふーん。2億には足らないだろうけど、まぁいっか。貸しだね」
何が貸しだと吐き捨てたい気分だが、この場では定禅寺が上位者だ。逆らえば待っているのは死。だが、本部に要請すれば次会う時は立場が逆転しているだろう。今だけの我慢。はらわたが煮えくり返りそうだが、そう思うしかない。
「じゃ、出雲ダンジョンの独占止めさせろよな。あと悪さするなよ。次見つけたら探索者法に則って問答無用で殺すからな」
収納袋とアタッシュケースを持った定禅寺は最後にそう告げると、代表たちの前から忽然と姿を消した。彼我の力量を示すかのように。




