第96話 偵察の依頼
「そんで状況はどんな感じなんだ?」
レンダーさんと挨拶を終え、部屋の椅子へ座る。魔物の素材を使用しているのか、とても柔らかくて座り心地がいい。
そしてこの部屋には魔物の剥製が飾ってあった。しかも一本角の巨大な顔を持つ魔物だったので、すごい迫力だ。俺の世界へ持って帰ったら、いろいろと騒ぎになりそうな代物である。
「今のところは落ち着いているがだいぶ数が増えてきている。そろそろあふれ出して近隣の村へ襲い掛かってもおかしくないころだ。一番近くの村の者は一時的に避難している」
「数匹程度なら問題ないけれど、アースドラゴンが群れになると少し面倒……」
そう、今回のヴィオラへの依頼はロールルの街周辺に現れたドラゴンの群れの討伐だ。アースドラゴンは空を飛べない魔物らしいけれど、一応ドラゴンに分類されるらしい。だが、空を飛べないだけで、その脅威は他のドラゴンと同等のものになるようだ。
以前にリリスが倒してくれたクラウドワイバーン以上の大きさと強さといえば、その脅威の一端がわかるだろう。それが群れになっているのだから、その近くに住む村の人たちは怖いだろうなあ……。
今のところは群れで巣を作り動かないようだが、数が増えてくると、巣から溢れて別の土地へ移動し、また新たな群れを作るようだ。なんて迷惑な魔物なのだろう……。
「リリスの言う通りだ。すでに他の冒険者にも要請をして、ある程度の戦力は集まっている。ヴィオラとリリスが来てくれたのなら十分だ。準備をして数日後に総攻撃をかけるとしよう」
「アースドラゴンの群れか。久しぶりに暴れられそうだぜ!」
「……くれぐれも味方の方には突っ込んでくれるなよ」
「できる限りこっちでもフォローをする」
……レンダーさんとリリスも大変そうだな。
とはいえ、それだけ暴れ回れる力がヴィオラにはあるということだろう。さすがSランク冒険者でリリスの師匠である。
「できれば事前にアースドラゴンの数をある程度把握しておきたいのだが、やつらは生物の気配に敏感で偵察もなかなか難しい。ぶっつけ本番になるのが少し不安なところではあるな」
ドラゴンやワイバーンなどは生物の気配に敏感な魔物らしい。そういえばクラウドワイバーンも空を飛んでいた俺たちに気付いていたっけ。
確かに敵の数がわからないのは不安かもしれない。昔の戦いもそうだが、敵の数を把握することは大事だ。
「……それならこちらでなんとかできるかもしれない」
「なにっ、それは本当か!」
「偵察用の魔道具で上空からアースドラゴンの状況を探る。アースドラゴンは空を飛ばないし、その魔道具は生物でもなく魔力を発さないから、うまくいく可能性が高い」
「おおっ、それはすごい! リリス、ぜひとも頼めないか? もちろん報酬も出すぞ」
「ちょっと考えてみる。仮に依頼を受けた場合、失敗してもその魔道具が壊れてしまったら金貨50枚は出して欲しい」
「それくらいなら安いものだ。むしろそんなにすごい魔道具が金貨50枚でいいのか?」
「その辺りも今夜ゆっくり考えてみる」
……なるほど、リリスの考えていることが金貨50枚という言葉でピンときた。念のために持ってきたが、確かにあれなら安全に偵察ができそうだ。
「うわっ、すごい部屋だな。一昨日泊まったサミアルの街の宿よりも立派だよ」
「キュキュウ~♪」
レンダーさんとの打ち合わせを終え、冒険者ギルドの方で用意してくれた宿へと移動してきた。
街の中心地にあるとても大きな建物で、宿泊するお客さんも身なりが良く、宿の職員さんの接客も俺の世界並みにすごい高級宿だった。部屋は4人用の部屋と言っていたけれど、その倍くらいの人が泊まれそうな広さがあり、あちこちに高価そうな美術品が飾ってある。
……きっと1泊の宿泊費はとんでもないんだろうな。いくら仮想通貨で大金を手に入れたところで、いちいちそこらへんを気にしてしまうのは小市民の証な気もする。
「レンダーのやつも随分と奮発してくれたな。遠慮なくのんびりさせてもらうとしようぜ」
「この街の中でもかなり上位の宿。それだけ期待しているということ」
「……その割には偵察をする時は絶対に手を出さないように念を押されたけれどね」
偵察を引き受けなくても構わないけれど、絶対にアースドラゴンの群れに一人で突っ込むのだけは止めてくれとレンダーさんに念押しされた。
確かにヴィオラの性格上、偵察のついでとか言って、一人で群れに突っ込んでいきそうだよなあ……。
「リリスが言っていた偵察はドローンを使うってことだよね?」
「うん。もちろんケンタが許可してくれればだけど。ケンタの所有する道具というよりも私の魔道具にしておいた方が面倒ごとが少ないと思った」
「その配慮は助かるよ。もし壊れたとしても弁償してくれるみたいだし、もちろん協力させてもらうよ」
「ケンタ、ありがとう! 偵察をすればイレギュラーな事態を防げるかもしれないし、被害も減らせる」
レンダーさんに話していた魔道具とは俺が持っているドローンのことだ。あれなら機械だし、魔道具のように魔力を持たないからアースドラゴンに狙われない可能性が高い。それに途中で壊されてしまったとしても人的な被害はないし、まさに偵察のための道具である。
それでリリスやヴィオラや他の冒険者たちが怪我をする可能性を減らせるのなら、迷わず協力させてもらおう。
「……そのドローンてやつはいったいなんなんだ?」
そういえばヴィオラはまだドローンのことは知らなかったか。実物は明日に見せるとしよう。




